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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第五章・美しき村クレーヴェル
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第一話・草色の風景(1)

 馬車での長旅も終わり、一行は目的の場所に到着する。

 しかし。到着と言われて馬車を降りたものの、どこを見渡しても村と呼べそうなものは見当たらない。目の前に広がるのは緑の生い茂った山の風景に、山と山の谷間を流れる川。

 一体、どこにクレーヴェルの村があるというのだろう。



「長旅お疲れ様。馬車の中に忘れ物はないかい?」

「あ、ああ……」

「そうかそうか。……それにしても、ここはいつ見ても美しい場所だなぁ。緑に囲まれた山々を見ていると、心が洗われるようだよ。旅の疲れも癒されるだろう?」



 そう言うと、フリーダーは深々と深呼吸をして気持ちよさそうに伸びをした。

 そんなフリーダーに、フィトは「あの……」と声をかける。



「クレーヴェルの村って、どこにあるんですか? 近くに村みたいなものは、見えないんですけど……」

「ああ! そうか、君たちはクレーヴェルに来るのは初めてだったね! これは失礼! クレーヴェルの村はね、この川を越えた先にあるんだよ」



 フリーダーの言葉を聞いて「はぇっ!?」と声をそろえる三人。てっきり、馬車を降りたらすぐに村に着けるものかと思っていたのだ。

 衝撃の事実に開いた口が塞がらない三人に、フリーダーは笑いながら話を続ける。



「はっはっは! なぁに、心配しなくても村はここからすぐだ。……あそこに橋があるのが見えるだろう? あの橋を渡って、向こう岸の山の(ふもと)をぐるりと歩いて行けば、クレーヴェルに着けるんだ」



 フリーダーはそう言うと、川に架かる木橋を指さす。なるほど、確かに向こう岸に続く立派な木橋がそこにはあった。

 すぐに村に着けるという言葉を聞いて、三人はどっと脱力する。クレーヴェルの村まで距離がなくてよかった、とホッとしたのだ。



「はぁ。よかったぁ~。山を登らないとクレーヴェルに着けないのかと思ったよ……」

「私も! ちょっとびっくりしちゃった!」

「知識がないまま、山越え谷越え川を越え……なんて事にならなくてよかったな。越えるのが川だけで安心したぜ……」



 言ってしまえば、ダフネに会いに行くのが今回ここまで来た目的なのだ。つまり、クレーヴェルに立ち寄らずにまっすぐ樹の祭壇(さいだん)に向かえばいいことになる。

 しかし。いかんせん、三人はやはり土地勘がないのだ。土の精霊たちの話によれば、これから慣れないというか、むしろ初めての山登りをしなくてはならない。その上、おマヌケな土の精霊たちのざっくり説明である。どこまで信用できるのかも怪しい所だ。

 村の先にローレル山脈があると聞いたため、情報収集や準備も兼ねてクレーヴェルに立ち寄ることを考えていた。そして、樹の祭壇までのルートをクレーヴェルの住人に聞こうと思っていたのである。



「いやいや、不安にさせて申し訳なかったね。ここまでの案内人として、非礼(ひれい)()びよう。……あぁ、そうそう! いま、あの川のことを川と言ってしまったが、()()()()()()()()()()()なんだよ」

「へっ? あそこって……川じゃないんですか?」

「フリーダーさん、何言ってんだ? 海ってもっと広くて大きいんだぜ?」

「なんたって僕たち、フィトの集落で大きな海をこの目で見たんだもんね!」



 素朴な疑問を口にするフィトに対し、知った顔で堂々と話すこの犬耳兄弟ときたら。とんだドヤ顔でフリーダーに食ってかかっている。

 しかし次のフリーダーの話を聞いて、自分たちがとんだ赤っ恥を晒すことになろうとは、まだ知る由もないだろう。フリーダーは楽しそうに笑いながら、三人になぜこの川が海と呼ばれるのかを話してくれた。



「はっはっは! そうだな。確かに初めてこの景色を見た君たちからしたら、これは海というよりも断然、川に見えるだろうね。……実は、ここに流れている水は海水なんだ。大昔、氷河による浸食作業(しんしょくさぎょう)によって形成された、複雑な地形の湾や入り江になっているんだよ。こういう土地をフィヨルドといってね。湾の入り口から奥まで、幅があまり変わらない非常に細長い形状になっているんだよ。波の穏やかなさまを見ると、ぱっと見は川や湖に感じてしまうのも無理はない」



 犬耳兄弟は、とんだ知ったかぶりをしていたことに多大なる恥ずかしさを感じているご様子。レオンは耳まで真っ赤になり、返す言葉も見つからずに口をパクパクさせている。

 一方、リオンは「へ、へぇ~! そうなんだぁ!? ぜんっぜん知らなかったよぉ~! こんなにフシギな海があるものなんだねぇ?」と、平静を装っているが、言葉の節々(ふしぶし)がカタコトになっていたり、語尾が不自然に上がったりしている。

 そんな兄弟を見て、フィトはくすくすと笑っていた。



「まぁまぁ。そんなに恥に思う事はないぞ。無知は悪い事ではないからな。これから知れることが沢山あるという事だ! 学びたまえよ、若者!」



 はっはっは! と笑い声を上げながら、フリーダーは兄弟の肩を叩いた。

 若者と言われてはいるが、この兄弟は見た目とは裏腹に、フリーダーよりもだいぶ年上なのだが。もっとも、動揺しているふたりには、そこにツッコミを入れる余裕はないわけで。

 実際問題、思う所があったとしても口に出しては言えないのだが。



「……ところで、これからクレーヴェルで人探しをするんだろう? 待ち合わせしたり、すぐに会えるアテはあるのかい?」

「いやぁ、それがぜーんぜん! でも大丈夫ですよ! 大体いる場所は伺ってますから!」



 フリーダーの質問にあっけらかんと答えるリオン。ここでも適当こいてはいるが、嘘は言っていない。

 リオンの謎の説得力にフリーダーは安心したように頷く。



「クレーヴェルはグラシナと比べたら、人口が三百五十人ほどの小さな村だ。でも、君たちと同じような旅人や観光客もいるだろうからな。くれぐれもはぐれないようにフィトお嬢ちゃんをエスコートするんだぞ」



 フリーダーは笑顔でそう言うと、兄弟の肩に手を添える。

 そしてヒソヒソと、クレーヴェルの景色は絶景だからな。デートスポットとしても人気があるんだぞ~! と、兄弟に耳打ちをした。

 ラシーヌさんめ、また何か吹き込みやがったな……と、レオンとリオンは苦笑いを浮かべる。

 そんな様子を訳が分からず見ていたフィトは「なぁ~に? ナイショのお話し?」と、首をかしげるのであった。

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