表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第四章・花咲く渓谷の昔語り
60/130

第三話・また会う日まで(2)

「フフフ。ワンコ兄弟ったら、頼りになるじゃない! アタシとトロンも、あんたたちがまた来てくれるのを待ってるわよ。いつでも遊びに来なさいな」



 向き直った三人に、ラシーヌは笑顔でそう言ってくれた。

 ワンコ兄弟という愛称を添えて。

 次に会う時までにこの三人の進展が楽しみねーなどと、ニンマリするのであった。


「ラシーヌさん、ありがとうっ!」と、嬉しそうに笑うフィト。

 純粋無垢(じゅんすいむく)な黒髪少女は、ストレートにラシーヌの言葉を聞いて喜んでいるのであった。

 面白がられている事など、微塵(みじん)も気付くことなく。

 ラシーヌの考えていることを見通していたトロンは、またこいつは……と、ジト目で呆れ気味に見ているのであった。




 ***




 ラシーヌの後に続き、ガヤガヤと賑わう市場を歩いて行く一行。

 犬耳兄弟とフィトは、市場のいろいろなものに目移りしていた。



「市場って楽しいよね! 私、お買いもの好きだから、わくわくしちゃう!」

「やっぱり女の子は、お買い物が好きなんだねぇ。それは人間も魔物も同じなのかぁ~」



 売り物を見るのに夢中になるフィトを見て、リオンはボソッとつぶやく。

 そんな中。フィトは、あるものを見つけて目を丸くした。



「ね! ふたりとも、見て見て! ラムレーズン団子だって! おいしそ~!」

「ラムレーズン団子……? うまいのか? その組み合わせ……」

「ううーん? 僕はちょっと興味だけど、だいぶ冒険だよねぇ~……」

「どうしてー? 絶対おいしいよぉ!」



 苦笑いを浮かべる兄弟に、フィトはむくれながら小首をかしげた。

 食べたことのないものや、見たことがない組み合わせは、美味しいのか半信半疑になるものだ。

 グラシナ名物、お土産定番品とまで書かれているので、人気もあり、味の保証はできそうだが。

 思わず立ち止まって団子を食い入るように見る三人。

 先を歩くトロンはそれに気付き、何やってんだあいつらは……と思いながら、かったるそうに声をかけた。



「……おーい。お前ら、置いてくぞー」



 寄り道三人組は呼ばれてはっとした顔をすると、慌てて軌道修正(きどうしゅうせい)する。

 急いでいるというのに能天気なのは相変わらずなのである。




 ***




 市場でにぎわう広場のほど近く。

 馬車乗り場は、辻馬車(つじばしゃ)駅馬車(えきばしゃ)を利用するために行列を作っている人たちがたくさんいた。

 大きくて立派な馬に繋がれた荷馬車に、運搬するための荷物を積んでいる人も多くみられる。

 ラシーヌは馬車乗り場の入り口の、とある場所で足を止めた。



「……ここは、リリーの時計台っていってね。馬車までの時間をここで過ごしたり、よく待ち合わせ場所に使われたりするのよ」



 時計台のまわりは、手入れされたリリーの花がたくさん咲いている。

 とても綺麗に整備されたこの場所は、人々の(いこ)いの場になっているようだ。

 ベンチに座って新聞を読む男性や、コーヒーを飲みながら話し込む夫婦の姿などがあった。


 ラシーヌはそう話した後、歩いてこちらに向かって来る男性に手を振る。

 黒い乗馬服(じょうばふく)に身を包んだ男性はそれに気付くと、小走りになりながらにこやかに手を振り返した。



「フリーダー! 突然のお願いなのに、聞いてくれてありがとう! 感謝するわ!」

「ラシーヌちゃんのお願いとあらば、断る理由なんてないさね。馬も寝馬車もメンテナンスは済んでいるよ。他の馬車との時間調整もバッチリだ。いつでも出発できるぞ~!」



 フリーダーと呼ばれる、端正な顔立ちをした中年男性はグッと親指を立てて笑って見せた。

 おじさまジェントルマン、といった雰囲気だろうか。

 細身の体に、口ひげが良く似合っている。

「助かるわ」と笑顔を返すと、ラシーヌは三人にフリーダーを紹介してくれる。



「この人は、フリーダー。これからあんたたちをクレーヴェルまで送り届けてくれる御者(ぎょしゃ)さんよ。御者っていうのは、馬車を操縦してくれる人の事をいうの。……フリーダー、この子たちをよろしく頼むわ!」

「やぁやぁ。君たちが噂のワンコ兄弟と、フィトお嬢ちゃんか。話は聞いているよ。安全運転お急ぎ便でお届けするから、安心してくれたまえ! はっはっは!」



 フリーダ―はそう言うと、高らかに笑う。

 一体どんな説明をしてくれやがったんだろう、と兄弟は怪訝(けげん)そうな顔をする。

 疑り深い兄弟と違い、フィトは「お世話になります! よろしくお願いします!」と、深々とフリーダーにお辞儀(じぎ)をする。

 フィトに合わせて、慌てて犬耳兄弟もペコリと頭を下げるのであった。



「はっはっは! 礼儀正しい良い子たちじゃないか! こちらこそ、よろしく頼むよ!」

「フフフ。仲良くなれそうでよかったわ。……私はちょっと席を外すけれど、すぐに戻って来るから馬車まで案内をお願いするわね。お見送りまでには戻って来るから、心配しないでね」



 ラシーヌはそう言ってウインクを飛ばすと、颯爽(さっそう)とどこかに歩いて行ってしまった。

 三人の世話を焼いてくれているが、ラシーヌも何かと忙しいのだろう。

 忙しい中こんな風に時間を作ってくれてありがたい限りだ。


「さてさて、では馬車まで案内するからね。ついて来ておくれ!」と、ジェントルフリーダーは三人を引き連れてさっそく寝馬車へと向かう。

※辻馬車……道端や街などで客待ちをする馬車。簡単にいうと、タクシーのようなもの。

※駅馬車……各主要都市間を定期的に運行して旅客や貨物、郵便物などを輸送する馬車。簡単にいうと、バスや鉄道のようなもの。アルティメット エンドの世界――アスタルジアでは、街と村の間も運行している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ