第三話・また会う日まで(2)
「フフフ。ワンコ兄弟ったら、頼りになるじゃない! アタシとトロンも、あんたたちがまた来てくれるのを待ってるわよ。いつでも遊びに来なさいな」
向き直った三人に、ラシーヌは笑顔でそう言ってくれた。
ワンコ兄弟という愛称を添えて。
次に会う時までにこの三人の進展が楽しみねーなどと、ニンマリするのであった。
「ラシーヌさん、ありがとうっ!」と、嬉しそうに笑うフィト。
純粋無垢な黒髪少女は、ストレートにラシーヌの言葉を聞いて喜んでいるのであった。
面白がられている事など、微塵も気付くことなく。
ラシーヌの考えていることを見通していたトロンは、またこいつは……と、ジト目で呆れ気味に見ているのであった。
***
ラシーヌの後に続き、ガヤガヤと賑わう市場を歩いて行く一行。
犬耳兄弟とフィトは、市場のいろいろなものに目移りしていた。
「市場って楽しいよね! 私、お買いもの好きだから、わくわくしちゃう!」
「やっぱり女の子は、お買い物が好きなんだねぇ。それは人間も魔物も同じなのかぁ~」
売り物を見るのに夢中になるフィトを見て、リオンはボソッとつぶやく。
そんな中。フィトは、あるものを見つけて目を丸くした。
「ね! ふたりとも、見て見て! ラムレーズン団子だって! おいしそ~!」
「ラムレーズン団子……? うまいのか? その組み合わせ……」
「ううーん? 僕はちょっと興味だけど、だいぶ冒険だよねぇ~……」
「どうしてー? 絶対おいしいよぉ!」
苦笑いを浮かべる兄弟に、フィトはむくれながら小首をかしげた。
食べたことのないものや、見たことがない組み合わせは、美味しいのか半信半疑になるものだ。
グラシナ名物、お土産定番品とまで書かれているので、人気もあり、味の保証はできそうだが。
思わず立ち止まって団子を食い入るように見る三人。
先を歩くトロンはそれに気付き、何やってんだあいつらは……と思いながら、かったるそうに声をかけた。
「……おーい。お前ら、置いてくぞー」
寄り道三人組は呼ばれてはっとした顔をすると、慌てて軌道修正する。
急いでいるというのに能天気なのは相変わらずなのである。
***
市場でにぎわう広場のほど近く。
馬車乗り場は、辻馬車や駅馬車を利用するために行列を作っている人たちがたくさんいた。
大きくて立派な馬に繋がれた荷馬車に、運搬するための荷物を積んでいる人も多くみられる。
ラシーヌは馬車乗り場の入り口の、とある場所で足を止めた。
「……ここは、リリーの時計台っていってね。馬車までの時間をここで過ごしたり、よく待ち合わせ場所に使われたりするのよ」
時計台のまわりは、手入れされたリリーの花がたくさん咲いている。
とても綺麗に整備されたこの場所は、人々の憩いの場になっているようだ。
ベンチに座って新聞を読む男性や、コーヒーを飲みながら話し込む夫婦の姿などがあった。
ラシーヌはそう話した後、歩いてこちらに向かって来る男性に手を振る。
黒い乗馬服に身を包んだ男性はそれに気付くと、小走りになりながらにこやかに手を振り返した。
「フリーダー! 突然のお願いなのに、聞いてくれてありがとう! 感謝するわ!」
「ラシーヌちゃんのお願いとあらば、断る理由なんてないさね。馬も寝馬車もメンテナンスは済んでいるよ。他の馬車との時間調整もバッチリだ。いつでも出発できるぞ~!」
フリーダーと呼ばれる、端正な顔立ちをした中年男性はグッと親指を立てて笑って見せた。
おじさまジェントルマン、といった雰囲気だろうか。
細身の体に、口ひげが良く似合っている。
「助かるわ」と笑顔を返すと、ラシーヌは三人にフリーダーを紹介してくれる。
「この人は、フリーダー。これからあんたたちをクレーヴェルまで送り届けてくれる御者さんよ。御者っていうのは、馬車を操縦してくれる人の事をいうの。……フリーダー、この子たちをよろしく頼むわ!」
「やぁやぁ。君たちが噂のワンコ兄弟と、フィトお嬢ちゃんか。話は聞いているよ。安全運転お急ぎ便でお届けするから、安心してくれたまえ! はっはっは!」
フリーダ―はそう言うと、高らかに笑う。
一体どんな説明をしてくれやがったんだろう、と兄弟は怪訝そうな顔をする。
疑り深い兄弟と違い、フィトは「お世話になります! よろしくお願いします!」と、深々とフリーダーにお辞儀をする。
フィトに合わせて、慌てて犬耳兄弟もペコリと頭を下げるのであった。
「はっはっは! 礼儀正しい良い子たちじゃないか! こちらこそ、よろしく頼むよ!」
「フフフ。仲良くなれそうでよかったわ。……私はちょっと席を外すけれど、すぐに戻って来るから馬車まで案内をお願いするわね。お見送りまでには戻って来るから、心配しないでね」
ラシーヌはそう言ってウインクを飛ばすと、颯爽とどこかに歩いて行ってしまった。
三人の世話を焼いてくれているが、ラシーヌも何かと忙しいのだろう。
忙しい中こんな風に時間を作ってくれてありがたい限りだ。
「さてさて、では馬車まで案内するからね。ついて来ておくれ!」と、ジェントルフリーダーは三人を引き連れてさっそく寝馬車へと向かう。
※辻馬車……道端や街などで客待ちをする馬車。簡単にいうと、タクシーのようなもの。
※駅馬車……各主要都市間を定期的に運行して旅客や貨物、郵便物などを輸送する馬車。簡単にいうと、バスや鉄道のようなもの。アルティメット エンドの世界――アスタルジアでは、街と村の間も運行している。




