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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第一章・光る世界
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第二話・コバルトの風(2)✿挿絵✿

 しょうもない茶番(ちゃばん)を繰り広げた後――。

 三人はようやく落ち着きを取り戻し、話を元に戻す。



「あの穴に落ちてから記憶がないんだよなぁ。落ちた瞬間に身体が浮くような感覚がして、そのまま意識が飛んじまった」

「僕も」

「私もだよ」



 レオンの話にリオンもフィトも頷く。どうやら皆同じ状況だったようだ。

 この流れから、間違いなくあの穴に落ちて地上に来た事になる。

 ここまで来たのは一瞬だったのか、はたまたどれくらいの時間が経ったのか、見当がつかなかった。



「問題は地上に来てから、どれくらい時間が経っているかわからないってことだよな……」



 考え込むレオンに対し「それならわかるよ!」とフィトは答えると、すっと遠くを指さす。

 フィトの指さした先には――。兄弟の目にも留まった、白い大きな街が見えた。



「あの街、ガルデニアって言うんだけれど、さっき地上でお祭りをやっているって言ったでしょ? あの街で、お祭りをやってるんだ」



 黙って頷くふたりに、フィトは続ける。



「まだお祭り、続いているみたい。お祭りは八日間続くんだけれど、毎日違う色の炎を灯す事になっていてね。まだ私が冥界に行った時から炎の色が変わってないから、日付も時間も、今日のままだと思うの」



 フィトの推理を聞いて、レオンとリオンは不思議そうにガルデニアの街を見つめる。



「フィト、それは本当か? 俺には、炎なんてここから見えないけど……」

「僕にも見えないよ。目はいい方なんだけどなぁ~……?」



 ふたりは目を細めたり、見開いたり、こすったりして何度も街を見やる。

 しかし――。どんなに目を凝らしても、炎なんて見えない。

 ここからでは、距離がありすぎるのだ。



「見えるというか、感じるんだぁ。神様と精霊様に捧げてる、あったかい炎。今日は、一日目だから『光』に感謝を捧げる日だね!」

「ほぉー! なんか、すげー不思議な話しだけど、フィトがそう言うなら間違いないんだろうな」

「うん、僕たちフィトを信じるよ!」



 そう言って、レオンとリオンは頷いた。

 なんだかよく分からないが、フィトが嘘をついているとは兄弟は思わなかった。

 無論、この兄弟が溺愛(できあい)するフィトのことを疑うなんて事はないだろうが。

 話が一段落すると、リオンは思い立ったように「そうだ! フィト、冥界に来る前の地上の時刻は覚えているかな?」と、首に掛かった懐中時計を手にする。



「うん! えっとね、確か、十三の刻だったよ!」

「おっけー! 見ててね~!」



 そう言うと、リオンは懐中時計の上の方に付いているボタンを長押しする。

 すると――。時計は渦巻くように紫色の光を放ち、指針がくるくると回り出した。

 目を輝かせ「なにこれ! すごいよ!? ボタンを押したら、時計が光って針が勝手にくるくる回った!?」と、懐中時計をまじまじと見つめるフィト。



「そうか! リオンの時計はマジックアイテムだったな! 確か、どんな場所にいてもその世界の時刻を示してくれる、『狂わずの時計』……だったっけか?」

「その通り! 今、地上の時刻は十四の刻みたいだねぇ。フィトが僕たちと冥界にいた時間を考えてみても、不自然じゃない時刻を指してる。だから、さっきフィトが言っていた推測で間違いないと思うよ!」



 リオンは得意気にそう話す。

 それを聞いたフィトは、さらに目をぱぁぁっと輝かせる。



「すごいすごい! スーパー時計なんだねぇ!」




挿絵(By みてみん)




 初めて見るマジックアイテムによほど感動したのか、フィトはまだ時計に魅入(みい)っている。

 上から下から横から、()めるように懐中時計を観察している。



「ということは、あの穴に落ちてからここまで来るのは本当に一瞬だったってことだよな」

「うん。そうみたいだねぇ」

「さっきの冥界で起きた揺れに加えて、瞬間移動か……わかんねーことばっかりだな」

「そうだね。地上に来られたのは嬉しいけど、なんかこう、胸騒ぎもするんだよねぇ……」



 レオンとリオンは難しい顔をして話し続ける。



「交代時刻に遅刻してたライラ姉さんとラドにも責任はあるだろうけど、少しの間、門番からっぽになっただろうからなー」

「うん。僕もそこが心配だった。それに、僕たちがいなくなったことも騒ぎになってるよね、きっと」

「門番に関しては、ハーデス様が対処してくれてるから大丈夫だろ」

「それもそっか。……兄さん。ちょっと考えてたんだけどさ」

「ん? どした?」



 いつものヘラヘラと笑った顔ではなく、いつになく真剣なリオン。

 兄はそんな弟の様子に気付き、黙ってその言葉を待つ。

 リオンは一呼吸おくと、重い口を開いた。



「ライラ姉さんとラドは、交代に来なかったんじゃなくて、来れなかったんだとしたら……?」



 しばし、沈黙――。

 考えれば考えるほど、あまり良くないことが頭をよぎってくる。

 レオンは弟の言葉を聞き、ぽりぽりと頭をかいた。



「やめろって。悪く考えてもしゃーないだろ? それに門番は皆、腕が立つ奴ばっかりだからな。もしものことがあっても、簡単にやられたりしないさ」

「うん、そうだよね。皆、無事だといいな……」



 ふたりはそう言って頷き合う。

 この危機的状況を打開(だかい)するためにも、ふたりは早急に冥界に戻らねばならなかった。

 しかし――。兄弟は冥界の心配をしつつも、後ろ髪を引かれる思いがあるようで。

 リオンは少々不満げな顔で兄に語りかけた。



「冥界に戻らないと、だよねぇ」

「ああ。そうだな」

「正直、せっかく地上に来れたのに~って気持ち、ない?」

「ぶっちゃけ、ある。でも戻らねーとやべーだろ? 実際」

「そうだよねぇ。こんな状況だと戻らないと、だよねぇ……」

「ああ。……お前の気持ちも分かるよ。俺だって同じだ。心残りはある……けど、そうも言ってられないかもしれないかんな。しっかし……どうやって戻ったらいいんだ……?」



 先程は能天気に地上に来れたことを喜んでいたが、現実問題そうは言っていられない。

 ふたりには冥界の門番という重要な役目があるからだ。

 故郷を思う気持ちと、地上を見てみたい気持ちとで、兄弟は葛藤(かっとう)していた。


 ただし――。地上に来てテンションMAXのふたりは、頭のネジが二、三本飛び散っていた。

 まだ帰りたくねええええ、フィトと一緒にいてええええ、遊びてええええ、と。

 門番は代理で誰かにやらせればいいし、冥界ナントカなるんじゃね? とも。

 冷静に考えているようで、気を抜いたらウハウハ心が出てきてしまいそうなのである。


 戻りたくないけど戻らなくてはならないのに戻れない苦難と、地上フィーバーしたい葛藤(かっとう)

 犬耳兄弟は途方に暮れ、頭を抱えた。どいつもこいつも手強くて困る。

 本人たちにとっては重大な悩みのようだが、第三者から言わせれば「お前ら真面目に門番やれよ!」である。


 すると――。先程まで懐中時計に夢中になっていたフィトが不思議そうにふたりの顔を見つめた。

 それから、けろりと答える。



「私のドアを、使えばいいんじゃないかなぁ?」



 いつから会話を聞いていたのかは謎だが。

 その言葉に、犬耳兄弟は一瞬固まり。そして口をぱくぱくさせた。



「その手があったぁぁあぁああぁぁあぁ!」

「兄さんどうして僕たちは気付かなかったかなぁぁぁあぁあぁぁ!?」



 自分たちのアホさ加減に、兄弟はその場に項垂(うなだ)れた。

 そう。あの、()()()()()()()() の形である。



 ――その時。

 遠くで「まーぬけ! まーぬけ!」と、何かがふたりを罵倒(ばとう)する声が聞こえた。

 (しゃく)に障るような、間の抜けた変な声――。

 しかし、いまの三人の耳にそれは届かない。

 一体それが何の声なのか、三人は近いうちに知ることになるのだ。身をもって。




 ***




「とりあえず、ドアのあるところまで行かないとだよね!」



 フィトがそうつぶやく横で、獣兄弟は未だ項垂(うなだ)れている。

 自分たちがアンポンタンだったことに、よほどショックを受けている様子。

 あまり落ち込むことのない兄弟だが、フィトの前で恥を(さら)したことがダメージになっているらしい。

 少女はそんなふたりを引っ張り、明るく声をかける。



「ね、ふたりとも! ガルデニアの街に行ってみよう? そこからドアを開けて冥界に戻れると思うし、 ここから一番近いところだから!」



 ヘタをこいていた兄弟は、フィトの明るい声でようやく立ち直ったようだ。

 すくっと立ち上がり、フィトの提案に賛成する。

 


「そうだね! ガルデニアの街とやらに行ってみよう!」

「フィト、案内頼む!」



 少し空回りなテンションだが、フィトは全く気にしていないようで。

 むしろ、何かを言おうとずっと迷って考えていたようだ。

 意を決して、少女は兄弟にそれを伝える。



「それにね……少しだけ、お祭り一緒に回れるかなって、思ったんだぁ。いいかなぁ?」



 遠慮がちに言う可愛い少女を見て、レオンとリオンは顔を見合わせ微笑んだ。

 フィトのお願いを聞いたレオンとリオンは、迷わず即答する。



「まぁ、少しくらいなら大丈夫だろ!」

「うんうん! それに僕たち、いま休憩時間だしね!」



 冥界の安否(あんぴ)を思う気持ちもあるが、兄弟は少しの間、地上を楽しむことに決めた。

 それに、休憩時間というのは本当なのだ。

 リオンはこの言い分は間違ってはいまい、とドヤ顔で言い放つ。

 最も、この可愛い少女のお願いを断る気など、兄弟の頭の中には(はな)っからないのだが。

 右腕を高く振りかざし「それじゃ、ガルデニアの街に向かって! しゅっぱーつ!」と、笑ってフィトは歩き出す。


 コバルト色に染まる果てしなく続く空の向こうから、始まりの背中を押すように追い風が吹いた。

 こうして、能天気三人組はガルデニアの街を目指して進むのであった。

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