第二話・炭鉱探検(5)
「これは……鉄? で出来てるのかな……?」
「ああ、鉄で出来てんだよ。見りゃわかんだろ?」
フィトのつぶやきに対し、トロンは不愛想にそう答える。
それを見ていたアルベロは、爽やかに苦言を呈した。
「トロン、君はデリカシーがなくていけないね。レディーの話は優しく聞いてあげなくては!」
「あぁん? 相変わらずめんどくせぇ野郎だな……。そのキザキザっぷり、何とかなんねぇのかよ……」
うげぇ、とあからさまに嫌そうな顔をするトロン。
アルベロはその嫌味を全く気にする様子はなく、笑ってトロンの肩を叩いた。
そんな宿屋の店主と炭鉱夫はさておき。
昇降機に乗り込むなり、三人は落ち着きなく昇降機を観察した。
「こいつはすごいねぇ! アルベロさん、これはどうやって動かすの!?」
子供のようにワクワクした顔で、リオンはアルベロに尋ねる。
「これはね、神様の力で動いているんだよ! ……ほら、見ててごらん?」
そう言うと、アルベロは得意げな顔で昇降機の隅に移動する。
昇降機の隅には、透明な丸い水晶が取り付けられていた。
アルベロがその水晶に、そっと手をかざすと――。
不思議な事に、水晶が空色の輝きを放った。
「わぁ! 光ったよ!?」
水晶の輝きに負けないくらい、目を輝かせるフィト。
「ははは! 驚くのはまだ早いぞ~」
ちっちっち、と人差し指を立て、指を左右に動かすアルベロ。
そして、楽しそうに水晶をなぞる動作をして見せる。
すると――ガコン! という音がして、昇降機はゆっくりと平地に向かって動き出した。
「ひゃっ!? 動いたっ!?」
「はっはっは! すごいだろう!? 神様パワー!」
「すごいすごーいっ! スーパー昇降機だぁ!」
フィトが純粋にその仕組みを楽しんでいる中。
レオンとリオンは互いに顔を見合わせ、水晶を食い入るように見つめる。
間違いない。あれは、マジックアイテム――浮力石だ。
どうやら昇降機は、あの水晶の力で動いているようだ。
ふたりは水晶が光った瞬間、同時に魔力を感じ取った。
魔力の込められた石――浮力石。
浮力石はマジックアイテムの中でも、あまりお目にかかる事が出来ない珍しい物なのだ。
実物を見たのは初めてだったが、冥界にいる自分たちの師範が、そう話していたのをふと思い出す。
いつからここにあるのか、どんな経緯でこの街に存在したのか。
考えても到底思い浮かばない。
人間がマジックアイテムを使って生活しているのは、普通の事なのだろうか。
それに、神様の力とはどういう事なのだろう。
ここは知らないフリをして、軽く聞き出してみるか、とレオンは興味本位で口を開く。
「不思議なモンだなぁ、神様の力ってのは!」
「ほんとだよね! どうやって起動してるのか、めっちゃ気になるんだけど!」
リオンは兄の考えを汲み取り、即座に便乗して会話を膨らませる。
それを聞いたアルベロは、実に嬉しそうに石についての説明をしてくれた。
「はっはっは! そうだろう!? この水晶はね、浮力石と呼ばれるものなんだよ!」
「浮力石……?」
一緒に話を聞いていたフィトが、浮力石とはなんぞや、と首をかしげる。
兄弟もフィトに合わせて、知らないフリをしてアルベロの話を聞く。
「話せば長くなるけど、ではひとつ、語らせてもらおうか! 平地に着くまでの暇つぶしだと思って聞いてくれよな!」
そう言うと、アルベロは咳ばらいをして話し始める。
「……いまからずっとずっと昔。人間がこの土地で炭鉱と採掘をしていた時のことさ。地中を掘り進める僕たちの先祖が、神の信託を受けたんだ。……掘り進んだ先に、緑色で美しくも、有毒な鉱石――リンドウランが眠っている――と。グラシナの先祖は有毒な鉱石があるなんて知りもせずに、採掘をしていたからね。……そりゃ、毒物が眠っているなんて、思いもしなかっただろうしなぁ。危険を冒してまでこの場所で採掘を続けることは出来ない、諦めるしかないのか。……と、先祖たちは嘆いていたんだ」
身振り手振りをしながら、語りを聞かせてくれるアルベロ。
ラシーヌ同様、語り手になるのは慣れているようだ。
社交的で話好きなアルベロの人柄もあるのだろうが。
「でも、神の信託には続きがあってね。……リンドウランを両手いっぱいほど採掘し、グラスランドの東の海岸に収めよ。それを果たした時、グラシナに眠るリンドウランは土の精霊がすべて浄化してくれるであろう――と。グラシナの先祖たちは有難く信託を受けることを約束し、元の平穏な仕事に早く戻れるよう、昼も夜も岩石を掘り続けた。そしてついに、リンドウランを見つけた先祖たちは、東の海岸にリンドウランを収めるという偉業を無事に成し遂げたんだ。その後、リンドウランを浄化してくれた上に、更なる人間の発展と繁栄を願って、神様が浮力石を授けてくれたんだ。最初は不思議な力にそりゃ驚いたそうだ! いまでもこれを初めて見た人は、アンビリーバボーするくらいだからね! はっはっは! これがグラシナに伝わる、浮力石と信託のお話だよ。ご清聴ありがとう!」
話を終えたアルベロに、三人は手を叩いて拍手を送った。
深々と一礼するアルベロに、ラシーヌもにっこりと笑ってみせた。
トロンだけは、昇降機の端に座り込み、始終居眠りをしていたようだが。
よほどアルベロのことが気に食わないらしい。
一方のアルベロは、そんな事は微塵も気にしていないのだが。
話を聞き終え、リンドウランを収めるって、神にとってなんの意味があるんだ? と、兄弟は謎の疑念を抱いた。
それに神の信託なんてことを、あのバカミサマ共は頻繁にしていると見える。
きっと信託とかこつけて、自分たちの欲を満たしたり、ただの気まぐれ正義でやっているに違いない、と兄弟は読んだ。
犬耳兄弟の、ゼウスとポセイドンのイメージの悪さは相当なものらしい。
まぁ、あんなバカミサマの考える事なんて、どーでもいいか、と流すことにしたのだが。
「アルベロさん! 質問タイム、いいですかー?」
「おお! なんでも聞いてくれたまえよ! 僕に答えられることなら、喜んでお答えするよ!」
フィトは嬉しそうに、わーい! とバンザイする。
そして、質問タイムと称して、アルベロに疑問を投げかける。
「リンドウランには毒があるのに、どうしてグラシナのご先祖様たちは、リンドウランを東の海岸に運ぶことが出来たんですか?」
「いい質問だね! よし、お答えしよう! ……それはね、リンドウランを採掘するにあたって、決して素手で鉱石に触れてはならない。近くで火を起こしてはならない。それを守れば、人体に毒の影響はないであろう――。という神の助言があったからなんだよ」
「へえぇー! なるほどー!」
フィトはアルベロの回答を聞いて、満足そうに何度も頷いて見せた。
楽しそうに話を聞いてくれるフィトに、アルベロも嬉しそうだ。
その時。
ふわっと浮いたような感覚がして、一行を乗せた昇降機が止まる。
どうやら、平地に着いたようだ。
着いたといっても、地下の広間と同じような造りのフロアが目の前には広がっているため、あまり変ったよう感じないのだが。
平地の昇降機乗り場には、下に行くために昇降機を待っている人々がちらほらと並んでいた。
「大変長らくお待たせ致しました! 平地に到着で御座います! 昇降機にお乗りの方は、降りる方をお待ち頂いてからお乗りください!」
アルベロは案内のアナウンスを大きな声で発すると、三人の方に向き直る。
「こうして話すことが出来てよかったよ! とても楽しかった! 君たちとは、またぜひ会いたいな! その時は、酒でも酌み交わそうじゃないか!」
そう言って差し出された右手を握り、三人は笑顔でアルベロと握手する。
「気を付けてな! よい旅を!」と、昇降機を降りる一行に、アルベロは手を振ってくれる。
「アルベロ、ありがとうね! 世話になったわ!」
ラシーヌが笑顔でお礼を言い、昇降機を降りる時。
「……今度はデート、すっぽかさないでくれよな!」
はにかみながら、爽やかな顔でアルベロはラシーヌに言葉を送る。
「フフフ。気が向いたらまた、ね?」
ラシーヌは振り向いてそう言うと、色っぽく髪を揺らして見せた。
それを聞いていたトロンは「ケッ」と面白くなさそうにラシーヌに続いて昇降機を降りる。
「トロン! 今度メシ行こうなー!」と、アルベロはトロンにも声をかける。
誰が行くかよ! という表情を浮かべつつも、右手を上げて答えてやるトロンなのであった。
それを見ていた三人は、なるほどなぁ、と頷く。
フィトは相変わらず、ラシーヌさん、モテモテ! と目をぱちくりさせている。
それに対し犬耳兄弟は、あぁやって振り回されて何がいいんだかなぁ、などと思っていた。
翻弄して魅了する、小悪魔の魅力など、レオンとリオンには到底理解不能なのであった。




