第二話・炭鉱探検(3)
「目的の広間まで、まだもうちょっとかかりそうね。フィト、疲れてるとこ悪いけど、もうちょっと頑張ってね」
「ラシーヌさん、ありがとう! 私は大丈夫だよ!」
優しく心配をしてくれるラシーヌに、フィトは笑顔で答える。
レオンとリオンもそんなフィトを心配しつつ、歩を進めるのであった。
「なんだか、至る所に分かれ道があるんだな? 下手に歩き回ったら、迷子になっちまいそうだ」
「そうだねぇ~。もう僕は、もと来た道もわかんないやぁ」
「穴がぼっこんぼっこんだもんねぇ……」
キョロキョロと坑道を見て感想を漏らす三人。
坑道の中は入り組んでおり、まるで複雑に張り巡らされた蟻の巣だ。
こわごわと話す一行に、トロンが言葉をかける。
「入り口からひたすらまっすぐに歩けば、迷うこたぁねぇから心配すんな。俺だって行き来できる道なんだからよ」
「そうそう。このトロンでも覚えられるんだから、大丈夫よ! それに、こうして一緒に歩いてるんだから、はぐれる事もないでしょ?」
「おいおい、ひでぇな!?」
ラシーヌの物言いに、すかさず抗議するトロン。
しかしその訴えは、虚しくもまた無視されるのだが。
「じゃあその、ぼっこんぼっこん空いた穴について、また少しお話ししようかしら」
トロンの方に見向きもせず、そう発するラシーヌ。
三人はそのやりとりに苦笑いし、トロンにお情けをかけつつ、ラシーヌの話に耳を傾ける。
「……この坑道はね、かつては逃げ道や、身をひそめる隠れ場所としても使われていたのよ」
「逃げ道……?」
「身をひそめる、隠れ場所……?」
ラシーヌの話に首を傾げる犬耳兄弟。
それに対し、フィトはすぐにその意味を理解したようで、無表情のまま言葉を失くした。
「そうよ。この世界――アスタルジアが昔、モンスターに襲われた時。この坑道に、たくさんの人間が逃げ隠れたの。モンスターの被害を避けるためにね」
ここに来て初めて、モンスターの被害についての核心的な話しを耳にした兄弟。
ラシーヌはそのまま、グラシナの悲劇とも呼べる過去について、話を続ける。
「モンスターが世界中を襲った時、他の街からここに逃げ込んでくる人々がたくさんいたわ。最も、このグラシナの大陸があるグラスランドとは別の大陸――ベリーフィールドのとある街で、禁忌の蘇生魔法が使われたからね。グラスランドの被害は、あっちの大陸と比べたら小さかったみたいだけれど……。それでも、この街もモンスターが現れたことに変わりはないからね。モンスターに襲われた時、坑道の岩が崩れて、生き埋めになってしまった人もたくさんいるの。グラシナの人達が楽しそうに暮らしている姿を見ると、過去にあった出来事が嘘みたいでしょ?」
ラシーヌの語りを聞いて、三人は口を閉ざしたままだ。
人の心の悲しみに敏感なフィトは、きゅっと唇を噛み締め、酷く胸を痛めた。
少し話を逸らすように、ラシーヌは三人に言葉をかける。
「坑道が入り組んで作られているのは、単に発掘した後ってわけではないのよ。それにね、グラシナの向かい側に、リリーの花が密集して生えているところがあったの、気付いたかしら?」
言葉が出ない三人は、黙ったまま首を横に振った。
グラシナでの時間をせわしく過ごした一行は、その景色に気付く余裕もなかったのだろう。
ラシーヌは特に気付かなかった事を言及せず、話を進める。
「リリーの花にはね、再び幸せが訪れるっていう花言葉があるの。モンスターの悲劇が終わった直後。まるでその悲しみに寄り添い、手向けられるかのように、あの場所にリリーの花が自然と花開いたの。……大切な誰かを失くした時、絶望を感じた時、人は何かにすがらずにはいられない。深い悲しみから立ち直るには、神頼みでも、力頼みでも、支えとするものがなければ、人は強くは生きられないのよ。……もちろん、そう思わせない例外さんも、中にはいるかもしれないけどね。あのリリーの花たちは、グラシナの人々にたくさんの勇気と希望を与えてくれたわ。もちろん、神や精霊の支えもあったけれど……それ以上に身近に感じたあの奇跡は、いまでもこうしてグラシナを見守ってくれているの。今も昔も、ずっとね」
長い語りを終え、ラシーヌは坑道の先を指さす。
「……さてと。あんたたち、そろそろ目的地の広間に着くわよ。長いお話し、聞いてくれて感謝するわ。暗い雰囲気にしちゃって、申し訳なかったわね」
ラシーヌはそう言うと、ふっと笑って見せる。
話に聞き入っていた三人は、広間の入り口が見えて来ていた事に言われてから気付く。
兄弟は何とも言えない惨い話しに、胸が詰まる思いを感じた。
フィトが言っていたモンスターの悲劇というのが、ここまでの規模だったなんて。
ましてや、活気溢れるグラシナの街に、そんな悲しい過去があったなどとは、思いもしなかった。
怪物の自分たちが聞いても、心を沈ませるほどの話だ。
人間のフィトにとっては、なおの事だろう。
フィトは俯いたまま、何かを考えているように見える。
レオンとリオンは、そんなフィトに対して、どんな言葉をかけていいのか分からなかった。
しかし、どうしてラシーヌは、グラシナの悲劇について話してくれたのだろう。
自分たちに話しをした意図が見えなくて、考え込む兄弟。
ラシーヌは沈んだままの三人に、付け加えるように話をする。
「……こうして話したのはね、人間の為でもあるの。人助けに来てくれたあんたたちだから、グラシナの陰の部分も知ってほしくて。とても良い話しとは言えないし、こうして過去の事を話す人は、もうあまりいないから。皆、きっと思い出したくないのよね。……でも、もう二度と起きてほしくないからこそ、アタシはたくさんの人に語り継いでいくべきだと思ってる。人間は、繰り返す生き物だから」
ラシーヌの語りがちょうど一段落した時。
長かった坑道の道も終わり、一行は広間に辿り着く。




