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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第四章・花咲く渓谷の昔語り
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第二話・炭鉱探検(3)

「目的の広間まで、まだもうちょっとかかりそうね。フィト、疲れてるとこ悪いけど、もうちょっと頑張ってね」

「ラシーヌさん、ありがとう! 私は大丈夫だよ!」



 優しく心配をしてくれるラシーヌに、フィトは笑顔で答える。

 レオンとリオンもそんなフィトを心配しつつ、歩を進めるのであった。



「なんだか、至る所に分かれ道があるんだな? 下手に歩き回ったら、迷子になっちまいそうだ」

「そうだねぇ~。もう僕は、もと来た道もわかんないやぁ」

「穴がぼっこんぼっこんだもんねぇ……」



 キョロキョロと坑道を見て感想を漏らす三人。

 坑道の中は入り組んでおり、まるで複雑に張り巡らされた(あり)の巣だ。

 こわごわと話す一行に、トロンが言葉をかける。



「入り口からひたすらまっすぐに歩けば、迷うこたぁねぇから心配すんな。俺だって行き来できる道なんだからよ」

「そうそう。このトロンでも覚えられるんだから、大丈夫よ! それに、こうして一緒に歩いてるんだから、はぐれる事もないでしょ?」

「おいおい、ひでぇな!?」



 ラシーヌの物言いに、すかさず抗議するトロン。

 しかしその訴えは、虚しくもまた無視されるのだが。



「じゃあその、ぼっこんぼっこん空いた穴について、また少しお話ししようかしら」



 トロンの方に見向きもせず、そう発するラシーヌ。

 三人はそのやりとりに苦笑いし、トロンにお情けをかけつつ、ラシーヌの話に耳を傾ける。




「……この坑道はね、かつては逃げ道や、身をひそめる隠れ場所としても使われていたのよ」

「逃げ道……?」

「身をひそめる、隠れ場所……?」



 ラシーヌの話に首を傾げる犬耳兄弟。

 それに対し、フィトはすぐにその意味を理解したようで、無表情のまま言葉を失くした。



「そうよ。この世界――アスタルジアが昔、モンスターに襲われた時。この坑道に、たくさんの人間が逃げ隠れたの。モンスターの被害を避けるためにね」



 ここに来て初めて、モンスターの被害についての核心的な話しを耳にした兄弟。

 ラシーヌはそのまま、グラシナの悲劇とも呼べる過去について、話を続ける。



「モンスターが世界中を襲った時、他の街からここに逃げ込んでくる人々がたくさんいたわ。最も、このグラシナの大陸があるグラスランドとは別の大陸――ベリーフィールドのとある街で、禁忌(きんき)蘇生魔法(そせいまほう)が使われたからね。グラスランドの被害は、あっちの大陸と比べたら小さかったみたいだけれど……。それでも、この街もモンスターが現れたことに変わりはないからね。モンスターに襲われた時、坑道の岩が崩れて、生き埋めになってしまった人もたくさんいるの。グラシナの人達が楽しそうに暮らしている姿を見ると、過去にあった出来事が嘘みたいでしょ?」



 ラシーヌの語りを聞いて、三人は口を閉ざしたままだ。

 人の心の悲しみに敏感(びんかん)なフィトは、きゅっと唇を噛み締め、酷く胸を痛めた。

 少し話を逸らすように、ラシーヌは三人に言葉をかける。



「坑道が入り組んで作られているのは、単に発掘した後ってわけではないのよ。それにね、グラシナの向かい側に、リリーの花が密集して生えているところがあったの、気付いたかしら?」



 言葉が出ない三人は、黙ったまま首を横に振った。

 グラシナでの時間をせわしく過ごした一行は、その景色に気付く余裕もなかったのだろう。

 ラシーヌは特に気付かなかった事を言及(げんきゅう)せず、話を進める。



「リリーの花にはね、再び幸せが訪れるっていう花言葉があるの。モンスターの悲劇が終わった直後。まるでその悲しみに寄り添い、手向(たむ)けられるかのように、あの場所にリリーの花が自然と花開いたの。……大切な誰かを失くした時、絶望を感じた時、人は何かにすがらずにはいられない。深い悲しみから立ち直るには、神頼みでも、力頼みでも、支えとするものがなければ、人は強くは生きられないのよ。……もちろん、そう思わせない例外さんも、中にはいるかもしれないけどね。あのリリーの花たちは、グラシナの人々にたくさんの勇気と希望を与えてくれたわ。もちろん、神や精霊の支えもあったけれど……それ以上に身近に感じたあの奇跡は、いまでもこうしてグラシナを見守ってくれているの。今も昔も、ずっとね」



 長い語りを終え、ラシーヌは坑道の先を指さす。



「……さてと。あんたたち、そろそろ目的地の広間に着くわよ。長いお話し、聞いてくれて感謝するわ。暗い雰囲気にしちゃって、申し訳なかったわね」



 ラシーヌはそう言うと、ふっと笑って見せる。

 話に聞き入っていた三人は、広間の入り口が見えて来ていた事に言われてから気付く。



 兄弟は何とも言えない(むご)い話しに、胸が詰まる思いを感じた。

 フィトが言っていたモンスターの悲劇というのが、ここまでの規模だったなんて。

 ましてや、活気溢れるグラシナの街に、そんな悲しい過去があったなどとは、思いもしなかった。


 怪物の自分たちが聞いても、心を沈ませるほどの話だ。

 人間のフィトにとっては、なおの事だろう。

 フィトは俯いたまま、何かを考えているように見える。

 レオンとリオンは、そんなフィトに対して、どんな言葉をかけていいのか分からなかった。



 しかし、どうしてラシーヌは、グラシナの悲劇について話してくれたのだろう。

 自分たちに話しをした意図が見えなくて、考え込む兄弟。

 ラシーヌは沈んだままの三人に、付け加えるように話をする。



「……こうして話したのはね、人間の為でもあるの。人助けに来てくれたあんたたちだから、グラシナの陰の部分も知ってほしくて。とても良い話しとは言えないし、こうして過去の事を話す人は、もうあまりいないから。皆、きっと思い出したくないのよね。……でも、もう二度と起きてほしくないからこそ、アタシはたくさんの人に語り継いでいくべきだと思ってる。人間は、繰り返す生き物だから」



 ラシーヌの語りがちょうど一段落した時。

 長かった坑道の道も終わり、一行は広間に辿り着く。

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