表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第四章・花咲く渓谷の昔語り
52/130

第一話・帰還会見(1)

 お待たせ致しました。第四章、開幕です。

 番外編も入れると、50話を突破致しました。

 嬉しい限りです、ありがとうございます。


 第四章は今までの章よりも、少々長くなる予定です。

 しばらく木曜日の隔週投稿が続きますが、お付き合い頂けたら嬉しいです。

 前置き、失礼致しました。

 土の精霊たちと別れ、グラシナの街に戻ってきた三人。

 ほとんど寝ずに朝を迎えた三人は、大きな疲労を抱えていた――。



「戻って……来たぁ……!」

「なかなか不安定な地形だったから、歩くの疲れたねぇ……」

「恐ろしい階段もあるしな……」



 高い所が苦手なレオンにとって渓谷(けいこく)の階段は、恐怖の(かたまり)なのだ。

 無事にグラシナに戻って来られた事に一安心する。



「そういえばさ……トロンさん、心配してるかな?」

「あ……!」

「やべ……」



 三人は昨夜、店主トロンに一言も言わず、宿を出て来てしまっていた。

 リオンの言葉でそれを思い出し、はっとする。



「……とりあえず一回、リースリングに戻ろっか?」

「だな」

「そうだね」



 三人は頷き合うと、リースリングに向かってフラフラと歩き出す――。

 太陽に照らされ明るくなったグラシナを歩き、なんとか宿屋までたどり着く一行。

 そして、重い足取りでトロンの宿屋・リースリングに足を踏み入れた――。



「いらっしゃい……って、お前ら! どこ行ってたんだ!? ドアも開けっ放しで出ていっちまってたからよ、びっくりしたんだぜ?」



 御一行の帰還に、慌ててカウンターから飛び出すトロン。

 よほど心配してくれていたのか、こちらに駆け寄ってきた。



「何か急用でもあったのか?」

「ちょっと飲み足りなくってぇ……あれから目が覚めちゃったんだぁ。ね? 兄さん?」

「あ、ああ! そうなんだよ! こいつ酔い潰れて目覚めたら、まだ飲みたいとか抜かしやがってさぁ。その辺で飲み明かしてきたんだよ!」



 事前に言い訳を考えていたかのような饒舌(じょうぜつ)で、リオンは言葉を並べる。わざとらしさが拭えないものの、リオンの口車になんとかレオンは乗ってみせた。

 なんだかんだ人の良いトロンは、疑うことなく信じてくれるだろう。嘘をつくのは心苦しいが、ここは仕方ない。

 リオンの思惑通り半ば呆れ気味に、しょーがねぇ奴らだな……、とトロンが言葉を返そうとしたその時――。



「なーにが飲み足りないよ。嘘つきね」

「わっ!? ラシーヌ! お前どっからわいて出たんだ!?」

「失礼ね。ちゃんとドアから入って来たわよ」



 突然ラシーヌが現れたので、トロンは仰天している。

 確かに店のドアは空け放されていたが、いつからいたのかは不明だ。

 ラシーヌは三人の顔を一瞥(いちべつ)すると、つかつかとこちらに歩み寄って来た。



「お前ってほんと、神出鬼没(しんしゅつきぼつ)だよな……」



 ボソッと言ったトロンのセリフに、三人は心の中で同意する。

 そう――。ラシーヌは、本当に怖いくらい神出鬼没なのだ。昨夜の出現は、兄弟にとってはチビリものだった。

 リオンは心の声が抑えきれず「うわぁ……ほんと恐怖……」と、外にダダ漏れてしまっている。



「話がそれたけど……あんたたち、飲みに行ってたってのは真っ赤な嘘よね? だって私と会ったじゃない、土の祭壇で」

「そうなのか? お前ら、なんだってあんな時間に祭壇なんかに……」

「あんたは黙ってて」

「ハイ」



 口を挟もうとするトロンに、ピシャリと言い放つラシーヌ。

 トロンはしょぼんとして、言われた通り口をつぐむ。


 これはどうしたものか――。

 ラシーヌとあの場所で会ってから、相当な時間が経過していた。何をするわけでもなく行ったというのなら、こうして朝帰りするのは不自然だ。

 あの時ラシーヌは、こちらの目的には言及してくる事はなかった。様子見をされていた、という事なのだろうか。

 だがそれは、一体何のために――?


 謎は深まるばかりだが、いまはこの状況をなんとか切り抜けなくては。

 レオンは必死に言葉を探すも、頭が働かない事と口下手があいまって、最もな言い訳が思いつかない。

 フィトもラシーヌのあまりの気迫に、おろおろしてしまっている。

 謝罪会見(しゃざいかいけん)ならぬ、帰還会見(きかんかいけん)は、緊迫した空気に包まれていた。

 そんな雰囲気の中――。最初に口を開いたのはリオンだった。



「ラシーヌさん。僕たちね、土の精霊様のところにお祈りに行ってたんだ」

「お祈り……?」



 ラシーヌはリオンの言葉に顔をしかめ、首を(ひね)る。



「うん。昨日ここに復興(ふっこう)の手伝いに来たって言ったでしょ? でも、街はだいぶ復興が進んでて、何も出来なかったからねぇ。何もせずに帰るのが申し訳なくてさ。だからこの先のグラシナの安泰(あんたい)を願って、朝までお祈りして来たってわけ」



 口から出まかせのようにも聞こえるが、一応筋の通る話だ。

 リオンの強みは、口の達者なところなのだ。小さい頃から、ずっと兄レオンに力で敵わないがゆえに、口が強くなったのだろう。

 圧倒的(あっとうてき)理論武装(りろんぶそう)と冷静なしゃべり口調。

 口喧嘩と論争に関しては、リオンの右に出るものはそうそういない。ただし、冷静さを欠いていなければの話なのだが。



 ラシーヌは「ふむ……」と、あごに手を当てて考えている。

 そして、ふっと笑みをこぼした。



「それならそうと、昨夜も言ってくれたらよかったじゃないの。水臭(みずくさ)いわねぇ!」



 ラシーヌは揺らがずに真っすぐな瞳を向けるリオンに、押し負けたようだ。バシバシとリオンの背中を叩いてそう言った。

 リオンのおかげで、何とかピンチを脱することが出来た。三人は、ホッと肩を()でおろす。



「ところであんたたち、寝てないのよね? 大丈夫なの?」

「うん、大丈夫! それにね、もう行かなきゃなの」



 フィトのセリフを聞いて、顔を見合わせるラシーヌとトロン。



「行かなきゃって、一体どこに? それに、フィト。あんた顔色悪いじゃないの。そのままじゃ倒れちゃうわよ!」

「ラシーヌの言う通りだ。宿代は追加しなくてもいいからよ、少し休んでけよ?」

「私は大丈夫だよっ! ほら! こーんなに元気元気っ!」



 フィトはぴょんぴょん飛び跳ね、わざとらしく元気アピールをしてみせた。

 トロンとラシーヌの優しさは、とても嬉しいし、ありがたい。

 それに、レオンとリオンもフィトを休ませたい気持ちは山々だった。

 しかし――。現実問題、ダフネの安否を考えるとそうは言っていられないのだ。こうしている間にも、()()がダフネに襲い掛かる危険が迫っている。



「気持ちは嬉しい。俺たちも、フィトを休ませてやりたいのは山々なんだ。……だけど俺たち、先を急いでてさ。もう行かなきゃいけないんだ」

「行くって、一体どこに? あんたたち、ガルデニアから来たんでしょ? ガルデニアに帰るってこと?」

「僕たち、ガルデニアには戻らないよ。これからクレーヴェルに行くんだ」

「クレーヴェルに……?」



 レオンの話に首を傾げるラシーヌ。

 三人がクレーヴェルに向かう意図(いと)が、全くわからないといった様子だ。

 その会話を、トロンは黙って聞いている。



「うん。実はね、クレーヴェルに探している人がいるんだ」

「探している人、ねぇ……」

「そうそう。本当は、グラシナにいるって聞いていたんだけどねぇ。どうやら先にクレーヴェルに行っちゃったみたいなんだよ。だから、追いかけないといけないんだ。もちろん、ここに復興の手伝いに来たって言うのも本当だよ? その人が依頼主だからねぇ~」



 リオンは当り障りのない範囲で、嘘と本当を交えてざっくりと答える。

 だいぶアバウトな答え方だが、それでも即興(そっきょう)で考えたにしてはだいぶ現実味のある作話(さくわ)だ。

 リオンは冷静な表情を崩すことなく、ラシーヌの返しを待っている。

 いろいろ疑問は解決しないものの、観光客の頼みとあらば、とラシーヌは頷いた。

 ここまで親しくなったのだから、見守ることも()ねて、最後まで協力しようと思ったのだろう。



「……あんたたち、そんなフラフラの状態で、まさかクレーヴェルまで歩いて行く気じゃないでしょうね?」

「ああ。クレーヴェルまでは、馬車で向かおうと思ってるよ」

「ふーん? それで? 馬車のアテはあるわけ? 馬車の出るところは知ってるの?」

「いや~、それが全然!」



 リオンは包み隠さず、あっけらかんとそう答える。

 計画性のない三人に、呆れて頭を抱えるラシーヌ。



「昨日の宿探しといい、交渉の仕方といい、本当に行き当たりばったりもいいところだわ……。そんなんで、よく旅しようなんて思えたわね……」



 当人たちは、まるで準備不足の自覚がないのだ。

 外の世界を知らない、世間知らずな少女――。地上の事が分からない、地上知らずの兄弟――。

 この三人がどんなに話し合いを重ねたところで、旅の準備は万全になることはないだろう。

 ただし、三人はラシーヌから言われた事を分かってはいるのだ。



「ごもっともで」

「返す言葉も」

「ごさいません」



 ――と、声をそろえて三人は撃沈した。

 その様子を見て、紫色の髪をくしゃくしゃとしながらラシーヌはため息をつく。

 ラシーヌは、三人を責めようとして言葉を突き付けたわけではないのだ。

 腕組みをしながら「……はぁ。仕方ないわね。私が馬車を手配してあげる」と、頭が痛そうな顔をしてそう言った。



「ええっ!? いいの~!? さっすがラシーヌさぁんっ!」



 その言葉を待ってましたとばかりに、わざとらしくテンション高々とお願いポーズをつくるリオン。

 ラシーヌはそんなリオンの意図を始めから読んでいたかのように、冷ややかな目で見つめた。



「……リオン。あんた、図ってたわね」

「あ、バレてた? ラシーヌさんなら、きっと案内してくれると思ったからさ?」



 リオンは始めから、ラシーヌに案内をしてもらう気でいたようだ。ラシーヌがここに入ってきた事に気付いた時から――。

 その為に、最初から誘導問答(ゆうどうもんどう)を重ねていたのだ。



「……弟クンは、策士(さくし)ねぇ。まぁ、いいわ。私もそのつもりだったからね」

「たはは。話が早くて助かるよ。でも、利用していたわけじゃないよ? ちゃーんと、ラシーヌさんの人柄を見込んでのこと、だからね!」

「はぁ。あんたってば、ほんっと恐ろしい子!」



 腰に手を当てて、今度は大きくため息をつくラシーヌ。

 ラシーヌ相手に、自分のペースで話を進めるリオンに、トロンは面食らっていた。

 それにしても、最初から俺にお祈りに行ってたと正直に言ってれば、すんなり話がついたのによ、とトロンは思うのである。

 ラシーヌにしゃべるなと言われたため、口に出せずにいるのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ