第一話・帰還会見(1)
お待たせ致しました。第四章、開幕です。
番外編も入れると、50話を突破致しました。
嬉しい限りです、ありがとうございます。
第四章は今までの章よりも、少々長くなる予定です。
しばらく木曜日の隔週投稿が続きますが、お付き合い頂けたら嬉しいです。
前置き、失礼致しました。
土の精霊たちと別れ、グラシナの街に戻ってきた三人。
ほとんど寝ずに朝を迎えた三人は、大きな疲労を抱えていた――。
「戻って……来たぁ……!」
「なかなか不安定な地形だったから、歩くの疲れたねぇ……」
「恐ろしい階段もあるしな……」
高い所が苦手なレオンにとって渓谷の階段は、恐怖の塊なのだ。
無事にグラシナに戻って来られた事に一安心する。
「そういえばさ……トロンさん、心配してるかな?」
「あ……!」
「やべ……」
三人は昨夜、店主トロンに一言も言わず、宿を出て来てしまっていた。
リオンの言葉でそれを思い出し、はっとする。
「……とりあえず一回、リースリングに戻ろっか?」
「だな」
「そうだね」
三人は頷き合うと、リースリングに向かってフラフラと歩き出す――。
太陽に照らされ明るくなったグラシナを歩き、なんとか宿屋までたどり着く一行。
そして、重い足取りでトロンの宿屋・リースリングに足を踏み入れた――。
「いらっしゃい……って、お前ら! どこ行ってたんだ!? ドアも開けっ放しで出ていっちまってたからよ、びっくりしたんだぜ?」
御一行の帰還に、慌ててカウンターから飛び出すトロン。
よほど心配してくれていたのか、こちらに駆け寄ってきた。
「何か急用でもあったのか?」
「ちょっと飲み足りなくってぇ……あれから目が覚めちゃったんだぁ。ね? 兄さん?」
「あ、ああ! そうなんだよ! こいつ酔い潰れて目覚めたら、まだ飲みたいとか抜かしやがってさぁ。その辺で飲み明かしてきたんだよ!」
事前に言い訳を考えていたかのような饒舌で、リオンは言葉を並べる。わざとらしさが拭えないものの、リオンの口車になんとかレオンは乗ってみせた。
なんだかんだ人の良いトロンは、疑うことなく信じてくれるだろう。嘘をつくのは心苦しいが、ここは仕方ない。
リオンの思惑通り半ば呆れ気味に、しょーがねぇ奴らだな……、とトロンが言葉を返そうとしたその時――。
「なーにが飲み足りないよ。嘘つきね」
「わっ!? ラシーヌ! お前どっからわいて出たんだ!?」
「失礼ね。ちゃんとドアから入って来たわよ」
突然ラシーヌが現れたので、トロンは仰天している。
確かに店のドアは空け放されていたが、いつからいたのかは不明だ。
ラシーヌは三人の顔を一瞥すると、つかつかとこちらに歩み寄って来た。
「お前ってほんと、神出鬼没だよな……」
ボソッと言ったトロンのセリフに、三人は心の中で同意する。
そう――。ラシーヌは、本当に怖いくらい神出鬼没なのだ。昨夜の出現は、兄弟にとってはチビリものだった。
リオンは心の声が抑えきれず「うわぁ……ほんと恐怖……」と、外にダダ漏れてしまっている。
「話がそれたけど……あんたたち、飲みに行ってたってのは真っ赤な嘘よね? だって私と会ったじゃない、土の祭壇で」
「そうなのか? お前ら、なんだってあんな時間に祭壇なんかに……」
「あんたは黙ってて」
「ハイ」
口を挟もうとするトロンに、ピシャリと言い放つラシーヌ。
トロンはしょぼんとして、言われた通り口をつぐむ。
これはどうしたものか――。
ラシーヌとあの場所で会ってから、相当な時間が経過していた。何をするわけでもなく行ったというのなら、こうして朝帰りするのは不自然だ。
あの時ラシーヌは、こちらの目的には言及してくる事はなかった。様子見をされていた、という事なのだろうか。
だがそれは、一体何のために――?
謎は深まるばかりだが、いまはこの状況をなんとか切り抜けなくては。
レオンは必死に言葉を探すも、頭が働かない事と口下手があいまって、最もな言い訳が思いつかない。
フィトもラシーヌのあまりの気迫に、おろおろしてしまっている。
謝罪会見ならぬ、帰還会見は、緊迫した空気に包まれていた。
そんな雰囲気の中――。最初に口を開いたのはリオンだった。
「ラシーヌさん。僕たちね、土の精霊様のところにお祈りに行ってたんだ」
「お祈り……?」
ラシーヌはリオンの言葉に顔をしかめ、首を捻る。
「うん。昨日ここに復興の手伝いに来たって言ったでしょ? でも、街はだいぶ復興が進んでて、何も出来なかったからねぇ。何もせずに帰るのが申し訳なくてさ。だからこの先のグラシナの安泰を願って、朝までお祈りして来たってわけ」
口から出まかせのようにも聞こえるが、一応筋の通る話だ。
リオンの強みは、口の達者なところなのだ。小さい頃から、ずっと兄レオンに力で敵わないがゆえに、口が強くなったのだろう。
圧倒的な理論武装と冷静なしゃべり口調。
口喧嘩と論争に関しては、リオンの右に出るものはそうそういない。ただし、冷静さを欠いていなければの話なのだが。
ラシーヌは「ふむ……」と、あごに手を当てて考えている。
そして、ふっと笑みをこぼした。
「それならそうと、昨夜も言ってくれたらよかったじゃないの。水臭いわねぇ!」
ラシーヌは揺らがずに真っすぐな瞳を向けるリオンに、押し負けたようだ。バシバシとリオンの背中を叩いてそう言った。
リオンのおかげで、何とかピンチを脱することが出来た。三人は、ホッと肩を撫でおろす。
「ところであんたたち、寝てないのよね? 大丈夫なの?」
「うん、大丈夫! それにね、もう行かなきゃなの」
フィトのセリフを聞いて、顔を見合わせるラシーヌとトロン。
「行かなきゃって、一体どこに? それに、フィト。あんた顔色悪いじゃないの。そのままじゃ倒れちゃうわよ!」
「ラシーヌの言う通りだ。宿代は追加しなくてもいいからよ、少し休んでけよ?」
「私は大丈夫だよっ! ほら! こーんなに元気元気っ!」
フィトはぴょんぴょん飛び跳ね、わざとらしく元気アピールをしてみせた。
トロンとラシーヌの優しさは、とても嬉しいし、ありがたい。
それに、レオンとリオンもフィトを休ませたい気持ちは山々だった。
しかし――。現実問題、ダフネの安否を考えるとそうは言っていられないのだ。こうしている間にも、奴らがダフネに襲い掛かる危険が迫っている。
「気持ちは嬉しい。俺たちも、フィトを休ませてやりたいのは山々なんだ。……だけど俺たち、先を急いでてさ。もう行かなきゃいけないんだ」
「行くって、一体どこに? あんたたち、ガルデニアから来たんでしょ? ガルデニアに帰るってこと?」
「僕たち、ガルデニアには戻らないよ。これからクレーヴェルに行くんだ」
「クレーヴェルに……?」
レオンの話に首を傾げるラシーヌ。
三人がクレーヴェルに向かう意図が、全くわからないといった様子だ。
その会話を、トロンは黙って聞いている。
「うん。実はね、クレーヴェルに探している人がいるんだ」
「探している人、ねぇ……」
「そうそう。本当は、グラシナにいるって聞いていたんだけどねぇ。どうやら先にクレーヴェルに行っちゃったみたいなんだよ。だから、追いかけないといけないんだ。もちろん、ここに復興の手伝いに来たって言うのも本当だよ? その人が依頼主だからねぇ~」
リオンは当り障りのない範囲で、嘘と本当を交えてざっくりと答える。
だいぶアバウトな答え方だが、それでも即興で考えたにしてはだいぶ現実味のある作話だ。
リオンは冷静な表情を崩すことなく、ラシーヌの返しを待っている。
いろいろ疑問は解決しないものの、観光客の頼みとあらば、とラシーヌは頷いた。
ここまで親しくなったのだから、見守ることも兼ねて、最後まで協力しようと思ったのだろう。
「……あんたたち、そんなフラフラの状態で、まさかクレーヴェルまで歩いて行く気じゃないでしょうね?」
「ああ。クレーヴェルまでは、馬車で向かおうと思ってるよ」
「ふーん? それで? 馬車のアテはあるわけ? 馬車の出るところは知ってるの?」
「いや~、それが全然!」
リオンは包み隠さず、あっけらかんとそう答える。
計画性のない三人に、呆れて頭を抱えるラシーヌ。
「昨日の宿探しといい、交渉の仕方といい、本当に行き当たりばったりもいいところだわ……。そんなんで、よく旅しようなんて思えたわね……」
当人たちは、まるで準備不足の自覚がないのだ。
外の世界を知らない、世間知らずな少女――。地上の事が分からない、地上知らずの兄弟――。
この三人がどんなに話し合いを重ねたところで、旅の準備は万全になることはないだろう。
ただし、三人はラシーヌから言われた事を分かってはいるのだ。
「ごもっともで」
「返す言葉も」
「ごさいません」
――と、声をそろえて三人は撃沈した。
その様子を見て、紫色の髪をくしゃくしゃとしながらラシーヌはため息をつく。
ラシーヌは、三人を責めようとして言葉を突き付けたわけではないのだ。
腕組みをしながら「……はぁ。仕方ないわね。私が馬車を手配してあげる」と、頭が痛そうな顔をしてそう言った。
「ええっ!? いいの~!? さっすがラシーヌさぁんっ!」
その言葉を待ってましたとばかりに、わざとらしくテンション高々とお願いポーズをつくるリオン。
ラシーヌはそんなリオンの意図を始めから読んでいたかのように、冷ややかな目で見つめた。
「……リオン。あんた、図ってたわね」
「あ、バレてた? ラシーヌさんなら、きっと案内してくれると思ったからさ?」
リオンは始めから、ラシーヌに案内をしてもらう気でいたようだ。ラシーヌがここに入ってきた事に気付いた時から――。
その為に、最初から誘導問答を重ねていたのだ。
「……弟クンは、策士ねぇ。まぁ、いいわ。私もそのつもりだったからね」
「たはは。話が早くて助かるよ。でも、利用していたわけじゃないよ? ちゃーんと、ラシーヌさんの人柄を見込んでのこと、だからね!」
「はぁ。あんたってば、ほんっと恐ろしい子!」
腰に手を当てて、今度は大きくため息をつくラシーヌ。
ラシーヌ相手に、自分のペースで話を進めるリオンに、トロンは面食らっていた。
それにしても、最初から俺にお祈りに行ってたと正直に言ってれば、すんなり話がついたのによ、とトロンは思うのである。
ラシーヌにしゃべるなと言われたため、口に出せずにいるのだが。




