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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第三章・大地の息吹く場所
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番外編・土の精霊とお団子大騒動

 こちらの番外編は、土の精霊三人組とカリスト様の日常を描いたお話しです。

 本編に出てきた、お団子事件の一コマとなっております。

 お騒がせ者と呼ばれる、土の精霊たちのふざけた掛け合いを、楽しんで頂けたらと思います。

 前置き、失礼致しました。



 これは、土の大精霊(だいせいれい)カリストが封印されるちょっと前のお話し。

 花咲く渓谷(けいこく)――グラシナの街から少し離れた所にある、大地の息吹(いぶ)く場所――土の祭壇(さいだん)

 ここは魔力の源である精霊石(せいれいせき)を、土の精霊たちが護っている神聖(しんせい)な場所だ。

 そう、神聖な場所のはず。なのだが。




『……タッチおにーっ! 次はカリスト様がオニよーっ!』

『……ぬうぅ~! 一度もオニにならない我の計画がぁ~! おい(なんじ)ら、覚悟せいっ! 大精霊の名に()けて、一瞬でオニ交代をさせてやるのじゃぁ!』

『……きゃはは! 大変っ! 逃げるのよぅ~!』

『……ここまで、おいで~』



 ぽかぽかとあたたかい、昼下がりの午後――。

 土の精霊たちは神聖な祭壇の前で、アハハウフフとオニごっこをして遊んでいた。

 後に、()()が自分たちを襲って来るなんて夢にも思わなかったことだろう。

 この能天気な様子からして、本当に油断していたことが一目瞭然(いちもくりょうぜん)である。



『……だーっはっはっは! まぬけなロッチャ、捕まえたのじゃぁー! カリスト様、だいしょーり! なのじゃーっ!』

『……うう~! また捕まっちゃったのよぅ~! もうさっきからオニ役ばっかりで疲れちゃったのよぅ~……』



 げっそりとした顔でロッチャは大きなため息をつく。

 そんなロッチャに対し、ピエトラがズバッと意見を物申(ものもう)す。



『……ロッチャは飛ぶスピード遅いから、狙われやすい』

『……うぇっ!? なによぅ~! しょうがないでしょぉ、運動はニガテなのよぅ~』



 ロッチャはそう言って、(くちびる)をとがらせる。

 すると。ジェムはロッチャの顔や身体をまじまじと見つめ、一言。



『……ロッチャ。あなた、お(そな)え物食べてばっかりだから、少し太ったんじゃないかしら?』

『……ええっ!? ウソでしょぉ~!?』

『……ふむ。言われてみれば、そんな気がするのぅ』

『……そんなぁ、カリスト様までぇ~……。でも、確かに言われてみると、ちょっと身体が重い気がしてたようなぁ~……?』

『……ロッチャ、ダイエットしなきゃ』

『……うう~。お供え物食べるの、ちょっと(ひか)えなきゃダメかしらぁ~……』



 ロッチャは両手を頬にあて、悩まし気にそうつぶやく。

 精霊たちは地上を好み、人間の真似(まね)をして同じように暮らしている。人と同じような悩みを持ち、楽しいときは笑い、一喜一憂(いっきいちゆう)して毎日を過ごしているのだ。

 長寿(ちょうじゅ)ゆえに、その暮らしぶりは、とてもまったりとしているのだが。

 獣耳が付いた、どこぞの兄弟が噂していた通りの模様。



『……心配しなくてもロッチャのぶんは、ぜーんぶ私が食べてあげるわ!』

『……そんなぁ~!? 全部なんて、あんまりじゃないのよぅ~! ちょっとくらい食べさせてよぅ~!』



 心無いジェムの発言を聞いて、ロッチャはポカポカとジェムを叩いた。

 すると、それを聞いていたカリストがムッとした顔を見せる。



『……ジェム、勝手な事を言うでないぞ!』

『……カリスト様!? そりゃ、全部ってのは冗談よ? でも、ロッチャはそうでもしないと、食べるの我慢できないと……』

『……なーにを言っとるか! 手下のものは、我のもの! ロッチャのものは、カリスト様のもの! ロッチャのぶんは、ぜ~んぶ我が頂くのじゃぁっ!』



 ジェムの話を(さえぎ)り、ビシィ! と三人に人差し指を突き付けるカリスト。

 ロッチャのことを(かば)うのかと思いきや、ただ単に食い意地が張っているだけのようだ。

 それを聞いたジェムもロッチャも、唖然(あぜん)である。



『……汝ら、拒否権はないぞ? 何故なら! 我は大精霊なのだからな! だーっはっはっはっは!』

『……んなぁっ……!? カリスト様、自分だけずるいわよっ!』

『……なーにを言っとるか! 大精霊の言う事は絶対じゃ! それに、これはロッチャのためなのじゃぞ!』

『……そんなの認めないわっ! 大精霊の職権乱用(しょっけんらんよう)もいいとこよ!』

『……ロッチャのぶんは、みんなで仲良く分けっこ』

『……分けっこなぞ、それこそ認めん! ぜ~んぶ我のなのじゃぁ!』



 ロッチャのお供え物を巡って、土の精霊たちはぎゃーぎゃーと言い争いを始めた。

 全員の勝手な言い草に、ロッチャはワナワナと震える。



『……もぅ~! 私のためとか言ってるけど、結局みんな自分がたくさん食べたいだけじゃないのよぅ~! 勝手に私のぶんをキープするなんてさせないわよぅ~! 私の分は、誰にも渡さないんだからぁ!』

『……ロッチャ。ダイエットするなら、中途半端よくない』

『……う~! もっともらしいこと言っても、(だま)されないわよぅっ!』



 そんな時。

 不毛(ふもう)な議論を続ける女子会空間に、誰かが近付く気配をカリストが察知する。



『……ふむ。どうやら人間が来たようじゃの』

『……じゃあ、さっそくお供え物が来たかしらぁ~!?』

『……お供え物、なにかなぁ』

『……そしたら今は、一時休戦ね!』



 食いしん坊な土の精霊たちは、お供え物のことで頭がいっぱいだった。足を運んで来てくれた人間に対して、失礼極まりない限りである。

 土の守護者たちはお供え物(人間)が来るのを、静かに待つのであった。




 ***




 それから間もなく――。

 若い人間の男性が一人、土の祭壇に参拝にやって来た。

 男性は祭壇に近付き、(ひざまず)く。



「精霊様。明日はクレーヴェルに、新しいワインの材料である果物を育ててもらうよう依頼に行きます。どうか、その果物が無事に実らんことを。ご加護を、お与えください」



 男性は手を合わせてそう祈ると、カバンからあるものを取り出す。

 その手に持ったのは――お団子だ。グラシナで売られている、五本入り特製ラムレーズン団子。

 ラムレーズン団子は、グラシナのお土産の定番品で、よくお供えにも持って来られている。そのため、土の精霊たちはラムレーズン団子が大好物なのだ。

 お馴染みの団子を見て、ぱあぁっと目を輝かせる土の精霊たち。わくわくとした眼差しでお供え物の団子を見つめる。


 そんな事もつゆ知らず。精霊たちが団子を狙う気配など、到底感じ取れるわけもなく。人間の男性は「どうか、お納めください」と、お供え物を祭壇に置く。

 そして、再び手を合わせて祈りを捧げ始めた。



『……ラムレーズン団子だわぁ~! とっても美味しいのよねぇ~!』

『……あのお団子、大好き! ね! カリスト様!』



 あまりの嬉しさに言い争っていたことを忘れ、ジェムがカリストに話しかける。

 しかし。振り向いた先に、大精霊の姿はない。



『……って、あれ? カリスト様?』

『……カリスト様、いない……?』

『……さっきまで、ここにいたわよねぇ~……?』



 三人の後ろにいたはずのカリストが、こつぜんと姿を消したのだ。一体、どこへ消えたというのだろう。

 土の精霊三人組は顔を見合わせ、目をぱちくりとさせた。

 まさかと思い、三人は怪訝(けげん)な顔つきで祭壇の方を見やる。


 そこにあったのは――団子を頬張る、大精霊カリストの姿だった。

 嫌な予感が的中してしまった。あのカリスト様でも、そこまではしないだろうと思った自分たちが甘かった。団子のあんこよりも、ずっとずっと甘かったのだ。

 それを見た三人の精霊たちは、あまりの出来事に白目をむいてしまう。



『……ちょっとちょっとぉ!? カリスト様ってば、なにしてるのよぉーっ!?』

『……お団子独り占めなんて、そんなの汚いわよぅ~!』

『……ロッチャ、心配すべきはそこじゃないでしょうがっ! いくら姿が見えないからって、そんな目の前で堂々と……!』

『……それはさすがに、マズイ。お団子は、ウマイ』



 激しく動揺したピエトラが、例の(ごと)くしょうもないオヤジギャグをかます。

 男性が祈るために目を閉じているとはいえ、いつ目を開くか分からないのだ。

 精霊の姿は人間には見えない。しかし、食べている団子は見えるのだ。


 それはつまり、人間の男性からしてみれば――。

 自分がお供えした団子が、見えない何者かによって目の前で食べられている――! という、とんでもなく恐ろしい怪奇現象(かいきげんしょう)が起きている風に見えるわけで。


 どうにもこうにも、団子が食べられてしまったいま、どうすることも出来ない。食べてしまった団子を復元する、なんて都合のいい魔法は存在するわけもなく。

 三人組は混乱しすぎて、いーとーまきまきをし始めた。

 そんな風に騒ぎ立てる三人に向かって、カリストはニヤリと不敵(ふてき)に笑う。空気の読めない大精霊は、腕組みをしてドヤ顔でのけぞって見せた。

 それを見たジェムたちがイラッとしたことは、言うまでもないだろう。


 その時――。

 祈りを捧げ終えた男性が、ついに閉じていた目を開けてしまった。



「あれ……?」



 男性は、目を疑った。

 お供えしたばかりのお団子が、五本ともなくなっているのだ。

 不審そうに、お団子の入っていた入れ物をじっと見つめる。そして、目をこすっては何度もそれを確認した。



「団子が、空になってる……!?」



 ありえない事に、自分がお供えした団子が消えたのだ。祈りを捧げていた、少しの間に。

 残された空っぽの入れ物を見て、わけが分からず男性は恐怖を覚える。

 何かの気配を感じ、男性がおそるおそる、祭壇の正面を見上げると――。

 団子の(くし)が、ふわふわと宙に浮いているではないか――!



「ひっ!? ひいいいいいっ!?」



 世にも恐ろしい怪奇現象に、恐れおののく男性。

 あまりに非現実的な出来事に、祟りが起きたのか!? などと勘違いをしているに違いない。

 男性はそのまま、泡を吹いてぱったりと倒れてしまった。

 それを見ていた土の精霊たちは、動揺しまくりだ。顔を蒼白にして、光よりも早くカリストのもとへ飛んでいく。



『……いやあぁあぁあぁ~ッ! カリスト様のバカバカバカァ~! どうするのよぅ~!?』

『……なにしてるのよどうしてくれるのよ倒れちゃったじゃないのよーっ!? 一体なにを考えてるわけ!? この脳みそ空っぽおさわがせいれいがぁーっ!』

『……いまの出来事は、気のせい気のせい、きのせいれい……』



 完全にご乱心な土の精霊たちは、カリストの肩を掴んでがくがくと揺さぶった。

 ピエトラはもはや現実逃避しているようで、最上級の動揺ギャグを何度も唱えている。



『……ぐえぇっ……! や、やめんかっ……! 食ったもんがっ! 食ったもんがでるぅっ……!』

『……もういっそのこと、食べたもの出しなさい! 欲張った罰よ!』

『……私のラムレーズン団子~! リバースよぅ! リバースぅ~!』

『……む、無茶言うでない! そんなん出来るかぁッ! 団子はリバースもカムバックもせんぞ……! う、うぇっぷ……!』



 どうやら精霊たちにとって、カリストの身勝手さで人間に危害を加えたことよりも、お団子を食べ尽くされた事の方が重要な案件らしい。

 ただし、それは物事の判断基準(はんだんきじゅん)を完全に()(ちが)えているのだが。どこまで食い意地の張ったことか。

 口のまわりに付いたあんこが、さらに三人組の怒りを増幅させる。


 精霊たちはそのままカリストを(しば)り上げ、顔に落書きをおっぱじめた。

 カリストは、ジェムとロッチャの高速揺さぶりで完全にダウンしており、ぐでっとしている。リバースこそしなかったが、口からヨダレだばー状態だ。

 カリストの顔に、思う存分落書きを楽しんだ三人組。落書きがいい味出している事に、腹を抱えてゲラゲラと笑い転げていた。


 そんなことをしていると――。

 失神していた男性が、はっと目を覚ます。

 一番の被害者を放置して、カリストへの復讐劇(ふくしゅうげき)を繰り広げている精霊たち。

 男性の目覚めに気付くことなく、飽きずにお仕置きの執行(しっこう)(いそ)しんでいる。人間の男性に、その姿は見えることなく。声も届くことなく。



「……あれ? 俺、どうしたんだっけ……? ここにお祈りに来て、それで……」



 男性は、ぼーっとする頭で記憶を辿る。

 そして、何故ここで自分がひっくり返っていたのかを思い出す。



「あ、あぁ……あれは、何だったんだ……!? (たた)り? それとも……!?」



 パニックな頭でぐるぐると考え、男性は平静さを失っていた。

 ホラーな事ばかりが頭をよぎり、だんだんと寒気が走るのを感じたのだ。恐怖のあまりサーっと青白い顔をして、ガクガクと震え出す。



「で、で、出たぁーっ!」



 突如(とつじょ)、男性は大声を上げて、一目散に祭壇から逃げて行ってしまった。

 精霊たちはそれを見て、あちゃー、と苦笑いをする。

 流石のカリストも少し()りたようで、欲張るのはよそう、とこれを機に思ったという。




 ***




 後日、土の祭壇で幽霊が出る――という噂が広まったのは、また別のお話し。

 幽霊嫌いのとある怪物兄弟の兄は、それを知る事なく現地に向かうのだが。知らない方が幸せな事もあるとは、この事だろう。


 それからしばらく、土の祭壇の参拝者(さんぱいしゃ)が減ったという。

 自業自得(じごうじとく)なのだが、届けられるお供え物が減って、精霊たちは大層(たいそう)いじけた気持ちになるのであった。

 ロッチャだけは、ダイエットに成功したことを喜んでいたが。


 教訓――食べ物の恨みは恐ろしい。気を付けるべし。

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