番外編・あるてぃめっと☆茶番劇その1(後編・下)
「トトトト、トロン!?」
「なんでトロンさんが、この中に……!?」
「何がどうなってるのっ!?」
仰天状態の三人。
飛び出してくると説明されてわかっていても、実際飛ぶとびっくりするものなのだ。
黒チョビひげ危機一発とはそういうゲームだ。驚くのも無理はない。
しかし、そうじゃない。そうじゃないのだ。
いきなりタルから、知人が飛び出してきたのだ。
これはゆゆしき事態である。
しかも、トロンの顔にはマジックでチョビ髭が描かれているではないか。
いろいろとツッコミどころ満載なのだが、とても笑える状況ではなかった。
三人が、口をぱくぱくさせていたその時。
「あっはっはっはっは! あーおかしい! あんたたち、なんて顔してんのよぉ! 鳩が豆鉄砲を食ったみたいじゃないの! あぁもうサイコー!」
腹を抱えて笑いながら、どこからともなくラシーヌが現れたのだ。
笑いすぎてヒーヒー言うラシーヌ。
その姿を見てレオンは、嫌な予感的中かよ、とジト目で紫色の髪を揺らす女性を見る。
リオンとフィトは、ただただその状況に愕然としていた。
「ラシーヌ! お前、人をこんなとこに閉じ込めやがって!」
「あによぅ~。飲み潰れたら負けの勝負に挑んで、負けたら言うことを何でも聞くって言ったのは、あんたでしょ? この期に及んで、往生際が悪いわね!」
「それは……! お前が、俺が勝ったら……その……」
「まぁいいわ! こんなに面白いものが見れたんだもの! それにしてもあんたたち、ほんっと期待を裏切らないわよねぇ~!」
またもゲラゲラと笑い始めるラシーヌ。
酒が大分入っているようで、テンションがキャハハ状態だ。
どうやら三人は、このキャハハ女にハメられたらしい。
ラシーヌがくれたのは、ゲームを偽ったびっくり箱ならぬ、びっくりタルだったようだ。
この鬼畜妖怪女は、陰からその一部始終を見て、一人楽しんでいた様子。
兄弟は、やられた、と行き場のない鬱憤を感じるのであった。
それに対し、いまだ開いた口が塞がらないフィト。
ラシーヌに騙されたことがよく分かっていないらしい。さすが脳内お花畑だ。
「……えっと? あんたたち、どっちが兄で、どっちが弟だっけ? 名前がオンオンロンロンで、まーたわかんなくなっちゃったわよ~」
「だーかーらー! 俺がそこに入るのは、おかしいだろ!? って……おま、酒くさっ! あれからまだ飲んでただろ! どんだけ飲むんだよ、お前は!」
「ええ~? しょうがないじゃないの、スキなんだから? それに、どーでもいいでしょ、そんなこと! あんたの名前はお呼びじゃないのよ」
「酷ぇな……」
ラシーヌに冷たくされ、しょぼくれるトロン。
そんなトロンはさておき、ラシーヌはニヤニヤと三人に話を振る。
「お三方、アタシのプレゼント、気に入ってもらえたかしら?」
「んなわけねーだろっ! 俺は最初から胡散臭いと思ってたんだよ……やっぱり油断して興じるべきじゃなかったな……。まんまとやられたぜ……」
「ええっ!? どういうこと!?」
そんな純粋無垢な黒髪少女は、目を丸くして声を上げる。
ハメられた事に相当イライラしているリオンは、恨みを込めてラシーヌに嫌味で反撃した。
フィトに説明をする、という名目で。
「……フィト。僕たちはね、残念ながら騙されたんだよ。酷いねぇ、純粋なフィトにプレゼントと称して、こんなトンデモナイ代物を渡すなんてさぁ。この凶悪オバサンには困ったものだ……」
「なんか言った?」
「……おおん。……なんでもありません」
たっぷり嫌味なトークで、反撃作戦を試みるリオンだったが、それ以上は口をつぐんだ。
ラシーヌに言ってはいけない失言ワード、ワーストワンを口走ったので、身の毛もよだつ殺気に見舞われたのだ。
普段の美しい姿は豹変し、怪物の自分たちよりも遥かに怪物じみた姿になっているラシーヌ。
目は獲物を見据える狼の如く鋭く光り、ウェーブの髪はゴルゴンのように怒りを帯びて怪しくうねっている。
それを見たレオンは、これ以上ラシーヌに反撃するのも、仕返しするのも止めておこう、と密かに決めた。
被害者は俺たちのはずなのになぁ、と腑に落ちず、そう思いながら。
「フィト、純粋なあんたを騙して驚かせたことは謝るわ。でもね、これは友人だから出来る、イタズラという名の愛情表現なのよ。ちょっとした遊び心ってやつかしら」
「そうなの!? へえぇ~! 友達って、こうして遊んだりもするんだねぇ……! 私、友達ってほとんどいなかったから、なんだか嬉しい……!」
ぱあぁっと嬉しそうな顔をするフィトに、ラシーヌはニコニコと笑顔を返す。
それを見て、いやいや、ちょっと違うよ? フィト、また騙されてるよ? と、レオンとリオンは突っ込んだ。
どこまでも、ピュアッピュアなフィトなのである。
「……お詫びに、今日はトロンが奢ってくれるって言うから、みんなで飲みにいきましょ!」
「ちょ、ええぇっ!? お前、また勝手に何言ってくれちゃってんだよ!? 俺は奢らねぇし、行かねぇからな!?」
「あらん。飲みも立派なデートなのに? あんた、アタシとデートしたいんじゃなかったの~?」
「バカお前! ヘンな言い方すんなっての! こいつらが誤解すんだろ!? あぁもう! わかったよ! オラさっさと行くぞ!」
涙ちょちょ切れながら、トロンは行きつけの酒場『ジン・ファンデル』に向かって歩いて行く。
そういえば、トロンとラシーヌの飲み勝負の賭け事とは、何だったのだろうか。
気になったレオンは、ラシーヌにそれを問いかける。
「なぁ、ラシーヌさん。トロンと一体何を賭けてたんだ?」
「んー? あぁ、大した事じゃないのよ。隣町のガルデニアで祭りをやってるでしょ? その祭りで、肉食べ放題ワイン飲み放題のイベントがあるから、一緒に行こうって誘いだったのよ。でもその日、アタシはデートの約束があったから断ったの。でもね、トロンがどうしてもって言うからね? 店を閉められる日がその日しかないって言うから、飲み勝負でトロンが勝ったら、デートをすっぽかして行ってあげてもいいわよって言ったの」
それを聞いて、なんとも言えないレオン。
ラシーヌはそれを見て、くすくすと笑いながら言葉を続ける。
「それでね。アタシが勝ったら、トロンが何でも言う事聞いてくれるって言ったのよ。……まぁ、お酒の勝負でアタシが負けるわけないじゃない? 結果は、言うまでもないわよね。それで、アタシの悪戯にトロンを付き合わせたってわけ」
「なるほどねぇ。それにしてもトロンさん、そんな一面があったんだ……」
ラシーヌの話を聞いて、リオンはトロンの意外な一面に驚いている。
あのトロンにも、そんな健気なところがあったのか、と。
「ラシーヌさんってモテモテなんだねー! 綺麗で美人さんだとは思ってたけど、デートのお誘いがあっちからもこっちからも!」
「やだ、トロンの話は冗談よ? ほら、チョビひげの落書きを消さないまま、トロンが先にお店に行っちゃったじゃないの。フフフ、あの顔じゃ、笑いものにされちゃうわ! 急いで追いかけるわよ!」
ラシーヌはそう言うと三人を引き連れ、酒場に向かう。
今頃、ラシーヌのデート相手はグラシナの空の下、一人待ちぼうけをしているに違いない。
「……だって、トロンったら土下座してまで頼むんだもの。そこまでされちゃ、断れないじゃない」
そんなこんなで、誰かとのデートをすっぽかしたラシーヌ。
悪びれる様子もなく、トロンと三人と酒場へとしゃれ込むのであった。




