番外編・あるてぃめっと☆茶番劇その1(前編・下)
「フィト、これは……?」
リオンは大量のレプリカ短剣を指さし、神妙な面持ちでフィトに尋ねる。
「これでね、あのタルを刺すんだよ!」
フィトは楽しそうに、いつもと変わらない笑顔で答えた。
しかし、その発言を聞いた途端。
「フィト、何バカなこと言ってんだよ!?」
「そんな危ないこと、しちゃダメだよっ!」
物凄い剣幕でフィトに掴みかかる兄弟。
そんなふたりの意図を汲み取る事ができず、フィトは困惑している。
「ど、どうしちゃったの? ふたりとも、なんかヘンだよ?」
「変なのはフィトだよ! とにかく、このタルは危険なんだ!」
「ああ。何が飛び出すか、いつ爆発するか、わかんねーからな!」
「飛び出す……のは、間違ってないけど……爆発? ナニソレ?」
兄弟の言っている事は、まるで意味不明だ。
ふたりの発言を聞いたフィトは、相変わらずきょとんとしている。
もしやふたりは、頭がおかしくなってしまったのではなかろうか。
地上に来て、はや三日。
自分の前では気丈な振る舞いをしていただけで、相当根つめていたのかも知れない。
自分のせいで、レオンとリオンのおつむが大変なことに――!?
フィトはそう考えると、途端に悲しくなって来た。
早くふたりに正常に戻ってほしい。
もしかして、これは天罰なのか。
怪物のふたりが地上に来たことで、頭がおかしくなる罰が下ってしまったのか。
神さまゼウスさま、ごめんなさい。
ふたりを連れ回したフィトは、悪い子でした。
一刻も早く、ふたりが冥界に戻れるよう、最善を尽くします。
だから、ふたりを元に戻して下さい――!
フィトは切実にそう祈ると、あることを思い付く。
ショック療法で、ふたりを正気に戻せないか、と。
タルに剣を差して当たりが出たら、あまりの驚きという衝撃で、ふたりが元に戻るかもしれない。
フィトはそれを決行しようと、心に決めた。
本来のショック療法とは似ても似つかない、あんまりな内容だが。
「あっ! あれ、見て! 大変!」
フィトはそう叫ぶと、あさっての方向を指差し、ふたりの注意を引き付けた。
「え!? なになに!?」
「なんだ!? どうした!?」
ふたりがそっちの方に注意を引き付けられた瞬間。
フィトは即座に走り出し、黒チョビひげ危機一発に刺すための短剣を手に取った。
そして、タル目掛けて一気に駆け抜ける。
兄弟はすぐさま、いまのフィトの発言がフェイクだという事に気付く。
しかし、兄弟が振り向いた時にはもう遅い。
フィトはタルの至近距離で、レプリカ短剣を振りかざしていた。
「うわあああああっ!? フィト、何する気だ!? やめろおおおおおっ!?」
「そんな事したら、あの中身が起爆しちゃうよぉっ!? もう、おしまいだあああああっ……!」
兄弟の悲痛な叫びがこだまする中。
フィトは「ええーいっ!」と、レプリカ短剣をタルに思い切りブッ刺した。
ぷすっ。
「あれ……?」
「何も、起こらないぞ……?」
呆然と立ち尽くす兄弟。
拍子抜けしたのか、完全にヘタレてしまっている。
「やっぱり、一発じゃ当たらなかったかぁ……」
「フィト。そのタルは、一体何なんだ……?」
残念そうに呟くフィトに、どっと疲れた顔でレオンが解決しない疑問を投げかける。
「黒チョビひげ危機一発、だよ?」
「えっと、フィト? 僕たち、その、黒チョビひげ危機一発が何か全然わからなくてね? そのタルの中に、何が入ってるのかな……?」
「あ! そっか! そういえば、言ってなかったね! 説明不足でしたぁ~! えへへ、ごめんごめん!」
フィトはペロッと舌を出し、はにかみ笑いを浮かべた。
そしていよいよ、タルの中身について教えてくれる。
「この中にはねぇ、黒チョビひげのオジサンが入ってるんだって! ラシーヌさんが言ってたよ!」
「「黒チョビひげのオジサン!?」」
想像を絶するフィトの発言に、開いた口が塞がらない兄弟。
「オジサンって、生きたオジサン……なの!?」
「しかもさっき、剣ブッ刺したよな!? 大丈夫なのか? オジサン大丈夫なのか!?」
「うん! オジサン、生きた人じゃないもん!」
生きた人じゃない――!?
それを聞いた途端。
レオンは全身から血の気が引いて行くのを感じた。
生きた人じゃない、つまり――?
「ぎゃあああああああ……!」
その後間もなく、レオンは絶叫と共に、どこかに走り去って行ってしまった。
みるみるうちに、犬耳兄の姿は見えなくなってしまう。
「レオンー!? オバケじゃないんだよー!? 作り物のオジサンなんだよーっ!?」
フィトが必死にレオンを呼び止めるも、その声が届くことはなかった。
ひとり冷静になったリオンが、フィトの肩にそっと手を置く。
「……フィト。いろいろ詳しく、話してもらえるかな……?」
「あれ!? そういえばリオン、頭がおかしくなっちゃったんじゃ……!?」
「えええええっ!? なにをどうしたら、そういう解釈になるんだよ~!?」
フィトの謎すぎる勘違いを聞いて、ガックリと項垂れるリオン。
兄弟の行き過ぎな突っ走りも、大概なのだが。
その頭上、遥か上空。
オレンジ色をした一匹の鳥――マヌケドリが円を描くように飛んでいた。
「マーヌケ! マーヌケ! マーヌケケケケケ!」と、楽しそうに鳴きながら。
マヌケドリはひとしきり罵倒鳴をすると、満足そうな笑みを浮かべた。
そして、次のマヌケ者を探して、遠くのお空へ飛んでいくのであった。




