第四話・アーククラウン(2)
『……いまの話し、ダフネにもしてみるがよい。ダフネは我よりも長寿な大精霊じゃ。必ずや汝たちの力になってくれると思うぞ!』
「うん! ありがとう、カリスト様!」
『……おお。そう考えると、ダフネと会うことは汝たちにとっても利がある事になるのぅ。一石二鳥、結果オーライじゃな! ダフネの力でお前たちを冥界に送る事が出来るか聞いてみるのじゃ。……それに奴らが怪物かどうか、お前たちの目で確かめるんじゃろう?』
何もかもお見通しのカリストの言葉。どうしてフィトが怪物の正体を確かめたいことを、カリストは見抜いたのか――。
度肝を抜かれて、フィトは言葉を失ってしまう――。
『……どうしてわかったのか、と思っておるのだろう? フィト。汝はいま、我と意識の会話……つまり、心の中で会話をしている。それゆえ、我にはお前の心の中や、考えていることも伝わってくるのじゃよ』
「ごめんなさい……。カリスト様の言葉を、信じていないわけじゃないの。ただ、自分の目でちゃんと確かめたくて……」
『……安心せい。汝のその優しい心も伝わっているぞ。自分たちの目でしっかり確かめてくるといい。おそらく奴らは、この世界の全ての大精霊を封印しようとしておるのじゃ……』
カリストの声が、だんだんと遠のいていく。
もう話せなくなることを、フィト自身も感じ取っていた。
『……さて、フィト。しばしの間、お別れじゃ』
「カリスト様、どうなっちゃうの……?」
『……正直なところ、それは我にもわからん。無念な話しじゃが、命を落とすこともないとは言えんじゃろうな。それは大精霊に生まれた時から、元より覚悟はしておる。我が命を落としたら、その時は、新しい大精霊が生まれるまで。……ただ、我も心を持ち生きるものに変わりなし。死への恐れがないとは言えんがの』
カリストの話を聞いて、黙りこくってしまうフィト。
今日初めて会ったとはいえ、目の前でもしもの死を告げられるのは、至極重たいことで――。
助けを求める声を聞くことが出来たのに、ここまで来ることが出来たのに、何も出来ないなんて……。感受性豊かで人情に満ちたフィトはそう思うのだ。酷く悔しく、悲しさに満ちながら――。
そんな中――。言葉を失くすフィトに、カリストは明るく言葉を続ける。
『……大精霊ともあろう者が、少々弱気発言をしてしもうたな。我は大精霊の中でも、まだ一番若い未熟者じゃ。それが理由で、一番最初に狙われたのかもしれん。なーに、心配するでない。簡単には、死んでやらんよ!』
カリストのその言葉は、精一杯の強がりなのかもしれない。大精霊といえども、死に直面する可能性を背負って冷静さを保つのは、苦難のはずだ。
辛いとき、側にいてくれる誰かがいること。優しくかけてくれる言葉があること。それにどれだけ救われるのか、フィトは知っていた。
そう、レオンとリオンが教えてくれたから。魔法が使えなくたって、戦えなくたって、誰かを救うことはきっとできる。フィトはそう思い、カリストとある約束を交わす。
「カリスト様! 私、あなたのことも必ず助けに来ます! あなたの封印を解く方法も、必ず見つけてみせる! 絶対絶対、あなたを死なせたりなんてしない! だから、どうか待っていて……!」
フィトの言葉に、カリストは心を打たれる。
フィトがここに来るまで、自分は助かることを半ば諦めかけていたのだ。真っ暗い意識の中で、誰かが助けてくれるなどという希望も見い出せずに。
封印を解くことは不可能であり、絶望に打ちひしがれていく運命を受け入れる他ないと。そんなカリスト心に、一筋の光が差し込む――。
『……フィト、礼を言うぞ。汝の言葉で、だいぶ救われた。……その清らかな心は、なかなか持てるものではない。汝は本当に素直な良い子じゃの。汝にはきっと、お導きがあるはずじゃ。検討を祈っておるぞ! ……ダフネのこと、ジェムたちのこと、よろしく頼む……!』
最後に涙声でカリストはそう言う。
あたたかい大地の意識と声は、そのままふっと、途切れていった。
***
カリストとの会話を終え、フィトはゆっくりと目を開ける。
兄弟と精霊たちに向き直り「……ふぅーっ! みんな、ただいまっ!」と、笑顔を見せるフィト。
「フィト! おかえり!」
「ずっと聞いてたけど、無事に話せたみたいだな!」
レオンとリオンも笑顔でフィトに言葉をかける。
笑顔で「うん! ばっちり! カリスト様とお話し出来たよ!」と、ピースサインを送るフィト。
そんなフィトの話を聞き、精霊たちはぷるぷると震えている。そして、わぁっと感極まった精霊たちがフィトに抱き着く。
『……フィトぉ~! ありがとうぅ~!』
『……本当にっ! 本当にありがとう!』
『……感謝しても、しつくせない。フィト、ありがとう』
精霊たちにまとわりつかれながら「えへへ! それじゃあ詳しい報告会を……」と言いかけるも――、フィトは身体から力が抜けていくのを感じる。
そして「あれ? あれれれれ……?」と、ふにゃふにゃとその場にへたり込んでしまった。
『……フィト、大丈夫!?』
『……しっかりするのよぅ~!』
フィトに抱き着いていた精霊たちは、フィトの身体を支えながらさする。
身体に力が入らない。一体自分はどうしてしまったのだろう、とフィトは思い、ぼーっとする。
「フィト……! 大丈夫!?」
「おい! しっかりしろ!」
側で見守っていたレオンとリオンも心配してフィトに声をかける。
ふたりの声掛けに、フィトは声を絞り出して答える。
「だいじょうぶ、だよ。意識の中で会話するなんて、初めてだったから……。心配かけてごめんね」
『……きっと、たくさんエネルギーを使って消耗したのよぅ~。私たちのために、無理させてごめんねぇ』
『……フィト、ごめん』
えぐえぐと涙をためる精霊たち。
そんな中、ジェムは『……ごめんね、フィト。お詫びに少し、私のエネルギーを分けてあげる』
と、フィトの手を握る――。
ジェムが瞳を閉じて精神を集中させると、ぱぁぁっとジェムの身体が琥珀色の光――精霊光を放つ。その眩い光が、フィトの身体を優しく包み込む――。
身体の芯から力が溢れてくるような、不思議な感覚。「すごい……あったかい光だぁ……」と、フィトはふわふわとした感覚の中、そうつぶやく。
しゅうぅっとその光が消えると――、フィトは軽くなった身体に目をぱちくりさせた。
そしてがばっと飛び起き「ナニコレ!? すごいすごいっ! ジェム、身体が羽根みたいに軽いよっ!?」と、ぴょんぴょんと跳ね上がってみせた。
『……フフフ! 元気になったなら、よかったわ!』
ジェムはそう言って笑顔を浮かべ、嬉しそうにフィトを見つめる。
「精霊って、そんな事が出来るんだな! すげー!」
「それぞれ種族によって使える力が違うって聞いたことがあったけど、便利な力だねぇ~」
『……私たちは、マナを司る種族だからね!』
『……これくらいの事は朝飯前なのよぅ~!』
『……えっへん』
鼻高々と精霊たちはそう話す。
魔法を使える同士でも、他種族の能力は未知のものなのだ。レオンとリオンは、そんな精霊たちの能力に目を白黒させていた。
フィトは「そういえば、最初に会った時、みんな小さい姿だったよね? 身体の大きさも、自由自在なの?」と、三人の精霊たちにずっと気になっていたことを聞く。
『……大きくなったり、小さくなったりは出来るのよぅ~! 基本的に小さい身体は、精霊サイズでねぇ~。大きい身体は、人間サイズって言われているのよぅ~!』
『……自由自在とまではいかないんだけど、精霊サイズと人間サイズに身体の大きさを変えることができるのよ』
『……魔力が少なくなると、勝手に身体は小さくなっちゃうの。……省エネモード、みたいな?』
精霊たちはそう得意げに説明すると、実際に大きくなったり小さくなったりをして見せた。便利な能力だが、人間サイズを保つには、なかなかのエネルギーを要するらしい。
フィトが元気になったところで、面々はフィトから話を聞くことにした。
***
「……というわけなの。だから次は、クレーヴェルっていう村の方――ローレル山脈にいるダフネ様に会いに行くことになったんだぁ。レオン、リオン。勝手に話を進めてきちゃって、ごめんね」
フィトは話し終えると、兄弟に申し訳なさそうにそう伝える。
「いいんだよ。フィトがそう決めたなら、僕たちはついて行くよ!」
「ああ。それに今回は本当に一石二鳥だよな!」
「ね! 大精霊を助ける事も出来るし、冥界に戻る事が出来るかもしれないしね! 僕、燃えてきたよ~!」
リオンはそう言うと、メラメラと意気込みを見せた。先ほど自分たちの使命! と心を決めた兄弟に、迷いはもう見られない。
冥界を案ずる気持ちは、変わらずにあるようだが。
『……フィト。カリスト様を助けるって約束してくれて、ありがとう!』
『……私たちも何か出来ることがないか、考えてみるわよぅ~!』
『……カリスト様の命をお護りすること、それが私たちの使命』
「うん! 絶対に封印を解く方法を見つけて、ここに戻って来るからね!」
『……そうだ! これからダフネ様の所に行くのなら、これを持って行くといいわ!』
ジェムはそう言って、石化しているカリストの首に掛かっているペンダントを取り外す。
今まで気付かなかったが、衣服などはカリストと共に石化しているにも関わらず、ペンダントだけは石化の対象にならずに輝きを放っている。
ジェムは取り外したペンダントをフィトに差し出した。
「わぁ、綺麗……! なぁ~に? これ?」
フィトはペンダントを受け取ると、まじまじとそれを見つめる。
銅のペンダントには、王冠を被った琥珀色のクリスタル――土の精霊石がついていた。
ジェムはもったいぶるように咳ばらいをひとつすると『……それはね、アーククラウンよ』とその代物の名前を口にする。
「「「アーククラウン……?」」」
『……そう、アーククラウン。土の大精霊の証なの。これを持っていれば、また精霊たちに疑われる事もないし、話が通じやすいと思うわ』
『……さっすがジェム! そうねぇ! それを持っていれば、安心よぅ~!』
『……ぐっどらっく、アーククラウン』
三人の精霊たちは、誇らしげにグッと親指を立てた。
フィトは「そうなんだぁ! これ、スーパーペンダントなんだねぇ~!」と、キラキラと目を輝かせながら言った。
「でも、これ持って行って大丈夫なのか? 土の精霊にとって、大事なモンなんだろ?」
『……カリスト様にしか使う事の出来ない代物だって言っていたから、ここにあっても今は何の役にも立たないと思うのよね』
『……そうよぅ~! だったら、あなたたちの旅に少しでも役立つ方が、カリスト様もきっと嬉しいわよぅ~!』
『……宝の持ち腐れ、よくない』
「兄さん。精霊さんたちがそう言ってくれてるんだし、持って行かせてもらっちゃおうよ!」
精霊たちの快い言葉と弟の同意を聞いて、レオンは頷いた。
心配症の兄も、精霊たちがそこまで言うなら、と申し出を有難く受け取ることにした。
フィトは精霊たちから預けられたペンダントをさっそく首から下げて、「ありがとう! じゃあ、ありがたーく! 持って行くね!」と、笑って見せた。
「そうと決まれば、出発しよう! 奴らがダフネ様の所に現れるまで、時間がないかもしれねーからな」
「うん! 手遅れになる前に、今度こそ奴らを止めよう!」
「もうこんなこと、絶対にさせないんだからっ!」
三人は互いに顔を見合わせ、頷き合う。
ジェムはそんな三人の事を眩しそうに見つめながら『……出口まで見送るわ。行きましょう!』と、声をかける。
精霊たちに導かれ、三人は土の祭壇の外へと進んで行く。
***
「わっ!? まぶし! もう朝だったの!?」
「何度見ても太陽の光っても眩しいな……」
「もう七の刻だったんだね……また寝不足だよぉ~……」
外はもう太陽が昇っており、辺りを明るく照らしていた。
暗さに慣れた三人の目に、朝の陽ざしが痛いほど目に刺さる。
しょぼしょぼと目を細める三人に、精霊たちはクレーヴェルとローレル山脈への道のりをざっくりと教えてくれた。
『……クレーヴェルまでは、確かグラシナから馬車が出ていたはずよぅ~!』
『……そうね。前に人間たちが話していたのを聞いたことがあるから、間違いないわ』
『……クレーヴェルからの山道、険しいから頑張って』
精霊たちのアドバイスを聞いて「ありがとう!」と、フィトは笑って感謝を伝える。
そして、別れの時――。
「ありがとう! みんな、元気でね! またね!」
「いろいろありがとな! ここは頼んだぞ!」
「カリスト様がいなくて苦労もあると思うけど、がんばるんわん! だよ~!」
『……私たちの方が、ありがとうよ! あなたたちなら、きっとダフネ様を救ってくれると信じているわ!』
『……ありがとうねぇ! ひっく! えぐっ……! また寂しくなっちゃうのよぅ~!』
『……くれぐれも、気を付けて』
涙ぐみながら手を振る精霊たちに見送られ、三人は土の祭壇を後にした。
これにて第三章終了です。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
そしてブクマ登録して下さってる皆さま。本当にありがとうございます。
ブクマって本当にありがたく、励みになるんですよ……!
☆書き溜め分に追いつかれましたので、第四章からはしばらく隔週投稿でいかせて頂きます。
毎日投稿、楽しみにして下さっていた方、すみません。
毎週木曜日の夜投稿でいきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します!
★最初の木曜日は、番外編という名の、茶番劇を投稿予定です!
本編投稿は、しばしお待ちくださいませ。よろしくお願い致します~。




