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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第三章・大地の息吹く場所
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第三話・土の守護者(4)

 レオンには、もう一つ気がかりな事があった。

 先ほど治療をした狼の火傷から、微かだが魔力を感じ取れた事についてだ。この事から、狼と精霊たちを襲ったのは同一犯なのではないかと思ったのである。

 精霊たちの件と関連性があるにせよ、そう考えるにはいささか情報不足を否めない。しかし、事が起きた時期が重なりすぎているのだ。

 怪物の仲間に疑いがかかっている以上、真実を明らかにするために、どんな事でも情報共有はするべきだろう。

 瞳を閉じて鼻から一息つくと、レオンはそれを打ち明ける。



「……なぁ。さっきの狼の火傷のことなんだけどさ」

「狼の火傷……? 兄さん、それがどうかしたの?」

「さっきは言えなかったんだけどさ。あれ、実は魔法で焼かれたものだったんだ……」



 レオンの発言に「「ええっ!?」」と、フィトとリオンは目を見開く。

 信じられないといった顔を見せた後、リオンは兄に対して感情を()き出しにして詰め寄る。



「兄さん! 気付いたのなら、どうしてすぐに言わなかったんだよ!」

「言おうか迷ったよ。でも、俺の合ってるかもわからない憶測(おくそく)で、お前とフィトを不安にさせたくはなかった! それに俺だって、仲間を疑いたくはなかったんだよ!」



 イラつきを見せる弟に対し、レオンは語彙(ごい)を強めて言い放つ。

 レオン自身も、なるべくなら疑いたくなどないのだ。まさか怪物の仲間が、こんな非道(ひどう)な事をしているかも知れないなどと。

 声を荒げて言う兄を見て、リオンは冷静さを欠いていた事を(こころ)みる。

 不安で、悔しくて、やりきれなくて、虚しい気持ちは、ふたりとも同じなのだ。レオンの気持ちを考えずに、自分の感情をぶつけてしまったことをリオンは恥じた。

 それに、こんなところで争っている場合ではない、と冷静さを取り戻す。



「ごめん、そうだよね。ちょっと分からないことだらけで、むしゃくしゃしちゃって……」

「いや、俺もすぐに言わなかったからな。悪かったよ……」



 互いにぶつかり合うことで、平常心になる兄弟。

 落ち着きを取り戻したふたりを見て、フィトもほっとする。

 リオンは「しかし、これはちょっと……どうしたもんかなぁ……」と言うと、悩まし気に頭を抱える。

 三人は複雑な気持ちを抱き、再び精霊の間は静まり返ってしまう。



『……ねぇ、あなたたち。まだ怪物の仲間が犯人だって決まったわけじゃないでしょう?』

『……そうよう! 私たち、顔までは見れなかったんだからぁ!』

『……落ち込むの、まだ早いよ』



 精霊たちは三人を励まそうと一生懸命に言葉をかける。

 精霊たちの言う通り、まだ犯人は怪物の仲間だと決まったわけではない。三人も姿を見たわけではないし、何とも言えないのだ。

 ただ、精霊の魔力探知と察知能力は相当なものだ。それが何よりの証拠になることを、レオンとリオンはわかっていた。

 いくら弁明(べんめい)しようとも、これでは仲間が犯人だと考える他ない。そんな風に、兄弟が胸の塞がる思いをしていた時。



「そうだよ! 違う可能性だってあるんでしょ? だったら、確かめよう!」

 レオンとリオンが落ち込む中、フィトがきっぱりと言い放つ。



「確かめるって……?」

「一体どうやって……?」



 希望を失くしているふたりは、力なく言葉を返す。

 うじうじと悩むふたりに、フィトは明るく声をかけ続ける。



「本当は冥界に戻れたらいいんだけど、それが出来ないなら、地上で何か手掛かりを探してみようよ。何をすればいいのか、どこに行けばいいのかなんてわからないけど……何か方法があるはずだよ!」



 絶望していたふたりの心に、すっと光が差し込む。フィトの前向きな言葉が、ふたりを導いていく。

 暗かった目の前が、明るく開けていくような、そんな気がした。レオンとリオンの目に、再び士気(しき)宿(やど)る。兄弟の心の中に、激しい感情と決意が渦巻く。



 ――犯人探しなんて、出来ればしたくない。しかしどんな理由があるにせよ、これは許される事ではない。

 世界の均衡(きんこう)が崩れる程の出来事なのだ。あの地震は間違いなく、それが原因で起きたこと。

 見えない所で、何かが動き出しているのかもしれない。もしそうなら、誰かがそれを止めなければならない。それが自分たちに与えられた、使命なのだとしたら――?

 もしかしたらその為に、自分たちは地上に来たのかもしれない。誰の思惑かなんて、そんなのは分からない。気まぐれか、はたまた、ただの偶然かもしれない。

 でも、こうなったらやるしかないのだ。自分たちの仲間だったとしたら、尚更(なおさら)――。



「そう……だな。そう、だよな! まだ決まったわけじゃないなら、確かめるべきだよな!」

「うん、フィトの言う通りだ。ごめんね。あまりにショックだったからさ、どうしたらいいか分からなくなっちゃってたよ……」



 レオンとリオンはそう言うと、情けなさそうに頭をかく。



「ううん。私もショックだったし、そんなの信じたくないよね。だから、確かめないとね!」



 そう言って、ふん! と意気込みを見せるフィト。

 士気を取り戻した三人を見て、精霊たちも嬉しそうに笑顔を見せた。



「でも一体、どうしたらいいんだ……?」

「うう~ん。私もまだ考え中なんだぁ。えへへ……」



 意気込みはあるも、どう行動すべきなのか浮かばない面々。

 そんな中、リオンが精霊たちに「精霊さんたち、他に何かわかる事はないかな? どんな小さなことでもいいから、今は手掛かりが欲しいんだよねぇ」と、助言を求める。

 リオンの言葉に精霊たちは顔を見合わせ、ううーん、と考え始めた。



『……そうねぇ。私たちもすぐに眠らされてしまったから、後の事は何も分からないのよね……。カリスト様だったら、何か知っているのかしら……?』

「でもカリスト様は、今は話すことが出来ねーんだろ?」

『……そうなのよね』



 助言を求められたのに、手掛かりになるような情報を何も提供出来ず、しゅんとする精霊たち。

 精霊三人組は、カリストの事をとても頼りにしていたのだろう。あんなに小さな少女は、それほどまでに偉大な存在だったということなのだろうか。

 話が停滞してしまっている中、フィトは気になっていた事を精霊たちに聞く。



「ね。カリスト様って、どうやって石になっちゃったの?」

『……それはねぇ! あの弓矢のせいなのよぅ~!』



 ロッチャはカリストを射抜く、漆黒の弓矢を指さして言う。

 三人がそれを見つめると、精霊たちは弓矢について話し始める。



『……そうなの。あの黒い弓矢が刺さった途端、カリスト様の精霊光が弱まっていってね。精霊の力の象徴と言われている、精霊の羽が瞬く間に消えてしまったのよ』

『……あの弓矢、物凄く強力な魔力が込められてるみたい』

『……誰が作り出したものかは分からないけど、簡単には解けない封印みたいなのよう~』

「なるほどね。大精霊様を石にしちゃう弓矢かぁ……」

「あの弓矢は、精霊の魔力を封印する効果があるのかもな。だから全く魔力を感じなかったのか」

「そうかもね。それにしても、また分からないの壁にぶち当たっちゃったねぇ~」



 腕組みをしてリオンは天井を見つめる。



「分かる事といえば、大精霊を封印する為に弓矢を作って、その目的を果たす為にここに来たって事くらいか。大精霊を封印した奴らの目的ってのも分かんねーけどな……」



 三人と精霊たちは、また行き詰ってしまう。

 リオンの言う通り分からない事が多すぎて、すぐに壁に当たってしまうのだ。

 そんな中――。カリストの事を案じて、気が気でない精霊たちが口々に不安をこぼす。



『……声は聞こえないけど、カリスト様、きっと助けを求めてるわよう~』

『……カリスト様、困ったことがあると、その場でずっと騒ぎ続けるから』

『……解けるものなら、早く封印を解いて差し上げたいわ』



 大きな心痛(しんつう)を抱える精霊たちの表情は、浮かないものだった。

 そんな精霊たちの話を聞いて、フィトは何かを思い出したようにピンと閃く。「そっか! そういう事だったんだ!」と、人差し指を立てて言った。



「あの声は、大精霊様……カリスト様の声だったんだ!」



 フィトは根拠がなくとも、どこか絶対的な確信をしたようだ。

 それはまるで、行き詰っていた思考に一閃の光が差し込んだようだった。フィトは気付くと、石化したカリストのもとへ駆け出していた。

 状況が呑み込めず『……ええっ!?』『なになに!? どういうことなのよぅ!?』と、あたふたとする精霊たち。



「君たちの話を聞いて、助けを求める声を送っていたのは、カリスト様だったとフィトは思ったみたいだね」

『……まさか、そんな事があるのぅ~!?』

「そのまさか、なんだよ。フィトには不思議な力があるって話しただろ?」



 兄弟の話しに驚くばかりの精霊たち。

 精霊たちは驚愕的(きょうがくてき)な内容に、口をぱくぱくさせている。



「もしかしたら、フィトはカリスト様と話せるかもしれないよ!」

『……すごい、本当に不思議。私たちですら、石になったカリスト様と話すことはおろか、意思の疎通(そつう)も出来ないのに……』

「俺たちも行こう! フィトの聞いていた声がカリスト様なんだとしたら、本当に話が出来るかもしれないぞ」



 レオンの言葉に頷くと、兄弟と精霊たちはフィトを追って祭壇へと向かうのだった。

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