第三話・土の守護者(3)
レオンは、今の会話を不審に思っていた。
精霊たちの話を聞いていたが、何か腑に落ちないと感じたのだ。精霊たちは、なぜ自分たちを奴らの仲間だと思い込んだのか――?
精霊はマナを司る存在だけあって、魔力探知能力はかなり高い種族なのだ。目の前に現れた時、精霊たちはハッキリと自分たちを怪物だと見抜く発言をしていた――。と。
地上に来ない怪物にとっても、冥界や魔界と縁のない精霊たちにとっても、互いの存在は知っていても敵対しているわけではない。争う理由も戦う必要もないはずなのだ。むしろ、対面する機会などあまりないのだから。
では、なぜ怪物のレオンとリオンを初手から敵視していたのか。なぜ、敵だと決めつけたのか。
奴らが誰なのかわからないと言いつつ、ここまで敵意を向けるのは明らかにおかしい。
どうしていきなり攻撃してきたりしたんだ――というレオンの問いかけに対し。
奴らの仲間が追い打ちをかけに来たと思った――という曖昧な返答しか聞いていない。
奴らってのは一体誰のこと? ――というリオンの問いかけに対しても、核心的な答えは聞けていない。
考えを巡らせた末、レオンはひとつの推測に辿り着く。
精霊たちは、奴らの正体に気付いているがそれを自分たちに隠している。そして、何らかの理由がありそれを話すことを避けているのではないか――? と。
あくまで推測の域を出ないが、有り得ない事ではないだろう。何か知っていることがあるのなら話してもらいたい。これでは、何も解決しないまま終わってしまう。
そう思ったレオンは、思い切って精霊たちに問いかける事にした。
「……なあ、精霊さんたち。俺たちに何か隠している事はないか……?」
レオンがそう言った途端、精霊たちは明らかにギクッとする素振りを見せた。
あわわわわ……と、動揺してうろたえているのが見て取れたのだ。
『……なーんにも! 隠し事なんてしてないわようっ! 気のせいじゃなーい?』
『……そうよ! 私たちが隠し事なんてするわけないじゃない!』
『……気のせい、気のせい、きのせいれい……』
動揺しすぎて、キャラに似合わないおやじギャグをかますピエトラ。
これは、ビンゴだろう。精霊たちは何かを隠しているのだ。それにしても、どんだけわかりやすいんだよ……と、レオンは心の中でツッコミを入れる。
正直者の土の精霊たちは、隠し事や騙しを働くという類の事を苦手とするのだろう。そういう所はフィトと似ているのかもしれない。
その明らかな動揺をもちろんリオンも見逃さず、兄に続いて精霊たちに畳みかける。
「僕もおかしいと思ってたんだよねぇ。だって奴らの正体が分からないのに、なんで怪物ってだけで僕たちに敵意を向けてきたわけ? 本当は、何か知ってるんじゃないの?」
リオンも精霊たちが何かを隠していることに気付いていたようだ。兄同様、勘の鋭い弟である。
精霊たちは、リオンの鋭い言葉にさらに分かりやすくだらだらと冷や汗を流している。もはや何も言えずに固まってしまう。
「なぁ。どうして俺たちが奴らの仲間だと思ったんだ? 奴らが一体誰なのか、本当は知ってるんだよな? 何か話せない理由でもあるのか?」と、さらにレオンが言うも、精霊たちはだんまりを決め込んで俯いてしまう。
この様子から、やはり言ってはマズイ事なのだというのが感じ取れる。しかし、話してくれなければ話は進まない上に、力になることも出来ないのだ。
話を聞いて、何か出来る事もあるかもしれない。答えずに口を堅く閉ざす精霊たちにフィトも念押しする。
「理由、教えてくれないかな? もしかしたら、力になれる事もあると思うの。私たちに協力出来ることなら、協力するよ! ……ね? ふたりとも?」
フィトはくるりと振り向くと、レオンとリオンを見つめた。
兄弟はこくりと頷くと、フィトの言葉に快く「「もちろん!」」と、同意する。
リオンは「もしかしたら、冥界に戻れる手掛かりになるかもしれないしね!」という言葉を付け加え、一石二鳥をアピールしてみせた。
自分たちのことを思ってそう言ってくれる三人の優しさに心を打たれた精霊たちは、話すことを迷い始める。
そして悩んだ末――。ジェムは『……わかったわ。話すわね』と、固く閉ざしていた口を開いた。ジェムは三人の熱意を聞き、話すことを決意してくれたようだ。
『……ジェム、いいの?』
『……話して大丈夫なのう~?』
それを聞いて、ロッチャとピエトラは心配そうにジェムを見つめる。
ジェムはそんな二人に力強く頷き『……ええ。いずれわかる事だと思うから、それならいまここで話しましょう』と、言葉を返す。
ジェムの決意に、ロッチャとピエトラも頷いて同意を見せた。
互いに顔を見合わせてから、三人の方に向き直る精霊たち。ジェムは深く呼吸をし、真実を話し始める。
『……隠していたわけじゃないの。話したら、あなたたちがショックを受けると思ったから……。でも、そうよね。知っていて言わないのは良くないわよね。私たちが知っている事、すべて話すわ』
三人はごくりと喉を鳴らし、ジェムの言葉を待った。
目を伏し目がちにして、言いにくそうにジェムは続ける。
『……あなたたち、奴らと同じ気配がするのよ』
ジェムの発言にフィトは「同じ……気配?」と、不思議そうな顔で首を傾げる。
それがどういうことなのか、どんな意味を持つのか、イマイチ少女は飲み込めないようだ。
それに対し『……ええ。つまり、怪物の気配が奴らからしたのよ』と、掘り下げて答えてくれるジェム。
フィトはそこまで聞くとようやく理解できたのか、まさか……という表情になる。ロッチャとピエトラは、気まずそうに黙って話を聞いていた。
「つまり……奴らの正体は怪物だった……ってことか?」
『……その通り。おそらくだけど、ね』
三人にとってそれは、誰もが耳を疑うような悲しい事実だった。
フィトはか細い声で「そんなのって、ないよ……」と、ぺたんとその場にへたり込む。
幼い頃から冥界の住人達とは深い関りがあるフィトにとって、怪物たちはとても親しい友人のような、大切な存在になっていた。
その親しい誰かが、こんな酷い事をしてしまうなんて。そんなことは信じられないし、信じたくもない。
「そういう事かぁ。いきなり襲い掛かって来るなんて、おかしいと思ったんだよね」
「ああ、ほんとにな……。わかんねーよ。どうしてなんだよっ……!」
レオンとリオンも同じ気持ちだった。
ただ、ふたりはフィト以上に傷付いているに違いない。長い時をずっと一緒に過ごしてきた、家族同様の仲間がこんな事をするなんて、と。
それに気付けなかった事、防げなかった事が何より悔しいのだろう。レオンとリオンは、裏切られたような気持ちを感じていた。
冷静を装うも、リオンもだいぶショックを受けているようだ。レオンは拳をぐっと握りしめたまま、悔しさのあまり歯を噛んでいる。
ショックのあまり、言葉を失ってしまう三人。精霊たちも何と言葉をかけたらいいのかわからず、沈黙が続いた。
もしも、精霊の仲間が同じことをしたら、自分たちも同じように傷付き、胸を痛めただろう。
レオンとリオンがショックを受けることが分かっていた為に、精霊たちは話すことを躊躇っていたのだ。
土の精霊は人の痛みに敏感な、心優しい種族なのだ。




