第三話・土の守護者(2)
「僕たちもいろいろと聞きたいことはたくさんあるんだけど、どうしていきなり攻撃してきたりしたの?」
『……奴らの仲間が、追い打ちをかけに来たと思ったのよぅ~』
「さっきから思ってたんだけどさ、奴らってのは一体誰のこと? そいつらに何かされたんだよね? 何があったのか、その辺を詳しく聞かせてほしいな」
リオンの質問に精霊たちは顔を見合わせ、暗い顔をする。
何か言いづらい事があるのか、上手く言葉が出てこないのか、精霊たちはなかなか口を開こうとする様子がない。
そんな中、話すことをためらう仲間を代表して、お姉さんポジションのジェムが口を開く。
『……あの日。地震の起きた日。私とロッチャとピエトラは、いつものようにカリスト様と精霊の間にいたの。そこで、土の祭壇にある精霊石を護っていたのよ』
三人は、初めて聞く言葉や単語に頭が追い付かなかった。
そもそも、カリスト様とは誰なのだろうか? 先程からずっと聞かされているが、一体何者なのだろう。
「あの、ジェム。話し始めたところ悪いんだけど、カリスト様っていうのは……?」
『……あぁ、ごめんなさい! そっか。あなたたちこの辺の事に詳しくないのよね!』
察しのいいジェムは、フィトの言葉を聞いてピンときたようだ。
三人が遠くからここに来たということを思い出した様子。
『……カリスト様っていうのは、土の大精霊様の事よ。ほら、あそこで石になっちゃってる女の子――あれがカリスト様なのよ』
ジェムはそう言って、広間の中央で弓に射貫かれ石化している女の子を指した。
衝撃の事実を聞いた三人は、口をあんぐりと開ける。あの女の子は、一行の予想通りやはり精霊の仲間だったのだ。
それにしても、あの年端も行かない見た目の少女が、そんなに偉大そうな精霊だったとは。それこそ重大案件ではないか。
リオンに関しては「あれが大精霊!? うそでしょ!?」 と、やや失礼な反応まで示す始末。
「精霊さんの中でも、偉い精霊様がいるんだね! あの子がそうだったなんて!」
「ほんと、まさかだよなぁ。俺も、あそこにいるのが大精霊だったとは思わなかったよ」
改めて石になったという大精霊カリストを見て、面々は思わず息をのむ。
「それにしても、何であんな姿に……?」と、顔をしかめて精霊に尋ねるリオン。せっかちな犬耳弟は、話しの続きが気になって仕方がないようだ。
『……それは、順を追って話すわね。いま私たちがいるのが精霊の間。あの大きな琥珀色のクリスタルが精霊石。精霊石が置かれているのが祭壇ね』
ふんふん、と頷く三人にジェムは続ける。
『……精霊石っていうのは、土のマナの塊――つまり土の魔力の源なのよ。魔法の属性が七つあるのは知っているわよね。それと同じ数の祭壇と精霊石が世界中にあってね。私たち精霊と大精霊様で、それを護っているってわけ』
「えーっ!? 精霊さんって、そんなにたくさんいるの!?」
フィトは目を大きく見開き、思わず口に手を当てる。
『……そうなのよぅ~! 属性の数だけ精霊にも種族があるの! 精霊は長生きなんだけどねぇ。不死ではないから、生まれた順と能力値で階級が決まるのよぅ~!』
おしゃべり好きなロッチャが突然口をはさみ、得意げに自分たちの事について話す。
ところがそこからロッチャの話好きスイッチが入ってしまったようだ。止まることなくペラペラとロッチャトークが展開されたため、隣にいたピエトラが『……今は、ジェムに任せるべし』と、ロッチャを制止する。
釘を刺されたロッチャは、またやっちゃったのよぅ! と、大人しく口を結ぶのだった。
『……話を続けるわね。ここ百年余りは、精霊石を狙って来る賊も、私たち精霊に危害を加える輩もいなかったの。だけど、あの地震の日――奴らは来たのよ』
核心に迫る話を聞き、三人はごくりと喉を鳴らす。
ジェムはその時の事を思い出し、拳を握りしめながら自分たちの身に起きた事を伝える。
『……真っ黒いローブに身を包んだ四人が、どこからともなく現れたの。奴らの姿を確認してから、一瞬の出来事だったわ。黒いローブの一人が、弓でカリスト様を打ち抜いたのよ……! 私たち、それを見ている事しか出来なかった! 何百年もの間、ずっとカリスト様にお仕えして来たのに……!』
余ほどその時の事が悔しかったのだろう。気付けば、ジェムは大粒の雫を瞳から溢れさせていた。後から後から流れるその透明な雫は、精霊の間の床をぽたぽたと濡らしていく。
怒りと悔しさで肩を震わせるジェムに、ロッチャとピエトラも目に涙をいっぱいに溜め、優しく寄り添う。
その姿を見て、フィトは胸をぎゅっと痛めた。まるで、ジェムの感情が自分の中に流れ込んで来るようだった。ジェムが心からカリストを大事に思っているのが、ひしひしと伝わってくる。
ジェムは『……取り乱してごめんなさいね』と、涙を拭いながら続ける。
『……私たち、平和ボケしていたのかしらね。でもそれ以上に、奴らとの力の差がありすぎたのも事実。カリスト様が弓で射貫かれて石化した後、何とか奴らに一矢報いようと、私たちは奴らに向かって行ったわ。……だけど私たち、戦うことさえ出来なかったの。気付いたら、奴らはもういなかった』
ジェムは途切れ途切れになりながらも、懸命に三人に話を続ける。
そして、ふっと苦笑いを浮かべると『……私たち、眠らされたのよ。……魔法でね』と、奴らから受けた仕打ちの、結末の言葉を口にする。
「そんな……。傷つけ合うのも悲しいけど、そんなやり方って……」
「ああ。そんなのは、向かって来る相手をコケにしてるとしか思えねぇな」
「確かに、戦いにおいて有効な方法かもしれないけどさ。眠らせて戦線離脱なんて汚いよ」
三人は、精霊たちが受けた奴らの卑劣なやり口に激情した。
気持ちを汲み取ってくれる三人に『……ありがとう』と、ジェムは涙を拭いながら言う。
『……目覚めた時。奴らはいないし、カリスト様は石になっているしで、私たちは途方に暮れたわ。でも、何故か精霊石は無事だったのよね。弓はカリスト様を貫通して精霊石にも刺さっている筈なのに、精霊石は何ともなかったのよ』
「それって、奴らが狙っていたのは、大精霊様の命ってこと……?」
『……それが、わからないのよ。カリスト様は石にされてしまったけど、命を落としたわけではないの。封印されてしまった――といった方が正しいわね』
ジェムの話を聞き「そうなの!? あの状況で生きてるって、大精霊強いなぁ!? 物凄い生命力だねぇ~……」と、リオンは驚きを口にした。
それからジェムは、なぜカリストが死んでいないという事が分かるのかを三人に説明してくれる。
『……大精霊が命の終わりを迎える時――それは大精霊の座を受け継ぐ時。つまり、大精霊が命を終える時に、新しい大精霊が生まれる――もしくは決まるのよ。つまり、新しい大精霊が現れないって事が、カリスト様が生きているっていう証明になる、という事なの』
それを聞いたリオンは「なるほどね。大精霊の世代交代は、命の引継ぎってことかぁ」と、深く頷く。
色々と話を聞いて状況は分かったものの、精霊たちの口からは一番肝心な事が話されていなかった。それは、奴らの正体についてだ。
正直者のフィトは疑問に思っていた奴らの実態について「ね。その、奴らの顔とか特徴はわからないの?」と、身を乗り出してストレートにジェムに尋ねる。
しかしジェムは、フィトの問いかけを聞いて静かに首を横に振った。
『……残念ながら、フードを深く被っていたから顔が見えなかったのよね』
「そっかぁ。何か手掛かりがあるといいんだけどなぁ……」
しゅん、とするフィトをちらりと見ると、ジェムは視線を下に向けて『……そうね』と、短く言葉を返すのだった。




