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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第三章・大地の息吹く場所
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第三話・土の守護者(1)

 精霊たちは、崩れた岩石の上で気を失っていた。精霊光(せいれいこう)はすっかり弱々しくなり、衣服ははだけて土まみれだ。おまけに身体まで小さくなってしまっている。

 先ほどの戦いで、力を消費してしまったのだろうか。



「完全にのびちまってんなぁ」

「ちょっとやりすぎちゃったかなぁ? たはは」



 リオンはそう言うも、悪びれることなくヘラヘラとしているのだが。



「おーい、お前たちー。大丈夫かー?」



 レオンは気絶している精霊たちに向かって、声をかけてみる。

 しかし、精霊たちは完全にバタンキューしているようで、全く目を覚ます気配がない。



「それにしても、精霊って自由自在に身体の大きさを変えられるモンなのか?」

「それ、私も気になってたの! さっきは急に大きくなったから、びっくり!」

「精霊ってそんな事もできるんだねぇ。僕たち怪物は、小さくはなれないからなぁ~」



 三人はそう言うと、互いに顔を見合わせる。

 リオンは意識を取り戻す気配のない精霊たちを見かねて、起こす手立てを模索(もさく)していた。

 そして思い立ったように、その辺に落ちていた棒切れを拾い上げる。

 何をするのかと思いきや。拾い上げた棒切れで、ツインテールの精霊――ロッチャの頬をぷにぷにとつっついたのだ。



「おーい! 君たち、起きてよぉー!」

「ちょっとリオン! そんなことしちゃだめだよ! かわいそう!」



 子供のイタズラじみたようなリオンの行動を、フィトが慌てて制止する。

 フィトに怒られて、たはは、と笑うリオン。最近はフィトに怒られる事をくすぐった嬉しく感じる様子。

 もおー! と、腰に手を当てて怒るフィトも可愛いらしいなぁ、と思うのである。

 すると。騒がしさからか、突っつかれた感覚からか、ロッチャが最初に目を覚ました。



『……んぅ?』



 ロッチャが目を覚ました事に気付いたフィトが「よかった! 目が覚めたんだね!」と、その顔を覗き込む。

 するとロッチャは、口をぱくぱくさせて近距離にいる三人に驚き、ずざざっと後退った。

『……ななななによぅ! 私たちをどうする気!?』と、ロッチャは青ざめて身構える。よほどふたりが脅威(きょうい)だったのだろう。顔をこわばらせ、目には涙が浮かんでいる。



「大丈夫だよ。何もしないからねぇ~」

「取って食やしねーよ。安心しろって」



 笑顔で言うリオンと、ぶっきらぼうに頭をかくレオン。

 しかし、そんなふたりの言葉をロッチャは信用できないようだ。警戒心を解こうとしない。



『……だ、騙されないわよぅ! あんたたち、()()の仲間なんでしょぅ~!?』



 また()()の話が出てきた。

 精霊たちが言う()()とは、一体誰の事なのだろうか。

 フィトが精霊に歩み寄ろうと「あなたたちと、少しお話がしたいの。ね、話を聞かせてもらえないかな?」と、優しく声をかける。

 しかし、それすら無視してロッチャは、ぷいっとそっぽを向いた。

 三人は顔を見合わせ、難しい顔をした。精霊たちが何かを勘違いしているのはわかる。ただ、誤解を解くにも事情が分からなければどうすることも出来ないのだ。



『……うう~、頭がぐわんぐわんするわぁ』

『……はうぅ』



 残りの二人の精霊も意識を取り戻したようだ。

 すると二人の精霊――ジェムとピエトラに、ロッチャはがばっと泣きついた。



『……びええぇ~! ジェム~! ピエトラ~! 助けてぇ~!』

『……ちょっと、どうしたのよ……って、きゃあっ!? 殺されちゃうっ!』

『……私たちも、石にするつもり?』



 三人の精霊たちは身を寄せ合い、びくびくしている。

 これでは完全にこちらが悪者のようだ。どこまでも被害妄想が尽きない土の精霊たち。

 三人は誤解を解こうと、もう一度話すことにした。

 しかし。いくら信じてくれといっても、証拠もなければ証明も出来ない。それに、彼女たちに恐怖心を与えてしまったことに変わりはないのだ。

 もともと精霊は警戒心が強い種族だ。心を開いてもらうには、何かきっかけが必要だろう。

 なので、まずはこっちの事情を説明しよう――。そう思い、フィトはここまで来た経緯と理由を語った。



「私たちね、昨日地震が起きた時、冥界にいたの。それが原因かは分からないんだけど、地上に飛ばされちゃってね。今は、怪物のふたり――レオンとリオンが冥界に戻れる方法を探しるんだ。それで、ある声に導かれてここまで来たの」


『……ある声?』



 フィトの話に精霊たちは首をかしげて聞き返す。

 警戒していた精霊たちは、いつの間にかフィトの話に耳を傾けている。



「誰の声かは分からないんだけどね。その声、助けを求めてた。冥界に戻る方法を探すと同時に、私たちは困った人の力になるためにここまで来たの。だからね、私たち、あなたたちに危害を加えようとしているわけじゃないの。信じてくれないかな……?」



 精霊たちはフィトの話を聞き、互いに顔を見合わせる。

 その中で、胡桃色のお団子頭をした精霊――ジェムが『おほん!』と、咳払いをする。



『……事情はわかったわ。ごめんなさい、いきなり攻撃を仕掛けたりして。どうやら私たち、あなたたちの言う通り盛大な勘違いをしていたみたいね』



 そう言ってジェムはぺこりと頭を下げる。

 いとも簡単にフィトの話しを信じ、和解をしようとする姿勢を見せるジェムに、ロッチャは賛同できない様子。

 ()()()()()()があったんだから、怪物なんて信用できないわよう~! と、ロッチャは疑いの心を剥き出しにしている。むぅ、と顔をしかめ、三人をジト目で見つめた。



『……ジェム~、大丈夫なのう? ほんとに信用していいのう~?』

『……ロッチャ、大丈夫。この人たちのオーラ、悪意ない』

『……ピエトラの言う通りよ。ロッチャ、あんた先輩なんだからオーラくらい感じ分けなさいよ』

『……ええ~!? 最初に返り討ちにする発言したの、ジェムのくせにぃ~』



 そう言ってロッチャは頬を膨らませた。ロッチャの的を得た発言に『おほん!』と、わざとらしく咳払うジェム。

 ジェムとピエトラの説得の末、仕方なくロッチャは三人を受け入れることに決めたようだ。まだ若干ぶすっとしており、完全に疑いの(まなこ)は解かれてはいないのだが。

 精霊たちのきゃいきゃいとした会話に、完全に置いてけぼりの三人。それを見て、お姉さんポジションのジェムがはっとする。



『……えっと、自己紹介がまだだったわね! 私はジェムよ! 数々の非礼、許してね』

『……私はロッチャ。早とちりして、悪かったわよぅ~』

『……私、ピエトラ。さっきはごめんね……』



 三人の精霊たちは順番に名乗ると、深々とお辞儀をした。



「俺たちも、ごめんな? 力で黙らせるのは良くなかったよ」

「あれでも手加減したし、傷付けないようにしたんだよ? でも、怖がらせてごめんね?」



 精霊たちはリオンの言葉にゾッとした。

 あれでも手加減したなんて、と。怪物とは、なんて恐ろしい生き物なのかしら! と、さらに恐怖を植え付けられた様子。

 すると精霊たちは、傷付けないようにした、というリオンの言葉に何かピンときたようで、確かめるように自分たちの身体を見て触り始めた。



『……そういえば、私たち傷一つついてないわ!』

『……ほんとだ。攻撃を受けたはずなのに……』

『……え~!? どうしてなのう~!?』


「あの時、君たちが怪我をしないように魔法で保護していたんだ。大事な精霊様を傷付けるわけにはいかないからねぇ」



 リオンはにっこり笑ってそう言った。

 手加減した攻撃をしつつ、自分たちを保護する魔法までかけていたなんて。それを知って、精霊たちは開いた口が塞がらない。

 この兄弟が敵じゃなくて本当に良かった、と心底思うのであった。



「私たちも自己紹介するね! 私は人間のフィトだよ。よろしくね!」

「俺はケルベロスのレオンだ。冥界と魔界から来た怪物だが、よろしく頼むよ」

「僕はオルトロスのリオン。僕と兄さんは兄弟なんだ。ひとつよろしく!」



 リオンは自分と兄を指し、そう説明する。

 三人と精霊たちは自己紹介を終えた所で、互いの話に花を咲かせ始めた。



『……あなたたち、冥界から地上に飛ばされて来たなんて、大変だったのね』


「そうなんだよねぇ。いきなり飛ばされて、何がなんだかさっぱり!」


『……そんな話し初めて聞いたわよぅ~! ちゃんと戻れるといいわねぇ~』

『……それにしても、フィト。あなた人間なのに、不思議な力を持ってるのね』


「えへへ。やっぱりヘンかな?」



 ジェムの問いかけにフィトは笑って答える。

 精霊にもそう感じるということは、本当に得体の知れない力なのだろう。笑顔を見せるも、フィトは少し不安に思う。



『……う~ん。珍しいとは思うけど、そんな事もあるのかもしれないわよ?』

『……フィト、変じゃない。ちゃんと人間の気配もするよ』


「そっかぁ、それなら安心だよ! 精霊様がそう言うなら、そうなのかも、だよね!」

 精霊たちの言葉にフィトは安堵してそう答える。


『……その、精霊様っていうの、堅苦しいからヤメテほしいのよう~。普通に名前で呼んでねえ!』



 すっかり警戒心が解けて、人懐っこい本来の姿を見せるロッチャ。フィトはそんなロッチャの言葉を聞いて嬉しく思う。

 精霊たちと近しい間柄になったような、そんな気がしたのだ。先ほど感じた悲しい気持ちを吹き飛ばすくらい、フィトは喜びを感じていた。



「うん! じゃあ、そうするね! ロッチャ、ありがとう!」

 フィトの屈託(くったく)のない笑顔に、ロッチャもにっこりと微笑んだ。

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