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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第三章・大地の息吹く場所
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第二話・琥珀の祭壇(2)

「精霊様、出てこなくなっちゃったね……」

「ね。声も聞こえなくなっちゃった」

「驚いた反応をしてたもんなぁ……」



 監視されている事もつゆ知らず、三人は残念そうに声をもらす。

 リオンは兄の尻尾を掴み「精霊さーん、出ておいで―っと」と、ブンブンと猫じゃらしのごとく振り回した。



「おま、俺の尻尾で何してんだコラ! アホリオン!」

「しょーがないじゃないかぁ。僕の尻尾は可愛い白蛇ちゃんなんだから、そんなぞんざいに扱えないんですぅー!」

「あぁ? そのブッサイクな白蛇のどこが? 俺のカッコいい竜の尻尾が羨ましいからって、(みにく)い嫉妬(さら)してんなよな!」

「はぁ―!? 意志を持って動く上に、噛み付きで毒攻撃してくれる、僕の優秀なホワイト・トルネード・スネイクを馬鹿にしないでくれるかなぁ!?」

「うわ、なんだよその名前! クソだせーな!」



 初めて聞いた弟の白蛇の名前に、レオンはゲラゲラと大笑いした。

 緊張感のない兄弟は、こんなところでも兄弟ケンカを開幕させる。

 フィトはというと、リオンの後ろに回り込み、にこにこ白蛇と見つめ合いっこをしている。リオンの白蛇をまじまじと見たことがなかったなぁ、と思ったようだ。

 そんな自由奔放(じゆうほんぽう)な怪物兄弟御一行を監視する精霊たちは、ぽかんとしている。何やってるのかしら、こいつら……といった顔つきで。



「んな……!? ダサいだって!? こんなにカッコいい名前なのに!?」

「いやいや、ダサすぎだろ! お前、センスなさすぎ!」

「じゃあ、兄さんだったらなんて名前つけるんだよ!」

「はぁ? 言い負かされて悔しいからって、無茶(むちゃ)ぶりすんなっての!」

「えぇ~? さては言えないんだ? 自分のネーミングセンスに自信がなくて答えられないんだぁ~?」

「くそったれ、()めやがって……! 待ってろ、最ッ高にカッコいい名前で、吠え面かかせてやるよ……!」

「へえぇ~! それは楽しみだなぁ! さぞかしカッコいい名前なんだろうねぇ!? ほら、早く言ってみなよ! その足りない頭で考えてさぁ! ほら早く! さっさと言ってみろよ馬鹿兄がぁーっ!」



 兄を試すように、暴言を吐き散らすリオン。

 マヌケな兄の事だ、最高にダサい名前を言うに決まってる、とリオンは見通した。

 兄の思考パターンを読み、知り尽くした弟は、レオンの頭に血を登らせて冷静さを欠かせた。これにて、珍解答の下ごしらえは万端だ。

 馬鹿兄のナンセンス炸裂な珍解答が楽しみだよぉ、と不敵な笑みを浮かべていると。



「にゅーん」



 この場にどう考えてもそぐわない、可愛い発語が聞こえてきたのだ。

 そう、言葉を発したのは、ニコニコと笑顔で白蛇を見つめる、可愛い黒髪少女だった。

 騒々(そうぞう)しくケンカをしていたレオンとリオンは「「えっ?」」と、首を傾げながらフィト見た。

 フィトのまわりには、花がほわんほわんと浮かんでいる。



「だってこのコ、にゅーんっていつも鳴いてるんだもん。だから、にゅんちゃん!」

 フィトがそう言うと、白蛇も嬉しそうに「にゅーん!」と鳴く。


「そんなぁ……ホワイト・トルネード・スネイク……」



 そう呼ばれた白蛇は、チラッとリオンを見たが、すぐにフィトの方に向き直る。

 どうやら、ホワイト・トルネード・スネイクよりも、にゅんちゃんがお気に召した様子。

 リオンは簡単に自分を裏切る相棒を見て、ガックリと項垂れる。リオン差し置いてフィトを気に入る辺り、リオンの相棒らしいのだが。

 兄はそんな弟を見て、少しばかり同情するのであった。




 ***




 精霊に気を取られ、蛇の名付け親決定戦に熱を上げ、すっかり本来の目的を見失っていた三人。

 レオンは石化した人間を見て、ようやくそれを思い出す。



「なぁ。そういえば、あれは何なんだ? 人間なのか?」

「あ! そうだ! 私たち、あの石にびっくりしたんだった!」

「わからないけど……近くまで行ってみよう!」



 そう言って、広間の中央にまでやってきた三人。

 一行は、(はりつけ)にされた人をじっと見つめる。磔にされていたのは、まだ年端(としは)も行かない少女だった。石化していてわかりづらいが、フィトよりも小さく、ずっと幼い。

 レオンとリオンは石に近付くと、すぐにその異変に気付いたようだ。目を見張るような事実に、ふたりはなぜか胸騒ぎを感じる。



「……これ、魔法だな」

「うん。間違いないね」



 ふたりはその事実を確かめるように語る。

 それを聞いたフィトは、夢にも思わなかったふたりの言葉に絶句してしまう。

 魔法で石にされてしまったという事実を聞いて驚いた。しかし、それよりもフィトは悲しい気持ちになったのだ。どんな経緯があるにせよ、こんな幼い少女が弓で射貫(いぬ)かれ石にされるなんて、と。

 それにしても、この少女は一体何者なのか? そんな事を考えながら、三人は石化した少女を見つめる。

 すると。少女の見た目が人間とは異なることに、三人は気付く。



「あれ? この子、耳が尖ってるよ!」

「ほんとだ! もしかして、さっき現れた精霊の仲間だったりするんじゃないかな?」

「確かに。言われてみれば、見た目の雰囲気が似ているもんな」



 三人は少女の不思議な見た目から、その考えに至った。

 しかし、その少女精霊? に対して、いくつかの疑問が浮かぶ。



「でもこの子、さっき見た精霊様よりずいぶん大きくなーい?」

「確かに! さっきの精霊は小人サイズだったもんねぇ」

「それに、おかしいんだよなぁ……」

「え? レオン、どういうこと?」

「精霊にしては、全く魔力を感じられねーんだ……。石化してるからなのか?」

「そうなんだよねぇ。僕も全然、この子から魔力感じないもん。さっきの精霊からは、ちゃんと魔力を感じたからねぇ」



 そう話し合いながら、考え込む三人。

 するとその時。ようやくフィトは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気付いてはっとする。



「ね。ちょっと気になったんだけど……」

「うん? フィト、どうしたの?」

「私、精霊様のこと、見えてた、よね……?」

「「あ……!」」



 フィトの言葉を聞いて、同じくはっとする犬耳兄弟。

 このまぬけな三人組は、またしても大事な事を見落としていたのだ。



「そういえば、僕たちにも精霊は見えてたよね?」

「ああ。……ってことは、怪物には普通に見えるって事だよな。それよりも、なんで人間のフィトに、精霊の姿が見えたんだ……?」

「私にも、わからないけど……。これも、私の持っている不思議な力に関係しているのかなぁ……?」




 ***




 兄弟とフィトが推測をし合う中。

 一方、精霊たちは三人の様子を見て、互いに顔を見合わせていた。



『……ヤバいわよう! あいつら、カリスト様に近付いてるわぁ!? 絶対何かする気よぅ!?』

『……もうこうなったら、返り討ちにするしかないわっ!』



 どうやら、磔にされている精霊少女は、カリスト様というらしい。

 フィト達がカリスト様とやらに近付いたことで、彼女たちの被害妄想はさらに大きくなってしまったようだ。殴り込みに行くところまで話が発展してしまった模様。



『……でも、あいつらの力量、未知数。奴らと同等の力を持っていたら……?』

『……そんなこと言ってる場合!? カリスト様、壊されちゃうわよぅ~!』

『……そうよ。ここは先手必勝! 精霊の力、思い知らせてやりましょ!』



 精霊たちはそう言い、手を取り合って頷くと、そこからすっと姿を消す。

 人間のフィトと怪物兄弟は、いまだ石になったカリストの前でわちゃわちゃと話し込んでいる。

 そこに、精霊たちが奇襲を仕掛けようと近づく事も知らずに――。

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