表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第三章・大地の息吹く場所
38/130

第二話・琥珀の祭壇(1)

 三人は、川に囲まれた中央の巨大岩石――島になっているところに向かう。

 川にかかる岩石のアーチ――天然橋を渡り、その陸地に辿り着く。


 正面に、岩石を削って造られた祭壇への入り口はあった。

 入り口は遺跡のような造りになっており、上には植物のモチーフが彫刻されていた。そのまわりにはプルメリアの花が生い茂り、神聖な雰囲気を強調させている。



「ここ、物凄い魔力を感じるよ! 中に何があるのかな!?」

「確かに強い力だな。こりゃー本当に精霊がいるかもしれねーぞ」

「本当にいたら、会えたらいいよね!」



 三人はハフハフと興奮しながら声を上げる。



「……それにしても、本当に神聖な場所。プルメリアの花、すごく綺麗に咲いてるね」

「そうだねぇ。こんな所で助けを求めてる人、本当にいるのかなぁ~」

「うん、間違いないよ。ここから呼ばれてる感じ、するもん!」



 リオンの言葉に、フィトは断言して答える。

「……よし、入ろ!」と言うフィトの後に続き、兄弟は祭壇の内部へ進んで行った。




 ***




 狭くて薄暗い回廊を一列になって歩く三人。

 夜の暗さが加わって、少し不気味だ。



「暗いけど、出口はすぐみたいだね! ほら、灯りが見えるよ!」

「ほんとだ! 奥に何があるのかなぁ~」



 フィトとリオンがそんな会話をする中。

 兄レオンは弟にぴったりと張り付き、前を見ずに歩いていた。



「何だか、ゾッとしないな……」

「なんだよ兄さん。歩きづらいから、もう少し離れてくれない?」

「う、うるせーな! 暗くて見えないんだから仕方ねーだろ!」

「見えないじゃなくて、見てないんだろ! 暗くて怖いだけのクセに」

「べ、別に怖くねぇよっ! こう、もう少しさぁ、灯りに配慮してくれても……わぶ!」



 前を歩くリオンがいきなり立ち止まったので、レオンはリオンの背中に顔を追突させた。

 鼻の頭を痛そうに擦るレオン。「おい。いきなり止まるなよ……」と、思わず弟の肩をぺしっと叩く。

 前を見ると、いつの間にか広間のようなところに出たようだ。自分の前で立ち止まるリオンが邪魔でよく先が見えない。レオンは弟の背中を押し、自分も広間に踏み込む。



「おーい? ふたりとも、どうした?」

「……兄さん。あれ、見て」

「んあ?」



 レオンは弟の指さす方を見て、目を見開いた。

 先を歩いて立ち止まったフィトとリオンは、あまりの出来事に足が止まってしまったようだ。


 三人が見たもの――それは、目を疑う様な光景だった。

 茶褐色の岩石を削って造られた正方形の広間の中央。弓で射貫かれて石化した人間が、巨大な琥珀色のクリスタルに(はりつけ)にされていたのだ。

 レオンは驚きのあまり「なんだ、こりゃ……!?」と、顔をしかめて声をもらした。



 すると。



『……人間、人間が来た』

『……今はそれどころじゃないのに!』

『……このクソ忙しいときに、何しにきたのよう~!』



 ぼそぼそと、話し声のような会話が聞こえた。

 誰の声なのかはわからないが、何人かの話し声が聞こえるのだ。三人の耳に、その声は入ってきた。



「これ、誰の声……?」

「ここに、僕たち以外の誰かがいるってこと……?」

「まさか……幽霊じゃないよな……?」



 三人は辺りを見回す。しかし、人影のようなものはどこにも見えない。



「……ねえ、誰かいるの? いるなら返事して!」

 フィトは思い切って声の主たちに呼びかける。



 物陰に隠れていた三人の()()()は、琥珀色に光る身を寄せ合いながら話しをしている。

 三人を警戒してか、ヒソヒソ話に声を切り替えた。



『……なんか私達、幽霊扱いされてる』

『……失礼しちゃうわね! 私達、幽霊じゃなくて精霊よっ!』

『……ほんと! あったまきちゃうわよう~!』



 レオンが幽霊扱いしたことに対し、腹を立てる面々。なんと、()()()()()()だというのだ。

 精霊たちは興奮しながらヒソヒソ話を続ける。



『……ねぇ。あの人達、私達の声、聞こえてるみたい?』

『……まさか。だって人間よ? 私たちの声は聞こえないし、姿も見えない筈よ?』

『……ジェム、でもあの人間たち、現に話し声を聞いてたような会話してた』



 精霊たちは、無言で互いに顔を見合わせる。

 胡桃色(くるみいろ)のお団子頭の、お姉さんポジションの精霊――ジェム。

 茶髪ツインテールの、おちゃめな精霊――ロッチャ。

 灰色ボブヘアで片目隠れの、物静かな精霊――ピエトラ。


 この三人の精霊たちは、とんだトラブルメーカーなのが特徴だ。

 今までも、祭壇に来た人間たちを幾度(いくど)となく驚かせてきた。

 例えば――祭壇にお団子がお供え物で置かれた時。目の前でそれを食べ尽くしてしまい、驚きで人間を失神させてしまうなどなど――。

 とんだお騒がせ者なのだが、これでも偉大な精霊たちなのだ。



『……()()の仲間ならともかく、人間でしょ? そんな能力ないわよ』

『……なら確かめたらいいじゃない。どうせ見えないわよぅ~!』

『……あ! こらロッチャ! 待ちなさいっ!』



 ジェムは飛び出していくロッチャを怒って止めた。

 しかし、ロッチャはそれを聞かずに飛んで行ってしまう。



『……もぉー! 勝手な事するんじゃないわよぉー……!』



 ハラハラしながらロッチャを見守るジェム。

 それに対し『……あーあ』と、ピエトラは危機感なくつぶやくのであった。




 ***




 ロッチャは興味本位でフィトたちに近付き、ひらりと目の前に舞い降りる。

 見えるわけないわよう~、と試しに来たようだ。

 しかし。フィトたちは、不思議な事にその琥珀色の光が見えているようだった。その光の粒は、土の祭壇の外――大地の息吹く場所で見た光と似ていたからなのか。詳しい事は分からないが、とにかく三人にはその光が見えるのだ。


 フィトたちは互いに顔を見合わせ、近付いてきたその()()()()――ロッチャを凝視する。

 見えないと高を(くく)るロッチャは身に(まと)う光を弱め、フィトの顔を見つめてきた。



「……あっ!?」

『……えっ!?』



 視線が合った途端。フィトとロッチャは同時に声を上げた。

 口をあんぐりと開け、目を白黒させてお互いに指さし合う。



『……うううそでしょ!? あなたまさか、私たちが見えるの……!?』

「う、うん! 見えるよ!」

『……ひっ!? てゆーか声も、筒抜(つつ)け……!?』

「う、うん? 声も、聞こえるよ……?」



 フィトがそう言うと、ロッチャは目にも止まらぬ速さで飛んで行ってしまった。

「あ! ちょっと待って!」と、フィトが手を伸ばして呼び止めるも、ロッチャは素早く物陰に逃げ込んでしまう。



「……ねぇ! いまの見た!?」

「うん! 見たよ!」

「ばっちり見たぜ!」



 飛んで行った光を纏う生き物に大興奮する一同。

 そして、同時にこう叫んだ。



「「まさか、あれって精霊!?」」

「まさか、あれって精霊様!?」



 目を輝かせた三人は、互いに顔を見合わせ頷き合った。



「ねぇ、すごくない!? 私たち、精霊様見ちゃったよ~!」

「あの姿、絶対そうだよね! わぁぁ~まさか見られるなんて!」

「すげー! 本当にここにいたんだな!」



 わーわーきゃーきゃーと騒ぎ立てる一同。まるで、ツアー中に幻の生物に遭遇(そうぐう)した旅行客のようだ。

 しかし三人は、重要なことを見落としていた。怪物のレオンとリオンに精霊の姿が見えたのはともかく、なぜ人間のフィトに見えない筈の精霊の姿が見えたのか、という事を。

 精霊を見て大興奮する今の三人の頭の中には、そんな事は微塵(みじん)も浮かばないようだが。




 ***




 一方、精霊の面々は大混乱だった。

 興味本位で偵察に行ったロッチャが、血相を変えて仲間のもとへ戻って来る。



『……いやああああ~! どうして見えるのよう~!?』

『……だから待てって言ったじゃないの! このおバカ!』



 ジェムがそう言ってポカッとロッチャを殴る。

 ロッチャは半狂乱(はんきょうらん)でジェムの肩を掴み、がくがくと揺する。



『……ねぇ! ねぇねぇねぇねぇ! どうしてなのよう~!?』

『……し、知らないわよそんなの! ()()()()()はあんな状態だし! こうなった以上、とにかく私達でなんとかするしかないでしょ!?』



 精霊たちも、三人に引けを取らないほどてんやわんやしている。

 訳が分からなくなり過ぎて、手をいーとー巻き巻きしている。相当なパニック状態だ。



『……それに! あの男ふたり、人間じゃないのよう! あの気配、()()()()()と同じなのよう~!』

『……ええっ!? それって、怪物ってこと……!?』

『……たぶん、そうよう~。あの見た目からしても間違いないわぁ~』



 精霊たちは、同じく興奮している三人組を凝視する。



『……よく見ればそうね。あれは怪物だわ』

『……でもあの女の子は、人間だったのよう~。どうして一緒にいるのかしらぁ?』

『……私たちの声、聞こえてる? なら、ここでの話、聞かれたらマズイんじゃ……』

『……そうね。ピエトラの言う通りだわ。静かに話しましょ』



 精霊たちは唇に指を立て、小声で話しを続ける。



『……あの三人、私たちが精霊だって事も気付いてた。そう話してるの、聞こえた』

『……そうよう。気付かれてるのよう。怪物ってことは……まさか、()()の仲間ってことぉ!?』

『……あり得るわね。おいうちをかけに来たってところかしら』



 早とちりな精霊たちは、被害妄想でどんどん話を膨らませていく。

 精霊たちの話から、何かの被害にあったという事は汲み取れる。


 しかし。三人からしてみれば、とんだとばっちりだ。目的地に来て早々、よからぬ疑いをかけられているなどとは、知るよしもないのだが。

 怪物兄弟御一行は、いまだ能天気にきゃっきゃわいわいを繰り広げている

 そんな中。冷静なピエトラが、被害妄想を打ち破る救いとなるような一言を発する。



『……まだ、わからない。少し様子を見るべき』

『……確かにそうよね。ここでもうちょっと様子を見ましょ』



 精霊たちは顔を引き締め、三人をじっと見つめた。

 果たして、精霊たちは大いなる被害妄想から覚めることが出来るのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ