第一話・声の呼ぶ方へ(4)
「狼たち、可愛かったね! モフモフでフカフカ! 仲良くなれてよかったぁ」
「うん、そうだね! また会えるといいねぇ~!」
フィトとリオンが、わいわいきゃっきゃと余韻に浸る中。
レオンは落ち着いた様子で、フィトに疑問を投げかける。
「……それで、フィト。ずっと聞きそびれていたんだが、どこに行こうとしていたんだ?」
レオンの言葉に、はっとした表情になるフィト。
わたわたと慌てながら、支離滅裂に話をし始める。
「大変! 行かなきゃいけないんだった! あのね、またあの声が聞こえたの!」
「あの声って、冥界の時の?」
「うん、そうなの! 宿で寝てるときにまた聞こえてね。……あ! そういえば私、昨日の記憶がないんだけど……どうしちゃったのかなぁ?」
口元に指をあて、悩まし気に話すフィト。
それを聞き、やっぱり覚えてなかったか、と少し悲しくなるレオン。
同じくリオンも記憶が途中から飛んでいたようで、何も覚えていないらしい。
それに関しては、頭を打ってでも思い出してもっと反省しろ! と、レオンは目の色を変えて弟を睨みつける。
「フィト、リオンも! お前らは、酒はほどほどにしろ! いいな!」
少しムスッとした顔で、レオンは二人に言った。
「はいはいはぁーい」
「えぇ! どうしてー? あんなにワインおいしかったのに!」
生返事をしたリオンに対して、駄々をこねるフィト。
なぜ酒をほどほどにした方がいいのか、本当にその理由が分かっていないようだ。
まさか酒に関しての知識もないのか……? と、レオンは説教まじりにフィトに説明をしてやる。
「だーかーらー! 酒は飲みすぎると記憶と意識がブッ飛んだりするんだよ! そうなるのが嫌だったら、次から気を付けること! 以上!」
昨日の出来事をなかったことにされたため、珍しく投げやりになる犬耳兄。
それを聞いて、フィトはあんぐりと口を開けた。
「えっ……!? 私、昨日はたくさんお酒を飲んだから、途中で意識が飛んで記憶がないってこと!?」
「そういうこと、だねぇ」
「ほあぁ……! お酒って、そんな怖い作用があるの……!? 知らなかった……くわばら、くわばら……」
手で両頬を覆い、ショックを受けるフィト。
酒を飲むのも初めてな上に、やはり酒に関する知識もなかったようだ。
レオンはやっぱりな……と、思うと同時に、俺たちは地上知らずだけど、フィトは俺たち以上に世間知らずなのかもしれないな……と、頭を抱えるのであった。
「私、何かヘンなこと、しゃべってなかったかなぁ……?」
フィトは記憶が飛んだことに懸念を抱いているようで、もじもじとその不安を口にした。
「あ、ああ! 何も言ってなかったから大丈夫だ! てか、フィトはすぐに寝落ちたからな!」
「あれ? そうなの? それならよかった! 恥ずかしいことしゃべってたら、どうしようかと思ったぁ~」
ホッと息をつくフィトに対し、レオンはすぐに後ろを向いて腕組みをした。
月明かりの下でも、兄の顔に赤みが差したのをリオンは見逃さなかった。挙動不審な分かりやすい兄に、さては何かあったな、とリオンは推測をする。
先ほどの兄の積極性といい、いまの変な反応といい、酒の席で何があったのだろう。こんな事なら、飲みすぎるんじゃなかったなぁ~、と自分を呪うのであった。
お互い聞きたいことがありすぎて、全然話が進まない三人。
とりあえず、いまはそれはさて置き。先に進まなくていいのかな、とリオンは少女に声をかける。
「……フィト。さっきから話が脱線しすぎてるんだけどさ、どこに行くのかな?」
リオンの言葉かけで、フィトは再び正気に戻る。
気を取り直してフィトは、レオンとリオンにここに至るまでの経緯を話す。
声の主に呼ばれている感覚がしてここまで来たこと。
呼んでいる場所まではここから特定できないため、どこに行きつくのかは見当がつかないこと。
自分を呼び寄せられるくらいの距離に声の主はいると、感覚で確信出来たこと。
「……たぶん、もうちょっとだと思うんだ。呼ばれている意識が、強くなってきてるの」
「ついに謎が解けるかもしれないんだな」
「有力な情報が掴めるといいねぇ。せっかくここまで来たんだもん!」
「うん、そうだね! きっと、何か分かるはずだよ。……そういえば、呼んでる声の主は女の子だと思うけど、どんな子なのかなぁ?」
そんな事を考えながら三人は、夜のリリー・オブ・ザ・バレーの奥地へと進んで行く。
***
だんだんと道幅が狭く、下り坂になってきた。
微かだが、先方から水音が聞こえてくる。
「水の流れる音がするね! 近くに川とか滝があるのかなぁ?」
「わー! この水音ってそうゆうことだったのかぁー!」
フィトの話に関心して、リオンはわくわくと腕を振って歩く。
好奇心の強いリオンは、見たことのないものを見ることがとても楽しい様子。本来の目的を忘れはしないが、この先には何があるのかなぁ~、などと興奮して考えているのである。
「川といえば、俺たちは冥界の三途の川しか見たことがないからなぁ」
「そうだね。魔界には魔法で水をためた湖があるけど、目にしてる水辺ってこれだけだからねぇ」
「えっ!? 湖って魔法で造れちゃうものなの……!?」
フィトは驚きのあまり目をぱちくりさせている。
自らの手で湖を造るなど、やろうと思って出来る事ではない。魔法というのは、つくづく強力で便利な力なのだろう。
ふたりは怪物なのだが、やっている事はまさに神業である。
「うん! 結構簡単に造れるんだよ! 土の魔法で地面を陥没させて、水の魔法で水を溜めるんだ。大規模な魔法になるから仲間をたくさん集めて、一緒に魔法を使うんだよ」
「すごいねっ!? 湖って、そんなちょいちょいっと造れちゃうものなんだ……!?」
感心するフィトの隣で、リオンは得意げに続ける。
「他にも、樹の魔法で湖のまわりに木を生やしたり、湖に水草を生やしたりしてね。生き物なんかも放すと、本物さながらの出来になるってわけ。今ではすっかり魔界に馴染んでるよ」
「すごいすごいすごーいっ! いいなぁいいなぁ! 魔法って本当に便利だねぇー!」
目をキラキラと輝かせながら少女はいつものごとく、魔法を放つポーズを取っている。
いつかこの手から魔法が飛び出したりしないかなぁ、などと夢見ているフィト。
また、そんなフィトを可愛いなぁ……と、見守る兄弟なのであった。




