表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第二章・旅立ち
30/130

第三話・花咲く渓谷(7)

「はにゃにゃにゃ~! なんら~! ふわふわするのぉ~!」

「ひっく……もう、飲めないよぉ……」



 完全に酔っぱらったフィトと、寝落ちたリオン。

 弟に関しては、こうなることは予測出来ていた。そう、リオンは酒に弱いのだ。


 冥界と魔界では、七色の酒癖(さけぐせ)を持つ厄介者(やっかいもの)とまで言われていた。

 喜怒哀楽(きどあいらく)が激しくなるのはもちろん、毒舌魔(どくぜつま)魔法乱撃魔(まほうらんげきま)、寝落ちなど。

 時には、微量の酒でも様々な厄介状態を引き起こすのである。

 その度に、レオンが面倒を見ている始末。本人は酔うと記憶が曖昧(あいまい)で、酒を好んで飲みたがるので余計にタチが悪い。

 それでも許してしまうのは、やはり兄の優しさというか、甘やかしというか。

 今回に至っては寝落ちで済んだからいいものの、この状況で、魔法を乱撃していたらどうしていたのだろう。考えただけでおぞましい。

 今後はどんな時でも、甘やかさずにコイツをコントロールしないとな……と、レオンは肝に(めい)じるのであった。


 しかし、問題なのはフィトだ。

 初めて酒を飲んだとはいえ、まさかこうなるとは。



「つめとぎ~! つめとぎ~! きゃはははは!」



 フィトは後ろの壁を引っ掻いて、何やら楽しそうだ。

 全くもって理解不能な行動だが。



「あらあら、まあまあ。ちょっと飲ませすぎちゃったかしら」

「ちょっとどころじゃねーだろ! ったく、どーすんだよ……明らかに飲みすぎだろ……」

「しょうがないじゃないの。楽しくなっちゃったんだからぁ」

「まぁ、しゃーないか……。楽しい日だからって、野放しにしておいた俺も悪かったよ……」



 しかし、恐ろしいのはそれだけではない。

 テーブルの上には、空のワインボトル十本。そして重ねられた料理の空皿の数々。

 一体いくらになるんだ、これ……? と、ゾッとするレオン。

 そんな地獄の光景を目前に、支払い係? のトロンは絶望していた。



「ん~! いっぱい飲んだわ~! まだまだ飲めるけどっ!」



 そう言って立ち上がったラシーヌは、嘘のように気丈(きじょう)だ。

 これぞまさに、酒豪(しゅごう)である。



「さ、そろそろ戻りましょ! 明日も街を見て回るんでしょ?」

「そうだな。二人もこんなだし……ほら、リオン起きろ。帰るぞ」

「んん~……何らよぉ、ひよ兄めぇ……ぶちかますぞぉ!」

「……てめえ、置いて帰んぞ?」



 寝ぼけてまで悪態をつく弟に、レオンは顔をヒクつかせた。

 腹が立ったのでリオンは放っておき、今度はフィトに声をかける。



「フィト、そろそろ戻ろう? 宿でしっかり休まないと」



 優しく声をかけてくれるレオンの顔を、じーっと見つめるフィト。けっこう近い距離だったので、レオンは思わずドキッとしてしまう。

 頬を染めた無防備な顔と、微熱を帯びる吐息。潤んだ碧色の瞳。

 酒の火照りに増して、レオンの顔が熱くなる。つい、その柔らかそうな唇に目がいってしまって、レオンは顔をそらした。

 ――酔ってるフィト、可愛すぎかよ……! と、レオンは思わず、心の中で叫ぶ。


 そんな事を思っていると。

 自分の身体にぐっと何かがのしかかり、思わず「へ?」と、レオンは声を上げる。

 ふと、その方向を見ると、突然の出来事にレオンはパニックに陥った。

 いきなりフィトが、もたれかかってきたのだ。

 


「なっ!? なななななな……!?」



 激しく高鳴る鼓動と、ぐるぐると回る視界。パニックになって、頭の中がまっしろだ。

 フィトの黒髪からふわふわといい香りがして、胸がきゅうっとしてしまう。

 酒には強い方のレオンだが、疲れと緊張からか、多少なりとも酔っているのだ。ここが公衆(こうしゅう)の面前だとしても、細い小さな身体を抱きしめてしまいたい衝動に駆られた。

 しかし、ぐっとその気持ちを抑え、ぶんぶんと首を振る。



「……フィト? なぁ、どうした……って、あれ?」

「くぅ……くぅ……」



 そう言って、フィトから軽く身体を離すレオン。

 身体の力が抜けたフィトは、寝息を立てていたのだ。

 そっとフィトの顔を覗き込み「まさか、寝てる……?」と、レオンがつぶやくと。



「寝てるな」

「寝てるわね」



 それを見ていたラシーヌとトロンが、口をそろえてレオンに言った。

 二人はわかっていて見ていたらしい。にんまりと笑みを浮かべている。

 レオンは何も言えず、口をぱくぱくとさせた。それから恐ろしいほどの恥ずかしさが襲ってきて、顔を両手で(おお)うのであった。



「支払いは済ませてあるからな、戻るぞ」

 トロンはそう言うと、いまだ寝続けるリオンを荒々しく担ぎ、店の入り口に向かって行く。


「若いっていいわねぇ、初々しくって! ほらほら! フィトは、あんたがおぶってやりなさいな!」

 ニヤつきながらラシーヌはそう言い残し、トロンに続いて外に出て行ってしまった。



 レオンは恥ずかしそうに頭をかくと、無防備なフィトをもう一度見つめる。

 可愛い寝顔の少女は、むにゃむにゃと気持ちよさそうに眠っており、しばらく起きそうな気配はない。



「俺だって、男なんだぞ……」



 レオンはそう呟き、フィトの腕を自分の肩に回す。

 見送ってくれたラモにお礼を言うと、そのままフィトをおぶって店の外に出るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ