第三話・花咲く渓谷(1)✿挿絵✿
アーチの間から見えたのは、渓谷の壁に沿って並んだ居住だった。
フワッとした暖色系の街明かりと、渓谷に見事に咲いたリリーの花の光が神秘的な雰囲気を作り出している。その景色は、言葉で言い表せないほどの絶景だ。
岩のアーチの下に『ようこそグラシナの街』と書かれた看板が立てられており、看板のまわりには琥珀色に光輝やくクリスタルが添えられ、その光が看板を照らしている。
三人は美しい景色にため息をもらすと、渓谷を眺めて何度も目を見開いた。
「ここが、グラシナなんだね。すっごく綺麗なところ……」
「この荒野に初めて足を踏み入れた時、何となく魔界と似てるかもって思ったんだけどさ。これを見たら、全然違うところなんだって思わされたよ。こんな綺麗な景色、魔界にはないもんなぁ」
「うん、そうだねぇ。それにしても、こんな土地に街を造ろうなんて、よく思ったよなぁ~」
レオンは弟の言葉に頷き、街の立地について深く興味を示すのだった。
すっかり暗くなってしまった辺りを見回すと、アーチの先に階段があることに三人は気付く。
岩石を削って造られた階段の両端にも、等間隔で光るクリスタルが添えられていた。どうやらクリスタルは、足元を照らす役割を担っているようだ。
また、人工的に添えられたクリスタルだけではなく、渓谷のいたる所に自然にできた天然のクリスタルが生えていた。クリスタルはどれも琥珀色の光を放っている。
どうやら暖色系の優しい街明かりの正体は、このクリスタルだったようだ。
「この光ってるクリスタル、すっごくキレイだね! これって、宝石……なのかな!?」
フィトは不思議そうにクリスタルをまじまじと見つめている。
「このクリスタルは、土のマナの結晶だねぇ」
「マナって、魔法を使うときのエネルギー、だよね?」
「ああ、その通りだ。リオンが言ったように、このクリスタルは、マナが凝縮されて結晶化したモンなんだ。この辺は、土のマナがすげー豊富なんだな」
「うわぁー……! なんだかロマンチック! これ、ぜーんぶそうなんだよね!? ステキ~!」
フィトは両手を握り、翠の瞳を輝かせて言った。
次々に目にする幻想的な光景に、感銘を受けて胸がいっぱいのようだ。
「この階段を降りたら、いよいよグラシナに着くんだね!」
「そうだね。ここまで本当に長かったなぁ~。……盗賊連中の邪魔が入らなければ、明るいうちに着けていたのに」
リオンはとても不機嫌そうにつぶやく。
弟の言葉に「ははは、本当にな」と、レオンは同意して苦笑いを浮かべる。
「……それにしても、なかなかスリリングな階段だなー、こりゃ。手すりや囲いは一切ナシ、か……」
「わぉ。暗くてよく見えないけど、これは相当な絶景だねぇ」
「確かに景色はいいかもしれねーけど……はぁ。谷底は見えないけど、深いことは確かだな。落ちたら即あの世逝き、かぁ」
「そうだね……気を付けて進まないと、だね」
「次に冥界に戻った時は門をくぐる側だったなんて、笑い話にもならないでしょ。そんなマヌケな門番にはなりたくないね」
三人はごくりと唾を飲み込み、グラシナの街へと続く階段をじっと見つめた。
階段は渓谷の壁沿いに岩を削るようにして作られており、道幅は昇り降りする人が行き違いできる程度には余裕がある。
震える足を抑えつけ、レオンが「よし! 行こうぜ!」と先頭を切って階段を降り始めた。レオンに続き、リオンとフィトも階段を降り進んで行く。
「崩れているところがあるかもしれないから、ふたりとも気を付けろよ」
「さっきそうやって注意喚起した矢先、一番に転んだ兄さんが言っても説得力ないけどねぇ~」
「俺のは転んだって言わねーし! ちょっと躓いただけだし! それに、盛大に俺を巻き込んで転んだのはお前の方だろ!」
そう言ってレオンは、自分を鼻で笑った弟の額を思いっきり指で弾いた。
ばちん! と乾いた音が辺りに鳴り響く。
「いったぁー!」と、赤くなった額を両手で押さえながら、リオンはイラついて歯を鳴らす。
「何すんだよ馬鹿兄! だから、岩武装はやめろってば!」
「あ? お前がケンカ吹っ掛けてきたんだから、当然の報いだろ!」
危険な綱渡り状態の時にも関わらず、兄弟は牙を剥き合い怒鳴り合っている。
さすがに危ないと感じたフィトが「ふたりとも、危ないから階段で暴れるのはやめとこ?」と、あわあわしながら止めに入ったため、兄弟は反省して大人しく自重するのだった。
***
長い階段を下っていると、損傷が激しい箇所に何度も出くわす。
その度に「フィト、僕が先に降りるから手に捕まって?」と、リオンが手を差し伸べてくれた。
そのおかげで、どうにか三人で無事に階段を降り終えることが出来たのだった。一行はやっとの思いで街の入り口に辿り着く。
「リオン、ありがとう! とっても助かったよ」
「ううん、お礼を言われるほどじゃないよ。僕がやりたくてやったんだから」
リオンはそう言うと、照れくさそうに頭をかいた。
フィトを支えるポジションを持っていかれたことに少し、ぶすっとするレオン。
とりあえず、フィトに怪我がなく無事ならば良しとしよう……と、ひとりで頷いて受け止めるのであった。
「……改めて近くで見ると、すごい造りだねぇ! 家が山肌に食い込んで建ってるよ! どうなってるのか、めっちゃ興味!」
リオンはグラシナの街をまじまじと観察していた。
見たこともない家の造りに、かなり関心を寄せている様子。ふおおおお……! と、かなり興奮して辺りを見回している。
「上からじゃ暗くてよく見えなかったけど、街の居住も結構崩壊してるな……」
「うん、そうだね。やっぱり、ここが震源地で間違いなさそう……。今も助けを待っている人は、たくさんいるのかな……?」
三人は様々な思いを胸に、グラシナの街に足を踏み入れた。




