表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第二章・旅立ち
22/130

第二話・トラブルトラベル(4)✿挿絵✿

 どれくらい歩いただろうか。空が少しずつオレンジがかってきている。

 三人の目線の先、果てしなく続く草原の向こうには、違う景色が見え始めていた。



「茶色い岩山みたいなものが見えてきたな。この草原にも終わりがあったのか」

「そうだね! グラシナの地形の話しは聞いたことがあったけど、実際に見るのは私も初めてだからびっくり!」

「地上は場所によって、こんなに環境が違うんだねぇ~」



 興味深くきょろきょろとまわりの景色を見渡す三人。一行はそのまま、岩山のそびえる方を目指して歩き続ける。

 しばらく歩くと、だんだんと地面に生えていた草がまばらになってきた。

 茶褐色(ちゃかっしょく)の大地を踏みしめ、三人は視野いっぱいに見えるようになった荒野(こうや)を眺めて思わず息をのんだ。


 茶褐色の地表には、深い渓谷(けいこく)山間台地(さんかんだいち)が広がっていた。そこにはテーブル型の台地や岩石(がんせき)ビュートが点在しており、その雄大な景色は大自然の凄みと歴史を思わせるのだった。

 そんな環境の中、リリーの花が地表の美しさを強調するように、(りん)と花を咲かせていた。花は風に吹かれると、シャラランと心地よい(はかな)げな音を奏でる。




挿絵(By みてみん)




「すごい景色だね。さっきまで歩いてきた草原が、嘘みたい……」

「そうだな。でもこの景色、ちょっと魔界に似てる気がするんだよなー……」

「わかる! 魔界の地面はもうちょっと赤茶けているけど、似てるよねぇ!」



 リオンは兄の発言に同意して深く頷く。

 兄弟の話を傍らで聞いていたフィトは「へぇ~! 魔界って、こんな感じの場所なんだね!」

と、楽しそうに想像を膨らませるのであった。




 ***




 夕日が照らす茶褐色の地表は、とても幻想的な雰囲気に包まれていた。この世のものとは思えないほど美しい景色に、三人は惚れ惚れしながら歩いて行く。

 すると道の途中に、二つの分かれ道と看板が立っているのが見えた。看板には『リリー・オブ・ザ・バレー』と書かれており、右矢印の下に『グラシナ』と記されている。



「案内板があるってことは、もうちょっとだね!」

「ここまで長かったなぁ~。もう、足が棒みたいだよ……」

「だいぶ歩いたからなー。疲れはあると思うけど、もうすぐ日が暮れそうだ。先を急ごうぜ」



 看板があっても、目的地が目と鼻の先とは限らない。レオンは先のことを案じ、二人に進むことを促す。

 あとどれくらいで着くのだろう、と思いながら、三人は分かれ道を右に進んで行く。



「ここには、リリーの花がたくさん咲いているんだね。とってもきれい。だからここは、リリー・オブ・ザ・バレーって名前なのかなぁ」

「この白い花は、リリーって名前なんだね。なるほどね、きっとそうだよ! なんて綺麗な名前なんだろう!」



 フィトとリオンは、うっとりとした表情でリリーの花を見つめる。

 そんな風に二人が花に魅入っていると「ほぉー。音を奏でる花があるなんてなぁ。でも俺、この綺麗な音を聴いていると、なんだか眠気が……」と、レオンは大きなあくびをした。



「まったく兄さんったら、風情(ふぜい)がないんだから!」

「うるせーな、仕方ねーだろ! 何だか知らんけど、綺麗な音色を聴くと眠くなっちまうんだよ!」



 ガルルル、とまた睨み合いをするふたり。フィトはそんな兄弟のやり取りを聞いて、くすくすと楽しそうに笑う。

 いがみ合う犬耳兄弟の背中をフィトは優しく押すと「ここまで来るの、大変だったよね。疲れたけど、もうちょっと、頑張ろう!」と、笑顔で言うのだった。




 ***




 グラシナまで、きっともう少しだ。

 しかし、ここまで来てレオンとリオンは嫌な気配を感じ取った。何者かに見られているような、もっと言えば、狙われているといった方が近いかもしれない。フィトは当然、そのことにまったく気付いていない。

 兄弟は目つき鋭く顔を見合わせると、軽く頷き合った。フィトを真ん中にして、そっと身を寄せる。



「レオン、リオン……? どうしたの……?」

 状況が呑み込めないフィトは、急に距離を縮めて歩くふたりに疑問を持つ。



 ――その時。

 岩陰から突然、ガラの悪い三人の男達が姿を現した。薄汚い身なりと、あくどい顔つき。物騒(ぶっそう)なことに、手にナイフや棍棒(こんぼう)の武器を持っている。

 そのことから、良からぬ事を働く集団に違いないと推測(すいそく)できる。さしずめ、チンピラや盗賊といったところだろう。

 その中でも、筋肉質でガタイが良いリーダー格らしき男が先頭を切って三人に話しかけてきた。



「オウオウ、兄ちゃんたちよぅ。頭に耳なんかつけちまって、随分(ずいぶん)おちゃらけた恰好(かっこう)してんじゃねぇか。実に愉快だなぁ?」



 盗賊頭は下品な笑みを浮かべながら、手に持ったナイフでこちらを(あお)ってくる。

 なんてバカっぽい話し方と態度なんだろう、と兄弟は苦笑いを浮かべて冷ややかな目線を向けた。

 フィトは初めての盗賊との遭遇(そうぐう)に不安を隠せない様子。縮こまり、ふたりの後ろに隠れて黙り込んでいる。



「お祭りにでも行ってきたのかァ? さぞかし楽しかったんだろうなァ。……俺達にも遊ぶ金、分けてくれよ。良い子だから、な?」

「そうそう。俺達は優しいからよ、大人しく金目のもんだけ置いてけば命までは取らねぇさ。大人しくしてれば、な」



 仲間の二人もリーダーに続いて(しゃべ)りを続ける。

 極めて頭の悪そうな(おどし)し文句を言い、男達は武器をちらつかせながらこちらの出方を伺っている。

 ふたりはそんな状況にも関わらず、ふっと笑いをこぼすと盗賊たちの煽りを何倍にもして返すように腕組みをして言葉を返した。



生憎(あいにく)、お前らに渡す金品はひとつも持ち合わせていないもんでね」

「そっちこそ、痛い目を見たくなかったら大人しく引くことをおすすめするよ」



 強気なセリフを吐き、その上挑発するような発言までかましてみせる兄弟に少女は驚くばかりだ。

 フィトは怯えて声にならない声を必死に絞り出し「ちょっと、ふたりとも……!」と、ふたりを止めようとする。



「そこのお嬢ちゃんの方が、どうやら利口のようだなァ。餓鬼共(ガキども)よォ、もう一度だけ聞くが、黙って金だけ置いてけばそのままお家に返してやるってんだよ!」

「そうだぜぇ? 大人の言うことは大人しく聞くってのがセオリーってもんだぜぇ!?」



 男達は言うことを聞かないレオンとリオンに相当イラついている様子で、顔をヒクつかせている。

 ブチ切れ寸前の盗賊たちを見ても、兄弟の余裕の構えは変わる事はなかった。むしろ、面倒くさそうに舌打ちをする始末。



「はぁ。ガラ悪かよ。もう面倒くせーから、とっととそこどいてくんね?」

「そうだよ。僕たち急いでるんだよねぇ」



 犬耳兄弟は心底ダルそうに、ため息交じりの返答を返す。

 完全に自分達の事を格下扱いする兄弟に、とうとう盗賊三人衆はブチ切れてしまった。



「この餓鬼共……! 言わせておけばつけ上がりやがって……! あの世送りにしてやるよ!」



 リーダー格の男がそう叫ぶと突然、岩陰から大男が現れた。どうやら、もう一人仲間がいたようだ。

 強硬手段(きょうこうしゅだん)に移った時の為に、初めから待機させておいたのだろう。大男は鋭い(おの)を振りかざし、三人に襲い掛かって来た。




「きゃああっ!」



 悲鳴を上げて目をつむるフィトをリオンは抱きかかえると、颯爽(さっそう)とその場から離れる。

 それと同じタイミングで大男の攻撃を受けたのは、兄のレオンだった。レオンはどこからともなく現れた(やり)を操り、大男の攻撃を予想していたかのように防ぐ。

 槍と斧が激しくぶつかり合い、辺りに耳をつんざくような金属音が響き渡った。

 攻撃を予想していたかのように止められ、「なっ……!? 止めた!? どうなってんだよ!」と、大男は低いドスのきいた声で驚きを口にする。

 レオンはその様子を見て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と余裕の表情で大男に鋭い眼光を向け、あざ笑うように言葉を返してやった。



「……あれだけ殺気振りまいてたらバレバレだっつーの。最初から隠れてたの、知ってたぜ?」

「なぁっ……!? このクソガキ……! いま完全に丸腰だったのに、どっからそんなモン出したんだよ!?」

「さぁな? 魔法の力……とでも言っておこうか!」



 レオンはそう言うと、軽々と斧を持った大男を力で押し返して吹っ飛ばした。

 後ろに吹っ飛んだ大男は派手に岩石に身体を叩きつけられ、あまりの衝撃に失神したようだ。粉々に崩れた岩石の上に完全にのびてしまっている。



「な、なんだァ、コイツ!?」

「頭ァ! コイツ、ヤベェ奴ですって……!」



 レオンが大男を軽々と吹っ飛ばしたのを見て、他の仲間たちは冷や汗を流した。

 ガクガクする下っ端を見て、「ビビってんじゃねぇよ! 相手はただの餓鬼だろうが!」と、盗賊頭はだらしなく泣き言をこぼす仲間に活を入れる。


 その様子を、ただ震えながら黒髪の少女は見つめていた。

 乱闘を目の前にするのも初めてだったフィトは、恐怖心を拭うことも出来ずにその場に立ち尽くしていたのだ。

 リオンはそんなフィトの肩をぐっと抱き寄せると「大丈夫だよ」と、耳打ちした。フィトの足が動かなくなってしまっている事にも気付いていたのか、後ろを向かせてそっと背中を押してやる。

 笑顔で「フィトは隠れていて」とリオンが言ってくれたので、フィトは黙って頷いた。リオンの笑顔を見て、ほんの少しだけだが安心したようだ。

 フィトは小走りで去っていき、ふたりの後ろの岩陰にそっと身を潜める。そして、きゅっと両手を結んでレオンとリオンの無事を祈った。



「ほぉ。王子様気取りか。余裕だなァ?」

「うん。お姫様は安全な所にいてもらうとするよ。もう隠し玉もいなくなった事だしね?」



 汚い戦法を使っても、自分たちをねじ伏せられなかった事を鼻で笑うリオン。

 いちいち小馬鹿にした態度を取る兄弟に、男たちの(はらわた)は煮えくり返っているようだ。

 盗賊頭は「仲間をこんなにしたんだ。お前ら、タダじゃおかねぇぞ……!」と、筋肉質な腕にナイフを構えてぎらつかせた。



「先に手を出してきた奴らのセリフじゃねぇなぁ。いま引くなら、このまま見逃してやるよ。分かったら、とっとと失せな」



 レオンは自分の等身よりも長い槍を男たちに向け、低い声で言い放つ。

 その言葉を聞いた盗賊頭が、フハハハハ……! と、凶悪な笑みを浮かべたかと思うと。次の瞬間、顔つきが一変した。



「見逃す? ハッ、随分と舐められたもんだ。……おい餓鬼共。調子に乗るなよ? 痛い目を見るのはお前たちの方だ。……それに、よく見たらあの娘は随分な上玉じゃねぇか。お前らをのしてから、あの娘っ子は俺達が心行くまで可愛がってやろう!」

「分かったら、持ってる有り金と娘をこっちに寄こしなァ!」

「もう喚いても遅ぇぞ! ひゃははははは!」



 そう口々に汚い言葉を飛ばすと男達は「死ねえええええ!」と叫びながら一斉にレオンとリオンに迫ってきた。




「交渉決裂だな」

「だね」



 そう言って兄弟は、同時にため息をつく。

 鬼の形相で迫りくる男たちに向かって、リオンがすっと右手をかざす。

 すると、リオンの身体が風をまとい、銀髪の髪とローブがふわりと気流に乗ってなびき出した。山吹色(やまぶきいろ)の瞳が、凍るように冷たい視線で男達を見据(みす)える。

 そして、その右手を振り払った瞬間。無数の風の刃が、三人の男たちを切り刻み吹き飛ばした。



「「「ぐあああああああっ!?」」」



 男達は全身に切り傷を負い、吹き飛ばされた衝撃で地面に転がった。血が滲む身体を手で押さえ、痛みにもがき苦しむ。

 傷を負った盗賊たちは「な、なんだァ!? いまのは……!?」と、何が起きたのか訳が分からずにパニックに陥っている様子。魔法など当然目にしたことがない男たちにとって、今のリオンの攻撃が何なのかすら分かっていないのだろう。

 ふたりは倒れている男達に近付き、恐怖を植え付けるように言葉をかけた。



「だから、最初に言っただろ? 魔法みたいなもんだって」

「ねぇ、まだ続ける? これ以上やるなら、命の保証は出来かねるよ?」



 兄弟の言葉を聞き、やせ形のひょろ長い男は「ひいいいい……! ば、化け物だァ!」と、だらしない叫び声を上げて逃げ出した。

 それに続き、もう一人の仲間も走り去っていく。



「お、おいお前ら! 馬鹿野郎! 待て!」



 リーダー格の男が逃げていく仲間を呼び止めるも、声は届かない。

「チッ!」と舌打ちをし、岩石の上に倒れていた大男に蹴りを入れて叩き起こした。大男が目を覚ますと、肩を貸して互いに身体を預けるような形で歩き出す。

 数歩歩いた後、こちらを振り向き「覚えとけよ……」と、言い残して去って行く。



「ははっ、だっせーな! なんだありゃ! そもそも俺たちは人間じゃないっつーの!」

「本当にどうしようもない奴らだったねぇ。自分と相手の力量も図れない時点で、喧嘩の相手を間違えてるっての!」



 兄弟は、ざまあみろ、という様な態度で盗賊男達を見送るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ