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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第二章・旅立ち
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第二話・トラブルトラベル(2)✿挿絵✿

「あ! 木の実のなる木が見えてきたよ!」



 フィトが指さす先に、一本の大きな木が草原の中に生えていた。

 よく見ると、たくさんの真っ赤な果実が実っている。



「もう二時間くらい歩いたよねぇ。さすがにお腹が減りすぎて、元気が出ないよ~」

「私も! おなかペコペコ!」

「そうだな。空腹は良い事ねーからな。頭も働かないし、気力も無くなる。腹が減ると腹が立つ、なんて言葉もあるくらいだからな」

「うんうん、違いないや」



 レオンの言うことに、リオンは激しく同意した。

 木の実のなる木に到着すると、リオンは目をキラキラさせながら、果実を指さす。



「わぁ! すごいね! 赤い実がたくさん! フィト、あれはリンゴかな?」

「そうだよ! もしかして、冥界と魔界にもリンゴってあるの!?」

「うん、あるよ~! リンゴの木を育てて作るんだ!」



 フィトの質問にリオンは得意げに言葉を返す。

 少女はそんなリオンの話に関心を持ち、目を白黒させている。



「そうなんだぁ! ということは、地上と冥界と魔界の食べ物の種類って、大差ないのかな?」

「そうかもしれないね。魔界にある料理のレシピは、地上のものを元にして作られたものがほとんどだって聞いたことがあるよ。本を見て、見よう見まねで作ったんじゃないかなぁ? 詳しいことは分からないけど、共通してるものが多いと思うよ。ね、兄さん?」

「ああ、そうだな。別次元だけど、そーゆうのを考えると、やっぱり繋がりがある同じ世界なんだなって実感するよなー」



 三人はそんな話をしながらリンゴをいくつか手に取り、木の下に腰掛けた。

 そして、それぞれリンゴを丸かじりする。



「んん~! 甘くて美味しいね! お腹が減っていたから、格別(かくべつ)だねぇ」

「もぎたての果物は新鮮でいいな! なんだか、普段食べるより美味く感じるよなぁー」



 レオンとリオンは、地上のもぎたてリンゴにご満悦(まんえつ)の様子だ。

 ちいさな口でリンゴをシャリシャリとかじりながら、フィトはそんなふたりを見て嬉しそうに顔をほころばせるのであった。


 お腹がいっぱいになったところで、三人は立ち上がる。

 すると。木の隣に看板が立っていたことにリオンが気付く。



「フィト、看板があるよ!」

「ここの看板にはね、いままで歩いてきた方向はガルデニア、今から行く方がグラシナって矢印で示されてるんだよ。いわゆる案内看板ってやつだね」

「へえぇ~! 親切に看板を設置しておいてくれる人がいるなんて! これなら道に迷わなくて済むってわけだね!」



 リオンは便利な看板にとても感動したようだ。人間は広い世界を歩き回る種族だけあるなぁ、などと感心しているのだ。

 フィト自身、木の実を採るために何度もこの場所を訪れてはいたが、この先に進むのは初めてだった。やや不安はあるようだが、何とかなるかなぁ~くらいに考えている様子。ニコニコしながら兄弟にこの先の事についてざっくりと説明をした。



「そうだね! 私もグラシナに行くのは初めてだけど、ほぼ一本道だってリザおばぁちゃんに聞いたことがあるから、迷わないで行けると思うよ!」

「なるほどな。道のりはわかるのか、ちょっと心配してたとこだったんだよ。それなら大丈夫そうだな!」

「あ、説明不足でごめんね!?」

「いいって。そんな謝ることじゃないだろ? ほら、先に進もうぜ」

「えへへ。……それじゃあ、行こっか!」



 フィトの言葉にレオンとリオンは頷き、一行は再び歩き出した。




 ***




 草原に続く道をひたすら進んで行く三人。

 すると。少し離れたところにいる()()が見えた。

「ねぇ、フィト、草原の向こうに、何かいるみたいだけど……」と、リオンがその()()を指さす。



「あれはね、ヤギィの群れだよ!」

「ヤギィの、群れ……? 地上では、ヤギィは群れを成してその辺を歩いているのか……?」

「うん? そうだけど……もしかして、冥界にもヤギィ、いるの!?」

「うん、いるよ。いるんだけどさ。こんな風にその辺を歩き回るヤギィはいないかな……」




挿絵(By みてみん)




 レオンとリオンは、そう言って不思議そうにヤギィの群れを凝視した。

 ヤギィたちは、呑気にもしゃもしゃと草原に顔を近付けて食事をしている。



「そうなの? 地上だと、野生のヤギィたちはいつも、ああやって群れで草原を移動してるんだよ!」

「そう、なんだ……? 僕たちからしたら、物凄く珍しい光景だよ。地上は自然が豊かだからかなぁ。魔界は、普通にしていたら草木は冥界と同じで生えないんだ。だから、ヤギィも野生では生きていけないから、家畜(かちく)として飼われているんだよ」

「えっ! じゃあ、どうやって魔界に草木は生えたの?」

「魔界は、もともとは草木も何にも生えてない、ただの荒野(こうや)だったんだ。その荒野で魔法を使って土地を発展させて、俺たちの住処(すみか)を作ったんだよ」

「へぇ~! すごいなぁ! 何でも魔法でやっちゃうんだねぇ~!」



 フィトは感心して目を丸くした。

 すると少女は魔法の話で思い出したのか、昨夜の感謝を改めてレオンに伝える。



「そうだ! レオン、昨日は魔法で怪我を治してくれてありがとう! おかげで、もう何ともないよ!」

「あ、ああ。それならよかったよ」



 レオンは昨夜の出来事を思い出し、また照れと恥ずかしさでフィトから顔をそむけた。

 そんなやり取りをする二人を見て、リオンはひとり無言になる。

 フィトが怪我をしていたことなんて知らなかった、と。


 昨日は三人でずっと一緒にいたはずだ。怪我なんて、いつしたのだろうか。もともと、どこか怪我をしていて自分だけ気付かなかったのだろうか。

 考えてもわからない。思い当たる節が見当たらない。リオンはそのまま足を止め、フィトの腕を(つか)んで言った。



「ねえ、ちょっと待って。フィト、どこか怪我してたの?」



 いきなり腕を掴まれて詰め寄られたので、フィトはびっくりしてしまう。

 それと同時に、リオンは怪我の事を知らないんだった、と軽く発言してしまったことを後悔する。



「リオン、黙っててごめんね……? たいした事、なかったから……」



 こんなに気迫のあるリオンを見たのは初めてで、フィトはどうしたらいいのかわからなくなってしまった。

 その様子に気付いたレオンは、間に入り弟をなだめる。



「リオン、フィトがびっくりしてる。大丈夫だから、少し落ち着けよ」

「……うん、ごめん」



 リオンはそう言うと、フィトの細い腕からそっと手を離す。

 無言になるフィトを気遣い、レオンは言葉をかけた。



「フィト。たいしたことない、事はないだろ? リオンはフィトのことを心配してるんだよ。それに、大事なことだからリオンにも話しておいた方がいいんじゃないか?」



 レオンの言葉を聞いて、フィトはその通りだ、と思った。

 リオンはいま、自分の事をひどく心配してくれている。

 こんなに自分の為を思って一喜一憂してくれるリオンには、きちんと話すべきだ。

 こくりと頷き、フィトは戸惑いながらもゆっくりと話し始めた。



「……昨日、叔母さんと叔父さんと一悶着(ひともんちゃく)あった時にね、叔母さんに左頬を殴られたの。今までも、殴られたことは何度もあったの。昨日も、いつもの事だからと思って、隠そうと思っていたんだけどね。レオンが怪我してるのに気付いてくれて、魔法で治療してくれたの」



 フィトは伝える。途切れがちになりながらも、素直に、正直に。

 それを聞いたリオンは、フィトの変化に気付けなかったことをとても悔しく思った。

 フィトのことだ。自分たちに心配させまいと隠していたのはわかる。しかし、兄に見抜けたことが自分に見抜けなかったことも、リオンは悔しくて(たま)らなかった。


 ただし、フィトの近くに行かなければ、レオンもフィトの殴られた(あと)に気付けていなかったかもしれない。リオンはそれを知らないので、より一層、歯がゆさを感じているのだろう。

 成り行きを知った所で、リオンが自分の不甲斐(ふがい)なさを悔やむことに変わりはないのだが。



「そうだったんだ……僕、全然気が付かなかったよ……」

「リオン、ごめんね? 私が言わないで隠していたから……ふたりに心配、かけたくなかったから……」

「いや。僕の方こそ、ごめん。びっくりさせちゃったよね。腕、痛くなかった?」



 リオンはそう言うと、強く掴んでしまったフィトの腕にもう一度優しく触れる。

 触れられた腕を見て、フィトはにこっと微笑む。



「うん、大丈夫。痛くないよ」

「そっか、それならよかった。……ねぇ、フィト。これからは、何かあったらすぐに言ってくれる? どんなに小さい事でも、僕は言ってほしい。フィトは我慢して一人で抱え込んじゃうからさ。だから、心配なんだ……」



 そう言うと、リオンはフィトの頭をぽんぽんと()でた。

 フィトはリオンをまっすぐ見つめ、笑顔で言葉を返す。



「……うん、わかった。これからは、何かあったらふたりにちゃんと話すね。心配かけて、ごめんなさい。それに、ありがとう」

 


 レオンはその様子を見て、二人が仲直り出来たことに安堵(あんど)する。

 それとともに、別の感情がレオンの胸をざわつかせる。


 いつもストレートに思いを伝えられるリオン。そんな弟を羨ましく思うとともに、またモヤモヤが(つの)っていく。

 フィトに対して、いつも思ったことを言えない自分。素直なリオンを(うらや)ましく思うと同時に、(ねた)ましく思ってしまう。そんな自分に嫌気が差す。

 そんな風に焦りを感じているのは、兄弟そろってお互い様なのだが。



「……話はまとまったか? そしたら、そろそろ進もうぜ。日が暮れる頃には着いてた方がいいんだろ?」

「うん、そうだね。暗くなって外を歩くのは危ないからね。進もっか」



 レオンの声掛けにフィトとリオンは頷き、三人はまた歩き出す。

 ぶっきらぼうに言葉をかけるのは、いまレオンに出来る精一杯なのであった。

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