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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第二章・旅立ち
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第二話・トラブルトラベル(1)

 ガルデニアの集落を後にした三人は、隣町のグラシナを目指して歩を進める。

 だんだん小さくなるガルデニアの集落を背に、無事にフィトの家から抜け出せたことに三人は安堵(あんど)していた。



「……ふぅ~、ここまで来れば大丈夫、だよね」

「ああ、そうだな。何とかなってよかったよ」

「作戦が成功してよかったねぇ! 僕、すっごくドキドキしちゃった!」

「リオンのたれ耳が、今朝はピンと立ってたからな。相当緊張してんだろうなーと思ってたよ」

「その通りだよ~。うう~、耳が疲れちゃった……」



 リオンはそう言いながら、自分の犬耳をもふもふしている。



「フィト、ここからグラシナまではどれくらいかかるんだ?」

「えっとね。歩いていくと、丸一日かかるの。このペースだと、日が暮れた頃には着くと思うよ! この道を、ずぅーっとまっすぐ進んで行くと着くの!」



 フィトは草原に続く果てしない道のりを指さして言う。

 当然の(ごと)く、フィトが指さす景色の先には草原しか見えるものがない。

 その事実が、グラシナへの遠い道のりを物語っていた。



「隣町っていっても、けっこう距離があるんだねぇ。一体、どれくらい歩くんだろ……」

「うーん、三十キロメートル……っていったところかなぁ。歩くと七時間から八時間くらいかかるって、近所のリザおばあちゃんに聞いたことがあるよ」

「さささ、さんじゅっきろぉ!? そんなに歩くの!? ちょっと気が遠くなってきたかも……」



 うへぇ、とリオンは(しぶ)い顔をした。

 飽きっぽいリオンには、なかなかしんどい旅になりそうだ。

 なにせ、昨日ガルデニアから集落まで歩く道のりですら退屈していたのだから。



「俺たちは普段、そんなに長い距離を歩く事がないからなぁ。余計に気が重く感じるのかもな。人助けと冥界に戻るためだ。リオン、頑張ろうぜ」

「……うん、そうだね。それに、フィトの力になるって約束したからね。よし! 僕、頑張るよ!」



 そう言うと、リオンはぐっと拳を握って見せた。



「ふたりとも、本当にありがとう。大変な思いをさせてごめんね。リオンの言う通り、この先道のりも長いから、時々休憩しながら行こうね」

「フィト、気にしないで! 僕はもうへっちゃらさ!」



 やや空回りな意気込みと元気を見せるリオン。

 すると。リオンの腹から、ぐううぅーと空回りな意気込み? が聞こえてきた。

 リオンは恥ずかしそうに腹をさすりながら「ううー、またお腹鳴っちゃったぁ……」と、視線をそらした。



「ははは! だっせー!」

「なんだよっ! うるさい馬鹿兄だなぁ! 自然現象をバカにするなんて、極悪非道(ごくあくひどう)だよ!」

「はっ、なんとでも言えよ。はらへりはらへらはらへりおん~♪」



 珍しく兄に弱みを握られ、イラつきを見せるリオン。

 小馬鹿にするようにヘンテコな歌まで歌われる始末。

 ギリギリと歯を鳴らし、弟はブチ切れ寸前(すんぜん)だ。



「あはは! リオンのお腹も、がんばろーって言ってるのかもね!」

「そ、そうかな? へへへ。……恥ずかしいけど、何だかほんとにお腹が空いてきちゃったなぁ」

「朝ごはん、食べてないもんね。私もお腹空いたなぁ」



 リオンは少女の優しさに、顔を緩めさせて頭をかいた。自然体な自分の事を受け止めてくれることが何より嬉しかったのだ。

 一方、お腹が空いたと言うリオンの言葉に同意を示したフィト。

 それもそのはず。昨日の夜、レオンとリオンに蜂蜜パイを振る舞ったがフィトは料理の味見をしただけで、夕飯を食べていなかったのだ。

 あの時は、叔母からふたりの料理を死守することで、いっぱいいっぱいだった。

 フィトはふたりに心配をさせまいと、昨夜のことを黙っているつもりなのだろう。どこまでも健気だ。


 そして、フィトの笑顔で毒を抜かれた兄レオン。

 レオンも腹が減っているのは同じだったので、それ以上は何も言わなくなるのであった。



「もう少し進んだところに、木の実がなる木が生えているんだぁ。そこで少し休憩して、みんなで木の実を食べよう!」

「へぇ~! 地上には木の実がなる木が、そこら辺に生えてるの!? すごいね! (うらやま)ましいなぁ!」



 リオンは目を丸くして、ぱあぁぁっと嬉しそうな表情になる。



「冥界には、植物は生えないもんね。そしたら、いつもどうやって食べ物を食べているの?」



 フィトは不思議そうにふたりに聞く。

 素朴な疑問だが、草木が生えない冥界でどうやって食物を作っているのか。

 自然の恵みに囲まれた地上で暮らすフィトには想像もつかなかったのだ。



「実は、冥界とは違う次元に『魔界』ってところが存在してるんだ。僕と兄さんは冥界で門番をやっているから冥界で過ごすことがほとんどなんだけど、本当は魔界が僕たちの住処(すみか)なんだよ」

「ええっ!? そうなの!? ふたりは、冥界生まれ、冥界育ちなのかと思ってたよ!? 冥界以外の場所が存在するなんて、全然知らなかった!」



 フィトは初めて知る事実に、かなり驚いたようだ。

 碧色(みどりいろ)の瞳が大きく見開いている。



「あ、そっか! 話したことなかったっけ! 黙ってたつもりじゃなかったんだけど、いままで話すきっかけもなかったからねぇ」

「そうだな。それにフィトの言う通り、俺たちは冥界で生まれて冥界で育ったんだよ。俺とリオンは能力の高さを買われて、ハーデス様直々の指名で冥界の門番に抜擢されたんだ。門番の仕事を担うために、冥界で色々な事を教わってきたんだぜ」

「魔界にちゃんと家はあるんだけどね。食事するのも寝るのも、冥界の城に用意された部屋でいつも済ませちゃうから、僕たちにとっては冥界の方が馴染(なじ)み深いんだよねぇ」



 レオンとリオンは誇らしげに自分たちの故郷の話しをする。

 冥界の門前でフィトと会っている時には、ここまで自分たちの深い話しをしたことがなかった。

 楽しそうに話す様子を見ていると、冥界や魔界での暮らしは退屈さもあれど、悪いものではなかったようだ。



「へええ! ハーデスのおじいちゃんに直々に選んでもらえたなんて、レオンとリオンって、本当はすごい兄弟だったんだねぇ! エリートだっ!」



 フィトにそう言われて、嬉しそうに兄弟は照れ笑いする。

 しかし。遠回しにディスっているという事実を、三人は誰も気付かないご様子。

 鈍感さと、いい感じの馬鹿さ加減が、裏目を裏目にひっくり返しているのだろう。



「あぁ、そういえば、話がそれちゃったね! 食物の話の続きだけど、冥界と違って魔界では植物が育つんだ。だから魔界で食物を作っているんだよ」

「ほへぇ~! なるほどね! なんだかすごいなぁ。地上だけでもこんなに広くて、まだまだ知らない事だらけなのに、世界って本当に果てしないね!」



 フィトは兄弟の話を聞いて感動したのか、目を輝かせながら話を続ける。



「普通だったら、魔界や冥界のことなんて知らずに人は一生を過ごすんだろうけど……不思議だね。私が冥界に行ってふたりに出会えたことで、こんなにもたくさんの事を知って、世界が変わって見えるんだもの。色々な事を見て、知って、考え方も感じ方も昨日の私とは別人になっていくんだね。人も成長していくんだ。生きるって、そういうこと、なのかなぁ……」



 しみじみと、フィトはそう語った。

 いままで、生きることについてなど、深く考えた事はなかったからだ。


 閉鎖(へいさ)された毎日の中で、同じ時間を繰り返すだけの生活。

 兄を待つことと、時々冥界に遊びに行く事だけがフィトの希望であり、楽しみだったのだ。

 外の世界を知って自分の意志で行動するということは、フィトにとって見果てぬ夢だった。

 そんな奇跡を叶えてくれたレオンとリオンに、フィトは心から感謝する。



「レオン、リオン。私を連れ出してくれて、ありがとう!」



 そんなフィトの言葉を聞いて、兄弟は胸が熱くなる。

 連れ出してくれてありがとうは、自分たちのセリフなのだ。

 フィトが自分たちに、この光る世界を見せてくれた。

 とても長い間、暗い冥界で同じ生活を繰り返してきたレオンとリオン。

 ふたりもまた、フィトと同じ気持ちだったのだ。


 同じ世界といっても三人は、次元の違う場所でそれぞれの時を過ごしてきた。

 こうして三人が共に過ごす事は、普通では有り得ない事なのだ。



「……俺さ、こんなに楽しくて、わくわくするのは初めてなんだ。もちろん、早く冥界に戻らないといけないんだけど……冥界と魔界は地上みたいに、こんなにたくさんの景色は見られなくて、本当に狭い世界なんだ。だから願わくば、ずっとこの景色を見ていられたらいいのにって、度々思うんだよ」



 レオンはそう言った後、「それに……」と顔を赤くして何かを言いかける。

 ところが(むな)しくも弟に言葉を(さえぎ)られ、それはかき消されてしまう。



「僕もだよ。地上って、本当に美しくて綺麗なんだもの。それに、フィトと一緒にいられることが何より嬉しいんだ。こうしてフィトが住む地上の事を知れるのも、とっても楽しいしさ! 生きてるって、こんなに素晴らしいことなんだって初めて思えたよ!」



 フィトはふたりの言葉を聞いて、くすぐったそうに笑顔を浮かべた。

 ふたりが自分と同じ気持ちを感じてくれていることがとても嬉しかったのだ。


 レオンは本当に言いたかった事を言えなかった上に、それをリオンに言われてしまった事が口惜(くちお)しかった。

 嬉しそうなフィトの顔を見ると、そのモヤモヤが膨れ上がるような気さえする。

 自分がフィトと一緒にいられることが嬉しいと伝えたかったな……と、無念を抱えるのであった。

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