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アルティメット エンド  作者: 齋音寺 里
第二章・旅立ち
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第一話・日の出とともに(2)✿挿絵✿

 フィトはさっきの話をふたりにしてみてはどうか、と考えていた。

 いま起きていることすべてが、グラシナの地震に関係していることなのであれば、グラシナに行けばすべてが解決するかもしれない。そう思っていたからだ。


 すっかり気に入ったロッキングチェアに腰掛けるリオンと、毛布の上にあぐらをかくレオン。ふたりはフィトが想像していたよりもずっとのほほんとしていた。

 冥界に戻れない事を焦らずに受け止められる、ふたりの肝の据わり具合はなかなかのものだ。

 フィトも一旦ベットに腰掛け、ひとつ深呼吸をして話すことにした。



「ね。レオン、リオン。冥界で声が聞こえたって話ししたの、覚えてる?」



 フィトがその話を始めた時。レオンは(すさ)まじい速さと動きで、隅っこの壁にびたっと張り付いた。

 この上なく気持ちの悪い動きである。



「や、やめろよ、朝っぱらからそんな話し! べ、別に、怖いとかじゃ、ないけどな!?」

「ぷぷっ! 兄さん、もう今さら隠さなくてよくない? 兄さんの幽霊嫌いはとっくにバレてるんだからさぁ~」

「うっ、うるせーなっ!」



 面白おかしく話すリオンに、レオンは牙を()いて(うな)る。

 それを見ていたフィトはそうじゃない事を説明しようと、あわあわとふたりを仲裁(ちゅうさい)する。



「レオン、落ち着いて? 幽霊の話じゃないの、たぶん! わからないけど、生きた人だと思うから!」

「フィトさん。それ、説得力ないっすよ……?」



 怖気(おじけ)づいてキャラが崩壊しているレオンを見て、リオンは必死に笑いを(こら)えている。

 どっちにしろ、オカルトな話に変わりはないよ! と、リオンは可愛いフィトのセリフに心の中で突っ込みを入れた。



「と、とにかくね! 助けを求める声が聞こえたの。冥界で聞こえたのと同じ声が、今朝聞こえたんだよ。グラシナに行かなきゃなの!」

「フィト、少し落ち着いて? もうちょっと詳しく話して欲しいな」

「ううーん? 上手く言えないんだけど、寝てるときに、その声が意識に語り掛けてくる、みたいな……?」



 なんて言ったらいいのか分からず、説明が支離滅裂(しりめつれつ)になってしまう。

 リオンの言う通り、とにかく落ち着こう。フィトはそう思い、深呼吸をしてゆっくりと、ありのままを話し始めた。




 ***




「……なるほど、不思議な現象だねぇ」

「たぶん、地震の被害に()って困ってる人の声なんだと思うの。どうしてその人の声だけ聞こえるのかは、わからないんだけど……。それでね、ドアが冥界に繋がらなくなった原因が地震にあるなら、グラシナに行けば、何かわかるかもしれないと思ったの」

「そっか! グラシナで人助けと問題解決って訳だね! いいと思う!」

「……そうだな。今のところ、それしか冥界に戻れる手掛かりもないもんな」



 幽霊の話ではないとわかって、いつの間にか会話に参加しているレオン。

 安堵(あんど)の表情で、うんうん、と首を縦に振っている。



「でもさ、叔母さんと叔父さんのことは大丈夫なの?」

 心配そうな面持ちで、リオンはフィトに声をかける。



「……私も、悩んだの。でも、助けてって言ってる人を放っておくこと、したくないの。ふたりを無事に冥界に送り届けたら、ここに戻って来るよ。もしかしたら、そのまま追い出されちゃうかもしれないけど……。そしたら、どうするかはその時考える。今は、ふたりが冥界になるべく早く戻れることと、グラシナで困ってる人を助けることの方が、大事だと思うから」



 フィトはレオンとリオンを見つめ、決意したようにそう話す。

 なんとも行き当たりばったりな考え方かもしれない。

 だけど、いまは思うまま進んでみよう。後のことは、その時考えればいい。

 きっとグラシナに行けば何かわかる、そう信じて。



「……それにね。あの声が言ってたこと、ちょっと気になっててね」

「えっと……早くしないとグラシナだけじゃなく……ってやつ?」

「うん。きっと何かを伝えたかったんだと思うんだけど、その先はわからなかったから……」

「なるほどな。確かに気になるよな……。早くって言ってるくらいだから、一刻を争うようなことなのか?」



 レオンの言葉を聞いてフィトは「そうかもしれないね……」と、不安の色を浮かべる。

 しかし。こうしている間にも、助けを求めた人は苦しんでいるかもしれないのだ。

 そう思い、悩んでいる時間はないんだ、と決心したように前を向く。



「そうと決まったら、出発しよう! それに、早くしないと叔母さんと叔父さん、起きちゃうからね!」

「そういえば、いま一体何時なんだ?」

「確かに! 全然気にしてなかった!」



 そう言って、リオンは首から外していた懐中時計に手を伸ばし「……えっとね、時計は五の刻を指してるよ」と、時刻を告げる。

 時刻を聞いた途端。フィトは血相(けっそう)を変えて立ち上がった。



「そうなの!? 大変! いつも叔母さんと叔父さんは六の刻には起きちゃうから、急がなきゃ!」

「マジかよ、そいつはやべーな! 急がないとだ!」

「あと一時間しかないよ!? 大丈夫!?」

「うん! だいじょーぶ! 支度するから、ちょっと待っててね!」



 フィトはそう言うとレオンとリオンが寝ていた毛布を手早くたたみ、物置部屋に運び込む。

 兄弟は慌てるだけで何も出来ずに、わさわさしながらその様子を見ているだけで終わってしまった。

 フィトは立ちぼうけする兄弟を気にする事無く、小さな鏡の前で髪をすき、身支度を済ませる。

 小さなポシェットをハンガーラックから手に取ると、タンスの引き出しを開け、荷造りを始めた。


 兄弟はフィトが使っていた鏡を見て、ちょいちょいと寝癖(ねぐせ)を整えようと奮闘(ふんとう)する。

 ただし、鏡はやっと一人が使えるほどの大きさだった。我先に鏡を見ようとするふたり。

「どけよ!」「邪魔!」「目障りだ!」などと、兄弟は朝っぱらからケンカしている。


 そんな兄弟をやはり気にすることはなく――。

 フィトは荷物を詰め終わると、重たそうにポシェットを斜めがけした。

 ぎゅうぎゅうに何かが詰まったポシェットが、ボコボコと(いびつ)な形に膨らんでいる。



「おまたせっ! それじゃ、行こっか!」



 鏡の立ち位置争いをしていた兄弟は、いつの間にか支度を終えたフィトの姿を見て驚いた。

 しかし驚いたのは、支度の早さではない。

 歪な形になるほど膨らんだ、重そうなポシェットを背負って立つフィトの姿だ。




挿絵(By みてみん)




「だ、大丈夫か? ずいぶん重たそうだぞ……?」

「荷物、持とうか? しんどそうだよ……?」

「ううー……あまり持っていくものはないんだけど、お金を貯めてたぶん全部持ったら、結構重くなっちゃった。でも大丈夫、だよ!」



 むん! と気張るフィト。しかし、だいぶ辛そうだ。



「お。そういえば、ちょうどいいものがあったなー……」

 そう言うと、レオンはポケットから小さな本を取り出す。


「ああ、これかぁ! もともと便利だなぁと思ってたけど、こんな風に役立つ日が来るなんてね!」

「なーに? これ、本だよね?」



 本とふたりの話に興味深々のフィト。

 身を乗り出してまじまじとレオンの小さな本を見つめる。



「……これはな、こうやって使うんだ」



 そう言ってレオンが本を開く。本のページには、空白の四角い枠が書かれていた。

 そして、四角い枠の中にナイフが描かれたページをめくる。レオンはそこに手をかざす。

 すると。本に描かれていたナイフが突然、目の前に実体化して出てきたのだ。

 本の中のページからは、ナイフが消えている。



「ナニコレ!? 手品!? すごいすごい! 本からナイフが出てきたよ!? しかも、浮かんでる!」

 フィトは大興奮して、宙に浮かぶナイフと空白になった本の四角い枠を交互に凝視(ぎょうし)した。



「これもリオンの時計と同じ、マジックアイテムなんだ。『ポケットブック』っていって、本に道具や荷物をしまって持ち運び出来るんだよ」

「へええぇ~! すごいねぇ! ハイテク本? ハイテクブック? だぁ!」

「こうやって、必要な時に道具を出して使うことが出来るんだ」



 レオンはそう言うと、ナイフを手に取り、くるくると回して見せた。



「わぁーっ! レオン、手品と大道芸(だいどうげい)を一緒にやるひとみたいっ!」



 きらきらと瞳を輝かせ、フィトは感動している。

 少女がパチパチと大袈裟(おおげさ)な拍手と褒め言葉を送ると、レオンは少し得意げな表情を見せた。

 お世辞にもカッコよくはない、少々まぬけな褒め言葉な気もするが。



「使わないときは、またしまっておけばいいからな。何度でも入れたり出したり出来るんだ」



 レオンは手に持っていたナイフを、先ほどの四角い枠に入れる。

 すると、またナイフの絵が本のページに浮かび上がった。



「重さも本の中に入れたらなくなるんだぜ。フィトがよければ、ここに荷物をしまっておくか?」

「えっ! いいの?」

「ああ、もちろんだよ」

「じゃあ、お願いしようかなぁ……」



 おずおずと、フィトはポシェットをレオンに差し出す。



「じゃあ、しまっとくな……って、これは女の子にはずいぶん重たかったんじゃねーのか!? フィト、結構力持ちなんだな……」

「そうかなぁぁ? えへへ……」



 預かったポシェットが予想上に重くて、レオンは開いた口が(ふさ)がらなかった。

 フィトはテレテレと頭をかいている。



「レオン、ありがとう! 助かっちゃった!」

「ああ、気にすんなって。役に立ててよかったよ。……んでもって、ここにフィトの名前を書いとけば、フィトが自分で荷物を取り出すことが出来るからな」



 レオンはポシェットを本にしまうと、羽根ペンをフィトに手渡す。

 フィトは、ほぇ~、と言いながら自分のポシェットが入ったページに記名した。



「兄さんのポケットブックは確か、最大で五十個の道具をしまえたよね!」

「そうなの!? わぁー! すっごく便利だね!」

「便利なんだけど、気を付けないといけない事があってな。道具が入ったまま本が燃えると、中にしまってあったものは元に戻らないんだ」

「わ! それは怖いねぇ……くわばらくわばら……」



 (おび)えた顔を見せるフィトに、レオンは「ははは、気を付けていれば大丈夫だよ」と笑いかける。

 そんなこんなで支度を終え、いよいよ出発の時。

「それじゃ、行こっか!」と、フィトはふたりに声をかける。

 レオンとリオンはそれを聞いて頷くと、フィトに続いてそっと階段を降り、下の部屋に向かう。


 下の部屋に降りると、廊下にもリビングにも人影は見えなかった。まだフィトの叔母と叔父は寝ているようだ。

 緊迫した雰囲気の中、警戒しながら足早に歩いて行く。音をたてないように玄関の扉を開け、ついに三人はフィトの家を抜け出したのだった。




 ***




 外に出ると日が昇って辺りはもう明るかったが、朝もやで少し視界が悪く感じられた。

 見通しが悪いこの状況は、こっそり出ていくには丁度いい。

 フィトはそっと、オオンドリのいる鳥小屋に近付く。

 鳥たちはすでに目を覚ましており、扉を開けるフィトに近付き、すり寄ってきた。



「このコたちのお世話してたの、私だから。叔父さんと叔母さん、可愛がってくれるかわからないから、自由にしてあげたくて……」

「そっか……会えないの、寂しくなるね……」

「うん……」



 寂しそうに、しゃがんだまま鳥たちを()でるフィト。

 フィトは長年可愛がってきた鳥たちと、最後の別れを惜しむのだった。



「でもこいつら、外の世界で生きていけるのか?」

「もともとオオンドリはね、野生で過ごしてる鳥なんだ。だからきっと、このコたちも外の広い世界に戻ったら自由に強く生きていけると思う」



 不安に思いながらも、鳥たちが幸せに生きることを願って、フィトはそう言葉を返した。

 そして、自分の部屋から持ってきた小さなパンをちぎり、最後に鳥たちに食べさせてやる。

 鳥たちは嬉しそうに「おおん! おおん!」と鳴きながらフィトの手のひらからこぼれたパンのかけらをつついた。



「……みんな、元気でね。これからは、自由に生きていいんだよ」



 鳥たちはフィトの言葉がわかるのか、それを聞いてぴたっと食べるのをやめた。

 とても悲しそうに、こちらを見つめている。

 そして「おぉん……おぉん……」と、静かに鳴き声をあげてフィトに近寄ってきた。



「……寂しがってくれるの? この家でそう思ってくれるのは、あなた達だけだよ。嬉しい……」

 そう言うと、フィトは涙を堪えて鳥たちに笑顔を向ける。


「それじゃあ、私は先に行くね。……みんな、ばいばい!」

 フィトはすっと立ち上がると、鳥たちと家に背中を向けた。



「……もう、いいのか?」

「鳥たち、寂しそうだったね……」

「……うん。可愛そうなこと、しちゃったかなぁ……。でも、きっとまた会えるよね」



 フィトの言葉に、レオンとリオンは笑顔で頷く。

 フィトはふたりに微笑み返すと、まっすぐに遠くを見つめる。


 日の出とともに、三人の旅が始まった。

 朝もやの中、三人は隣町・グラシナを目指して進むのであった。

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