参上!!
「よし。今日もここでやろう」
「はい!」
俺たちは前回特訓した場所に来た。
ここは街から見えないところにあるし、森を通ってこないと遠回りしてこないといけないから、おそらく人は来ない。
なかなか都合がいいのだ。
「じゃ、早速精霊魔法を練習していこうか」
「よろしくお願いします」
「と言っても、俺は精霊魔法が使えないから、試行錯誤しながらになると思うが。でだ、俺が調べた限りだと、精霊魔法は結構単純みたいだ。発動したい魔法をイメージして、体から魔力を出す。そうすると、周囲にいる精霊が、あとは勝手にやってくれるみたいだ」
「それで、出来るのですか?」
「知らん。俺が調べた限りだと、これであっているみたいだぞ?」
多分間違いではないと思う。
俺の知り合いに精霊魔法が使える奴がいるが、精霊魔法はイメージさえしっかり出来ていれば、ちゃんと発動できるみたいだ。
「ちなみに、発動できる魔法の規模は、使う魔力に比例するみたいだ。逆に言えば、魔力が足りなければ魔法はうまく発動しない、らしい。それと、複雑な魔法は、少し必要魔力量は増えてしまうみたいだ」
「なるほど……」
「あとは……精霊についてか。まぁこれに関しては、今は気にしなくてもいいと思うぞ。精霊との契約とか、いろいろあるらしいが、ぶっちゃけ俺は分からん。別に契約してなくても魔法は発動できるみたいだから、一先ずは精霊魔法を発動できるようにしてみよう」
「わかりました。頑張ります!」
ん~、精霊魔法は調べれば調べるほどよくわからん。
専門家に聞くべきかね?
でもなぁ、精霊魔法を使える知り合いって一人しかいないんだよなぁ。
そこそこ離れた街を拠点にしてるし、会いに行くのめんどくさいなぁ。
……手紙でも出して呼び出すか。
俺じゃないが、どうせ暇だろうし。
まぁそれは後でいいか。
さて、今は目の前で早速アデラちゃんが魔力を出して魔法の発動を試みているが、うまくいくだろうか?
俺が出来ないから教える事が出来ないのが申し訳ないな。
どうせ俺は出来ないからって諦めないで、ちゃんと勉強しとけばよかったな。
「あっ!」
「ん?」
アデラちゃんがいきなり声を上げたので見てみると、そこには……
「火?」
「で、出来ました!出来ました!」
アデラちゃんの手先には、小さな火の玉が浮かんでいる。
ん?なんかおかしいな……あっ!ちょっとずつ大きくなってる!
いや、ちょっとどころじゃないな。
大きくなるスピードがどんどん上がっている。
「アデラちゃん!魔力を止めて!ドンドン大きくなってるよ!」
「えっと、えっと、ど、どうしましょう!止まりません!」
まずい、アデラちゃんが予想外の事で焦ってしまって、自分の意志とは関係なく魔力を出し続けてしまっている。
魔力切れになるだけなら問題はない。
休めば回復するからな。
しかし参ったな、一度発動した魔法をキャンセルする事なんて出来ないぞ。
少なくとも俺にはな。
「『ダブリング・クロック』」
俺は自分に魔法をかけてから、アデラちゃんがに近づいてそのまま抱える。
そして、アデラちゃんを抱えた俺は、一気にその場を離れた。
ドゴォォオオン!!!
アデラちゃんから離れた魔法が、制御を失い爆発した。
「うわぁ……これまたとんでもない威力だな。直撃したら、生きていられるかわからないぞ……」
でもすごいなぁ、ついさっき始めたばかりなのに、もう魔法を発動出来たのか。
しかも、暴走してしまったとはいえ、凄まじい威力だった。
「すごいじゃないかアデラちゃん。初めての魔法であんな威力が出せるなんて」
「…………」
「どうした?」
「その、ごめんなさい。シオン様を、危険な目に、合わせてしまいました」
魔法がうまく出来なかったことよりも、俺が危険な目に合いそうになったことを気にしてるのか。
「ハハ、俺を甘く見るなよ?あの程度、俺にとっては危険でも何でもない。むしろ、うまく出来るまで好きなだけやっていいぞ?」
「シオン様……」
「その証拠に、俺たち二人とも、なんともないだろう?さ、もう魔法の発動自体は出来たんだ。あとは発動した魔法を制御できるようになればいいだけだ。なに、なんど暴走しても、何度でも助けてやるから、安心して特訓するといいよ。それとも、俺じゃあ力不足か?」
「いえ!そんなことはありません!その、よろしくお願いします」
「おう!任せろよ」
そうして、俺たちは特訓を再開した。
いつでも魔法を発動できるように、俺も気を張っておかないとな。
なんか、俺の訓練にもなりそうだな。
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夕方には、街に帰ってきた。
結局、今日は魔法の制御は出来なかった。
途中から、魔力を出したり、動かしたりする練習に切り替えた。
まずは、魔力の扱いに慣れた方がいいと、俺が判断した。
そして、今は夜。
俺は部屋で手紙を書いている。
アデラちゃんはもうベットで寝ている。
さて、なんて書くか。
とりあえず、この街に来るように書けばいいか。
あっ、ついでに、せっかく遠くの街から呼び出すんだから、何か土産でも頼んでおこう。
「うし、こんなもんでいいか。あっ、あぶねぇあぶねぇ。俺の名前を書き忘れてた」
我が友人、Sランク冒険者『氷帝』のフィリア様へ
Aランク冒険者『不死身』のアルシオンより
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二日後。
「ま……シオ…さ………様」
「ん~」
「きてください。起きてください!シオン様!」
「……あと五分」
「何を言ってるんですか!お願いです!起きてください!」
うごぉ~~~朝はきつい。
低血圧の俺には地獄だぁ。
「ん~……どうしたの?」
「その、ギルドの人が、シオン様を連れてこい、と」
「ギルドが……こんな朝早くから何の用だぁ?」
俺は部屋の窓を開ける。
「おいおい、まだ日が上がりかけてる時間じゃないか。こんな時間じゃ、街にはまだ誰も出てきてないだろうに。ほんとに何の用だ?」
まぁ、いいか。
行けばわかる。
「ギルドの人は?」
「先にギルドに行っているみたいです。
「そうか、わかった」
そう言って、俺は部屋を出る。
「あ、あの!そのまま行くんですか?」
俺は自分の恰好を見る。
寝間着だ。
「あぁ。よくもこんな朝早くに呼び出してくれたな。という意味を込めてな。アデラちゃんはどうする?ここで待っててもいいけど」
「いえ、私も行きます」
「わかった。じゃあ行こう」
俺とアデラちゃんは部屋をでる。
「あの、本当にそのまま行くんですね」
「もちろん。まぁ、誰もいないし、変な格好をしてるわけじゃないから、見られたって問題ないしな」
大きなあくびをしながら、俺たちはギルドに向かった。
俺たちはギルドについた。
受付には誰もいない。
当然だ。
こんな朝早くから居るわけがない。
そのままギルドマスターの部屋に向かう。
「ようマスター。こんな時間に呼び出すとは一体どういう了見だ……」
扉を開けて、俺はギルドマスターにいつものように終えをかけようとする。
そこには、マスターは居たが、もう一人、別の人物がいた。
「おはよーシオン君!」
「……おはようございます?」
「おいシオン。どうしてここにSランクの『氷帝』がいるんだ?」
「そんなこと俺に聞かれても…………あっ!すまん。俺が呼んだ」
「シオン君、今忘れてたよね?」
「ソンナコトナイヨ」
来るの早くね?
手紙を書いたのは二日前だが、出したのは昨日だぞ?
そもそも手紙が来るのに何週間もかかるハズなんだが。
一体どうやって……。
「あの、シオン様。この方は?」
「シオン君、この子は?」
「えっと、まずアデラちゃん。この人はSランク冒険者で『氷帝』の二つ名を持っているフィリアだ。で、フィリア。この子は、俺が面倒見てるアデラちゃんだ。手紙は見たか?」
「うん、見たよ。この子がそうなの?」
「おう、その通りだ。で、どうやって手紙を見たんだ?」
「実は、もともとこの街に来る予定だったんだよ。で、ついでにこの街まで行く商隊の護衛をさっきまでしてたんだ。それで、何となく商業ギルドに寄ったんだけど、なんでも、私宛に手紙があるっていうから、読んでみたんだよ。で、そのままここに着た」
「日の出前に、俺の寝室にSランクが現れたからびっくりしたぞ」
マスターの目が充血している。
完全に寝不足の目だ。
「……ん?ちょっと待てよ。それと、この時間に俺が呼びだされたんのと何の関係があるんだよ」
「私が会いたかった」
「ふざけんな」
「えぇーヒドイ」
「ヒドイのはそっちだ。見ろ!俺の服装を!寝間着だ!」
まぁそれはわざとだけどな。
「それに、俺の愛剣まで持ってくるのを忘れたじゃないか」
これは素で忘れてた。
ギルドについてから気付いた。
「えぇ、いいじゃん」
「よくねぇよ。とりあえず、顔は合わせたからもういいだろ?もう一回寝てくるから、起きたらまたここに集合という事で」
「やだ」
「やだじゃねぇよ。ガキか」
「私をシオン君の部屋に連れてって」
「なんでぇ?」
「今からじゃあ宿とれないし」
「それ、こんな時間に街に来たのが悪いんじゃない?」
「か弱い女性を外にほっぽり出しておくの?」
「か弱くねぇだろ。でもまぁ、女性を外にほったらかしにしておくのはなぁ」
「じゃあいいでしょ?ね?」
「アデラちゃん、どうする?」
「えっと、いいんじゃないでしょうか?」
「じゃあオッケーで」
「やった」
はぁ、たいしたことじゃなくてよかった。
こんな時間にギルドに呼び出されたのは、何年か前の、緊急依頼の時以来だな。