おんぶ。
報告です。
前回の、主人公が魔法を使うシーンで、『リターン』とあったのですが、これを『タイム・リターン』に変更しました。
理由としては、自分が気に入らなかったからです。
それでは、本編をどうぞ。
「まさか、こんなところでAランクの冒険者にあってしまうとは……道理で部下たちがやられるわけです」
「そういうお前はどうなんだ?勝てそうか?」
「ハハハハハ!無理ですね!ですが、これも仕事なので……」
そう言って、男は俺に向かって構える。
「嬢ちゃん、あいつに何か聞きたい事とかあるか?」
「……いえ、お気遣いありがとうございます」
「そうか。じゃ、とっとと終わらせよう」
俺は瞬時に相手の後ろに回り込む。
「タァ!!」
男の首に向かって殴りかかる。
「ハッ!」
「お!避けたか」
「あなたほどではないようですが、私もそれなりの修羅場を生き抜いてきましたからね。目で追えなくても、勘で何とかなります」
「らしいね」
このままだとちょっと時間かかりそうだな。
ちょっと魔法使うか。
「『ダブリング・クロック』」
魔法を発動した瞬間、俺は男に一気に近づき、首に手刀を食らわせる。
「かはっ!?」
一瞬、男が俺を見ていた気がしたが、そのまま倒れ、動かなくなった。
「すごい……これが、Aランク」
後ろで、俺の戦いを見た少女が目を輝かせている。
「ハハッ、まだまだこんなもんじゃないぞ?……で、この後どうするんだ?俺はここに散らかってる奴をかたしたら、街に戻るつもりだが」
「えっと、その」
「ん?決まってないのか?」
「えっと……ついて行っても、いいですか?」
ついてくる、か。
どうしたもんかなぁ。
とりあえず、俺は転がってる死体を外に運びながら考える。
そもそもあの子は何者なんだ?
なぜ命を狙われるような状態だった?
まぁ、考えてもわからないけどね。
という訳で、聞いてみよう。
「なぁ、聞いてなかったんだけど、嬢ちゃんは何者なんだ?」
「…………」
黙ってしまった。
どう答えるべきか、考えてるみたいだな。
ちょっと意地悪してみるか。
「どう答えたらいいか、考えてるみたいだな」
「!?」
「どうしてわかったのか、って顔だな。俺は仕事柄、いろんな奴と関わってきた。だから、相手がどんなことを考えてるのか、何となくわかるんだよ」
ホントは、この少女が分かりやすいだけだけどな。
読心術なんて器用なこと、俺には出来ない。
「別に、どう答えても構わないよ。ただ……嘘を言ったら嬢ちゃんのお願いは聞かないけどな。何者だ、という質問に対して、嘘をつくや奴を街に連れて行きたいとは思わないだろ?」
「………」
んー、これはためらってるのかな?
後ろめたい何かがあるのか、それとも、事情があるのか。
まぁ、嬢ちゃんが口を開くまで待つとするか。
「……わかり、ました。正直に答えます」
「そうか」
「私の名前は、アデラナ・アトラソフ。いえ、今は、ただのアデラナです」
「家名があった、という事は元貴族か」
「はい。先ほど、私を襲ってきたのは、貴族だった頃の婚約者が雇った方たちです」
「婚約者?」
「そうです。どうやら、私を奴隷にしたいようで……」
なるほどなぁ、そりゃあ捕まりたくはないわな。
「……どうして、貴族じゃなくなったんだ?」
これが、俺が一番聞きたかったことだ。
回答によっては、非情だが、見捨てる事も考えないとな。
「……借金です。領地を持っていた貴族だったんですが、仕事に失敗し、統治資金が足りなくなって」
「そうか……」
借金、か。
…………俺は……そうか、手を貸してやりたいんだな。
きっと、他の理由だったら、街までは行っても、そのまま放置したり、場合によっては、ここで見捨てたりしただろう。
俺と、似てるんだよな、俺も元貴族で、借金が原因で没落ているからな。
同情、してるんだな。
「これが、最後の質問だ。嬢ちゃんは、家を復興したいと思うか?」
「……いえ、そんなことは、考えていません。私は、貴族としての教育を、受けている途中でした。両親は、借金が返済しきれないと分かって……自害しました。一時的に、アトラソフ家の当主という扱いになった私は、領地を他の貴族に売ることで、借金を返済しました。私はその時に、平民として生きていく事を、自分で決めたんです」
そう言って、少女は俺に向き直った。
「お願いします。街に、連れて行ってください」
そうして少女は、俺に頭を下げた。
はぁ、ここで貴族に戻りたいとか言ってたら、俺の居る街とは別のとこに連れて行こうと思ったが……。
「いいぞ。連れて行ってやる」
「え?いいん、ですか?」
「いいぞ。ほら、今から行くぞ。夕方になる前には街に入りたい」
「はい!」
そう言って、少女は元気に笑った。
「さて、嬢ちゃ……いや、アデラナさん」
「アデラ、でいいですよ。家族には、そう呼ばれていましたから」
「?そうか。わかった。じゃあアデラちゃん。抱えるのと、おぶるの、どっちがいい?」
「……え?」
質問の意味が分からない、と言った顔だ。
「ここから街までは、かなりの距離がある。歩いて行ったら夜になっちまう。だから、俺がアデラちゃんを持ち上げて走るから、脇に抱えられるのと、背中におぶられるの、どっちがいい?」
「え?え?」
アデラちゃんは困っているようだ。
でも、俺が抱えて帰らないと街に入れなくなってしまう。
夜は街の門は開いていないからな。
流石に、何の準備もなく野営はしたくない。
もともと昼飯の代わりに、ここの果実を食いに来ただけだからな。
「早く決めてくれ。俺は野宿はしたくないぞ」
「え?えっと、それじゃあ、背中で?」
「そうか、分かった」
そう言って、俺は背中を向けてしゃがむ。
「ほら、乗れ」
「あ、はい」
アデラちゃんは俺の背中に体を預けてくる。
「よしっと、じゃあ行くぞ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「おう」
こうして、俺をアデラちゃんは街に向かった。
アデラちゃんに負担が掛からないように移動したため、ちょっと想定より遅くなってしまった。
結局、街についたのは夕方だった。