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白撃の銃使い~天を穿つ者~  作者:
第一章 物語の始まり
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1話 送りし者、送られし者

「ありがとう、か」


 右手の人差し指を抱げてすっと振り下ろした。合図だ。


 増井を中心に半径2mを周囲の空間から≪遮断≫していた能力が解かれる。


 何人も異界に送ってきたが、感謝の言葉を送る前に言われたことなど今までなかった。

 本当の俺を認めてくれてありがとう、か。面白い男だ。

 まっすぐに俺の目を見つめて言った青年。

 どのような異界に飛ばされ、そこでどのような生活を送るのか。


「増井、時間、ない」


 いつの間にか隣に並んだ背の低い女性が背中を突っついてくる。彼女は≪能力探知≫

 もう一人の≪遮断≫能力と共に彼とチームを組んでいる。


 彼らはこれから、力を使い放火を繰り返す能力者の元へと向かわねばならない。

 

 放火犯を送られる異界側に取っては迷惑極まりない話だろうが、な。

 能力者。いつから出現し始めたのかは不明。政界の大物を筆頭に極秘に設立された名もなき機関は能力者を次々に葬ってきた。


「!?痛いですよ」


 隣に立つ女性が足を踏んづけてきた。腕時計を見る。時間はあまり残されていない。


「行きますか」


 いつか、もし会うことが叶うのなら、あなたの話を聞かせてください。名も知らぬ若き能力者よ。

 



☆ 

「ん……」


 えーっと、なんだ、俺は魔法陣に吸い込まれた。

 その前に、サラリーマン風の男と話してて、そうだ。異界に送ると言われた。


 とするなら、だ。ここは今まで俺が暮らしていた世界とは異なる世界、すなわち異世界、ということなのか。


 まずは周辺観察。暗い。埃っぽい。人の気配は、ない、かな。出会いがしら殺されそうになる、というシチュエーションはないみたいで安心。どこかの建物の中か。ほのかに周囲を照らしているのは月明りが窓から差し込んでいるからのようだ。


 とても静かだ。周囲を見て回りたいところだが、一旦考えよう。なんの考えもなしに歩き回ってたら危ない。


 ここが異世界だと仮定した上で。あの男はどの異世界に送るかわからない、というようなことを言っていた。

 裏を返せば世界はいくつもある、という言い方だ。そうか、世界たくさんあるんだ、って感じだ。話の規模が大きすぎる。


 次。奴との話を思い返すと能力者を異界へ今までも送ってきた、という口ぶりだった。俺が暮らしていた世界にも、やっぱり特殊な力を持っている者はいたんだ。そいつらは秘密裏にほかの世界へ送られていた。問答無用で送るのはひどい気がするが、彼らなりの信念があるのかも、しれない。彼らが何者だったのかは今となっては知り様がないことだ。だけど、俺を異界へ送った男、悪い男には見えなかった。いつか、叶うことなら話してみたい。今までどんな奴を異界へ送ってきたのか。どんな気持ちであの世界で暮らしているのか。


 次。これが最も重要かもしれない。彼の言葉に「片道切符」という言葉があった。往復切符じゃない。行ったっきりってことだよな。あくまであの男の能力の性質だろう。あの世界に未練がない、といえば嘘になる。18年も暮らした世界だ。

 それなりの愛着はある。大学生活にだって興味大ありだ。紳士淑女の社交場(合コン)行きたい。


 家族、は大丈夫か。両親は俺が小5の時に離婚。父親に引き取られた。家事なんかやったことない父親の代わりに父方の祖父母が俺を育ててくれた。その祖父母も、祖父は中学に上がる前に、祖母は昨年亡くなった。


 父親は働いておらず家に引きこもっている。祖父母が遺してくれた遺産で生活している状況だ。

 言ってみれば俺のただ一人の肉親=父親ってことになるんだが、、、まぁ、あの人はあの人でたぶん、何か楽しいことを見つけたんだろう。俺も父親も互いの部屋に籠っているからほとんど顔を合わせることはない。


 最後にちゃんと話したのってばあちゃんの葬式のときか。

 そんな関係だからしばらく会えないくらい、俺は大丈夫。たぶん、向こうも大丈夫だろう。捜索願くらいは出すだろうが。


 なんにしても心配をかけるのは心苦しい。会いたいやつだって、何人かいるし、続きが気になる漫画だっていくつかある。


 とりあえず、当面の目標は「元いた世界、地球に帰る方法を探すこと」としよう。ただ、何か事情があったときや、この目標以上に大切なことを見つけた場合は、修正しよう。こだわりが思考を制限する。それはとても窮屈なことのように思う。


 さて、と。したら、この建物の探索を始めるか。慎重に行く。元の世界に帰るうんたらより、何より大事なのは自分自身の命。

 まずは生き延びることが最優先。月明りを頼りに部屋を見回す。広さは10畳くらいだろうか。壁際に本棚発見。手に取ってみる。

 文字読めない。そっと棚に戻す。


 他に変わったものは、ないな。小さい書庫、か?


 念のため何回か見回してみたがここがどこか分かるような物は置いていない。

 となると、この部屋を出てみるしかないか。

 視線をドアへと向ける。ゆっくりと近づく。ドアの前に来た。そっと耳をドアに押し当てる。


 特に物音は聞こえてこない。ドアの先も平和そうだ。


 ドアノブに手をかける。金属。ゆっくりとノブを回す。回った。鍵はかかっていなかった。


 ぎぃっと音を立てながらドアを開けた。


 灯りが目に入った。ろうそくに火が灯っている。祭壇のようなものに、いくつかのろうそくが置いてある。

 そして人の姿。祈るように手を組み膝をついている。フードを被っているので性別年齢不明。


 どうする。一旦引き返したほうがいいか?そうしよう。そう思いドアを閉めようとしたところで膝をついていた人影が立ち上がり、

そしてこちらを向いた。


 え、っと。え。無言が続く。なんだろうこれ。何か、話しかけたほうがいいのか?敵意はなさそうだし。敵だと思われないため

にも会話したほうが良いな。


「えっと、初めまして。ここがどこか聞いてもいいですか」


 温和な感じで話しかけてみた。


「ここは聖堂です」


 聖堂。なるほど。祭壇あるしな。ふむ。会話終わった。何か話の種になりそうなことを探そう。


「他に人がいないようですが」


「こんな時間ですので」


「こんな時間、というと?」


 時間を人に聞くなんてスマホがある時分でする問ではないがここは異世界。


「今は2時半です」


 2時半っていうと、夜中の2時半ってことか。もう寝てる時間だな、普段なら。それとこの世界も24時間制なのだろうか。 

 スムーズに答えてくれたところを見るとたぶんそうなんだろうけどそのうち確認しなけば。


「よければ、出口まで案内しましょうか?」


 声音で気づいた。女性だ。


「お願いします」


 素直にその申し出を受けることにする。


 どうぞこちらへ、といって女性が歩き始めるので駆け寄るようにそばへと行く。並んでみると俺より背が低い。155cmくらい

だろうか。声の高さからするにまだ10代半ばくらいだろうか。


 次々とドアを開けて進んでいく。うむ、まるで迷路だな。


「先ほどいた場所は聖堂の最深部です。複雑な構造をしているでしょう?」


 心を読まれた、わけではないな。きょろきょろしてるし、俺。


「なぜこのような構造をしているんですか?」


「一説には、信仰の度合いで聖堂のどこまで進めるかが決められるそうです」


 信仰の度合い。信仰心が高ければ高いほど奥に進める、ということか。

 

「実際は身分によって分離されているのですが」


 そういった彼女の声は、心なしか落ち込んだように聞こえた。身分差別に心を痛めている、ということか。

 おそらくだが、先ほど俺と彼女が出会った場所はこの聖堂のかなり奥のほうだったはず。というか、最深部だろう。

 目につく範囲で入口が一つしかなかった。


「そろそろ外に出ますよ」


 まもなく最後のドアが現れ、彼女が静かに開いた。


 辺りを月明りが照らす。


 周囲は森に囲まれている。


 風が吹き抜ける。しかしそれは冷たさを与えるものではなかく、心地よさを与えた。

 季節は、秋くらいだろうか。肌寒さは感じない。というより、コートを着ている分暑いくらいだ。


「挨拶が遅れました」


 そういって彼女はフードをゆっくりととった。


「私、エリル・リピローグと申します」


 そう名乗った彼女の髪は青かった。水色、かな。ってか、名前もろカタカナ表記のほうだよな。とりあえず俺も自己紹介をするか。


「雲鳥 雪です。よろしく」


「クモトリユキ?」


 棒読みで読み上げ、そして首をかしげる。


「えーっと、ユキ・クモトリです」


 おそらくエリルが名前、リピローグが家名だろうから俺もそれに倣って自分のフルネームを言い直した。


「クモトリ、聞かぬ家名ですね、それにその髪色は……」


 言葉の途中でエリルの目つきが鋭いものへと変わった。なんだ。


 さっと周囲を見回し、発見した。


 牛?が立っている。いや、牛なんてかわいい雰囲気じゃねぇな。これは……。


「ミノタウロス……なぜAランクの魔物がこんなところに……!!!」


 エリルが後ずさりする。

 

 ミノタウロスって言葉は聞いたことがある。確か、神話に登場する怪物だよな。あんまり神話に詳しくない俺でも確かに、目の前のそれは「あ、こいつ神話に出てきそうだな」くらいには分かる。それくらいの迫力がある。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』


 雄たけび。戦闘態勢に入るかのようにミノタウロスが少し腰を屈め、右足を後ろへと引く。その様はまさしく突進のポーズ。

 来る……!!


 地面を蹴り上げ、まっすぐにミノタウロスが俺たちをめがけて突進してくる。

 想像以上に速い。背を向けて逃げれば殺される気がする。ちくしょ、なぜこんな目に。

 嘆いてはいられない。嘆いているだけでは殺されるだけだ。


 やるしか、ないのか。


「うおおお!!!!!」


 己を奮い立たせるように俺は吼えた。


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