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白撃の銃使い~天を穿つ者~  作者:
第一章 物語の始まり
17/18

16者 冒険者は


                                         

「おい、ミレイ、そいつと組むのかよ」


 突然降ってきた言葉に、私とユキは反射的に声が飛んできた方向を向く。


 そこにいたのは、今朝、ミスカとの会話で名前の出た冒険者だった。


「ゾルド。何か用?」


 『鉄剣』のゾルド。人間の男。面倒なのが来たものだ。


「おう、お前、俺が何度パーティーに誘っても入らなかったのにこんなガキと組むのか?」


 その顔には「気に食わない」、とはっきり書いてある。

 ユキは、居心地悪そうに私とゾルドの顔を見比べている。


「何か問題でも?」


 立ち上がって答える。ゾルドは180cm近いので自然と見上げることになる。


 周囲が静まり返る。皆がこちらを注目しているのが分かる。


「俺にもメンツってもんがあんだよ」


 ゾルドからは何度かパーティーを組もう、と声を掛けられていた。そのたびにはっきりと断って

いた。何度誘ってもイエスと言わなかった女が、小僧ごときとパーティーを組むのが気に食わない、

というだけの理由で突っかかってきているだけだろう。


「ふむ、で?」


 聞き返す。お前のメンツなんぞ知らん。


「その坊主、ランクは?」


 明らかに自分よりランクが下であることを知っていてわざと言わせようとしている。

 ゾルドは野蛮そうな雰囲気とは裏腹に情報収集は欠かさない男だ。


「Eランク」


 私が答えるよりも早くユキがゾルドの質問に答えた。


 見ると彼は、別段緊張した風でもなく、肘をついてつまらなさそうに私たちを見ている。


「Eランク??おいおい、冒険者になりたてのルーキーじゃねぇか!!」


 分かってたけどなぁ、といった感じでゾルドは大げさに笑う。彼のパーティーメンバーも同調して

笑う。



 ユキのことを馬鹿にされると怒りが沸いてきた。杖を握る手に力が入る。


「あんたは?」


 ユキがゾルドに尋ねる。


「おう、覚えておきな、俺はBランク。『鉄剣』のゾルドだ」


 ギルド内に響き渡るような大声でゾルドは言い放つ。ギルド職員も騒ぎが起きれば止めに入って

くれるが、現時点ではただ言い争っているだけなので介入しかねているようだ。


「ゾルド、ね」


 手を組みその上に顔を乗せ、なおもつまらないものを見るようにゾルドを見ていたが興味がなくなったのかユキは壁に掛かっている時計をちらっと見上げた。


 その態度が気に食わなかったのだろう。ゾルドはてめぇと言ってユキに掴みかかろうとした。


 杖を握る手に力を込める。あまりギルドに損傷がないようにしなければ、そう思ったところでゾルドが掴み掛かろうとしたまま動きを止めていることに気付く。



「んっ!?!」


 不思議そうにゾルドはユキに掴みかかろうとして、動きを止めている右手を見る。


「何だ、てめぇ?!!」


「ここは屋内だからさ。やるなら外でやろうぜ、『鉄剣』のゾルドさん」


 ユキが≪力≫を使ったのだと理解する。


「Eランクのくせに俺とやるって??良い根性してるじゃねぇか、泣いても許さねぇぞ」


 ユキがゆっくりと、めんどくさそうに立ち上がる。


 じゃぁ外に、ユキがそう言いかけたときだった。バン、ドンと音が響く。


 ギルドの扉が勢いよく開き、そして勢いよく閉じられた音だ。



「おい……!あれ!!」


 ゾルドのパーティーメンバーが呻くように声を上げる。


 そこにいた人物を見て私は一瞬呼吸をすることを忘れそうになった。


 心なしかギルド内の室温が何度か上がったような気がする。


「朝からずいぶん元気だなぁ~、何やってんの?あたしも混ぜてよ」


 真っ赤な前髪をかきあげながら女はこちらに歩み寄ってくる。


 冒険者ならばその名を知らぬ者はいない。



「『狂炎』!!!!!!」


 ゾルドがびくっとして、下がる。


 ユキが力を解いたのか体を自由に動かせるようだ。


「近くに来たから寄ってみたよ」


 一瞬にしてギルド内の雰囲気を変えた張本人はにやりと笑みを浮かべながらミスカの

方を向いている。


「んで、何やってんのさ、こいつらは」


 くるりと再び私たちのほうを向き直る。


「ん?お~よく見たら高ランク冒険者がいるね。『鉄剣』と『旋風』か」


 状況説明してくれよ、と『狂炎』のフィアムは近くにいた冒険者に尋ねる。


 尋ねられた冒険者はびくびくしながらも、状況を説明する。その説明は客観的なもので

ミレイ、ゾルドどちらにも偏った説明ではなかった。


「ふぅん、なるほどね、くっだらないわねぇ」


 ゾルドを見てフィアムは尚も言葉を続ける。


「あんた、そんなんだからAランクに上がれないのよ」


 ずけずけ言うフィアムにその場の冒険者は凍り付く。ゾルドはと言うと、顔を強張らせて

黙ってフィアムの言葉を聞いている。内心激しく憤っているのだろうが、フィアムとの実力差は

他でもないゾルドが良く分かっている。


「んでそっちの、『旋風』えーっと、名前は……」


「ミレイ」


 素早く答える。相変わらず人の名前を憶えない女だな、と内心でため息をつく。


「ああ、ミレイね。久しぶり。何年ぶりだっけか」


「5年」


「ああ、もうそんなに経つのか。時が過ぎるのってホント早いわよね。あんた、早くAランクに

上がってきなよ。Aランク冒険者の数が足りてなくてさ、休む暇なく働いてんのよ、あたし」


 最後は愚痴っぽくなっている。相変わらず思ったことはそのまま口にする、という性格は変わって

いないようだ。しかし、その雰囲気はかつてよりか幾分成熟したものとなっている。


 そしてフィアムはユキへと目を向ける。じっと彼を見つめている。ユキもまた、その視線を

真っ向から受け止めている。その目は、先ほどゾルドに向けられていた無気力なものとは異なる

ものだ。


「あんた、何者?」


 フィアムが油断なくユキを見つめて問う。


「Eランク冒険者」


 堂々とした言葉はギルドに響く。思えば、ユキの声は澄んでいて大きな声ではなくともよく響く。


「Eランク。ルーキーね。ふぅん。あんた良い面構えね」


 その場の誰もが黙り込み2人の会話の行方を聞いている。


「どうも」


 短く答え、ユキはフィアムを射抜くように見上げる。


「こんな感覚久しぶりよ。底が見えない相手ってのは。一戦交えたいところだけど、見たところ

あんた、最近激戦を繰り広げた後みたいね、消耗しているように見えるわ」


 近くの椅子を引き寄せてユキの前に腰を下ろす。


 見定めるように顔を覗き込む。


 ユキはと言うと、自然体のまま。傍からみているとユキとフィアムが見つめあっており、どちらかが

少し顔を近づければキスできるくらいの距離だ。


「面白い。うん、面白れぇわ。あんた名前は?」


「ユキ」


「ユキね、その名前、覚えたわよ。戦うのはお互い万全の時まで取っておくわ」


 そう言ってフィアムは立ち上がり、それじゃ!と手をひらひらとさせてギルドを後にした。本当に近くに寄ったから顔を見せに来ただけのようだ。


「おい、フィアムが名前を聞くって、まじかよ……」


 1人の冒険者がつぶやく。


 フィアムは人の名前は聞かない。どうせ覚えないから。それでも、時として相手の名前を聞き、覚える

時がある。それは『ロックオン』を意味する。興味深い相手を見つけた時だけに見せる彼女の癖。


「おい、ゾルド、こいつ、ヤバいんじゃねぇか?」


 ゾルドの仲間が彼に耳打ちする。ゾルドも言われるまでもなくそんなことは分かっている、とばかりに

ちらっとユキを見る。その目は先ほどまでユキに向けていた嘲りや驕りといったものは見られない。


 ゾルドとて馬鹿ではない。フィアムが目を付けるということがどういう意味を持つのか分からない

男ではない。



「っち」


 舌打ちするようにゾルドがその場を後にしようとした。それを制したのはミレイでも、ギルド職員でも

なかった。


「待てよ」


 ユキがゆっくりと立ち上がる。


 びくり、とゾルドが動きを止める。


「先に喧嘩吹っかけてきたのはそっちだろ?やろうぜ」


 ユキは腕を組みゾルドを見る。


 ゾルドは明らかに狼狽している。


 さて、どうしたものか。とりあえずユキ、お前は今目立ちすぎだ。


 私はユキとゾルドの間に割って入る。


「さっさと行け」


「くそっ」


 悪態をつきながらゾルドはギルドから出て行った。


「なぜ止めた?」


 ユキが非難めいた視線を向けてくる。


「目立ちすぎだ。悪い方に。変に目立つと動きにくくなることがあるんだ」


 とにかく座れ、と言って二人で席に着く。


 ユキはいまだにむすっとしている。こういうところは子供だなぁ、とどこか愛しさに

似た感情が沸いていることに気付く。


「いいか、基本的に冒険者とはもめない。どんなに嫌な奴でも、だ。立場によってはそんな

奴とでも手を組まなければいけない場面だってあるからだ」


 はいはい、と聞いているのか聞いていないのか分からないような返事をするユキにちゃんと

聞け、と顔を両手で包みこちらを向かせる。


「んだよ」


 ユキの頬が若干赤くなっているのは照れているからだろう。


「ゾルドは、確かに残念な冒険者だが、あれでそこそこ腕は立つ。敵に回すよりは味方につけた

ほうが良いタイプだ。といっても、しばらくは無理だろうがな」


 ため息を一つつく。


 それにしても驚いた。

 

 他の冒険者も声に出して驚いていたがあのフィアムが相手に名前を尋ねるとは。あの女は基本的に

名前を尋ねない。彼女にとって多くの冒険者、いや周りの人間は有象無象に過ぎない。そんな者に記憶を割くのは無駄、ということらしい。


 その彼女がEランク冒険者であるユキに名前を尋ねた。


 彼を評した言葉、『底が見えない』。それはミレイも感じていることだった。

 

 ユキの潜在的な強さを再認識するとともにそれを一目で見抜いたフィアムの観察眼にも舌を巻いた。


 直感。冒険者は時に一瞬の判断が命取りになることがある。直感を信じて行動しなければならない

場面がある。その時、正しい選択を取れることが冒険者として生き延びることにつながる。


 フィアム。やはり彼女は別格と見て良い。


 その証拠に、ユキもフィアムに対しては慎重になっていた。


 もう一度ため息をつきながら彼女は今日、何をして過ごそうかと考えるのであった。



 先ほど目の前に座った、フィアムと言う女。


 かなりの力を感じた。


 ゾルドとかいう男は、それほど大したことはない。雑魚ってほどじゃないんだろうけど、俺の方が強い。


 ミレイが止めなければぼっこぼこにしてやったところだ。でも、ミレイの言った通り、自分から諍いを

起こすのは今後は避けるべきだな。


 ミレイを危険に巻き込むことにもつながりかねない。


 狂炎のフィアム。あれは、強い。少なくとも今、疲れが残っているこの状態では勝ち目が薄いように感じた。


 っふ。面白い。


 にやりと口角が上がる。


 巨神兵と戦い、正直俺は『巨神兵みたいな化け物には勝てなくても人間相手なら敵なしなんじゃねぇか?』と己惚れていた。

ゾルドを見て、そう思った。こいつがBランク冒険者として持て囃されているのか?と。


 だが次に現れたフィアムを見てその考えは撤回する。


 Aランク冒険者、あいつらは別格だ。


 もっと、強くなりたい。


 フィアムにも、巨神兵にも、誰にも負けないくらい強くなりたい。


 それが今、俺の頭を大きく占めていることだった。



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