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白撃の銃使い~天を穿つ者~  作者:
第一章 物語の始まり
16/18

15話 振り返って

 目を覚ますと体がまだ若干の痛みを訴えてきた。


 しかし動けないレベルではない。


 ベッドから起き上がる。


 部屋の雰囲気からしてリピローグ家であることを悟る。


 えーっと、結局どうなったんだっけ。

 

 巨神兵との戦いを振り返る。


 振り返って自分が生きていることが奇跡的であることを感じる。


 強かった。本当に強かった。


 渾身の空気弾を放ってなお、巨神兵はその動きを止めなかった。


 巨大な拳が眼前に迫った時には死を覚悟した。


 だが死は免れた。奴の活動時間に制限がなければ、と考えるとぞっとする。


 ベッドから起き上がり部屋を出た俺はリビングへと向かう。


 居たのはエリルの母親、モナさんだけだった。


 彼女から話を聞くとグレイ氏は王城へと仕事に出かけ、エリルは学校に行き、ミレイは誰よりも

早く家を出て行ったらしい。

 気が向いたら冒険者ギルドで待っているから会いに来てくれ、という伝言付きで。


 飲み物だけいただき冒険者ギルドへと向かった。


 他にすることないし、受注したクエストの達成報告もしなければならない(ちゃんとマジハリ草は持ってる)


 冒険者ギルドの扉を開けるとすぐにミレイを見つけた。彼女も扉が開く音に反応していたので目が合う。


 右手を上げて挨拶をすると彼女は微笑みながら近づいてきた。


 俺たちは空いている席に腰を下ろす。


「何か食べてきた?」


 ミレイに尋ねられる。


「いや、何も食べてない、腹減った」


 腹が何か食わせてくれ、と鳴いている。


「じゃぁ何か頼もうか」


 ミレイから座って待っておくよう指示を受け、お預けを食らった犬のような気持で椅子に座ってミレイが戻ってくるのを待つ。


 次第にギルド内にいる冒険者が増えていく。

 こうして見ていると今から一日が始まる、という雰囲気がビシビシと伝わってくる。


 とりあえず今日はクエストの達成報告して、休もう。今日は仕事したくないでござる、を発動しても

怒られないだろう。


 ほどなくしてミレイがピザのようなものとサラダを皿に盛って戻ってきた。


 ギルドでは飲食ができるらしくクエスト後に仲の良い冒険者同士でその日の冒険を語り合う光景は

日常の一コマらしい。


 食事代はミレイが持つ、ということなのでありがたく礼を言ってピザに手を付ける。

 うん、うまい。最高にうまい。


 サラダをむしゃむしゃ食べているとミレイが話しかけ来た。ってかミレイ、あんまり食わないんだな、ダイエット中か?


「昨日は本当に助かった。礼を言うよ」


 そう言ってミレイは頭を下げる。


「俺のほうこそ、ミレイがいなきゃどうなっていたか」


 顔を上げてくれと伝えるもミレイはなかなか顔を上げない。

 

 頭を下げられていてはサラダも食べにくい。俺は手を止めてミレイとちゃんと向き合う。


「私はあの時お前を置いて逃げようとした」


 頭を下げたままミレイは続ける。


「逃げろと言ったのは俺だろ」


 2人で戦っても勝てるかどうか怪しかった。勝ち目の薄い戦いに2人して挑んで二人とも命を落とすよりも確実に一つ命が助かるのであれば、俺はそちらを取る。その考えは今、この瞬間も変わっていない。


「でもお前は逃げなかった」


 ようやくミレイは顔を上げた。


 ミレイが無言で見つめてくる。俺の言葉を待っている。


「まぁ、そうだな、俺の頭の中にあの時逃げるっていう選択肢はなかった。正確に言えば、ミレイを残して逃げる、っていう選択肢だな」


「それはなぜだ」


 一瞬考える。考えるもうまくまとまらない。だから俺は思ったことをそのまま口にすることにした。


「あの遺跡でも言ったけど、あそこでミレイを置いて逃げていたら俺はこれから先、誰と戦っても勝てないような気がした。うまく言えないけどさ。それに自分らしく生きる、っていうのが俺の目標なんだ。

あそこで女の子を置き去りにして逃げおおせるのが自分らしい、なんて思いたくなかった」


 それだけだよ、と俺はミレイに言った。


「そうか。ふふ、面白いな、ユキは」


 面白いか?と首を傾げるとミレイはさらにくすくすと笑っている。


「まぁ、そういうわけだからもう気にするなよ」


 なんだか照れくさくなったので俺はサラダを食べる作業へと戻る。


 わかった、とミレイは言った後、彼女もサラダに手を付けるのだった。




 一通り食べ終えてふぅ、と息をつく。


「うまかった。ごちそうさま」


「なかなかいけるだろう?酒も置いてあるから飲みたくなったら言え。付き合うぞ」


 ミレイの言葉に俺は反応する。


「いや、俺はまだ酒は飲めないぞ」


 お酒は二十歳からだろ。


「?ユキ、お前何歳だ?」


「18」


「なら飲めるな。18歳から酒は飲める」


 ええええ。え?え~、嘘だぁと思ったがミレイは冗談とか嘘を言っている様な感じではない。まぁ、地球でも大学に入ってすぐ酒を飲む奴らがいるとは聞くしな。


「じゃぁミレイも最近飲めるようになった感じか?」


 それとなくミレイの年齢を探る。さすがに何歳ですか?とストレートには聞けない。女性だからね。

 気遣いが出来る男はモテる。モテを意識する年頃。


「ん?っはは、やっぱりお前、私のこと同い年くらいだと思っていたのか」


 おかしそうにミレイは笑う。


「エルフは見た目と年齢が必ずしも一致するわけじゃないんだよ。その証拠に私は120歳だ」


「!?」


 流し込んでいた飲み物が変なところに入ってむせる。


 120歳!?俺の7倍近く生きてるじゃねぇか。うっそぉん。


「エルフは長寿の種族だ。平均でも千年は生きる。エルフは100歳で『大人』扱いを受ける。

と言っても、まだまだエルフの中では私は若輩者だがな」


 いやぁ、俺からみたらおばあちゃんだよ。


「今、失礼なことを考えただろ?」


 じっとミレイが俺を睨む。


「エルフ、か。初めて会った。エルフ以外にはどんな種族がいるんだ?」


 年齢の話はやめておいたほうが良い、と判断し話題をそらす。


「ふむ、逆にユキは何を知っている?」


「人間とエルフ」


 なんとなく、エルフがいるならこういう種族もいるのかな?っていう察しはつくけどさ。


「主な種族としては人間、エルフ、獣人、妖精だな」


 その中でも獣人はいろいろな種類があるという。人狼とか。


「割合で言えば、人間が60%、エルフが4%、獣人が35%、妖精が1%といったところだな」


 エルフと妖精すくねー。


「それにエルフと妖精は人前に出ることが少ない」


 なるほど、じゃぁなおさら今こうしてエルフであるミレイと話していることは貴重ってことか。

 貴重、というのは時にそのまま『危険』につながる。だからミレイは今もフードを被りエルフの

特徴である長い耳を隠しているのか。


「なるほどな。獣人に妖精、か。興味はあるが妖精に会うのはあまり期待できそうにないなぁ」


 何せ1%だ。そして人前に出ないということであればなおさら遭遇率は下がるだろう。



「そうだな。私もまだ一度も妖精に会ったことはない」


 120年の時を生きるミレイが会ったことがないのなら、なおのこと会えそうにない。

 妖精ってどんな感じなんだろう。羽のある美少女が頭に浮かぶ。ミレイに聞いてみようかな、と思ったが彼女は他に話したいことがありそうなのでこの疑問は別の機会に取っておくことにする。



「ユキはこれからどうするつもりなんだ?」


 抽象的な質問来た。しかし俺とて自分自身に同じような質問をぶつけて来たからな。答えられるぜ。


「まずは金を稼ぐ。エリルから金を借りてるんだ」


 ふむ、とミレイは頷く。


「金を返した後は?」


「とりあえずそのまま金を貯める。俺、お金全然持ってねぇんだよ」


 その言葉にミレイはやれやれ、と小さく首を左右に振る。


「ある程度金が貯まったらこの世界を旅してみようと思ってる」


 その言葉にミレイはパッと反応する。


「旅?」


「ああ。って言ってもどこに行きたいだとか何をしたいとかは決まってない。ただ、この目でこの世界

がどんなものなのか見て回りたいんだ」


 頭には四大不可思議という単語が過ったが一旦置いておく。


「目で見る、か。しかし世界は広いぞ」


 ミレイですら行ったことがない場所のほうが多い。というよりアルバノス周辺以外は知らないらしい。


「ゆっくり見て回るよ。急ぎってわけでもないから」


 スポーツドリンク的な飲み物を飲み終えコップを机に置く。


 なるほど、とかふむふむ、とミレイは独り言をこぼしている。


「どうした?」


 尋ねるとミレイは顔を上げてこちらに少し体を乗り出してきた。


「提案がある。どうだ、私とパーティーを組まないか?」


 パーティー?言葉の意味は分かるがここでそれが何を意味するのかが分からないのでそのままミレイに

質問する。


「冒険者の活動の方法にも二通りあるんだ。ひとつはソロ、つまり1人でクエストをこなしていく者。

もう一つは何人かとパーティーを組んでクエストにあたるもの」


 ネトゲとかでよく聞くな。ソロ狩りとか。俺はネトゲやったことないけど。知識としては知っている。


「ソロのうまみは報酬を独占できることか。パーティーの場合は効率とか安全度が上がるってんだろ?」


 予想したことをミレイに伝える。


「そうだ。だがもう一つ、パーティーを組むメリットがある。最大のメリットがな」


 ミレイが人差し指をちっちっち、と左右に振る。なんだよ、と俺は先を促した。


「通常冒険者は自分の冒険者ランクと同等以下のクエストしか受注できない。しかし、パーティーを組む

ことでパーティー内で最もランクが高い冒険者のランクまでのクエストを受注することができるんだ」


 ミレイは飲み物を一口飲む。


「クエストのランクが高くなれば当然難易度は高くなる。だがそれに比例するように報酬も上がっていく」


 つまり、高ランクのクエストをこなすことで俺は効率よく金を稼ぐことができるということか。


「ミレイの冒険者ランクは?」


「Bだ」


 少し胸を張って答える。冒険者ランクと胸のカップもイコールじゃないか?という質問は決して口に出さない。怒られる気しかしない。


「Bか、えーっと、Sランクまであるんだったよな、かなり上位のランクじゃねぇか!」


 俺が褒めるとミレイは嬉しそうに笑う。


 俺がエリルから借りている金を伝えると、それなら休みながらクエストをこなしても一週間あれば稼げるという。


 これはありがたい話だ。急がないとは言ってもだらだらとクエストをこなすのは精神的にもあまり

良くない気がする。


「その話、乗った」


「よし、成立だ」


 ミレイが右手を差し出してくる。


「ん?」


 俺は首を傾げながらもとりあえずその手を握り返す。


 ぎゅっとミレイが力を込めて握り返してきた。


 この世界では握手は挨拶的な感じのものっぽい。


 その後俺は受付へ行き、マジハリ草採取クエストの達成報告をした。報酬をもらいその場を後にする。


 受付の職員は冒険者登録してくれた『微笑みの受付嬢』(勝手にそう呼ぶ)だったがこの間以上に

その目は優しさを帯びていた。しかしあの人、失礼ながら『若さ』があまりないんだよな。話していると

かつて、祖母と話していた時のような気持ちになるのだ。寛大そうだからかな?



 パーティーを組む場合はギルドに申請する必要があるらしく、そっちはミレイがやってくれた。

 とりあえず、お試しとして1週間組んでみよう、ということで話はまとまった。


 ミレイも俺も特にすることがないので椅子に座って世間話をしていると会話に乱入してくる者が現れた。


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