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白撃の銃使い~天を穿つ者~  作者:
第一章 物語の始まり
12/18

11話 死闘

 大広間へと足を踏み入れ、空間の全体を見回す。


 天井が結構高い。どのくらいだろう。10mとかだろうか。ピンと来ない。

 

 先に入った女性も俺と同じように辺りを見回している。そういえば名前聞いてないな。

 後で教えてもらおう。


 さて、ある程度見回したあとに大広間の中央部に目を向ける。


 巨大な岩がそこにあった。岩全体に何かしらの紋様が描かれている。


 嫌な気配の正体はこいつか。


 何かしら神聖な岩なのかな。


 その時だった。


 ゴーンゴーンと鐘のような音が鳴り響く。なんだ。


 さっと周囲を見回す。見ると入口と反対側の壁の方に大きな砂時計が現れている。先ほどまでは

なかったものだ。そしてその砂時計が出現した少し上の壁に文字が浮かび上がる。当然俺はその文字

を読み取ることができない。


 教えてもらおう、と思って一緒にここに入った彼女を見る。見ると彼女は硬直していた。

 

 そしてぱっと俺を見て、そして入口へと視線を移した。


 何?なんて書いてあるんだ、そう問いかけようとしたところで中央に置かれた巨大な岩が輝きを発する。


 眩しい、何だよ……。俺は手で目を覆うようにして光を視界から遮った。


 光が少しずつ収縮していくのを感じ手をどかす。そして次に俺は腰を抜かしかけた。


 そこには巨大な岩の兵士がいた。ゴオオオオオオオオオオオオと唸り声のようなものをあげている。


 圧倒的な威圧感。本能が告げている。逃げろ。今すぐここから逃げろ、と。この世界に来て初めて

戦ったミノタウロスを前にしたときも威圧感は感じた。しかしそれとは比にならないほどのプレッシャー。


 足が、すくむ。


隣を見る。彼女もまた同じように巨大な岩の兵士を見上げていた。


「巨神兵……」


 彼女の口から単語が漏れる。巨神兵?名前からしてやばそうだな。


 巨神兵はまだ動かない。しかし手を開いたり握ったりしている。まるで今から暴れまわるからな、

と告げているように。


 気になることが一つ。砂時計の上に書かれている文字。なんて書かれてるんだ。まだこの世界に来てばかりだからあそこに書かれている文章の意味はまるでわからない。ただ一つ『1』という数字が書かれている

ことは分かる。この世界、数字という概念、そして文字としての形は共通しているらしいのだ。


 あの1が何を意味しているのか。考える。俺はあの文章は理解できないが傍にいる彼女はどうだろう。


 恐らく理解したはずだ。文章見つめ、理解し、そして俺を見て入口を見た。


 ここから何が導けるか。砂時計。あれは何だ。何らかの時間を示しているはずだ。


 何の時間だ。視界の片隅にずっといるそいつを見る。


 彼女が巨神兵と呼んだそれ。先程までは訳のわからん紋様が描かれただけの岩だったそれ。


 限られた情報の中で、まず仮説を立てる。間違っていてもいい。とにかくこの状況を『整理した』という

事実が欲しい。そうでなければ次の行動に移れない。


 砂時計は巨神兵が活動できる時間、もっと言えば最初に見た岩に戻るまでの時間だとする。


 砂時計の上に書かれた文章の意味は、この大広間から今、出られる人数。


 それを確かめるには彼女に問いかけるしかない。


「ここから、一人出られるのか?」


 単純明快にただその一点のみを確認する。


「ええ。誰か一人がこの広間に残っていなければ、広間からは出られない」


 一人だけ出られる、と一人残っていればみんな出られる、では大きく意味が違うが今この大広間

には俺と彼女の二人しかいない。どっちにしろここから出られるのはどちらか一人だけ。

 だから彼女は文章を読んだ後に俺を見て、そして入口を見た。

 俺を残して、この大広間から脱出する、と。

 

 どうする。彼女と入口までデッドレースを繰り広げるか?


 それで勝って、嬉しいかな、俺。


 嬉しくないよな。誰かの命を踏みつけて生き延びて、そんで俺、胸張ってエリルにただいまって

言えるか。言えないよな。あの子に胸を張ってただいま、と言いたい。俺に手を差し伸べてくれたあの子に

恥じない生き方をしたい。それが今の俺にとっての『自分らしい』だ。


 この世界で自分らしく生きると決めた。地球から持って来たのはこの《力》だけ。だけどこの《力》

がある。この力で生き抜くって決めた。そうだろう。


「行けよ」


 俺は巨神兵をまっすぐ見つめて彼女に声を掛ける。


「勝手について来たのは俺だ。だから別に変な罪悪感なんかいらないぜ。俺は好きで残るだけだ。

だから、君は遠慮なく入口へ走れ」


 ホルスターから『天』『地』を抜く。


 巨神兵の瞳に光が宿る。やたらとウォーミングアップが長いのは、誰をここに置いていくか

決めるための時間か?だとしたら、優しいのか残酷なのか分からないぜ。


 瞳が、俺を捉える。そろそろ動き出しそうだな。


 圧倒的な力を感じる。恐らく、俺はこいつに勝てない。それでも、戦う。


「死ぬぞ」


 彼女が短く告げる。そうだな、目の前の圧倒的強者を前にして生きて変える自分のイメージが全く

わかない。これが絶望ってやつなのか。


「なぜ逃げない?」


 なぜ私を置いて逃げないのか、そう聞かれているのだろう。


「ここで君を置いて、こいつから逃げたら、俺はもう誰と戦っても勝てない気がする」


 エリル。悪い。帰れないかもしれない。けど、ただじゃ死なないぜ。今の俺の全てをこいつに

ぶつける。

 会ってちゃんとお礼が言いたかった。優しくしてくれてありがとう、と。


「さっさと行け。もう時間はないぜ」


 そう言ったが直後、巨神兵の口が大きく開かれる。


『ウォオオオオオオオオオオオオ』


 戦士の雄叫びだった。歴戦の戦士の雄叫びだった。


「行くぜ……!!!」


 砂時計の砂が落ち始める。


 巨神兵が右腕を後ろへ引く。

 

 構えからして拳を打ち込んで来るつもりだろう。


 銃を握った腕をクロスして壁を作る。


 轟音と共に拳が迫ってくる。


 ちらっと後ろを振り返るとフードを被った女性は入口へと走っていた。


 それでいい。助かる命があるのなら、助かるに越したことはないのだから。


 視線を巨神兵へと戻す。


 拳が空気壁にぶつかる。


「っくぅうう………………!!!」


 なんつぅ力だ。足を踏ん張るがざざざと地面を擦りながら後退する。


 耐え切れねぇ。


 体が宙に浮き上がる。拳の衝撃に耐え切れない。


「うわぁあああああああ!!!」


 空気壁が破れる。勢いそのままに拳が俺めがけて打ち抜かれる。


 視線を上空へと向ける。転移。


 上空へ退避した俺は眼科を見下ろす。俺が先程までいた場所は巨神兵の拳によって抉れていた。


 巨神兵の高さはおおよそ5mくらいか。俺は天井に程近いところまで転移している。


 膂力が半端じゃない。空気壁で防御するのは得策じゃない。地力が違いすぎる。


 となれば攻撃を受けないように躱して行くしかない。


 そう考えていたときだった。


 巨神兵の顔がこちらを向き、口が開かれる。そこに光が収束していく。


 おいおい……まじかよ。


 直後、口から光線が真っ直ぐ俺へと向かって放たれる。


 ちぃ。


『天』『地』を構え空気を圧縮するには時間が足りねぇ。だったら再び転移するしかねぇか。


 しかしどこに転移する。巨神兵は中央に居座っている。大広間のどの端に飛んでもやつの攻撃の

射程圏内だ。ならば逆に懐に忍び込むか。


 巨神兵の胴付近に視線を向けそこに飛ぶ。光線は俺がいた場所をそのまま通過する。


 よし、右手に空気を圧縮する。空気拳、くらえ。


「おらぁ!!!」


 拳を胴に叩き込むが巨神兵がダメージを受けた形跡はない。


 硬すぎる。ん!?


 視界に巨神兵の膝が入る。膝蹴り、こいつ、でかいくせに速い!!


 くそ、転移も間に合わねぇ……


 巨神兵の膝蹴りが当たる直前に空気の膜で体を包み込む。


 包み込むがそれで衝撃が緩和されるような蹴りではなかった。


「っぐぁぁあああああぁあああああ」


 蹴り上げられた俺は広間の側面の壁にぶち当たる。


「ぐぁっっつぅ」


 痛い。めちゃくちゃ痛い。衝撃で体が壁にめり込んでいる。まずい、早く抜け出さないとあいつの

追撃が来る。

 うまく力が入らない。頭がくらくらする。巨神兵が右手を引いている。

 

 くそぉ……。『天』『地』で打ち抜いてやりてぇが体がめり込んでいるせいで銃を構えられない。

 体がめり込んでいるせいで転移も出来ない。


「くそっ!!!」


 ここまでか。ここまでなのかよ、俺の異世界人生。終わりたくねぇ。まだ終わりたくねぇよ。


 こんなところで終われねぇっていうのに、体が動かねぇ。ちくしょう。


 拳が眼前へと迫ってくる。


 目を閉じる。エリル。お金返せなくてごめん。もっと話したかったな。


 目を開ける。俺を殺すこいつを目に焼き付ける。圧倒的強者。小細工なしのその強さは、正しく

戦士そのものだ。


「っへ、まぁ、悪くねぇか」


 こんな強敵に葬られるのなら。

 

 こんな強敵と逃げずに戦った自分を、最後くらい褒めよう。



 真っ直ぐ巨神兵を見つめ、青年は逃げろと私に言った。その瞳には覚悟の光が宿っていた。


 まだそう長く生きていないはずなのに、今まで出会った誰よりも、その瞳には力が宿っていた。


 広間を出た。


 中を見る。青年が巨神兵と戦っている。


 神の名を関する兵士。巨神兵。はるか昔、神々の配下として地上に降り立ち、地上を荒らし回ったと

される化物。封印指定された古代兵器。


 それを前にして、青年は真っ向から戦っている。


 縦横無尽に駆け抜けている。しかし想像以上に巨神兵の動きが速い。なんとか攻撃を防いでいるが、

それが破られるのも時間の問題だろう。青年の余裕のない表情がそれを物語っている。


 銃。彼の主力。しかしそれを使う余裕がないのか。巨神兵を引き付ける存在が彼には必要だ。


 拳をぐっと握り締める。怖い。あんな怪物を前にして、震えない者がどれほどいるだろう。


 いいや。いた。あの青年は真っ直ぐ目の前の怪物を射抜いていた。肌が焦げるような熱量を持って、

目の前の強者を堂々と見ていた。


 青年が巨神兵へ拳を叩き込むがダメージは入っていない、反対に膝蹴りをくらい壁に激突する。

 

 体が壁に埋まり、身動きがとれない青年へ巨神兵は容赦なく拳を打ち込もうとしている。


 青年の顔を見る。その顔には悔しさと、後悔があった。しかしその後、目を閉じ、再び開いた青年の

顔には不敵な笑みが浮かんでいた。諦めではない。


 それは本物の戦士が最期の最期に見せる戦士の誇り。戦士としての矜持。


 私は何をしている。私は。私は……!!!!!


 大広間へと駆け込み、杖を前にかざす。


『上級風魔法・旋風波!!!』


 拳を吹き飛ばそうとは思っていない。その軌道を変えられればいい!!!!


 巨神兵の壁が青年の少し横の壁にめり込む。その衝撃で青年の体が壁から解放される。


「うわぁああああ!!!!『上級風魔法 旋風斬』」


 杖を剣のように振り抜く。風の斬撃を巨神兵の右足へ放つ。大したダメージは与えられないが

巨神兵の注意を引くくらいはできた。


 巨神兵と目が合う。怖い。まだ怖い。だけどあの子は、たった一人でこの恐怖と戦っていた。


 逃げずにただ真っ直ぐに見つめていた。この強者を。


 すぐそばに青年が降り立つ。


 息が荒い。体はぼろぼろだった。


 私は青年に右手をかざし回復魔法を掛ける。


「ん!」


 傷が癒えた青年は立ち上がる。私とそう背丈は変わらない。それなのになぜだか頼もしく感じる。


「どうして?」

 

 青年が困惑した顔をこちらに向ける。


 どうしてここに居るのか、と。


 私はフードを取りながら答えた。


「名前を言うのを忘れていた。私はミレイ。お前と一緒に戦わせてくれ」


☆  


 迫ってきていた拳が、衝撃波のような攻撃を受け、その軌道がずれた。

 

 俺の左横に拳がめり込んでいる。その衝撃で体が壁から浮き出たので地面へと逃げる。


 入口付近を見ると先ほどのフードをかぶった女性がいる。さっきの攻撃は彼女がしたのか。


 彼女は更に魔法を放つ。巨神兵の意識を俺から離すためか。


 彼女の傍に転移する。


 体がふらつく。思った以上にダメージを負っているみたいだ。そんな俺に彼女は右手をかざす。


 すると体の痛みがすぅっと消えていった。


 さっと立ち上がる。そして問う。なぜここにいるのかと。すると彼女はフードを脱ぎながら

名前を言った。ミレイ。そういった彼女の耳は長く尖っていた。俺の知識ではそれはエルフと呼ばれる

種族が持つ特徴だ。それよりも彼女は名前のあとに、共に戦うと言った。


「大丈夫か?命の保証はないぜ」


「ここで逃げたら、何か大事なものを失う気がしてな」

 

 そう言って彼女は巨神兵を見る。


 やつもまたこちらを見下ろしている。


「そうか。じゃぁ、やるか!!!」


 まだ戦える。


 俺はまだまだ戦える。


 行くぞ。怪物。





 

 






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