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白撃の銃使い~天を穿つ者~  作者:
第一章 物語の始まり
11/18

10話 古代遺跡

 ☆


 フードを被った人物が洞窟らしきものの入口の前でしばらく立ち止まり、そして中へと入っていったのを

黙って見ていた俺。


 俺の存在には気づいていなかったようだ。


「ふむ……」


 さて、どうしたもんか。


 声かけたら襲われるかも、という意識が働きとりあえず観察していたが。


 入口を見る。


 中に何があるのか若干の興味はある。


 しかしなんだろう、この感じ。入口の奥からうまく言葉で形容できないが嫌な感じがする。


 普通なら立ち去るところなんだが、さっき入っていった人物のことが気になるしなぁ……。


 今受けているクエストの納品対象である草は入手出来た、はず。もう帰るだけの状態。


 とりあえず入ってみる、か。


 地面を見る。転移。


 飛び降りた方がかっこいいだろうけど痛そうだからさ。痛いの嫌じゃん、普通に。


 周囲を警戒しながら入口に近づく。周囲に気配はない。


 とりあえず、こっそりついて行くか……。


 入口の中に足を踏み入れそのまま進んでいく。


 若干薄暗いが視界ゼロってほどではない。壁際に灯りがあるからだ。ろうそくの炎ではなく

石が発光している。特殊なものなのだろうか。分からないが足元が見えるのはありがたい。


 空気の波を発して気配を探る。正確に気配を探知できるのは自分を中心として半径10m程度。


 先客であるフードの人物は俺から8mほど先をゆっくりと歩いているようだ。周囲を警戒しながら

進んでいる、といった感じか。


 洞窟は一本道だ。幅は2~3mくらい。天井はそれほど高くはない。2mくらいだろう。

 

 警戒するとしたら前方と背後だな。 


 先行する人物に追いつかないよう俺もゆっくりと進むことにする。


 できるだけ物音を立てないように注意する。


 20m程進んだくらいから道の幅が広くなってきた。


 空気探知によればこのまま進めば大広間のような空間に出ることになる。


 その大広間にあるのはでっかい岩?みたいなものくらいだろうか。何かが動く気配はなさそう

だ。もっと近づけば何か分かるかな、と考えたところで気づく。先行する人物との距離がかなり

詰まっていることに。大広間の構造を探るのに気を取られすぎていた。


 歩みを止める。


「……!」


 何かが飛んで来る気配を感じ空気の壁を前方に作る。幸い前方の空間はそれほど広くはないから

少しの時間である程度密度の高い空気の壁を作り出せた。


「ん……!!」


 風?だろうか、空気の壁に3発ほど何かがぶつかる。なかなかの威力だ。空気壁を作っていなければ

吹き飛ばされていた。


 ざっざっとこちらに歩み寄ってくる音が聞こえる。


 どうする。


 『天』『地』にそっと触れる。


 うぅむ、ここで銃を使うのは得策とは言えない。


 ここまで歩んできた道は少しずつ地中に潜っていくような構造だった。


 今いる地点まででも結構地表からすると地下にいることになるはず。


 そんな場所で空気弾を使えば崩落して生き埋めになる、なんてこともありうる。

 

 となると取れる戦法は接近戦になるのだがこれもまた俺からすると不得手だ。


 俺の戦い方は中距離型。空間転移で近づいて相手を翻弄し、距離をとって空気弾

を放つ、というのが最も向いている戦い方のような気がする。


 そしてその戦い方はこの狭いスペースでは出来ない。


 しかし状況は相手も同じ。どんな技を使うのかは分からないが強力すぎる技は

自分の首を絞めることにもなる。その証拠に先ほど放ってきた技も周囲に大きな影響を

与えるようなものではなかった。さっきのあれはあくまでも牽制、そう感じた。


 結局取れるのは二手。


 ここに留まるか、踵を返して逃げるか。


 俺は留まることにした。話が通じなさそうだったり、さらに追撃をしかけてくるのなら、その時は

全力で逃げよう。


 危険な手ではある。しかしこうして『外』で誰かと会うのはこれが初めて。そしてこのような

場所を探索しているとなれば恐らく俺と同じ冒険者のはず。


 自分がこれから歩むかもしれない道を先に歩んでいる者が一体どういった者なのか知りたい。


 フードを被った人物が視界に入る。そして目があった。


その瞳は緑色だった。



 魔力探知はずっと行っていた。しかしそれだけでは古代遺跡のトラップに対応できない可能性

もあると判断し『感覚強化魔法』を発動した。視覚、聴覚の能力を高める魔法だ。


 反応したのは聴覚だった。


 何者かが一定の距離を保って自分の後を追ってきていることに気づく。


 しかし不思議なことにその者からは一切魔力の気配を感じ取れない。


(どういうことだ。どんな種族であろうと魔力は必ず有しているはず。トラップか?)


 そう思いしばらく様子を見た。途中から少し歩くペースを落とした。相手も距離を取るかと

思ったがそうではなく同じペースでこちらに向かってくる。


 戦いでは先手を取ったほうが後に取れる手段が多い分有利。


 この状況では使える魔法が制限されるが相手もそれは同じ。まずは牽制だ。


 風の刃を相手へまっすぐ飛ばす。特に手応えはない。この程度の牽制はどうということもない、か。


 聴覚を研ぎ澄ます。相手が動く気配はない。


 どうするか。背後に脅威を残したまま先に進むのは危険。

 

 相手がこのまま動かないのであれば、こちらから行くしかない。

 

 杖をしっかりと握る。魔力が感じ取れない以上相手が何をしてくるかが分からない。


 ゆっくりと正体不明の『何か』に近づく。


 いた。


 白いコートを羽織、悠然と佇む青年が。

 

 黒い髪に黒い瞳。その瞳はまっすぐこちらを射抜いている。


 杖や剣は所持していない。武器は腰のホルスターに収められた二丁の拳銃だろう。


 しかし彼は銃を抜き出す素振りは見せない。敵意はない、といった意志を示そうと

しているのかもしれないが油断はできない。


 さて、どうするか。


 種族は人間だろう。年は10代後半くらいか。顔つきにはまだ幼さが残っている。

 背丈もそれほど高くない。


 しかし不思議と存在感のある男だ。


 なんと言えばいいのか、強大な力を内に秘めている、そんな感じがする。


 お互いだまりっぱなしではただの時間の無駄だな。


「私の後を付けてきたようだが、何が目的だ?」


 この男も古代遺跡の探索が目当てなのか。それとも私自身、エルフが目当てなのか。どちらだ。


 青年は少し考え込むような素振りを見せる。その様子からやはりまだ子供だな、と思った。


 私達エルフは外見は一定の時期で変化を止める。人間で言えばちょうど10代~20代頃だろう。


 その姿から実際の年齢を推測するのが困難な種族である。現に私も見た目はこの青年より少し年上

くらいに見えるだろうが既に120年の時を生きている。エルフの中ではまだまだ若輩者に当たるが。

 その私も、いや、同胞達も魔力を持たない人間、というのを知っているだろうか。


「えーっと、君が洞窟に入っていくのが見えた。なんとなくこの洞窟、嫌な感じがしたんで何が

あるのか気になった。目的としては、そうだな、君と話がしたかった、ってところかな」


 青年は私の質問に迷いながらもよく通る声で答えた。言葉に嘘が感じない。

 だからと言って信用できるかと言われればまた別の話しだ。


「ここが何か知らないのか?」


「知らない。俺は君が来るよりも早くこの辺にいたんだが急にこの入り口が現れたから驚いた。

そして驚いたら君が来たってわけだ」


 なるほど。先客がいたわけか。そしてこの青年は今自分がいる場所が一体何なのかも知らないという。


 無防備すぎるな。駆け出しの冒険者か?


「話がしたかった、というのは?」


「冒険者の知り合いがいなくてさ。そしたら君が来た。いや、危険なやつなら話しかけたりしない

ぜ」


「攻撃しただろう?」


「牽制に、だろ?殺すつもりはなかったはずだ」


 殺すつもりがなかったにしろ攻撃されたら普通は逃げるものだがな。普通、か。

 魔力を探知できないことといいこの男を前に『普通』という概念は意味をなさないのかもしれない。

 

 むしろそれに囚われることで本質を見落としてしまいそうな気がする。


 どうしたものか。ゆっくりしている暇はない。遺跡への入口が地表に出ている時間はそう長くは

ないはず。入口が地下へと姿を隠してしまえばここから出る手段がなくなる。


「ふぅ。よくわからない男だな。確認だが争う気はないんだな?」


「ない」


 真っ直ぐな瞳で私の瞳を見つめ、しっかりと言い切った。

 若さ、か。世間を知らないからこその真っ直ぐさ。


「時間がない。歩きながら話す。それでいいな?あと妙な動きを見せたら殺す」


 男を睨みつけながら言い捨てる。


「分かった」


 聞き分けがいいな。本当に話したいだけだったのか。妙な感じだ。


「話すといってもそう何もかも話せるわけじゃない。とりあえずこの場所の説明をしてやる」


 私はここが古代遺跡であることを説明した。青年はふぅむ、といまいちピンと来こない、と

いった顔をしている。古代遺跡がそもそも何なのかわからないだろうか。簡単に説明してやった。


「私も質問だ。お前、魔力はないのか?」


 一番気になっていたことを問う。他人、それも人間と話すなどまずないことだが、そのないことを

今行っている理由はこの男から魔力を探知できない理由を知りたいから。


「ない」


 私の問は一言で返された。ない。……ないのか。


「どんな生命体も生まれながらにして魔力は持っているが、ないのか?」


 念のため確認。


「ああ。俺は魔力がないらしい」


 じゃぁどうやって戦うのだろうか。ホルスターに収められているものは飾りなのか。


 もはや意味不明だ。もっと詳しく問い詰めたいところだが目標地点が見えた。


「あの大広間に歴史的価値のある物があったらお前を戦闘不能にして持って帰るぞ、私は」


 先に言っておく。せめてもの礼儀だ。逆に欲しければ私を倒せ、という意味も込めた台詞。


「ああ。いいよ。俺は興味ないし」


 本当に興味なさそうに言う。


「それより、なんだかこの先から嫌な気配を感じるんだ。君は何も感じない?」


 青年の問いかけに対してしばし考える。魔力探知では何も引っかからない。私の探知できる内容

ではこの先には大広間があるだけ。


「嫌な気配っていうのは具体的にはどんなものだ?私は特に何も感じない」


「何て言うんだろう、うまく言葉じゃ言い表わせない」


 ふむ。何かトラップでも仕掛けてあるのか。しかしここまで来てじゃぁ帰ります、とは行かない。


「帰りたければ帰れ。私は進む」

 

 大広間へと足を進める。


 青年もしばらくして私の後を追いかけるようについてきた。


 何が待ち受けているのかわからない。だがだからこそこの目で確かめる。



 ひとつわかったことがある。フードかぶってるこの人物が女性だということ。とてもきれいな声を

している女性だ。ちょっと、トゲがあるけど。そして隣を歩いているから時々いい匂いがする。

  

 ふたりで歩いてついに大広間的な空間の目前まで来たわけだが近づけば近づくほどに嫌な感じは

強まっている。


 彼女にもそれを伝えたが向こうは特に何も感じていないらしい。


 構わず進んでいく彼女を俺も追いかける。なんだかんだでこの場所の説明とかしてくれたし、悪い人

ではないんだろう。できればもう少し話してみたい。だからこそ、嫌な気配がする空間へ彼女一人行かせ

たくないと思った。声やフードから見える顔つきからするに俺とそう年は変わらないはずだ。


 彼女を追いかける形で俺も大広間へと足を踏み入れた。


 



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