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白撃の銃使い~天を穿つ者~  作者:
第一章 物語の始まり
10/18

9話 冒険者ギルド

 翌朝。

 朝食を食べ終えてからエリルと一緒に馬車に乗り、俺は街へと到着した。


 魔法学校は街の北側にあるらしく、俺が向かう冒険者ギルドは街の中央付近にある

そうなの途中まで一緒に行く。


「冒険者にはいろんな者がいます。礼儀正しい者もいれば、そうで無い者もいます。

ユキ様なら大丈夫かとは思いますが、ご注意ください」


「おう。変な厄介ごとには首を突っ込まないようにするから安心してくれ」


「はい、あ、ここが冒険者ギルドです」


 エリルが指をさす。


 なるほど、これが冒険者ギルド、か。大きな建物。レンガ造り。中世ヨーロッパ

とかにありそうな、でっかい屋敷、みたいな感じかな。


 人の出入りが結構激しい。


「本当は私も一緒に行きたいのですが……」


 申し訳なさそうにするエリルに俺はむしろここまで連れてきてくれてありがとう、と感謝

を伝える。


 エリルは結構帰りが遅くなるらしい。もし同じくらいに帰るのなら一緒に馬車に乗っけて

もらうことにした。街から歩いても一時間程度でエリルの家には帰れる。だいたいの道順は

覚えているので一人でも帰れる。


「それでは、また後で」


 ぺこりと頭を下げた後エリルは魔法学校へ向けて歩いていった。


 さて、と。


 冒険者ギルド。この建物に入ること自体には特別な資格はいらない。エリルに確認済みだ。


 深呼吸を一つしてギルドの扉に手をかけ思いっきり開けた。



 中は人で溢れていた。


 多種多様な冒険者。


 全体的にがやがやとした雰囲気だ。


 左手に受付らしきものがある。男性2人、女性2人が冒険者と何事か話している。


 右手には掲示板があり、紙がいくつも貼られている。おそらくクエストの依頼書。


 中央付近には丸テーブルがいくつかあり、そのテーブルを囲むように椅子が置いてある。


 テーブルの7割ほどはすでに埋まっている。


 どうしたものか。


 冒険者になるための手続きは当然受付で行うはずだ。

 

 しかし、4人の受付は忙しなく対応業務を行っている。すでに結構な人が受付待ちを

している。

 込み合う時間帯だったようだな。


 ひとまず俺は空いている席に腰を下ろすことにする。

 至急ってわけではないからな。あの行列が少し落ち着いてきたくらいに受付に行こう。


 冒険者ってどんな人たちだ、と思い周囲を見ると結構な数の冒険者と目が合った。

 俺が見回すより先に相手がこちらを見ていたということだ。


 いくつかの席では俺のほうを見ながらこそこそと話をしている者までいた。


 あまりいい気はしないな。


 自分が注目を集めている理由は髪の色だろう。

 

 服装的にはもっと派手な者がいる。


 いろんな者がいるが黒髪の者は一人もいない。


 ふぅ。ため息を一つつく。何か被り物でも買ったほうがいいかな。そっちのほうがまだ

目立たずにすむような気がする。

 

 いや、そんなこそこそと生きているようでは自分らしき生きることなど出来っこないな。

 

 堂々としれいればいいんだよな、と自分に言い聞かせる。


 ただしきょろきょろ辺りを見回すのはやめる。何見てんだゴラ、とイチャモンを付けられては

たまったものではないからな。


 ぼんやりと空中を眺める。視界から入ってくる情報は諦めよう。だが情報源は視覚だけではない。

 

 俺は聞き耳を立てる。


「あいつ、珍しい髪の色をしているな」


「ああ、黒い髪なんて初めてみたぜ」


 といった会話を拾った。外見に関する会話だけで特に敵意は持たれていないようだ。

 珍しい生き物を見た!みたいな感じか。


 受付を見る。だいぶ行列が減っていた。


 そろそろ行くか。


 あまり音を立てないようにして立ち上がり受付へと向かう。


 最後尾に並び数分後。


 俺の番がやってきた。


「今日はどのような御用でしょうか?」


 営業スマイル100点で女性の受付員がにこやかに問いかける。


「冒険者に登録したいんです」


「分かりました。ではこちらに必要事項をお書きください」


 紙を手渡された。


 紙を見る。


 そこで気づく。俺、字読めないんだった。読めないものは当然、書けない。


「あの、すみません……」


 俺は小声で受付員に話しかける。


「何でしょうか?」


 にこやかに対応してくれる。


「えっと、字の読み書きができないんです、俺」


 簡潔に事実を伝えた俺。


 変な顔されるかな、と受付の女性の顔を見ると、特段軽蔑のような感情はそこにはなかった。


「承知しました。それではお名前と年齢、出身地を教えてください」


 渡された紙とペンを受付員に返す。


「名前は」


そこで昨日の会話を思い出した。家名があるのは貴族だけ。商人や農民は名前のみ名乗ると。


「ユキです。年は18。出身地はえっと、アルバノスです」


 今日から俺は新たな人生を始める。雲鳥は一旦、置いておく。

 アルバノス。それが今俺がいる国の名前。


 この世界には大きな大陸が一つあり、いくつかの島が存在している。


 アルバノス王国は大陸の南部に位置している。


 ここ数十年内乱などは起こっていない平和な王国らしい。


「はい、承知しました。それでは手数料1万ゴールドをいただきます」


 手数料ね、はいはい、とコートのポケットから封筒を出す。


 ちゃーんとお金持ってますよ(エリルから借りたお金)


 手数料が掛かることはエリルから事前に聞いていた。そしてその手数料まで貸してくれたのだ。


 エリル、本当にありがとう。なんていうか、もう感謝しかない。この借りは必ず返す。


 俺は握りしめた封筒を受付員に手渡す。


 魂の1万ゴールドだ。


 受付員はゴールドを受け取り、金額を確認する。


「はい、確認できました。それではカードを発行しますのでしばらくお待ちください」


 とにこやかに微笑む。


 この受付員、しっかりと俺の目を見て対応していて、俺の髪には目もくれない。


 珍しいはずなんだが、さすがは接客のプロといったところか。


 手際よく業務をこなす受付員に好印象を抱いた。


「お待たせしました。こちらがギルドが発行するギルドカードになります。クエストの受注、

達成報告の際に必要になります」


 手渡されたカードを見る。

 うーん、読めない。


「ありがとうございました。あの、俺が受けられるクエストってどの辺りにありますか?」


 俺は後ろにあるクエストボードを手で示す。

 

 字が読めないからどれが簡単なクエストなのか分からないのだ。


「登録したばかりの冒険者は皆、Eランクからのスタートになります。そして受注できる

クエストも冒険者ランクと同じものまでが上限になります。ユキ様が受注できる依頼は

Eランクのみですので向かって右手の一番端のボードが対象のクエストとなっています」


 そう言って受付員は手元の冊子をぱらぱらと捲る。


「Eランクは採取系のクエストがメインですね。おすすめのクエストは『マジハリの草』

の採取ですね。こちらはポーションの材料になるものです。図柄はこちらです」



 紙に草の絵が描かれている。


「こちらは差し上げます」


 とりあえず、このクエストを受けてみよう。おそらく受付員も俺が字を読めないことを

受けて気を聞かせてボードから好きなクエストを選ばせるのではなく適当なクエストを提案

してくれたのだろうから。


 受注する旨を伝える。

「納品期限は一週間。納品数は1個以上。1個につき300ゴールドが報酬となります。基本的に

どの草原でも採取できる草ですので指定区域はありません」


「分かりました。本当に助かりました」


 感謝の言葉を述べ俺はギルドを後にした。


 納品対象の草はどこの草原でも手に入るらしい。


 アルバノス王国には東西南北それぞれに門がある。どの門から外に出ても草原が広がって

いるらしい。


 とりあえずもっとも近い門である南門から出たところに広がっている草原で草を探すことにする。

 

 さて、頑張って金稼ぐぞ!!!!気合い入ってきたぁ!!



 草を探すこと1時間。


 マジハリ草がなかなか見つからない。

 いや、マジハリ草に似たような草ならいくつかむしってあるんだが、これが本当に

マジハリ草とやらなのか分からない。


 似てる草が多すぎる……。


 かがんで探してるものだから腰が痛い。


 一旦、休憩しよう。まだ時間はある。それに草は一本でも持っていけばクエストクリアになる

んだ。むしってるやつの一本くらいは本物のマジハリ草があるはず。余分に採取した草はギルドで

買い取ってくれるらしいのでできることなら一本でも多く採って帰りたいところなのだが

そううまくはいかないな。


 寝転んで空を見上げる。うん、いい天気だ。こうしてると眠くなってくるな……。


 だめだ、寝たらしばらく起きれない。今日は初めてのクエスト。


 しっかりやり遂げなければ。


 気を取り直し置き上がる。


 現在俺がいるのは街道のすぐそば。もう少し奥に行ってみるか。


 ちゃんと帰ってこれるように周りの景色をよく見ておこう。




 かなり奥深くまで歩いた。草原だったのがいつのまにか森のようになって

いる。しかしマジハリ草っぽいのは街道沿いの草原よりもたくさん生えている。


 街道沿いのマジハリ草は採取しやすいからあらかたむしられてるのかな。


 見上げると太陽が傾き始めている。そろそろ帰ったほうがよさそうだな。


 その時だった。


 ゴゴゴゴゴと何かがせり上がってくるような音が辺りに響き渡った。


 さっと腰を屈めて隠れる。ちゃんと隠れられているか分からないが、立ちっぱなし

よりはましだろう。


 ホルスターから『天』『地』を抜き出す。


 周囲を見回す。視界に移る範囲で人影は確認できない。


 目を閉じる。


 自分を中心として空気の波を放出する。


 感知レーダー的な、イメージだ。草を探しながら自分の≪力≫の使用方法を

考えていたのだ。


 居た。


 何かがゆっくりとこちらに向かって歩いてきている。俺から10m程度離れて

いる。たぶん、人。大きさ的に。


 漫画とかだと敵意の有無とか分かったりするんだろうが、俺のこの探知方法

は存在の有無しか分からない。不便っちゃ不便だがないよりははるかにまし。


 今度から使っていこう。


 さて、相手がだれか知らんがまずは隠れて様子を窺うするか。


 屈んだままでいるのは少し間抜けな気がするので(たぶん俺の姿、少し見える)、ちょうど

いい感じの木の枝の上に転移した。





(おそらくこの辺りのはず)



 レミルは周囲に気を付けながら歩く。


 魔力探知魔法を常に発動している。周囲に魔力の気配はない。


 見つけた。


 草木に覆われた洞窟。


 古代遺跡への入口に間違いないだろう。

 

 古代遺跡。その名のとおり古代より存在する遺跡。ただし普段からその姿が顕になっている

ことは少ない。


 何らかのカモフラージュが魔法によって施されている。


 今目前に見えている遺跡もそう。普段は入口が地中にあり遺跡の内部へと至る手段がない。


 しかし一定の周期で入口が地中から姿を表す。


 その周期が今、やってきたというわけだ。私がここにいるのは偶然ではない。


 以前探索した遺跡にこの遺跡のこと、現れる周期について記されていたのだ。


 多くの謎が残る古代文明。その中でも特に『四大不可思議』は多くの冒険者を

魅了してやまないものだろう。


 制覇した者はどんな願いでも叶えてもらえる、という。


 これといって叶えて欲しい願いがあるわけではないのだが誰も成し得なかったこと

を成し遂げてみたい、というのは冒険者の性だろう。


 幸い私は人間よりも多くの時間がある。


 遺跡の入口の前に立つ。


 以前探索した古代遺跡には特に命を狩りに来るようなトラップはなかった。


 だが、中には探索者の命を猛然と奪いに来るトラップが存在する。

 そのトラップこそが古代遺跡の探索が進まない要因の一つでもある。


 多くの探索者はパーティーを組んで遺跡探索にあたる。


 その方があらゆる局面に対応できるからだ。


 だが、私は一人だ。それは一つの自信でもある。

 その辺の冒険者に遅れをとることはまずない。


 攻撃魔法、回復魔法、結果魔法など多くの魔法を習得している。


 仲間など不要。

 

 信じれば裏切られる。


 我らエルフ一族は生まれつき魔法にかなりのアドバンテージを有している。

 それを狙って同胞たちが他の種族に無理やり利用された、という過去の話しは挙げればキリがない。

 エルフは魔法適性が圧倒的に優れ、そして長寿の一族だ。しかしその数は他の種族に比べ格段に

劣る。いつの時代の戦争でもエルフは兵器として他の種族に利用されてきた。

 そこから学んだことは一つ。表舞台に立たないこと。多くの同胞は隠れ里から出ずに生活している。


 そんな窮屈な生活が嫌だったから里を出た。多くの者に反対されたが後悔はしていない。


 様々な場面が蘇るが、感傷に耽っている時間はない。他の冒険者と鉢合わせたら面倒だ。


 入口の岩にぽんと手を置く。無事に戻ってこれるように、と心の中で祈りを捧げる。


 よし。


 彼女は遺跡へと一歩踏み出した。

 

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