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白撃の銃使い~天を穿つ者~  作者:
第一章 物語の始まり
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プロローグ

 どこまでも続く空。ゆっくりと雲が移動している。

 雲は風に乗ってどこにでも行ける。

 羨ましい。俺はどうだろう。行きたいと思った場所に行けないことはない。

 行けないことはないが様々な制約がかかってくる。

 時間、金。主にこの2つの要素が俺の、いや現代人の多くの行動を制限していることだろう。

 

「ここは受験対策として必ず覚えておくように」


 黒板に字を書き終えた教師が振り向きざまに言う。

 場所は教室。大学受験を控えた俺たち高校3年生に冬休みなどはなく、絶賛授業中である。

 

「それじゃ、今日の授業はここまでだ。自習する者は静かに行うように。帰宅する者は速やかに帰ること」


いいなぁ?と聞き返しながら教師は教室を出て行った。


 今日は土曜日ということで午前中までの授業だ。確か18時までは学校で自習ができるはずだ。

 俺は帰るけど。


「雪、帰るの?」


「ああ。今日はもう帰るわ」


 話しかけてきたのは小中学校と同じだった女子生徒。お互い学校までは徒歩通学で、お互いの家がまた近いということもあって昔から一緒に帰ったりしている。


「そう、私は自習して帰るね」


 はいよ、と言い残し俺は教室を後にした。


 上履きからローファーへ履き替えて外にでると風が一陣駆け抜けていった。


 寒い、めちゃくちゃ寒い。12月中旬の気候は伊達ではない。

 見ると仲良さそうに帰る男女の生徒がいる。見ない顔だが、俺と同じ高3だよな。

 2人から伝わってくる親愛の感情が俺には眩しく見えた。

 その2人を追い越しながら考える。俺、仲の良い友達いなくね?と。


 友達はいる。いるけど、休日遊んだりする友達はいない。


 ……。


 俺の高校生活を振り返ってみる。


 入学して。


 勉強して。


 体育祭は、なにしたっけ。毎年あっていたのにいまいち記憶にない。たぶん何もしてないんだろうな。

せいぜい「組体操とか、危なくね!?」って思ったくらいだろう。


 文化祭は、なんだろう。たぶん裏方的なことだろうな。記憶にない。



 修学旅行はインフルエンザにかかって行けなかった。


 ……ああ、超やり直したい。俺の高校生活もう1回やり直したい感あるな。はぁ。


 まぁ、黄金に輝く大学生活が俺を待っている。この受験という試練を突破した先には、紳士淑女の社交場、合コンが俺を待っているんだ。過去を振り返っている暇など、俺にはないよな。


 それにしても風が強い。こんなことならマフラー巻いて来ればよかった。

 風邪引くわけにもいかないしなぁ。


 俺は眼に力を込める。前方を睨み付ける感じ。


 すると先ほどまでがんがん吹き付けてきた風が止んだ。


 否、風そのものは止んでいない。ただ俺に直に風が当たらなくなったというだけだ、


 俺の前方に薄い空気の壁を作りだしただけ。俺が進むのに合わせてその空気の壁も動く。

 壁っていうか、膜って言った方がいいだろう。


 勝手に≪空間操作≫と名付けた。


 俺が視認した場所の空間の空気を操れる。


 まぁ、そんだけだ。この力、俺が幼稚園の頃には使えるようになっていたんだが今のところ風よけくらいにしか役に立っていない。

 そりゃそうだよな。平和な現代。こんな力がなくとも普通に暮らしていける。


 たまーに、ニュースで不審な事件が起こったときなんかは心の中で「もしかしてこれって、俺と同じような力を持ってる奴が絡んでるんじゃね?」くらいには思うが、世の中そんなに複雑にはできていない、といつも結論付けてしまう。


 実際俺のような力を持った奴を、俺は今まで1人しか見たことがない。その1人だって、もう10年近く会っていない。

 力を持っていても気づかないか、気づいても俺のようにちょっとした利便性のために使っているくらいが関の山なのだろう。


「!?」


 すっと目の前を人影が横切った。考え事していたから反応が遅れてしまった。


「失礼しました」


 横切った人影が立ち止まりこちらを振り向き謝罪する。


「あ、いや、」


 その後の言葉を俺は紡げなかった。その男の放つ雰囲気が異様だったから。

 思わず一歩後ずさる。


「おや、どうかしましたか?」


 見た目は、20代半ばのサラリーマンといった風体。しかし、なんだろう。この男から放たれるプレッシャーのようなものは。

 居心地の悪い、威圧感。


「ん?もしや、感じ取っているのですか?私の≪力≫を」


 力。力って、なんだ。何言ってんだ、この男。この場を離れたほうがいい。そう俺の本能が先ほどから呼びかけている。

 ここに留まれば今まで築きあげてきた平穏な日々が終わってしまうような、そんな気がした。


「なるほど。あなたも≪能力者≫ですか。どおりで、似た匂いがするわけです」


 微笑む男。しかしその微笑みには強者が放つ余裕と傲慢が透けて見えた。


「能力者?」


 とりあえず今の会話で気になった単語を拾い上げる。


「言葉通り。能力を有する者。さて、君はどのような力を持っているのか」


 男の瞳に怪しい光が宿る。


 右足に力を込める。いつでも逃げ出せるように。


 それを見た男はすっと右手を前に出した。戦うつもりはありません、というように。


「あいにく、私の力は戦闘向きではないのです。あなたの力がどうかは知りませんがね。それより1つ質問して良いですか?」


 どうぞ、と言う代わりに相手へ頷く。


「楽しいですか?今」


 楽しいか?そりゃ、楽しいだろ。だが俺はすぐにその問に答えを返すことができなかった。


「退屈でしょう?なぜならあなたは常人にあらず。あなたには力がある。しかしその使いどころのない力を持て余している。

もちろん、今の生活に不満があるわけでもないのでしょう。私の問いかけに悩むような顔をした、ということは楽しいと楽しくないを天秤にかけるだけの材料がある、ということなのですから」


「何が言いたいんだ」

 むっとした感じで言い返してしまったのは相手の言葉が正しいと思えてしまったから。


「この世界はね、力を持っている者にとっては退屈なのですよ。平和すぎる、と言えばいいでしょうか。力がないことを前提に作られているのですから、力が介入する余地がないのです。でも力を持った者は存在する。彼らはどうするか。答えは2通りしかありません。力を使うか、使わないか。時々不審な事件が起こるでしょう?どうやって侵入したのか分からない泥棒。

火の気などなかったのに燃え盛る建物。突如荒れ狂う海。急に進路を変える台風。どうです、これらのどれかが能力者の力によって引き起こされたものだとしたら」


 どうって、びっくりする。風よけにしか使ってない俺とはまるで違う使い道だ。


「ワクワクしたでしょう?いえ、気になさらず。それはある意味で正常です。なぜならあなたは力を持っている。持った者を使ってみたいと思うのは人の性です。否、私はね、持っているのに使わないのは傲慢だとすら思うのですよ。それは天から与えられた贈り物です。その贈り物をしまったままにしておくのはね、もったいないでしょう?」


 天からの贈り物。使わないのはもったいない。


「もっとね、傲慢に生きていいのですよ。いえ、言い方を変えましょう。もっとわがままに、好きなように生きてよいのです。

それだけの力を持っているはずです。ただしね、それはこの世界ででは、ありません」


 男の瞳が淡い緑色の光を放つ。

 この世界でではない。それはつまり、この世界ではないどこかの世界で……


「私の能力は≪異界送り≫。名称を言えば、能力はわかりますよね。さて、準備期間は用意しておりませんが、あなたを送らせていただきます」


「は!?!?いや、ちょっと待てよ。異界送り!?異界???まて、一旦待て。なんだよ、俺がこの世界にいたらまずいみたいな言い方しやがって。今までの人生、人に後ろ指を指されるようなことなんてしたことないぞ」


「今までは、でしょう?これから先もそうだと100%証明できますか?できないでしょう。過ぎたる力は災厄を呼びかねない。

あなたはこの世界にとってはイレギュラーな存在なのです。言ったでしょう。常人にあらず、と。ただね。この世界ではいレギュラーなあなたも、常人になれる世界がある。それはこの世界ではない、異世界なのです。さて、申し訳ありません。あまり時間がないのです。

あなたと違い、力を振りかざすならず者を送りに行く途中ですのでね。そして先に申しておきます。私の力は、片道切符。そしてどこの異世界に送られるかは私にもわかりません。ですので送ること以外に私ができることは1つ。あなたがあなたらしく生きられることを願います。もう会うことはないでしょうが、あなたの無事を祈らせてください。この世界でのあなたの未来を奪うことを、お許しください」


 言葉を言い終えた男は左手を俺の眼前へとかざす。手から魔法陣的な図式が出現した。


「!?!?」


 体が魔法陣に吸い込まれていく。男を見る。申し訳なさそうにするその顔に、俺は一言言いたいことがあった。それを言わないことにはこの世界を去れない。


「ありがとう……!!!」


「?」


 足が吸い込まれてもう見えない。


「俺を、本当の俺を認めてくれてありがとう」


 力を隠して生きてきた18年間。この力は紛れもない俺を構成する要素の一つだ。俺の個性だ。

 その個性を、この男は認めてくれたのだ。存在して良いんだと。

 

 さよなら地球。

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