最終魂 アンコール
「御兄ちゃん。」
「睡蓮・・・」
睡蓮は俺に抱き付いて来た。
「御兄ちゃん、酷い事言って御免ね。」
睡蓮・・・
「いいよ。」
俺は、睡蓮を優しく抱き返した。
睡蓮の『御免ね』で、もう酷い事を言われた事なんてどうでも良くなった。
――ごほんっ。――
ルシファーが空咳をする。裕也に抱き付いていた睡蓮は顔を紅くし離れる。裕也は残念そうな顔である。
――さて、御二方には、聖魔王を内から破壊して貰います。――
「如何すれば良いんだ?」
雰囲気を邪魔されたせいか、多少言葉に怒りを孕んでいる。
――やり方は簡単です。まずは、睡蓮さんの中に居る私を裕也殿に転送して下さい。その後、裕也殿は私の神器『福音の書』を具現し、内側から聖魔王の『コア』を破壊して貰います。――
「待てっ!!睡蓮の中に居るお前は魅女の動力源じゃないのか?そんな事したら、睡蓮が・・・」
止まるんじゃないか?と続けようとしたが声が割り込む。
――大丈夫です。魅女の中の私が動力源として使われてるのは、無限無作為転生の部分だけですから。だから、私が居なくなっても睡蓮さんは生きて行くのには困りません。――
「なら良いが・・・」
裕也はほっと安堵の溜息を吐く。
――それでは、睡蓮さん。貴方の中に居る私を感じて下さい。そして、貴方の中に居る私をイメージし具現して下さい。――
「貴方を感じる?う〜ん・・・・」
睡蓮はう〜んと暫く目を瞑り呻く。
すると、睡蓮の手に黄色く光る、小さな光球が現れた。
そして、それは睡蓮の手から離れ、俺の体に吸い込まれていった。
吸い込まれると同時に、俺の頭に数多くの情報が流れ込む。
ルシファーが、他の神々よりも強く気高い為、数多くの神々から嫉妬され、数多くの虐めに会った事・・・
そして、『もう一人の自分』を作った事・・・
ルシファーの神器について・・・
人間の脳では処理できないほどの数多くの情報が俺の脳にダイレクトに流れ込む。
脳が悲鳴を上げ、頭が割れる様に痛い。
俺はそれを目を瞑り気合で耐える。
気合で耐えていると、ふと手に柔らかい感触が・・・
俺は目を開け、手を見る。
睡蓮が、手を握っていてくれた。
そして笑顔で、「御兄ちゃん頑張れ。」と言ってくれた。
ここまでされたら、兄として頑張らなきゃいけねえだろ!!
流れ込んでくる情報を瞬時に理解し、必要な物とどうでも良い物に分ける。
そして、必要ない物は全て『脳から削除』する。
ルシファーの思い出・・・要らん。
他の神々についての記憶・・・要らん。
睡蓮の着替えについての記憶・・・何て破廉恥な天使だこの野郎!!睡蓮の中に居たから、いつでも覗き放題だったのか!?なんて、うらや・・・反吐が出るほど最悪な奴だ・・・でも、これは保存♪
保存するな!!と誰も突っ込みを入れてくれない・・・
おっ、睡蓮の色々な恥ずかしい乙女の記憶!!保存保存!!永久保存!!
おえっ!!初代閻魔のヌード・・・何でこんな記憶があるんだよ!!しかもインパクトがでかかったせいか、滅茶苦茶鮮明に!!『完全消去』!!
情報が送られてくる速度が徐々に落ちてくる。
そして、遂に全ての情報の転送を完了した。
――後は・・・神器を具現してコアを破壊してください・・・熾天使ルシファーとしてとの力を貴方に譲渡した為・・・私を存在させる力が尽きかけてます・・・だから、後は情報を元に聖魔王を倒して下さい・・・お願いします・・・――
そして、声はそれを最後に二度と聞こえなくなった・・・
「御兄ちゃん。」
「任せとけ。我『明けの明星』の名において、福音の神器『福音の書』を具現する。」
俺の宣言と共に手には一冊の本《カバーは黒で、表紙には白色の十字架が描かれている》が出現する。
俺は本を捲る。
そして、666ページも有る本からとある1ページを開く。
そこには、見た事も聞いた事も無い模様の羅列が・・・
でも、俺には詠める。
読むのではない、詠むのである。
そして、俺は詠唱を開始する。
「汝罪を犯すべからず、汝罪犯さずおけば、神の導きが有るやもしれん。我神の代行者なり。罪を犯さぬ汝には祝福を。罪を犯した汝には裁きを。罪犯した汝は閃きの先にて断罪されよ・・・『最後の裁き(エンデエクスキューション)』・・・」
詠唱を完了すると同時に、空中に巨大な光球が出現する。
そして、光球の中から眩い光が全方位に放たれた・・・
「ぐ・・・」
閻魔達は危機に瀕していた。
既に、残る軍勢は最高権力者とアーサー王の計6人。
しかも、皆深手を負っているのに対して、サタンは傷一つ無い。
「では皆さん。世界に御別れはしましたか?」
サタンは、再度『憤怒』を具現する。
閻魔達は絶望した。
こいつには勝てない。
「それでは、さようなら。」
そして、光球は一段と輝きを増し・・・
・・・
風船の様に萎んだ・・・
「ぐううう!!何だこれは!?まさか!!あの野郎が・・・コアを破壊したのか・・・ぐう・・・」
突如サタンが胸を抑え苦しみ始めたのだ。
そして、サタンの体が爆発した。
辺り一面に砂塵が舞い上がる。
「うっひゃー。何かヤバイ感じだったな。」
砂塵の中から、裕也の声が聞こえた。
「裕也殿・・・」
「やってくれるじゃない。」
そして、砂塵の中から睡蓮を御姫様抱っこした裕也が出てくる。
「よっ。」
「御兄ちゃん!!恥ずかしいから降ろして!!」
閻魔達が見ているのに気付き、裕也の腕の中で暴れ始める。
「暴れるな!!おいっ!!」
そして、裕也は体勢を崩す。
「・・・最後くらい決めてよね・・・」
倒れた裕也の上に馬乗りしている睡蓮を見て、はぁーと溜息を吐くヤハウェ。
「で〜も、さすがで〜す。サタンを倒したんで〜すから。」
「まぁ・・・そうだな。」
少し頭を抑えているが納得するオーディン。
「ぐう〜・・・重い・・・」
「御兄ちゃんの馬鹿!!女の子に重いなんて言っちゃダメなんだよ!!」
「すまん!!」
しかし、和んでいるのも束の間・・・
空中に黒い影の集合体が現れる。
「まだだ・・・まだ終わらんぞ!!」
黒い影は、徐々に人型になり、色付いてくる。
そして、影は最終的に聖魔王となる。
「いや、お前は終わりだ。」
裕也は中指を立て、再度詠唱を開始する。
「善人には家が似合う。罪人には何が似合う?豪華な家?ボロボロのアパート?否、罪人には格子の付いた牢が似合う。汝を我の名において『闇の牢獄』に幽閉す。閉ざされよ汝の光。」
空中に浮かぶ光球から、数多の光の布がサタンに延びる。
そして、それらはサタンを雁字搦めにし身動きを取れなくする。
「こ、これは・・・嫌だ!!俺は、まだ・・・お前はルシファーなんだよな!!なら分かるだろ!!俺とルシファーがどんな目に有っていたか!?なっ?」
「悪いが・・・睡蓮に危害を加えた貴様は何が有ろうとも許さん・・・永遠の闇に包まれろ・・・エーメン・・・」
裕也が十字を切ると、サタンの後ろに巨大な口が出現する。
口の中からは、多くの罪人の呻き声が聞こえる。
「出してくれ・・・」と・・・
「嫌だ・・・嫌だ!!」
光の布を引き千切ろうと必死になるが、引き千切るどころか、更に布が球体から延び、更に体に絡まる。
「懺悔をするなら牢屋の中でしな。」
そして、口がガバッと開き、雁字搦めにされているサタンを光の布ごと呑み込む。
サタンを呑み込むと口は租借するふりをして霞の様に消える。
「これが・・・ルシファーの力なのか・・・」
「わし等じゃ、到底足にも及ばんのお。」
自分達があれほど梃子摺った相手を瞬殺である。
神器のべらぼうな強さに皆唖然。
「これで、奴も二度と出て来る事は無いだろう。良かったな。66年に一度何て言わず、一生に一度有るかどうかだぞ。」
「ああ。それより、約束の件だったな。御主の現界への滞在を許可するぞ。」
「それそれ。その言葉を待ってたんだよ。マ〜イシ〜スタ〜!!これからも一緒だよ!!」
「・・・御兄ちゃん。まだ憑いて来るの?」
「勿論。だって、睡蓮が心配だもん。」
はぁ〜・・・と溜息を吐く睡蓮。
そして・・・
「私はもう一人でも大丈夫。何時までも御兄ちゃんに頼らなくても大丈夫だよ。だから、御兄ちゃん・・・私の傍に居なくても大丈夫だよ。」
「・・・う〜ん。大丈夫か?」
何かを考え呻く裕也。
「うん。大丈夫。」
「本当に本当?」
「本当に本当。」
「そうか・・・遂に睡蓮が御兄ちゃん離れか・・・御兄ちゃんとしては複雑だな・・・」
染み染みと虚空を見、ぼやく裕也。
「まぁ。睡蓮が言うなら大丈夫なんだろう。それに、霊体じゃあ誰にも見えんしな。まともな生活を送れたもんじゃない。んじゃ、俺は天界に帰るとするか。」
「御兄ちゃん。」
「何、もがっ!?」
俺の唇に柔らかい感触が・・・
そして、俺の目の前には睡蓮が・・・
キス?Kiss?Kuβ?うえ〜い♪?
そして、睡蓮は顔を紅くして俺から離れる。
「守ってくれてありがとう。御礼のキスだよ。」
やべ〜・・・嬉涙出そう・・・
今まではホッペだけだったのに、今回はマウスツーマウス!!
兄妹のちょっぴり禁断の恋〜♪
「御兄ちゃん。ありがとう。」
「ああ。睡蓮も頑張れよ・・・特に勉強を・・・何だ、あのテストの有様は・・・解けないからって寝るなよ。」
「はうっ!?分かったよ。次のテストは百点取って見せるよ。」
睡蓮のスマイル・・・俺には何よりも見たくて好きな物。
「そうか・・・頑張れよ。」
そう言うと、裕也の体は黄色の粒子の塊となり、空に昇っていった・・・が途中で結界に阻まれそれ以上昇れない・・・
「あっ・・・解消。」
慌ててアーサー王は『捜し求めた理想郷』を解消する。
景色が一転し元居た広い空き地に景色が戻る。
それを確認した裕也は更に天へと昇る。
「我々も帰りましょうか。」
「そうですな。では、睡蓮殿。御元気で。」
「それでは。」
閻魔達は移動魔法を使い天界に飛ぶ。
その場に残されたのは睡蓮只一人。
「よし、明日から頑張るぞ!!・・・結局、あの人達は何だったんだろう?御兄ちゃんも何か凄い事してたし・・・殆ど謎のまま終わっちゃったけど・・・ま、いっか。」
睡蓮はそう言って帰路についた。
《fin》
後書き
何か書いてみたくなった・・・ただそれだけで書いてみた作品です。
私はマダ下手糞なもので上手に書けません。
ここは、こうした方が良いとか有ったら教えて下さい。参考にしますので。
それと、裕也の技は基本独逸語です。
あ〜、独逸語の辞書が欲しい・・・多分コレであってると思うんですが・・・如何せん発音記号が無かった物で・・・心配です。
引き続き、Silver friendSの方を頑張っていきたいです。えっ?百鬼夜行はって?・・・そちらも、頑張りたいです・・・