第六魂 聖魔降臨戦
天界に突如笛の音が鳴り響く。
「『宣戦布告』!?何故じゃ!?まだ、昼じゃぞ!!」
天界は慌ただしかった・・・まだ昼なのに、聖魔降臨戦の合図である『宣戦布告』が天界に鳴り響いたのである。
皆、そんな馬鹿なと思っていたが、現界は昼なのに空は暗く、紅い月が浮かんでいたのが真実だと裏付けていた。
そう、『聖魔降臨戦』は始まったのである。
私の前にいるのは・・・誰?
私がドアを閉めた後、行き成りドアが吹き飛んだのだ。
そして、御兄ちゃんが家に上がってきたのだが・・・口調と言い、態度と言い、何かが違う・・・
「貴方は・・・誰?」
「俺は、裕也だよ?何を言ってるんだい?」
「違う!!貴方は御兄ちゃんじゃない!!貴方は誰!?」
御兄ちゃんに似た人は不気味な笑みを浮かべる。
「我名は聖魔王。魅女よ!!もう一人の我よ!!会いたかったぞ。」
危険だ・・・この場から逃げないと・・・
運の良い事に親は共に仕事で家には居ない。
だから私は家の奥に逃げた。
「逃がさないよ。魅女よ。」
サタンは宙に浮かび、空中を闊歩しながら睡蓮を追う。
ゆっくり追いかけているのは、睡蓮は自分から逃げられないという余裕の現われなのであろう。
「助けて・・・助けて・・・」
私は、裏口から外に逃げた。靴も履かずに走った。
外に出て初めて気付いたのだが、空が夜の様に暗く、血の様に紅い満月が不気味なくらい爛々と光っている。
親戚の水魂さんならこのような事でも笑って対処してくれるかもしれないが、住んでる場所が場所である。
こっちは九州。片や本州の海鳴市の人物である。
来てもらうにも、最低5、6時間は軽くかかるし、あの人は職業柄そうほいほい出歩ける人ではない。
「どこかなぁ〜?子猫ちゃん?」
サタンとか言う御兄ちゃんそっくりなあいつは、宙を地面が在るかのように歩いている。
あいつは人間ではない。だから、逃げろ。
私の本能が叫んでいる。
私は本能に従い走って逃げる。
誰かが助けてくれると信じて。
「見つけたぞ〜。」
そして、奴は私の方を向いた。
何所から現れたのか知らないが、私の体を蛇の様な物が縛り付ける。
絶体絶命である。
私は逃げ様と、芋虫の様に体を捩りながら奴から遠ざかろうとするが、努力空しく遂には目と鼻の先には奴の顔が・・・
「魅女よ・・・我の中で静かに眠れ。」
そして、私の意識はその場で無くなった。
「すばらしい!!将にすばらしい!!本当の私の力が戻ってきたのだ!!漲るぞ、力が!!がっはっはっは!!」
サタンの容姿は裕也の物ではなく本来の物に戻っていた。
身の丈2メートル、雪の様に白い肌。そして、白の天使の翼と黒の悪魔の翼が一対ずつ背中に生えている。
そして、あまりにも強力な魔力の為辺り一面に突風が発生し木々や草花を翻弄する。
事態は最悪だった・・・
閻魔達が駆けつけた時には既に魅女はサタンに取り込まれ、サタンは本来の力を取り戻していた。
「何て事じゃ・・・」
「そんな・・・」
閻魔達は事態の深刻さに他には何も言えなかった。
「来たか・・・さぁ、始めよう!!聖魔降臨戦を!!」
サタンは両手を高く上げ、叫ぶ。
「仕方ない、行くぞ!!アーサー王殿!!結界を!!」
「お任せを!!霊名は『アーサー王』、諱は『知恵の有る者』。『王』を司る、我の名において、第三宝具『捜し求めた理想郷』の具現を命ずる。」
全員の目の前がブラックアウトし、次の瞬間には広大な大地に居た。
そして、アーサー王の後ろには何千何万の兵士達。
アーサー王の使用できる最強の結界宝具『捜し求めた理想郷』。
対象を全てを固有結界の中に閉じ込める物で、使用者が具現を解消するもしくは、死なない限り絶対解ける事の無い物である。
故に、全結界系宝具の中で最も強固な物。
更に結界内には、アーサー王と共に理想郷や聖杯を求め戦った者達の霊が存在する。
それら全ての霊もアーサー王同様、各々の宝具を所有する一騎当千の兵達。
「素晴らしい!!実に素晴らしい宝具ですね。ですが、私に勝てるでしょうか?」
サタンはこれ程の戦力差を見てもまったく動揺せず、余裕の表情を見せている。
「神名は『ゼウス』、諱は『ハウルス・フォクルヌス』。『裁き』を司る、我の名において、第一神器『雷霆』の具現を命ずる!!」
「神名は『オーディン』、諱は『フィルクス・ルピルス』。『英知』を司る、我の名において、第一神器『百発百中』、第三神器『全知全能の使い魔』の具現を命ずる!!」
「神名は『アヌビス』、諱は『ツタン・カーメン』。『冥界』を司る、我の名において、第二神器『破壊の巨人兵』の具現を命じま〜す。」
「神名は『ヤハウェ』、諱は『リカルド・トラクル』。『唯一神』を司る、我の名において、最終神器『我一人』の具現を命じます。」
「神名は『閻魔大王』、諱は『西郷隆盛』。『拿捕』を司る、我の名において、第二神器『天竜八部衆』の具現を命ずる!!」
最高権力者達も各々の神器を具現する。
『雷霆』『百発百中』『我一人』以外は皆使い魔召喚系の神器である。
オーディンの神器の『全知全能の使い魔』――二匹の渡り鳥と狼――
アヌビスの神器の『破壊の巨人兵』――高さ30メートルは優に有る岩石の兵士――
閻魔の神器の『天竜八部衆』――八匹の鬼竜――
そして、自分の分身体を生み出す、ヤハウェの『我一人』。
数だけで言えば、圧倒的に閻魔達が有利である。
しかし、サタンは未だに余裕の笑みを消さない。
「かかれぇい!!」
閻魔の号令と共に、全員が各々の武器を構え攻撃を開始する。
「我の名は『聖魔王』。我の命に従い、魔具を具現せよ。具現するは『七つの大罪』が一つ『憤怒』・・・」
サタンは手を上に挙げ魔具を『憤怒』を具現する。
憤怒は、小さな太陽の様な物で、憤怒は激しい光と共に光線を全方向に乱射し始める。
光線は、数多くのアーサー王の同志達を消滅させて行く。
最高権力者達の使い魔達ですら消滅しているのだ。
その破壊力は最早未知数である。
「な・・・何だと・・・こちらは、何万の大軍だぞ・・・それが一瞬で・・・」
開戦僅か3分で、閻魔達の軍はもう百を切っている。
「絶望をしろ!!そして、我を恐れよ!!我が名は『聖魔王』様だ!!」
「ここは・・・何所だ・・・」
俺は目覚めたら何も無い真っ白な空間に浮かんでいた・・・
――ここは、聖魔王の心の中です――
声がした・・・優しい声・・・
「君は誰だ?」
――私は、ルシファー。聖魔王であり貴方でもある者です。――
「お前は俺なのか?それでもってサタンでもあるのか?」
――そうです。貴方は、私が転生した姿なのです、そして聖魔王は、私が堕天した姿なのです。――
「ちょっと待てよ!!お前等は転生が出来ない筈だろ。閻魔様からそうやって聞いたぞ。」
――ええ・・・普通は出来ません。だけど、聖魔王は魅女と言う者を生み出しました。その時、魅女を動かす動力源として、堕天し封印の束縛を受けていた『私』が使われました。つまり、堕天したルシファーの体には二つの意思が有って、聖魔王は『私の方』を使ったのです。――
「簡単に言うと、お前が聖魔王の本体で、今表に出てるのが堕天により生み出されたもう一つの人格と言う事か?で、裏の人格に体を乗っ取られたと。」
――流石ですね。物分りが宜しい。話を続けます。私は魅女の動力源として使われると同時に、私の意思を更に二分割し、片方を無作為に転送しました。その片方が私です。私は色々な人の意識の間を飛び歩きました。そして、私はちょっぴりおっちょこちょいでして・・・16年前に天界で貴方の前世と色々有りましてユニゾンしてしまい・・・――
「おいおい・・・それは転生と言うのか?要約すると、俺の半分はお前で出来てると言う事か?」
――バフ○リンみたいな言い方ですね・・・まあ、そうです。――
「で、お前は俺に何を望むのだ?」
――聖魔王を止めて下さい。――
「何故、俺が?俺はもう良いんだ・・・こんな世界・・・」
――妹さんの事ですか?違うんですよ・・・彼女は本当にあんな事を思って言った訳ではないのです・・・――
「お前に何が分かるって言うんだよ!!」
――分かります。だって、魅女には私のもう片方が居るんですから。信じてください。――
「分かった。俺は如何すれば良いんだ?」
――魅女と共に聖魔王を内から消滅させます。――
「まて・・・それでは、お前の体が滅びてしまうぞ?」
――良いんです。それが私の罪滅ぼしです。――
「ルシファー・・・」
――ほら・・・妹さんが来られましたよ・・・――
「睡蓮・・・」
「ここは何所?」
――ここは、聖魔王の心の中です。――
「だ・・・誰?何所に居るの?」
――貴方の心の中です。私の名前はルシファー。私は貴方の動力源です。――
「ふえ?」
――・・・貴方は魅女です。――
「私が巫女さん?」
――・・・頭が痛いです。もうその辺はどうでも良いや・・・長くなりそうだし。貴方には、貴方の御兄さんと共に聖魔王を内から消滅させてもらいます。――
「せ・い・まおう?何それ?」
――・・・サタンの事です。貴方を追いまわしてたでしょ!!――
「あ〜・・・あの野郎ね?OKだよ。でも・・・御兄ちゃんに会いたくない・・・」
――まだ自分のせいで裕也殿が死んだと思っておられるのですか?そして、死んでも猶自分に優しくしてくれる兄に素直に甘え切れず冷たい態度を取ったのも・・・そのせいですか?――
「うん・・・」
――御馬鹿ですね。――
「うぐっ・・・」
――あれは、貴方のせいでも何でも有りません・・・只、運が悪かっただけです。だから、貴方は引け目を取る事は有りません。だから、しっかり甘えなさい。――
「うん・・・」
――ほら、この光の先に貴方の御兄さんが居ます。行って差し上げなさい・・・そして、あのような態度を取った事を謝りなさい。――
「うん!!」
――元気が良いですね。行きなさい、睡蓮。――
睡蓮は光の先に走った。
そして、その先に居る裕也に抱きついた。
キャラ紹介
『聖魔王』ルシファーの堕天した最凶最悪の堕天使。戦闘能力は現在の最高権力者全てを相手にしても引けを取らない。
終焉の魔具『七つの大罪』を使う。
『明けの明星』神に反逆して天から堕した最高位の天使。戦闘能力だけなら、初代のオーディン達よりも高かった。
しかし、それゆえに神々から嫉妬され虐めに会い、それに耐えきれず、もう一人の自分『聖魔王』を生み出し、堕天した。
???の神器『?????(??????)』を使う。その神器の力は、一瞬にして現界全土を消滅させる程の力である。