第一魂 脱国
・・・ここは、何所だ?
目を覚ますと、目の前に広がるは一面花畑。
そして、俺の前には翼の生えた人間がいた・・・
「すみません、ここは何所ですか?」
一先ず俺はそいつにここは何処かと尋ねる。
「ここは天国です。」
あ〜天国か〜、道理で綺麗なわけだ・・・はぁ!!天国ぅぅぅ!!
「おい、今天国って言ったのか!?」
「言いましたが?」
何てこったい・・・これでは睡蓮に会えないではないか・・・
「俺の元居た所に戻る方法ってある?」
「無い事は無いですよ・・・挑戦した人達は全員無理でしたけどね。」
有る事は有るようだ・・・何とかして戻らないと・・・
「教えて下さい、いや早く教えろ。」
「ええっとですね。貴方の後ろに有る門を開いて、三途の川の船守のカロンさんに頼んで彼の船で三途の川を横断したら戻れます。でもですね、まず皆さんは門で挫折してますから。それに、この行為は犯罪でして、折角天国行きなのに地獄行きなってしまいますよ。」
俺にとって、睡蓮が居ない世界は地獄当然だ。
裕也は後ろを振り向く。
そこには、超が付くほど巨大な門が・・・
裕也は門に近付き、門を軽くコツンコツンと拳で叩く。
「だから、止めた方が良いですって。その門は我々天使が二十人がかりで漸く開くものですから。」
神代氣強流・爆道之極・拳技『破邪爆惨』!!
裕也の手が真赤に光る。
そして、紅の残像を残す程の高速の突きを門に繰り出す。
「だから、無理です《ズゴォオオオオーーーーーーン!!←門の吹き飛ぶ音》えええええええ!!!!貴方本当に人間ですか!?」
門は軽く2、30メートルは地面を滑りながら門付近に居た天使達を巻き込む。
「よし。帰るとするか。」
裕也は片方だけ吹き飛んだ門を威風堂々と潜り、歩を進める。
裕也と一緒に話していた天使はと言うと・・・裕也のあまりの所行に口をパクパクさせその場に立ち尽くしていた。
そして、数秒後我に帰り。
「脱国者です!!」
叫んだ。
巨大な円卓が置かれている一室、そこでは現在円卓会議足る物が行われていた。
「未だにどの人間が魅女と成るか分からない現在、全総力を持って魅女を探すべきである。」
「七代目オーディン殿、それは間違っている。我々は今まで通りの捜査を継続させるべきである。何故、戦闘兵まで捜査に駆り出さねばならん。『聖魔降臨戦』まで後5日しかない。戦闘兵は休ませるべきだ。」
「何を仰る、七代目ゼウス殿。その甘さが、前回の『世界の終末』を引き起こしたんだぞ!!」
ゼウスの言葉に腹を立てるオーディン。
「そもそもだ、『聖魔王』が現世に再降臨したら、強大なエネルギー反応が発生する。世界中に戦闘兵を配置し、反応と同じに現地に各々を向わせた方が手っ取り早いし、労働力も少なく済むであろう。過去に何度もそれで成功しておろうが。それに前回のラグナロクを起こした原因となったのは、初代オーディンのせいじゃろうが。狼なんぞに呑み込まれおって。」
「初代を馬鹿にするのは止めて欲しい!!」
「落ち着くんじゃ二人共。今は言い争う場じゃなかろう。一先ず、折角の円卓会議じゃ、今件に関しては多数決でどうじゃ?」
紅い目の偉丈夫が仲裁に入る。
「閻魔殿の言う通りよ。私、十代目ヤハウェはオーディン君に賛成かな。」
出る所は出る、引っ込む所は引っ込んでいる抜群のプロポーション。
顔も見る人全てを魅了する程の美しさを持つ女性が閻魔を援護する。
「私、二代目アヌビスはゼウスに賛成で〜す。医学の神として一言「そんなのはどうでも良かろう!!俺様初代ダグダもゼウスに賛成だ!!」
体全体を包帯で巻いたこの場には少しそぐわしい男――アヌビス――が何か続けようとしたのを、ダグダと言う男が打ち切り自分の意見を述べる。
その場には、有りと有らゆる、神話の神、国の神、天使、英霊達がおりそれぞれが名を挙げどちらに賛成かを言う。
そして、全員の賛否を聞いた後ゼウスは満足気にオーディンの方を向く。
「わしの意見の方が賛成が多いようじゃな。」
「ぐぬぬぬ。」
悔しさのあまり歯軋りをするオーディン。
「大変です!!脱国者です!!」
会議室に天使が荒い息を抑えながら入って、事件を報告する。
「脱国者じゃと?あの門を只の人間が開けたと言うのか!?」
天使にして二十人、神や大天使、英霊達ですら漸く一人で開けれるという代物を只の人間が開けたと聞いて驚くオーディン。
「はい。状況を前方に投射します!!」
天使の目が光り、前方の壁にプロジェクターの様に画像を投影する。
そこには、音声は無いので何を言ってるのか分からないが、迫り来る天使やヴァルキリー、小鬼達を一撃で撃沈していく裕也の姿が・・・
「まさに、一騎当千じゃな。」
「閻魔殿、感動してはいけません。でも、すばらしく強いですね。私より強いのでは?」
「いや、お前は戦闘兵じゃねえだろ!!つうか、こいつ何て叫んでるんだ?投影だけじゃ、まったく分からん!!つうか、あれ買おうぜ、ビデオカメラとテレビ!!テレビは薄型の100インチのやつ。ゴブニュ、金創れる?マネークリエイチャー頼むよ〜。」
「・・・私を何だとお前は思ってるのだ?勝手に人をマネークリエイチャーと呼ぶな!!それに私が創るのは金ではなく武器防具だ!!」
「ケチだな。んで、こいつは結局なんて叫んでるんだ?」
「『マ〜イシスタ〜!!御兄ちゃんが今行くからな!!』と叫んでおります・・・」
天使は、頬を引き攣らせながら答える。
「「「「「「「うわ〜・・・・・」」」」」」」
その場に居る者達は、呆れて何も言えない。
「一先ず、そいつはほっとけ。全部隊に撤退の命令を出せ。一人の犯罪者を捕まえるよりも今は、聖魔降臨戦の方が大切だ。兵達を無駄に負傷させたりする訳にはいかんからな。」
「あっ、はい。」
天使は撤退命令を出すため、会議室から走って出て行く。
「しかし、本当に猛者じゃのう。前回の聖魔降臨戦で亡くなった毘沙門天の後釜に欲しいくらいじゃ。」
「前回の戦いですか・・・毘沙門天殿凄かったですからねぇ・・・核爆弾とやらを手に持って、『ラブフォアエヴァーだ!!』って叫んでサタンに突っ込んで行きましたからねぇ・・・」
「しかも、ダメージゼロ。とどめに、爆発でどっかの島国が消滅しただろ・・・」
「そんな事有ったねぇ・・・」
再び静かになる会議室。
漸く、川が見えた!!あそこで一服してる老人がカロンか・・・
「おいごら、船を出せ。」
裕也はカロンの襟を掴みギロリと睨む。
老人?そんなの関係ねぇ!!
「無茶言わないで下さい!!そんな事出来ませんよ!!死んだ人間が現世に帰るなんてご法度ですよ!!」
「何か言った?」
カロンの首を鷲掴みし宙に持ち上げる裕也。
「いっでまぜん!!だがらばなじでぐだざい!!」
辛うじて言葉を発する。それを聞くと手を緩める。
「もう一度聞く。出してくれますよね、船を・・・」
「はい、出させて下さい・・・」
か弱い老人に断れるわけが無かった・・・
「さあ、船を出せ!!」
木の船に真っ先に乗り込み、船を早く出すよう要求する。
「はい、只今!!」
カロンは船の櫂を握り全速力で漕ぐ。
「・・・遅いな。」
「無理ですよ!!これ以上早く漕ぐのは!!」
「ちょっと櫂を貸せ。」
「はぁ・・・」
裕也は櫂を握り、ふぅーと深い息を吐く・・・そして・・・
「うおりゃあああああああ!!」
叫びと同時に全速力で船を漕ぐ。
船はジェットエンジンでも積んでるのか!?と言いたくなる程の速度で三途の川を横断する。
「貴方は化け物ですか!?って、早過ぎます!!そんなに速度を出されたら私が落ちますって!!」
カロンの叫びに答える者は誰も居なかった・・・
それどころか・・・
「なら落ちろ・・・」
「えっ?」
ぼちゃん!!
裕也はカロンを船から蹴り落とす。
哀れカロン・・・
「待っていてくれよ!!マイシスター!!御兄ちゃんは、睡蓮がいる限り不死鳥の如く何度でも蘇るのさぁ〜♪」
後書き
今回から、後書きにて出てくる神様や英霊達の説明をします。
『ゼウス』ご存知の通りギリシャ神話の最高神。空を支配している。裁きの神器『雷霆』の使い手
『オーディン』ご存知の通り北欧神話の最高神。天地、人間の創造者にしてルーン文字の開発者。百発百中の神器『百発百中』の使い手。
『アヌビス』古代エジプトの冥界神。本来は犬の姿とされているが当小説ではミイラみたいな格好をしている。医学の神で、癒しの神器『癒しの風』の使い手。
『閻魔』地獄の主神。冥界の総司令で、天界も下界も支配した事の有るこの男。拿捕の神器『八大地獄』の使い手。
『ダグダ』ケルト神話ダーナ族の長。数多くの宝具を所有。輪廻の宝具の使い手。
『ヤハウェ』旧約聖書にあらわれる。イスラエルの最高神。霞の神器『我一人』の使い手。ちなみに、アドナイとはヤハウェの二つ名から引用。
『ゴブニュ』ケルト神話に登場する、鍛冶の神。彼は杖を振るだけで武器防具を創り出せる。創造の神器『無限製造』の使い手。
『カロン』ギリシア神話で冥府の川の渡し守をする老人。船の宝具『箱舟』の使い手。箱舟とは、裕也に乗っ取られたあの船の事。