うちは元気な子が多くて大変よ
由姫が陽絽との約束で本部を出てから暫くして、悠夜と将護が戻って来た。
捷の所へ報告に行こうとした二人を志織は眉をしかめて止めた。
「将護くんも悠夜も、そんなすり傷だらけで仄のところに行かないでちょうだい」
崇王奏十との戦闘で負った傷は幸い浅いものだったので、つい言われるまで忘れてしまっていた。
「捷は仄のところにいるんですか」
「ええ、そうよ。悠夜動かないで」
志織は悠夜の前に立つと両の掌に力を発動させて治癒を始める。
『浄化』。一部の術者しか持つことのない特殊能力。志織と仄はその能力を持っている数少ない術者だった。
「すみません。志織さん」
「ほんとうにね。うちは元気な子が多くて大変よ」
チクリと言われ悠夜は苦笑する。ほどなく悠夜の傷を治すと今度は将護にかかる。
「将護くんまで怪我なんて珍しいわね」
「崇王奏十と戦った」
短く答える側近に志織は瞳を見開いた。
「崇王、って悠夜にちょっかい出したヤツ?」
もう少し他に言い方はないのだろうか……と悠夜は思った。
「そうだ。俺の読み間違えで鉢合わせした」
「将護くんが読み間違え……?」
珍しいことが続くものだ。将護も大きな怪我はないので治療はすぐに終わった。
「急いで捷に報告に行きたいのは分かったけど、服もボロボロだから着替えてから仮眠室に行ってね。仄が驚くから」
「仄はどうですか」
「眠ってからだいぶ調子はいいわよ。顔見せてあげて。安心するだろうから」
ちゃんと着替えてからね、と念を押され悠夜は眉をさげて頷いた。
仮眠室では上半身をベッドから起こした仄とその傍らには捷がいた。
「捷さん、悠夜さんたちまだでしょうか」
「もうすぐですよ。仄が気にしている木の確認にも行ってもらっているので、少し時間がかかっているだけですよ」
仄の夢の一件で、捷は悠夜に本部に戻る途中様子を見てくるように連絡を入れていた。
「悠夜さんたち仕事だったのに、変なお願いをしちゃった……」
申し訳なさそうに言う仄に捷は首を横に振る。
「いえ、僕もそうした方がいいと思いましたから」
「でも、ただの夢ですよ……?」
「そうですね」
明確な理由とは言えない。それでも捷は悠夜に指示を出した。
ふっと捷の顔があがる。
「捷さん?」
どうしたの? と仄は小首を傾げる。捷はにこりと彼女に笑った。
「二人が戻ってきましたよ」
そう告げたと同時にノックの音がした。
捷が返事をすると悠夜と将護がドアを開けて入ってきた。「わあ、捷さんすごい~」と仄が驚きの声をあげた。
「なんですか?」
悠夜が不思議そうに尋ねる。捷は小さく手を振った。
「たいしたことじゃないです。もうすぐ君たちが帰ってくる話をしていただけですよ」
「悠夜さん、将護さんお帰りなさい!」
熱が引いたのか仄の明るい声に悠夜も一安心する。
「ただいま、仄。調子はどう?」
「はい、大丈夫です! 眠ったら治りました!」
元気に返事をする仄に捷は苦笑しながら「まだ熱はありますよ」とたしなめた。
「ねえ、将護さん、しばらく本部にいるって本当ですか?」
「ああ」
「そう言ってすぐにいなくならないでくださいね?」
「いる。だからおとなしくしてろ」
口数の少ない彼なりの優しさが伝わってくる。二人の様子をボスがどこか冷ややかに見ているのを悠夜は感じていたがあえて触れずにいた。仕様のない大人だ。
「それでは、始めに樹木の方からの報告を聞きましょうか」
捷が話を切りかえる。悠夜の表情が固くなる。
悠夜は一度チラリと将護を見るが、側近は小さく頷いただけだった。悠夜が口を開いた。
「……木は……、根こそぎ姿を消していました」
――――え? 悠夜の言葉に仄は耳を疑う。
「え……? だって昨日ちゃんと……」
状況が理解できない仄は困惑しながら昨日助けた樹木のことを思い出す。そうだ。昨日確かに助けた。……じゃあ、
「……あれは、夢じゃなかった……?」




