面白そうな人物ですね
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「悠夜、お帰り。早かったのね。浄化の方はやっておいたわよ」
本部に戻った悠夜に声を掛けてきたのは、同僚の朝木志織だった。
「……志織さん」
「ちょっと大丈夫? 顔色悪いわよ」
志織は悠夜の顔を見て眉をひそめた。悠夜はゆるく首を横に振る。
「大丈夫です。浄化ありがとうございます」
「仕上げの封印は今、陽絽がやってくれてるわ。由姫もついてる」
「そうですか……」
「何かあったのね?」
悠夜の戻らない顔色を志織は見逃さない。悠夜は苦笑した。
「まあ、簡単に言うと失敗しました」
「あら、めずらしい。それにしては戦ったようには見えないわね?」
志織は冷静に指摘する。本当によく見ている。
「はい。闘る前に負けました」
悠夜のお手上げのポーズに再び志織は眉をひそめる。
「それはまた興味深い話ですね」
新たな声と共に奥の部屋からボスが姿を現した。
「あれ、いたんですか」
「いましたよ。どこまで鈍くなってるんですか、君」
悠夜の軽い皮肉に同じく皮肉であっさり返す捷。
「陽絽と由姫がもうすぐ戻ってきます。それから話を聞きましょう」
「……仄は?」
「彼女はまだ任務中です」
「何の任務ですか?」
「心配しなくても大丈夫ですよ。どちらかというと、『任務』というより、いつもの僕の『おつかい』です」
「……そう、ですか」
それにしては戻りが遅いような気もするが。
「大丈夫よ。捷は仄のことを溺愛しているから」
「心外ですねー。僕は志織も由姫も大切に思ってますよ?」
志織に反論の意を唱える捷だが、今度は彼女がはいはい、と軽く流した。
二人のやり取りを横で聞きながら、悠夜は肩をすくめた。
「なるほど。面白そうな人物ですね」
陽絽と由姫が戻ると、悠夜は店で出会った男について話をした。そしてその話を聞いた感想が今の捷の言葉である。捷以外は全員表情が固いままだ。
ここに居る者達は、悠夜の実力を知っている。戦闘能力の高さはおそらく『神影』に属する術者の中でも群を抜いているだろう。
その悠夜が手も足も出せない相手となると……。
「おや、皆さん顔が固いですね。職場のスローガンを忘れましたか? 『明るく・楽しく・元気よく』ですよー」
相変わらずのんびり笑うボスに陽絽はげんなりとした。そんなスローガンはない。
「あのなー捷。話の流れだと悠夜、狙われてるぞ」
「いいじゃないですか。向こうから来てくれるなら、探す手間が省けますよ」
「そうだけど! だったら悠夜が危ねぇじゃねーかよ!!」
陽絽の心配ももっともだ。志織も由姫も無言で頷く。捷は一度、ふむ、と考えると悠夜へ向き直った。
「悠夜はどうです? 僕が護ってあげましょうか?」
「遠慮します」
ボスの笑顔の提案に速攻断りを入れる悠夜。捷はふふ、と笑った。
「そう言うと思いました。君、けっこう負けず嫌いですからね。その時も何もできなくて、かなり悔しがったんでしょう」
……図星である。悠夜は何も言い返せなかった。
「それにしても、その男の目的が全然分からないのは気味が悪いわね」
「はい。妖影なのか術者なのかも分かりませんし」
志織の言葉に由姫も同意する。
「それでは、」
捷がまとめに入る。
「だいぶ遅くなりましたね。皆さんお疲れさま。まずは石の件については保留、継続処理事項にします。そして『崇王奏十』についてはこれから調査に入ることにしますが、これはまた追って沙汰します。いいですね?」
ボスの言葉に全員が了承の頷きを返した。
捷はそれを確認すると笑顔で、「気をつけて帰ってください」と言って部屋から出ていった。
各々帰り支度をしていた時、悠夜は志織に飲みに行こうと誘われたが断った。
そんな気分にはなれなかった。
志織もそれ以上強く誘わず、代わりに陽絽を強引に拉致し、由姫は自ら「お供します」と言ってついていった。
彼女は未成年のはずだが……。いや、それを言ったら自分もなのだが。
外で賑やかな団体一行に分かれを告げると悠夜は一人、夜道を歩き出す。
……ゆっくりと歩くその後ろ姿からは彼が今、何を考えているのかを測ることはできない。
――――夜空に浮かぶ月は、いつまでもその姿を静かに照らし続けていた……。




