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幻葬記  作者: ことは
第6話:願い石
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面白そうな人物ですね

***


「悠夜、お帰り。早かったのね。浄化の方はやっておいたわよ」

 本部に戻った悠夜に声を掛けてきたのは、同僚の朝木志織(あさぎしおり)だった。

「……志織さん」

「ちょっと大丈夫? 顔色悪いわよ」

 志織は悠夜の顔を見て眉をひそめた。悠夜はゆるく首を横に振る。

「大丈夫です。浄化ありがとうございます」

「仕上げの封印は今、陽絽がやってくれてるわ。由姫もついてる」

「そうですか……」

「何かあったのね?」

 悠夜の戻らない顔色を志織は見逃さない。悠夜は苦笑した。

「まあ、簡単に言うと失敗しました」

「あら、めずらしい。それにしては戦ったようには見えないわね?」

 志織は冷静に指摘する。本当によく見ている。

「はい。()る前に負けました」

 悠夜のお手上げのポーズに再び志織は眉をひそめる。

 

「それはまた興味深い話ですね」


 新たな声と共に奥の部屋からボスが姿を現した。

「あれ、いたんですか」

「いましたよ。どこまで鈍くなってるんですか、君」

 悠夜の軽い皮肉に同じく皮肉であっさり返す(すぐる)

「陽絽と由姫がもうすぐ戻ってきます。それから話を聞きましょう」

「……(ほのか)は?」

「彼女はまだ任務中です」

「何の任務ですか?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。どちらかというと、『任務』というより、いつもの僕の『おつかい』です」

「……そう、ですか」

それにしては戻りが遅いような気もするが。

「大丈夫よ。捷は仄のことを溺愛しているから」

「心外ですねー。僕は志織も由姫も大切に思ってますよ?」

 志織に反論の意を唱える捷だが、今度は彼女がはいはい、と軽く流した。

 二人のやり取りを横で聞きながら、悠夜は肩をすくめた。



「なるほど。面白そうな人物ですね」


 陽絽と由姫が戻ると、悠夜は店で出会った男について話をした。そしてその話を聞いた感想が今の捷の言葉である。捷以外は全員表情が固いままだ。

 ここに居る者達は、悠夜の実力を知っている。戦闘能力の高さはおそらく『神影』に属する術者の中でも群を抜いているだろう。

 その悠夜が手も足も出せない相手となると……。

「おや、皆さん顔が固いですね。職場のスローガンを忘れましたか? 『明るく・楽しく・元気よく』ですよー」

 相変わらずのんびり笑うボスに陽絽はげんなりとした。そんなスローガンはない。

「あのなー捷。話の流れだと悠夜、狙われてるぞ」

「いいじゃないですか。向こうから来てくれるなら、探す手間が省けますよ」

「そうだけど! だったら悠夜が危ねぇじゃねーかよ!!」

 陽絽の心配ももっともだ。志織も由姫も無言で頷く。捷は一度、ふむ、と考えると悠夜へ向き直った。

「悠夜はどうです? 僕が護ってあげましょうか?」

「遠慮します」

 ボスの笑顔の提案に速攻断りを入れる悠夜。捷はふふ、と笑った。

「そう言うと思いました。君、けっこう負けず嫌いですからね。その時も何もできなくて、かなり悔しがったんでしょう」

 ……図星である。悠夜は何も言い返せなかった。

「それにしても、その男の目的が全然分からないのは気味が悪いわね」

「はい。妖影なのか術者なのかも分かりませんし」

 志織の言葉に由姫も同意する。

「それでは、」

 捷がまとめに入る。

「だいぶ遅くなりましたね。皆さんお疲れさま。まずは石の件については保留、継続処理事項にします。そして『崇王奏十』についてはこれから調査に入ることにしますが、これはまた追って沙汰します。いいですね?」

 ボスの言葉に全員が了承の頷きを返した。

 捷はそれを確認すると笑顔で、「気をつけて帰ってください」と言って部屋から出ていった。

 各々帰り支度をしていた時、悠夜は志織に飲みに行こうと誘われたが断った。

 そんな気分にはなれなかった。

 志織もそれ以上強く誘わず、代わりに陽絽を強引に拉致し、由姫は自ら「お供します」と言ってついていった。

 彼女は未成年のはずだが……。いや、それを言ったら自分もなのだが。

 外で賑やかな団体一行に分かれを告げると悠夜は一人、夜道を歩き出す。


 ……ゆっくりと歩くその後ろ姿からは彼が今、何を考えているのかを測ることはできない。


 ――――夜空に浮かぶ月は、いつまでもその姿を静かに照らし続けていた……。


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