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大いなる存在と己

『オリジナルムーンの謎と脅威 特別章』


―― 彼らが私を選んだ理由 ――



 ここまで読み進めて頂いた読者の方々の脳裏には、ある一つの疑問が浮んでいるのではないかと勝手に推測するので、もう少しだけ続くのをお許し頂きたい。

 この『彼らが私を――』は全く私の勝手な戯言、編集担当の方にお願いして無理矢理入れて頂いた、いわば『私だけが私の妄想に付き合うに足る存在』を確認するかのようなちょっとしたページの無駄遣いである。


 前置きはこのくらいにして、手始めに問うてみたい。

 宇宙に飛び出してから早500年、26世紀にも入ろうとするこの時代に私達が知りうる唯一の知的生命体である人類が、未だ出会っていない宇宙人の存在を、果たして正確に否定出来る者がどのくらい居るのかという事を。

 回答者は何も科学者に限定しない。ごく普通の一般人であれ、皆が納得する論理を示して頂けるのなら、私はすぐにでも地球の裏側くらいまでなら飛んでいく用意がある。それほどに答えを欲している、またはこの簡単な正解を改めて空気を震わせる言葉として、万人から共感されたいという事なのだ。


 確かに近年、地球の宇宙科学技術も捨てたもんでは無い訳であって、太陽系は全て人類が歩いた庭になったし、宇宙望遠鏡が手に取るように地表まではっきりと映し出す末端の星までを掌握と言って良いのであれば、天の川銀河を包み込める範囲になったのは皆さんも良くご存知の通りだが、さりとて『此処』に彼らが居なかったから、予測値・統計学上全くの0かと言えば勿論そんな事は無い。

 つまり宇宙全体を、妻が旦那のカード・通帳・昨夜の飲み会の足取り等全てを把握しているように、完璧に見通してみての否定ならそれも意味を持つが、現実問題として現在の地球の科学力では叶わぬ事であって、余す事無く実現するには『時間理念をひっくるめた空間支配』が必須である。

 そんな訳で、誰かがちょっと気の利いた宇宙船で光の速さで冒険の旅に出たとしても、結局『彼らが何処かでほくそ笑んでいるかもしれない真実』がそれ以上の猛烈な速さで、それこそ宇宙の彼方へ逃げて行っているだけなのだ。


 ビッグバンより130億年経過した宇宙の端は、きっと我々人類には想像すら出来ない世界なのだろう。

 実際には『光の速さを超えての情報の伝わり方はありえない』筈なのに、膨張は光速限界の法則を無視するのだから、余程のご近所さんで無い限り奇跡的な出会いを期待する方がナンセンスと言えるのかも知れない。


 と、遠い未来に至るまで、あたかも人類以外の知的生命体との接触確率は無に等しいかの様な意見を書き連ねてしまったが、これはあくまで人類の考えを基本にした言わば『普通の次元』での捉え方である。

 冷静に考えるに、想像出来る範囲イコール経験プラスアルファ――遺伝子や無意識下に蓄積されたもの――という公式が成り立っている世界など退屈過ぎやしないだろうか。宇宙に目を向けるという作業は、別次元の存在証拠を見つける作業でもあると、私は声を大にして叫びたいのだ。


 ゆえに私は再度問いたい。

『その君の命は何の為にある?』




「ここから特にあても無いんですけど」


 サードムーンに上がったはいいが、進むべき道が全く見えない。

 とにかくこの星が平和のオーラを纏っているのは、先ほどのコロッケ売りで十分分かった。街並みは時代劇にでも出てきそうな、今では殆ど使われなくなった素材――メンテナンスに手間の掛かるコンクリートやアスファルト――をふんだんに使用しているし、こうなると逆に古い型のアンドロイド――表情が現代製品ほど豊かで無い――などは、この雰囲気に全くそぐわないであろう事も想像出来た。


 日本でいう『昭和』の時代のアーケード。

 思わず胃が刺激された彼ら三人が堪らず入った喫茶店で、特にショーンは本来の目的を忘れそうになる程その店内に漂う香りに心から落ち着いた。そんな中でマリアは有害物質識別コンタクトを外し、月の安全基準に身を任せコーヒーカップを持ち上げる。


「教授、聞いてます?」


 窓の外を見つめ、二十代の頃の青春時代に一人にやけていたショーンには、マリアの声が届いていなかった。

 再度マリアが


「ハワード教授は、こういう雰囲気が似合いますね」


 と話しかけると、やっと店内BGMの音量とバランスが取れたようで、左脳の奥だけを青春時代に残したままのショーンは


「そうかい? 古い物との調和を喜んで良いものかとも思うが、ありがとう」


 と年長者らしい受け答えをしてみせた。

 そのひと言は、マリアの焦りの様な得体の知れない不安を潜めさせ、暫らく教授のペースで物事を考えるのも良いかも、と思わせるには申しぶんのない程の説得力があった。

 そしてマリアもユスケンも教授に倣い、何にも追われることのない感情の中に身を置いて、今此処にあるありきたりの幸せを噛み締めた。

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