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外伝 竜の伝説1

 今回の外伝、竜の伝説は、作風を変えてテスト的に書いてみました。

 投稿しようか迷ったのですが、投稿することにしました。

 作風が変わり、私としても、出来がいまいちであり、きらいな方は読まなくても本編を読むうえで、支障のないようにいたしますので、読まなくても大丈夫です。

 主人公が日本というよりは、脇役に当たっていきます。

 今回の外伝は、ゴールデンウィークが終わるまでには完結します。

日本国から北東方向に約3000kmの位置に、高さ約1500mの山がある。

 その山は、まるでカルデラのようにリング状になっており、そのリングの内側には内海が広がる。

 リング状の山の内側からさらに100km北東の位置に、日本の本州の半分ほどの大きさの島があった。

 島には

○カルアミーク王国

○ポウシュ国

○スーワイ共和国

の3国が存在する。

その島は海岸が無く、島の全周が絶壁の崖である。


 人工衛星打ち上げにより発見されたこの島に対し、日本国政府は国から近い事を理由にこれらの国々と国交を結ぶ事を決定した。


 この物語(外伝)は、この3ヵ国の中のカルアミーク王国と国交を結ぶために、国の事情によって運命を翻弄され、命をかけた使節団の物語である。


◆◆◆


 文明圏外国家 カルアミーク王国 王都アルクール ウイスーク公爵家


 王国の3大諸侯、建国時に大きな功績をあげたウイスーク公爵家、その大きな屋敷の中で、1人の女が本を読んでいた。


 本の名前は『英雄の伝説』。


 数々の英雄伝説が書かれた本に、その女性、20歳になったばかりのエネシーはハマっていた。


「エネシー、朝ごはんの時間よ!!早く降りて来なさい。」


 母親が呼んでいる。


「はーい。」


 エネシーは、食事後にまた読もうと思い、本をベッドの上に置き、食堂に向かった。

 いつもの朝食が始まる。


「エネシー、あなた小さい子が読むような本ばかり読んでないで、彼氏の1人でも見つけて来たらどうだい?

 もう20歳にもなるのだから。」


 母のニッカが痛いところをついてくる。


「母さん、エネシーに彼氏はまだ早いよ。」


 エネシーの父、ウイスーク公爵は娘を庇う。


「早いもんですか!女盛りの時期に男が出来なかったら、男なんて一生出来やしないよ。」


 母の話はつづく。


「ちょうど1カ月後に、王国建国記念祭りがあるでしょう?

 カルアミーク王国の1大イベントよ。一緒に行けるような男はいないの?」


「うん、いないよ。」


 エネシーは静かに答える。


「いないなら、建国記念祭で見つけておいで!」


「うーん、そういう出会いってなんだかなぁ。」


「?」


「やっぱりこう……劇的な出会いがしたい!心が揺さぶられるような。」


「あんた、劇みたいな事を言ってないで、現実を見なさいよ。」


 本音で話をする家族の会話がそこにはあった。


「そういえば……。」


 ウイスーク公爵が話に割って入る。


「最近霊峰ルードの火口付近に、魔物が集まっている事が確認されているんだ。

 王都からは遠いから問題は無いと思うが、念のために王都から勝手に出てはいけないよ。

 特にエネシー、気をつけなさい。」


「はーい。」


 食事が終わる。


「ごちそうさまっ。」


 エネシーは、自室に戻り、ベッドの上に置いてあった本を開く。

 その本、英雄の伝説は、今までにあった王国の歴史で様々な英雄的出来事が記されている。

 中でもエネシーが好きだったのは、本の最後に記された預言者トドロークの預言、王国の危機について記された1文だった。


 本にはこうある。


 異界の魔獣現れ、王国に危機を及ぼさんとする時、天翔る魔物を操りし異国の騎士が現れ、太陽との盟約により王国のために立ち上がる。

 王国は建国以来の危機に見舞われるだろう。

 異国の騎士の導きにより、王国は救われるだろう。


 良く意味の解らない文章であるため、一般的にはとんでも予言者として通っていたが、エネシーは信じていた。


「私の……運命の人は、きっとこの騎士様よ……。

 王国が危機になるのは困るけど、必ず私のナイトは現れる!!」


 エネシーは少し邪気の含んだ笑顔で本を閉じた。


◆◆◆


 カルアミーク王国 王都アルクール 北側約100km付近 霊峰ルード


「また見つけたぞ!!矢を放て!!!」


 約30名の騎士団のうち、10名ほどが矢を放つ。

 その矢は2足歩行し、手に原始的な槍をもったトカゲに突き刺さる。


「ギョォォォォ……。」


 気味の悪い声を発しながら、トカゲは騎士団に向かい、突撃を開始する。


 鈍い音。


 トカゲは血しぶきをまき散らしながら、地面に倒れ込む。


「ハァハァハァ……打ち取ったぞ!!!」


 若い騎士が誇示する。


「よくやったぞ!モリソー!」


 団長は若い騎士を労う。


 カルアミーク王国の辺境、霊峰ルード付近では、最近急激に増え、付近の村々に現実的に被害を及ぼすようになってきた魔物を討伐するため、交代で騎士団が巡回していた。

 強い魔物が出現しても対応できるように、30名1個班で巡回する。


 団長コウシュは今回打ち取った魔物の死体を見る。

 グランドマンと呼ばれるトカゲの化け物、原始的な武器を持ち、気性は荒く、人を見るとすぐに襲い掛かってくる。


「最近の増え方は異常だ。いったいどうなってやがる!!!」


 コウシュは増え続ける討伐依頼に頭を悩ますのだった。


◆◆◆


 日本国 首都 東京 外務省


 日本国政府の決定に基づき、日本から北東へ3000kmと、比較的近くにある輪状山脈の内側に存在する島に対し、国交開設の1団を派遣することになったが、外務省は頭を悩ませていた。


「どうやって行くんだ?こんな国。」


 島は本州の半分ほどの大きさであるが、輪状山脈に囲まれた内海の中にあり、船では到達することが出来ない。

 かといって、ヘリで行こうにも、いきなり対象国の街中に降りる訳にはいかず、都を囲む城壁の周辺は、背の高い木が生い茂る森である。

 高い山には木が無いが、そこにヘリを駐機し、歩いていくには遠すぎる。

 島には海岸が無く、絶壁の崖で囲まれており、海岸にも置くことは出来ない。


 自衛隊員ならば、ヘリからロープ等を使用して降りる事もできようが、外交官がそんな事を出来るはずもない。

 平地を作るために、他国の領土の一部を焼き払う訳にもいかず、外務省は頭を悩ませる。


 防衛省に、貢物と外交官をヘリから降ろせるか問い合わせたが、木の背が高く、ロープが引っかかる可能性もあることから、訓練された自衛隊員個人の降下ならば可能だが、素人を同時に降下させるのは危険と判断された。


「これ……どうしよう。」


 頭が痛くなった担当官は、同僚に知恵を求め、話しかける。


「屈強な自衛隊員なら行けるが、素人は無理ってことだろう?」


「ああ、そうなんだよ。」


「なら、鍛えれば?」


「どう考えても無理だろう!」


「すまんすまん、冗談だ。うーん、ワイバーンって、垂直離着陸は出来ないの?」


「一般的には滑走路が必要と聞いているが……でも、どのみち乗れないぞ。」


「2人乗りだよ、2人乗り、この世界には竜騎士がいっぱいいるのだろう?

 大体、生物だから、滑走路が無くても本当は何とか飛べるのではないのか?」


「まあ……調べてみる価値はあるな。」


 担当職員は、ワイバーンについて調べ始めた。


◆◆◆


 ロデニウス大陸 ロウリア王国 首都ジンハーク


 日本国との戦争により、働き盛りの男手を大きく奪われたロウリア王国。

 その首都ジンハークは、活気を取り戻しつつあった。


「では、この契約書にサインをお願いします。」


「わかりました。よろしくお願いします。」


 契約書にサインが書かれる。


 日本国のインフラ事業、開発による用地買収、ロウリア王国の国庫を利用し、大手ゼネコンを潤わす新たなインフラ事業がスタートしており、その用地買収の手続きには、現地で雇った者が使われていた。


 日本国との壮絶な戦争を経験し、終戦後は軍の定数削減、そして賃金の大幅な引き下げが行われたロウリア軍では、多数の離職者が出ており、花形の竜騎士だったムーラも、大好きな妻と小さい子供を養うため、外資系企業(日本企業)に転職していた。


 日系企業の給料は良く、インフラ事業に関わる事により、地価の上昇が予測できるようになり、ムーラは個人的にも、ちゃっかり土地を購入していた。

 不動産価値が上がることを願うばかりだ。


 竜騎士ムーラは、ロウリア王国軍の中ではトップクラスの腕を持ち、局地戦におけるワイバーンの垂直離着陸の有用性を提唱し、そのために必要なワイバーンの鍛え方まで研究していたため、自らの乗騎するワイバーンは、世界で唯一、垂直離着陸が可能だった。


 今日も無事に土地の用地買収が成功した。


 ロウリア王国の首都、ジンハークでは、日本に対する恐怖がまだ残っており、日系企業の行う用地買収で、適正な買取価格に対し、拒否する者はおらず、仕事はスムーズに進んでいた。


「さあて、今日も帰って子供と遊ぶか!!」


 仕事が終わり、ムーラは家に帰ろうとする。


「ムーラさん、ちょっと待って下さい。」


「何でしょうか?」


「実は……国の依頼で……ちょっと出張に行ってほしい所があります。」


「出張ですか?」


「はい、海外出張です。」


「ロウリア王国人の私が海外で出来る事なんて……大した事は出来ません。

 日本人ならば、一目置かれていますし、日本の方が行った方が良いのでは?」


「いい、私が説明しよう。」


 上司との話に初老の男が割って入る。


「支部長!」


 現地の雇われ人が、支部長クラスの人と話をすることはまず無い。

 雲の上の人の登場により、ムーラは少しだけ緊張する。


「君は、前に安田君(ムーラの直属の上司)との会話の中で、ワイバーンに君以外の人を乗せて、背の高い木々が生い茂る深い森に滑走路無しで着陸と離陸が出来るか聞かれた時、簡単な事であると答えたらしいが、それは本当かね?」


「はい。」


「単刀直入に言おう。日本国政府からの依頼だ。

 外交官を後ろに乗せて、未開の国に飛んでほしい。

 我が社にとって、本件が成功すれば、政府に恩を売れ、大きな社益につながる。

 外交官を背負って飛ぶだけだ。

 未開国では、自衛官の護衛も付くため、危険も少ないだろう。

 本件が成功すれば、君の基本給を5倍にして終身雇用も約束しよう。

 悪い話ではないと思うが。」


「出来るかどうかは話を聞いてからです。詳細をお伺いしないとなんとも言えません。」


 数日後、ロウリア王国の竜騎士ムーラは日本国政府の依頼を受ける事を決意した。


◆◆◆


 パーパルディア皇国 皇都エストシラント


「何だ?この依頼文は?」


 日本から送られてきた依頼文という名の命令文を見て、カイオスは部下に疑問を呈す。


「……日本の意図が読めません。」


 内容的には、文明圏外国との国交開設のため、ワイバーンが必要であり、約1カ月の間、竜母1隻と、その乗組員を貸してほしいとの内容だった。

 運びたいワイバーンが1匹いると。


「日本国は我が国よりも遥かに大きい竜母を何隻も持っているだろう。

 なぜたったの1隻を貸してほしいと?」


「……わかりません。」


 日本国では、ヘリコプター搭載護衛艦でのワイバーンの輸送が検討されたが、エサやフンでの処理が面倒であり、生臭くなる事に対しても反対意見が出た。

 そして何よりも火を吐く生物を艦内に入れ、もしも暴れられたら困るといった安全的見地からの意見も出たことから、皇国の竜母に白羽の矢が刺さった。


「……さすがに1隻で派遣するわけにはいかんだろう。

 日本の艦も出るようだから、いい機会だ。

 護衛に砲艦5隻と、補給艦3隻をつけて日本に送ってやろう。

 皇国兵が日本の艦を近くで見る事も出来るから、将来の皇国のためになろう。」


 パーパルディア皇国は、日本国の依頼を受託した。


◆◆◆


 約1カ月後~


 日本国北東約3000km 海域  早朝


「遅い、遅すぎる。事前に予測されたことではあるが、この程度の距離を走るのに、一体何日かかった?」


 全長248mにも及ぶ、いずも型護衛艦の艦橋で、艦隊司令の荒木正次郎はため息混じりに吐き捨てる。


「ワイバーンをこの艦に乗せる訳にはいかなかったのですから、致し方ありません。

 我が国が依頼した事です。」


 部下が見た方向には、地球ではまず見る事が出来ない帆船による艦隊が見える。

 今現在皇国に残る艦の中では最新式らしく、見栄をはった事が伺える。


 日本国は、今回国交開設の前段階として、使節団派遣を決定、対象国の地形からファーストコンタクトに限り、外交官はワイバーンを使用、竜騎士の後ろに乗り、自衛隊は護衛と貢物の搬送のため、ヘリから降ろしたロープで降下する事とした。


 ヘリを搬送するため、いずも型護衛艦が訓練も兼ねて派遣される事となり、その護衛に護衛艦が3隻つく。


 さらに、ワイバーンの搬送にパーパルディア皇国の竜母が使用され、その護衛と補給に8隻、合計12隻の多国籍艦隊はようやく目的地の海域に到達したのであった。



 ムーラは、パーパルディア皇国の竜母の中で、愛騎の世話をしていた。


「キューン。」


 ワイバーンはムーラに甘えてくる。


「よしよし。」


 ワイバーンの体調は悪くない。


 竜母にいる皇国兵からは


「ロード種よりも小さい蛮族のワイバーン」


 等、陰口をたたかれていたが、すべて無視する。


「良い竜ですね。主人との関係が良く出来ている。」


 1人の皇国兵が話しかけてくる。


「ああ、我が国にはロード種は無いが、こいつは俺の大切な相棒ですよ。」


 ワイバーンをなでながらムーラは答える。


「自己紹介が遅れました。

 私も皇国で竜騎士をしております、レクマイアと申します。

 ムーラさん、この竜は滑走不要、1人を余分に乗せた状態で離着陸できると聞いたのですが、本当ですか?」


「ええ、出来ますよ。」


「……すごいな、我が国のロード種では絶対に不可能だ。垂直離着陸ができるのならば、運用と陸戦の幅が大幅に広がる。」


「ロウリア王国に生息するワイバーンは、大陸に比べたら小型だから、鍛えたら出来るのでしょうね。」


「なるほど!ムーラさん、今度機会があれば、酒でも飲みながら竜について語りたいものですな。」


「ははは……そうですね。」


「国にきてくれれば、旨い店もありますし、良い女も紹介しますよ。」


「いや、私は愛する妻がいるので、女はいりません。」


 ムーラは初めての列強竜騎士との交流を楽しむのだった。


◆◆◆


「こ……これに私が乗らなくてはいけないのですか?」


 パーパルディア皇国海軍の竜母の上で、ロウリア王国のワイバーンを見ながら、日本国外務省の北村は、自分の不運を嘆きたくなった。

 何が悲しくて自分がこんな訳の解らない生物に乗って、しかも100km以上も飛ばなくてはならないのだろうか?


「国命でしょう?あなたも国のために働く者なら、命を懸けるのは当たり前でしょう。早く乗ってください。」


 ムーラが外務省職員に活を入れる。


「うう……。」


 外務省の北村は、ムーラの後ろに騎乗する。


 ロウリア王国のワイバーンと、日本国のヘリコプターは、国交開設の対象国となるカルアミーク王国へ向かい、飛び去って行った。



◆◆◆


 カルアミーク王国 王都アルクール 西側約10km 森の中


 王都アルクールから1つの山を隔てた西側約10km地点に使節団は降り立った。

 王都からも山を隔てているため、視界が遮蔽され、北側にある主要道路と思われる山道からも、小さな丘を隔てて着陸しており、着陸の様子は誰にも見られてはいないだろう。

 外交官1名、自衛官20名、竜騎士1名、ワイバーン1匹の混成使節団である。


「すまんが、ここにいてくれよ。危ない事があったら、一時的に避難していいからな。

 人間は絶対に食べちゃだめだぞ。」


「キュウキュウ」


 ムーラはワイバーンに言って聞かせ、ワイバーン用の保存食も近くに置く。


 ヘリも去り、出発準備が整い、出発しようとした時だった。


「キャァァァ!!誰か、助けてぇぇぇぇぇ!!!」


 森に女性の悲鳴がこだまする。


「魔物が!!魔物が!!!いやぁぁぁぁぁ!!!!」


「ど……何処だ!?何処から聞こえている?」


 おそらくは北側から聞こえる悲鳴、しかし、森に視界が遮られ、場所がつかめない。


「私が見て来ます。」


 ムーラは愛騎であるワイバーンに騎乗する。


「はっ!!」


 空気を押しのけ、ワイバーンは離陸した。


◆◆◆


 カルアミーク王国 ウィスーク公爵家


 1人娘、エネシーは親にないしょで、ある決意をしていた。


 間もなく開催される建国記念祭、公爵家の娘として、ドレスを着るのだが、べノンの花は絶対に外せない。

 街の商人たちに声をかけるも、今年は不作であり、わずかな在庫もすでに買い取られているという。

 エネシーは、小さいころ、山でべノンの花を多く見た事があった。


日があるうちなら、きっと大丈夫!


彼女は出かける準備をする。


(魔物が危険だから王都から出てはいけないよ。)


 父の言葉が脳裏をよぎるが、彼女はお構いなしに王都の外にある山に向かった。


 よく晴れた日、空を見上げると雲は高く、青空が一面に広がる。

 背の高い木々の下をエネシーは歩いていた。

 小川の音、鳥のさえずる声、とにかく気持ちがいい。

 たしか、そこの小さな丘を登ったところにベノンの花が咲き乱れていたと思う。


 彼女は慣れない手つきで丘を登る。


 丘の上に着くと、彼女の思っていたとおり、野生の花が咲いていた。


「わぁ……。」


 きれいな花、彼女はその中でも特に気に入っていた花を摘む。


 ガサッ!!


 音がして、振り返ると、野生の二重まぶたイノシシがいた。

 二重まぶたイノシシは、気性がおとなしく、人懐っこいため、人間に害はないとされていた。


「もう!驚かさないでよ。」


「プピプピ」


 次の瞬間、何か大きいものが眼前に飛び出してくる。


「な!!」


 イノシシが悲鳴をあげる。


「あ…あ…。」


 エネシーの前には、全長が3mにも及び、足が6本、体の筋肉はむき出しになり、黒く、目の吊り上がった魔獣が1匹。

 頭からは角が12本生えている。


 今まで読んだことのある本に記載されていた伝説の魔獣、12角獣の姿がそこにはあった。

 エネシーの眼前で、生で食べられるイノシシ……。


「確か、12角獣の生態って……。」


(人間に高い敵意を抱き、お腹がすいていなくても、人間に襲い掛かってくる)


 エネシーは魔獣の知識を思い出す。


「い……いやぁぁぁぁぁぁ!!!誰かたすけてぇぇぇぇぇ!!」


 頭をめぐる死の予感、いやだ!!

 私はまだ若い、まだ……死にたくない!!結婚だってしたいし、子供も産みたい。

 死んでたまるか!!!

 でも……。


 エネシーは、12角獣に対し、逃げることしか出来ないと思い、本気で逃げ始める。


「シュギャァァァァァ!!!」


 咆哮をあげ、魔物は迫ってくる。


 速い!!


 このままではあっさりと追いつかれてしまうだろう。


 助けて……助けて……誰か助けて。

 

 私の将来のナイト!!あんた未来の嫁が死にそうな時に何をやってんのよ!!!


 様々な思考が駆け巡る。


 だめだ、もう追いつかれる。

 エネシーは死を覚悟した。

 ふと、影が太陽を遮る。


「ギュォォォォォーーン!!!」


 体の芯から震えの来る咆哮。

 何か重い裳のが地面に着地する音。


「なっ!!」


 灰色の体、漆黒の翼、刺々しい姿……彼女は伝説の本でだけ見たことがあった生物を思い出す。


 まさか……竜!!

 はっ!!

 今更ながらに気付く。


「人が……人が乗っている!!!」


 神様が……私のためにナイトを遣わしてくれた!!!!


 エネシーの壮大な勘違いが始まる。


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― 新着の感想 ―
なんで、わざわざ進入困難な所と外交しようと考えたのか分からん。 向こうはこちらに来ることも出来ずに引き込もってるだけだから、無視しても良いのでは? でも、エネシーがアホなのは面白いから良し。
[一言] カルーアミルクと泡盛とワイン?
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