初めての新世界2
翌朝~
クルセイリース大聖王国の調査団は帝国ホテルロビーに集まっていた。
「おはようございます」
日本国外務省の朝田が本日の予定を説明する。
「本日は自衛隊を見学して頂く予定だったのですが、急ではありますが、先に会談をしたいと思います」
急な会談など国と国の関係ではあり得ないことだが、今回は使節団ではなく調査団であり、日本を知ってもらいたいために案内するという流れであるため、多少の無理は効く。
「日本の西にある島国、ガハラ神国の方が、どうしてもクルセイリース大聖王国の方々とお話がしたいとのことです。
急であるため断ることも出来ますが、いかがいたしましょうか?会談の場を設けてもよろしいでしょうか?」
日本国はクルセイリース大聖王国の調査団については、特に他国に公表や伝達をしていた訳では無かった。
しかし、隣国『ガハラ神国』から
『神示が下ったので会わせてほしい』
と、調査団受け入れを言い当てられ、帝国ホテルへの宿泊までも言い当てられた。
ガハラ神国は不思議な力を操る民で、昔の日本神話の中にあるかのような国だ。
日本国政府としても、強く断る理由が無く、クルセイリース側が良いのであれば良いとの見解だった。
「ガハラ神国??」
神国という名は大層な名前だなと思いながらも、日本国がわざわざ紹介するような国。
情報を持ち帰る事を目的とする調査団に断る理由が無く、会談は実施されることになった。
■ 小会議室~
クルセイリース聖王国調査団9名を挟んでガハラ神国の使者が2名、そして日本国の案内役3名と書記2名がつく。
会議が始まった。
「はじめまして、私はガハラ神国のクシナダと言います。
横にいるのがスサノウです。
この度は場を設けて頂いて、ありがとうございます」
古風な民族衣装に身を包んだ美しい女性が話し始める。
今回はガハラ神国側から会談を申し込んできていたため、クシナダの言葉を待った。
「日本国の方も、しかと聞いて頂きたい。
結論から申し上げると、八岐大蛇の復活が迫っています」
『や……ヤマタノオロチ??』
日本神話に出てくるヤマタノオロチという言葉がガハラ神国から発せられる。
これを外交文書の報告書に載せる事になるなんて、何てファンタジーな世界かと、朝田は頭がクラクラした。
「確か……体が何個の山にまたがるほど、とてつもなく大きい化け物で、日本神話に出てくる伝説上の生物だと記憶しているのですが」
「日本のみではありません。
ガハラ神国の神話にもしっかりと記載がありますよ。
おそらく意味が解らないと思いますので、ゆっくりと順を追ってご説明いたします。
しばらくおつきあい下さい」
クシナダはゆっくりと話し始めた。
「まずこの世界の成り立ちについてお話します。
この宇宙は天之御中主神によって作られています。
これは人の形をしたものではなく、圧倒的なエネルギーの塊……とでも言いましょうか。 生きとし生けるものはすべて、この天之御中主神の「分け御霊」を頂いて生きております」
急に宗教的な話しになり、皆怪訝な顔をする。
「変な話しではありません。
宇宙創造の神の事を、我々はアメノミナカヌシと読んでいますが、国によってそれぞれ言葉や宗教が違うように、宇宙創造の神も、国や宗教によって言い方が変わります。
あなた方の宗教での創造の神を思い浮かべてもらえれば結構です。
要は国、宗教によって呼び方が異なるだけで、宇宙創造の神という意味においては同じなのです」
彼女は続ける。
「我らの国の王、神王ミナカヌシは、この天之御中主神から頂く「分け御霊」の量が少しだけ多い人間です」
「我ら日本人にも分け御霊が?」
「もちろんあります。
生ける者すべてにあります。これが無ければ生きることは出来ません。
日本国がこの世界に転移した時も、神示が降っていました。
当初はどんな国が来るのかと心配もしたのですが、攻撃性は無く、国内においても他国の宗教が対立せずに融和している国であったため、本当に嬉しく思いました。
どうしても宗教間の対立は、殺伐としてしまいます。
対立する宗教は、皆自分の宗教が一番正しいと思い、そう思うだけなら良いのですが、他の宗教を排除しようとする方までいます。
宗教を元とした戦争は終わりが見えない地獄と化します。
しかし、日本においては様々な宗教が自由に信仰され、それぞれが他を排除しようとまではしない。
素晴らしいですね」
クシナダは微笑んだ。
「本題に戻ります。
かつて、ヤマタノオロチという化け物が現れました。
何処から来たのかは解っていませんが、これは人類滅亡の危機に瀕するほどの大災でした。
しかしその時、この横にいるスサノウのご先祖様、何代前か解りません。
何千世代も前のスサノウが、天之御中主神の分け御霊を多く賜り、撃退して十字の地の中心にこれを封印しました」
「なっ!!!」
クルセイリース建国神話に似た話をガハラ神国の者が話したため、彼等は固まる。
「神は甘く無い、厳しい存在です。
今回、何らかの原因で、ヤマタノオロチの封印が解かれます。
しかし、現代のスサノウの神通力が上がる気配もありません。
おそらく自分達……人間達で何とかしろという事かと」
「ま……待って下さい!!建国神話の邪神が……邪神が復活するというのですかっ!!
それはいつ??
封印が弱まっているというのですか!!」
興奮したニースが連続して問うた。
「封印は完璧です。
封が解かれるのは、人為的な事が原因になりそうなのです」
荒唐無稽な話、しかし過去に魔王と自衛隊が戦った現実もあって、一言で嘘だとも言えない。
朝田はクシナダを向く。
「ヤマタノオロチはどの程度の脅威なのでしょうか?」
「日本国に伝わる伝承のとおり、8つの谷と8つの峰を覆う八首八尾の巨龍です。
ただし、強さは全盛期の半分ほどでしょう。
まずは体力回復のために、付近の住民を喰うでしょう。
魂ごと喰うため、食された民は転生する事無く完全に消滅します。
そして……体力を完全なものとするため、自分の体の一部を取り戻そうとします」
「体の一部?」
「はい、ヤマタノオロチはあまりにも力が強かったため、封印中の体を弱体化させるため、体の一部を封印し、決して集める事が出来ぬよう異世界へ飛ばしていました。
しかし、その一部はこの世界へ来てしまいました」
「と、言うと?」
「ヤマタノオロチは復活後、体の一部が封印してある島根県出雲市の須佐神社を目指します」
「なっ!!!!に……日本にあるのですかっ!!」
「はい、何も手を打たなければ、通りの街の民も喰われ、街が何カ所か消滅するでしょう」
あまりの荒唐無稽な話しに、皆固まった。
クシナダは続ける。
「出雲市の住民を喰うた後は、ヤマタノオロチはガハラ神国へ向かうでしょう。
我が国には、ヤマタノオロチのエネルギーの主力だったものを剣として封印しています。 名をアメノヌラクモといいます」
朝田は絶句した。
八つの谷と、八つの峰を覆うとは、途轍もなく大きい。
それが日本を目指すなら……対艦誘導弾や砲撃がどの程度通用するのだろうか?
「そのような悲劇が起こる前に止めたいのです。
ヤマタノオロチは人為的な要因で復活します。
十時の民よ、どうか化け物の復活を防いで頂きたい。
ヤマタノオロチは制御出来ない、本当の化け物です。
国の民救いたくば、必ず阻止して下さい。
敵は内にあります」
ニースは難しい顔をする。
「あまりにも抽象的過ぎます。
それだけの情報で……他国の民を信じて自国民を拘束することなど出来ない。
せめてもう少し具体性が無いと、難しい」
「解りました」
クシナダは額に集中する。
額の前にほのかな光の球が現れた。
「何の魔法だ?」
アバドンが問う。
「魔法では無い、神通力だ」
スサノウが答えた。
額の光が消える。
「具体的にお伝えします。
復活させるのは、軍王ミネートなる者、そそのかすのはメナスと呼ばれる者。
メナスはクルセイリースの民ではありません」
「!!!」
軍王の事など、一言も話していない。
名を知るはずのない他国の民がその名を語る。
多くの質問が飛び、会議は終了した。
調査団はガハラ神国の神通力に圧倒されるのであった。
後日、日本国政府は防衛省へ対策を指示、地中貫通爆弾および燃料気化爆弾の開発に着手すると共に、サンプルを数セット在日米軍からもらい受ける事とした。
会談後、彼等は富士演習場へ向かう。
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