軍神と呼ばれし者2
漫画は4巻が発売されています。
よろしくお願いします。
ロデニウス大陸南方海上 空中戦艦パル・キマイラ
「日本の航空機がロデニウス大陸から、敵の展開する海域方向へ向かっています。 速度は時速にして……ろ……610km出ています!!」
空中戦艦パル・キマイラは、魔法力を電気へ変換してレーダー波を発射し、その反射波を捉えて敵の位置を割り出す装置(対空レーダー様のもの)が備え付けられている。
これは、魔導探知レーダーでは無機質のものが捉えられないために開発された。
「ほう……速いねぇ。
日本国には想定以上の評価を与えなければならないかもしれないね。
夜明けまでには戦闘海域まで到達できるだろう。
本来なら映像で見たいところだけど、明日朝までおあずけか。
さてと、君たちの戦い。レーダー上ではあるが……見せてもらうよ」
メテオスは、興味をもって艦橋室内上空に映し出されたレーダー画面を眺めていた。
直後、レーダー画面が真っ白になり、探知波の1本の線すらも映らなくなる。
メテオスの目が見開かれる。
「どうした?何が起こった??」
「まさか……そんなっ!!そんな高度な事がっ!!」
レーダー操作員は驚愕している。
「どうした?まさか……妨害電波か??電波式レーダーに対する妨害電波を発しているというのかね??」
技術的な視点を持つメテオスは、すぐに妨害電波の可能性に思い至った。
自国以外にこれほど高度なシステムを持つ者がいるとは……。
日本国の攻撃前に発する電波妨害(ECM)の影響を受け、空中戦艦パル・キマイラのレーダーは使えなくなる。
しかし、対妨害電波措置をこのパル・キマイラは持っていた。
「どうした?妨害電波対策装置を早く作動させたまえ!!」
メテオスは、レーダー捜査員が妨害電波対策装置を作動させていないと考え、仕事の遅さを叱責する。
「すでに作動させています!しかし、効果がありません!!!
なお、自動診断システムにより、故障では無い事が解っています」
メテオスの目がマスクの下でカッと見開かれた。
「あり得るわけが無い。妨害電波対策装置は、古の魔法帝国の遺産。
そんなものをしてくる敵はいなかったが、自分達を仮想敵として生み出された兵器。
君の報告が本当ならば、日本国は魔帝の電波を妨害し、目を奪う事が出来るということになってしまうのだよ
信じられないよ」
メテオスは、現実がなかなか受け入れられない。
日本国自衛隊が、グラ・バルカス帝国艦隊攻撃前に発した妨害電波(ECM)は、神聖ミリシアル帝国空中戦艦パル・キマイラのレーダーをも妨害してしまう。
「航行中、対空監視を密にせよ。
ぐっ!!こんな原始的な手で監視せざるを得ないとは……」
レーダーという目を奪われたパル・キマイラ乗員は、対空監視で疲弊するのだった。
◆◆◆
ロデニウス大陸南方海域
漆黒の闇が続く中で、流星の如き攻撃が飛来する。
流星は1発1発が意思を持つかのように艦に向かって飛翔し、ほぼ100%着弾していた。
1発1発の威力は凄まじく、場合によっては巡洋艦クラスを1発でスクラップに陥れる。
グラ・バルカス帝国艦隊は、どこから来るかも解らぬ敵に向かい、空に向かって対空砲を雨のように打ち込んだ。
日本人が見たならば、イラクとアメリカが戦った湾岸戦争を彷彿とさせ、もっと古い人間が見たならば、太平洋戦争末期、アメリカ軍空母に突入する神風特別攻撃隊に対し、雨のように対空砲を打ち込むアメリカ太平洋艦隊を思い浮かべるだろう。
しかし……。
「駆逐艦ウンブリエル轟沈!!巡洋艦ミランダ、チタニア、オベロン大破、駆逐艦パック、クレシダ、デスデモーナ被弾、被害不明ぇ!!!」
「空母は?空母は無事かっ!!」
「確認中!現時点判明しません!!」
グラ・バルカス帝国日本征伐連合艦隊旗艦グレードアトラスターの艦橋は、喧噪に包まれる。
着弾、そして轟沈艦が多すぎて、全く全容が把握出来ない。
帝国の誇る近接信管付きの対空火砲は全く当たらず、何処から撃たれているかも解らぬ状況で敵の攻撃は着弾し続ける。
敵に被害を与えるためには攻撃を当てなければならない。
攻撃を当てるために、血のにじむような訓練を行って、練度を上げる。
そして、とてつもない量の数を撃って、ようやく数発の砲弾を当てる事が出来るようになる。
これが彼らの常識だった。
しかし、敵は1発1発が意思を持っているかのごとく誘導し、ほぼすべて命中する。
1発の威力は戦艦の砲撃による爆発を遙かに超え、一撃で艦を使用不能に陥れる。
「敵は……これほどか……」
誰にも聞こえぬようカイザルはつぶやく。
続く反復攻撃、何処から攻撃されているのかも解らぬ悲劇が続く。
一回で艦隊が全滅しないのは、敵の絶対数が少ないからだろう。
しかし……一体敵はどれほどの弾薬を持っているのか?
絶望を感じながらも、部下に悟られぬよう仁王立ちで漆黒の海を睨む。
◆◆◆
日本国自衛隊ナハナート基地 司令室
「現在対艦誘導弾の反復攻撃実施中ですが……敵が多すぎます。このままでは空対艦誘導弾の弾薬が持ちません」
司令は目を瞑る。
「やはり足りないか……補給も間に合いそうにもない。敵の頭は残せ。統率の取れない敵があの数で突っ込んできたら厄介だ。
被害甚大で、かつ敵との戦力差が明らかになると、理性があるならば夜間攻撃による被害を把握したならば、撤退するはず……。
夜明けまで五月雨で誘導弾を打ち込み、戦力と精神力を削れ。
もちろん、空母は必ず沈めろ」
敵旗艦がどの位置にいるのかはしっかりと把握している。
空母を最優先に狙い、戦艦やその他の戦力はしっかりと削る。
ただし、統率する旗艦だけは残す事にした。
「了解しました」
司令室には緊迫した空気が流れ続ける。
◆◆◆
ロデニウス大陸南方海域
海を覆い尽くす大艦隊、数多の敵に恐怖をもたらしてきたそれは手負いの獣の様相を呈す。
数百にも及ぶ煉獄の炎、立ち上る黒煙は、明るくなってきた青き空を黒く焦がした。
栄えあるグラ・バルカス帝国艦隊、最強を自負してきた帝国軍人達は、圧倒的力によって恐怖に押しつぶされそうになっていた。
飛来する敵攻撃は防ぐ手立ては無く、その命中によって少なくとも数百人は死ぬ。
狙われたら最後、決して打ち落とす事は出来ない。
力の象徴、数多の空母はすべて撃沈もしくは使用不能に陥り、制空権も失った。
もはや作戦の失敗は誰の目にも明らか、絶望の行軍……。
帝国軍人達は、無意味な死は望まなかった。
旗艦グレードアトラスター
夜が明け、艦隊が目視出来るようになったため、艦隊の被害状況が徐々に明らかになる
無線を入れる間も無く撃沈された艦が多くあり、電波妨害により正確な無線は伝わらず、夜間に正確な被害は把握出来なかった。
「カイザル将軍!空母が……空母がすべて撃沈されました。
我が方は完全に制空権を失いました」
敵対的勢力が多くいる海域での空母の撃滅。その意味が解らぬ者はいない。
幹部が苦渋の表情で報告する。
空母をすべて失い、巡洋艦、戦艦の多くが黒煙を上げる。
もはや日本国本土への攻撃は不可能ということが誰の目にも明らかとなり、艦橋にいる幹部達の間には焦燥感が漂う。
「進路ナハナート。変更は無い」
「敵の強さは底が知れません。撤退を……撤退を意見具申します!!」
「敵は底が知れない。が……朝にかけて攻撃の手は緩くなっている。
弾薬切れが近い可能性が高い!!
今撤退しては、今までの……万単位の兵の犠牲が無駄になってしまう。
進路ナハナート!!変更は無いっ!!」
死地へ行けと命じる立場の辛さ。
自分の決断により、多くの兵が死ぬ。一人一人が大切に育てられ、親や家族がいる。
しかし、グラ・バルカス帝国が全力出撃したにも関わらず、敵に傷一つ着けずにおめおめと逃げ帰るなどあってはならない。
十分な攻撃が続いていれば撤退もあり得ただろうが、敵の弾切れが近い可能性が高い。
無意味な死ならば撤退はしよう。しかし、大きな可能性が有る限り、いかに敵が強大であったとしても、決して譲れぬ。
軍神と呼ばれし者 カイザルは決断を下し、遠くの海を睨み付けるのだった。
◆◆◆
ナハナート王国 北方海域 日本国 海上自衛隊 第4護衛隊群 護衛艦かが
海上自衛隊第4護衛隊群は、第8護衛隊、第4護衛隊から成る。
今回のグラ・バルカス帝国艦隊の侵攻により、敵艦隊主力がナハナート王国への攻撃範囲に入る前になんとか同海域へたどり着けそうだった。
ヘリコプター登載護衛艦「かが」は、一見して空母に見える。
「坂野司令、グラ・バルカス帝国艦隊の進路は変わりません。
間もなく空自の空対艦誘導弾の周辺基地でのストックは底をつきます。
今後は、本土まで弾薬補給に戻る必要があるので、五月雨式の攻撃となり、大きな戦力の投入は不可能かと」
第4護衛隊司令 一等海佐である坂野は胃がキリキリと痛む思いがした。
敵艦隊は空自の対艦誘導弾により、大きく数を減らすが、未だ400隻以上という大艦隊が残っている。
現在第4護衛隊8隻は、「かが」以外が、艦対艦誘導弾をそれぞれ8発、計56発に、加え、「かが」に急ごしらえしたミサイル発射筒22発が取り付けられ合計78発。
とてもではないが敵艦隊の数に対してこちらの投入戦力が足りない。
砲撃戦というワードが頭をよぎる。
弾薬が不足するのは目に見えており、命中率は高いとはいえ、大口径砲を多く持つ敵に対して砲撃戦は控えたい。
なれど、日本国政府の命令は「ナハナート王国を防衛せよ」との事。
足りない戦力でどうすれば良いのか。
沈黙する坂野に幹部は続ける。
「なお、空中戦艦パル・キマイラはグラ・バルカス帝国艦隊から北へ200kmの位置まで接近し、様子をうかがっている模様です」
「神聖ミリシアル帝国か!!」
「はい、パル・キマイラは作戦司令の要望により、同場所で滞空しており、要請があれば出てくるかと」
坂野の胃の痛みが少しだけ和らぐ。
「敵のトップはなおも侵攻する道を選択した。
このままでは統率が取れる大軍と会敵する事となる。
敵旗艦も攻撃対象へ加え、初撃で打ち抜け!!
このまま西へ進み、敵艦隊の射程に入り次第対艦誘導弾を全弾発射!!
着弾確認の後、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦に参戦を打診せよ」
「了解!!」
「頼むから……対艦誘導弾の大規模攻撃で引き返してくれよ……」
圧倒的とも言える数の差が、性能では抑えきれずに前時代的な戦闘である「艦隊決戦」ににもつれ込ませるかもしれない。
空自も反復攻撃を続けてくれてはいるが、いかんせん敵の数が多すぎる。
死という可能性を前に、いや、死を部下に与える可能性を前に坂野は胃を痛めた。
海上自衛隊第4護衛隊群は、西へ……戦闘海域へ駒をすすめるのだった。
◆◆◆
ナハナート王国北西海域 上空 空中戦艦パル・キマイラ
パチン
メテオスが指を鳴らすと、艦橋上部にモニターが映し出される。
日本国における超望遠レンズよりも高性能、遙か200km先の海域を見通す千里眼。
超望遠魔導波検出装置によって、グラ・バルカス帝国艦隊が映し出されていた。
メテオスの目に、一際大きい艦が飛び込んでくる。
「グレードアトラスター……憎いねぇ。今すぐにでも君たちをひねり潰してやりたい気分だよ」
ワナワナと右手が震え、もっていたグラスから液体がこぼれ落ちる。
「僕を冒涜した罪、ゆるさないよ」
頭に浮かぶ先日の光景、友軍の空中戦艦パル・キマイラに敵の超大型戦艦の主砲が直撃し、魔素による装甲強化すらも貫き、醜く海に落ちる。
僕は負け犬のように撤退した。
このパル・キマイラが、この古の魔法帝国の超魔導技術の塊が落ちたのだ。
憤怒による手の震えは概ね1分間続いた。
「しかし……健気だねぇ」
グラ・バルカス帝国艦隊映像の横には地図が投影され、日本国自衛隊の位置が光点で示されていた。
圧倒的な量の点に対して僅か8個の点。
戦力比は明らかだ。
「彼らも命令されているのだろうが……自殺は良くないねぇ。
物事を成すには準備と、それに至るプロセスと投入される戦力を図る事が必要だ。
やれと言ったからやれ、という事だろうが……数を用意するという準備も無視して投入されている時点で彼らが可哀想でならない。
精神論は全く合理性に欠く」
彼はグラスの液体を口に含む。
圧倒的数の光点に向かっていく僅か8つの点が、余りにも健気に見え、怒りが少し和らいだ。
対空レーダーは今なお使用出来なかったので、自衛隊の光点は彼らの申し立てた座標を職員が手入力した位置であるため、多少のズレがあるかもしれない。
グラ・バルカス帝国艦隊の数は今なお400を超える。
日本国護衛艦隊たったの8隻が向かっているようだが、とてもナハナートを守れる戦力とは思えなかった。
空中戦艦パル・キマイラの探知能力には限界があり、現在の正確な艦隊数は把握していないため、大幅に敵艦が減っている事実に彼らは気付く事が出来なかった。
「日本国自衛隊か……ムーを超える科学文明国家、か……。科学文明は合理の塊であると思っていたが、非合理的な戦力投入。歪な国で実におもしろいねぇ。
日本国はどんな兵器を使うのか。見せてもらうよ」
彼はイスに座って足を組み、モニターを眺める。
その時だった。
映像に映っていた艦隊のうち、12隻から猛烈な爆炎が上がる。
艦橋がざわつく。
敵艦隊は雨のように対空砲を撃つが、全く関係なく次々と艦を包み込むほどの爆発が続く。
メテオスは目をカッと見開いて立ち上がり、モニターを食い入るように見た。
「なんだ……いったい何が起こっているのだ!!明らかにパル・キマイラの魔導砲より威力が高い。いや、圧倒的に高い。比較にならないほどに高い。
まさか、この位置から撃ったというのかね!?
こんな所から当たるわけが無いのだ」
艦隊間距離はまだ100km以上離れている。
常識を遙かに超える射程距離だった。
「はっ!!」
メテオスは、敵艦周辺への海上への着弾、外れ弾が無いことに気づく。
行き着く結論はただ一つ。
「まさか……まさか対艦型誘導魔光弾!?」
傍らに立つ技師と目が合う。
「我が国でもまだ研究段階です、誘導魔光弾の全容は解明できていません……彼らは科学技術立国、魔法を使用せずにそんな事が可能なのか、本当に信じられません!!!」
画面はスクロールされ、次々と着弾する対艦誘導弾によって炎上するグラ・バルカス帝国海軍艦隊の姿が見える。
外れ弾は無く、次々と攻撃を受けるグラ・バルカス帝国。
最強かつ最高たる神聖ミリシアル帝国と、引き分けるほどの強さを持つグラ・バルカス帝国艦隊が、あっさりと滅せられていく。
古の魔法帝国の如き兵器が敵を滅していく姿に、メテオスは震えずにはいられなかった。
「そんなバカな。そんな事があっていいはずが無い!!
誘導魔光弾の大規模攻撃など……科学でこんな事が出来るはずが無い!!
魔法こそが強さの根源、科学でこの領域まで届くはずがないっ!!!」
メテオスはあまりの衝撃に呆然と立ち尽くす。
空中戦艦パル・キマイラには録画も可能な装置が搭載されているため、この映像は神聖ミリシアル帝国上層部も見ることになるだろう。
しかし、それは同時に古の魔法帝国への恐怖ともつながった。
「もし古の魔法帝国が相手だったとしても、グラ・バルカス帝国でさえも手も足も出ないと言うことか」
奴らの復活は近い。
魔導機関の出力が違いすぎるとはいえ、神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦も少しは戦力になると考えられてきた。
しかし、誘導魔光弾の大規模攻撃を食らえば、ミリシアルの戦艦部隊であっても超短時間で滅せられる可能性がある。
初めて見る誘導魔光弾に近い攻撃、圧倒的格差、古の魔法帝国の影に、メテオスは震え続けるのだった。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国連合艦隊 旗艦 グレードアトラスター
「巡洋艦メルト、巡洋艦ダウン轟沈!!戦艦トーガーナ被弾!!」
報告員が叫ぶ。
あまりにも慌ただしく、まさに戦場。
軍神カイザルは額から汗を流す。
敵誘導弾はすでに途切れたと思っていた。
しかし、大規模攻撃によってすでに50隻以上が轟沈されている。
敵は何処から撃ってきているのか未だ検討がつかない状態。
考えられる解は、敵が十分な弾薬を準備していたということ。
空母はすべて失い、上空支援はすでに無かった。
「飛翔体が我が艦へ向かってきます!!!」
悲鳴のような声がした次の瞬間、猛烈な閃光が目に入り、耳を劈く爆音が響き渡った。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
前方から煙が上がる。
「前部第1砲塔被弾、使用不能!!なお、火災発生のため消火活動実施します!!」
凄まじい爆発だった。
世界で最強たる砲、46cm主砲の直撃にも耐えうる装甲を持つ主砲砲塔(第1砲塔)が、1撃で使用不能になる。
弾薬に引火したら終わりだ。
「この……グレードアトラスターの主砲が!!!」
艦長ラクスタルは吼える。
数多の攻撃を防いできた圧倒的な装甲。
前世界においても、今世界においても圧倒的で信頼できる装甲。その最も厚い部分の一つである主砲砲塔がたったの1発で使用不能になった事実に彼は衝撃を受ける。
グレードアトラスターにこれほどのダメージを与える攻撃。
確かに巡洋艦ならひとたまりも無いだろう。
グレードアトラスターは3つある主砲の1つが使用不能となり、黒煙を上げる。
さらに1発が艦体側方に突入し、大爆発と火災が発生した。
消火のために動き回る兵達、皆必死だった。
「神聖ミリシアル帝国の空中戦艦が現れました!!外周艦隊が攻撃をうけつつあります!!」
連続した大規模攻撃、そして手こずった空中戦艦の参戦。
「もはや……これまでか……」
司令カイザルは目を瞑る。
敵の弾薬は十分にあるように思えた。加えて空中戦艦までもがいる。
これ以上の行軍は自殺と同じ。
艦は量産出来るが、兵は量産出来ない。
頭に撤退の文字が浮かぶが、なにもせず、意地も見せず、負け犬のようにおめおめと撤退など出来ぬ。
彼は決断する。
「これより、グレードアトラスターはナハナート王国へ突入し、砲撃を実施する!!
旗艦以外はすぐに転進し、ニューランドで補給を行い、本国に帰還せよ!!!」
カイザルの意地、特攻。
部下を巻き込んだ特攻は、後の歴史家の意見を大きく分けることになる。
命令はすぐに伝達された。
旗艦周辺に展開していた膨大な量の駆逐艦、巡洋艦はすぐさま転進を開始する。
旗艦グレードアトラスターの前、艦隊が二つに割れ、左右から転進し、引き返す航路をとる。
一隻のみ、グレードアトラスターだけが割れた艦隊の中心をナハナート王国へ向け、突き進み始める。
何度も被弾した艦は煙を上げ、手負いの猛獣はただ単身で突き進む。
カイザルはラクスタル艦長に話しかける。
「ラクスタル艦長、すまんな。言い訳はせぬ」
「構いませぬ」
会話はそれだけだった。
「報告します!カイザル将軍、第八八艦隊のみ命令を無視してついてきています。
再三に渡る転進命令を無視!!」
第八八艦隊、戦艦1,巡洋艦8隻、駆逐艦6からなる艦隊で、カイザルが若き頃所属し、輝かしいまでの戦果を上げ続けていた艦隊。
幸いにして対艦誘導弾が着弾した艦はいない。
艦隊司令、そして各艦長はすべて当時の部下だった。
「馬鹿……どもが……第八八艦隊は何と言っている?」
「こちらの命令を無視、問い合わせも応答ありません」
「帰るよう伝え続けろ。特別攻撃は我らだけで十分だ」
再三にわたる命令を無視し、グレードアトラスターと第八八艦隊、の計16隻
からなる艦隊は縦1列となり、単縦陣でナハナート王国に突き進むのだった。
◆◆◆
ナハナート王国西方海域 日本国海上自衛隊第4護衛隊群 旗艦かが
「敵艦隊、大部分が転進、戦艦2隻を含む16隻が突っ込んできます!!このままでは砲撃戦に突入します!!!」
坂野は胃が痛くなる。
戦艦も相当数攻撃したが、残っていたようだった。
「空自は?」
「現在弾薬補給のため、本土に戻っています。
本決戦には間に合いません!!!
また、潜水艦も本海域にはおりません!!」
「大和型に準じる艦を含む艦隊16隻に、砲撃戦?冗談じゃ無い」
愚痴が出る。
あと、対艦誘導弾がたったの20発あれば敵をある程度無力化出来るだろう。弾が無いのが口惜しい。
敵とは70年の技術格差があるとはいえ、砲撃の威力は敵のそれに比べると、我が方は豆鉄砲といっても差し支えない。
大和型はすでに着弾があったようで、黒煙を上げていたためにミサイルが自動的に他の目標に向かった可能性が高い。
撃沈していなかったのが悔やまれた。
大和型の砲撃など、1発食らえばスクラップになってしまう。
しかし、一度離脱すれば、ナハナート王国は基地もろとも焼き払われるだろう。
戦艦の艦砲射撃は陸上構造物にとって、破滅的な威力をもつ。
彼は覚悟を決める。
「司令、神聖ミリシアル帝国からグラ・バルカス帝国に語りかけている電波を拾いました」
「傍受しろ!!艦橋で音声を流せ」
「了解!!」
アナログ電波を受信する。
『ガ……ガガガガ……グラ・バルカス帝国の諸君、私は神聖ミリシアル帝国、空中戦艦パル・キマイラ艦長、メテオスという』
『いつかの馬鹿者か、今頃何の用だ?』
『フフフ……威勢が良いねぇ。
私は借りを返しに来たのだよ。
大部分の兵は逃げたようだねぇ。部下が逃げたから単艦で突入かい?
その意味の無い行動は、全く理解に苦しむ』
『逃げたのでは無い、作戦だ。戦場でいつも語りかけてくるお前の行動が、全く理解に苦しむ』
『フフ……つれないねぇ。
もう君たちは謝っても許してやらないよ。
パル・キマイラは君たちを撃滅する事に決めた。
特にグレードアトラスター。君たちだけは絶対に逃がさないよ』
『威勢が良いな。紙のような装甲で良く言う。せいぜいまた、たったの1発で撃沈されんよう気をつけろよ』
無線が終わる。
「……戦場とは思えんやりとりだな」
「はい、メテオス艦長は、軍人では無いそうなので」
「なるほどな、しかし助かったかもしれん」
「そうとも言い切れません。これを見て下さい」
坂野は敵の位置を示すモニターをのぞき込んだ。
「ん?これは……」
空中戦艦の方向に、15隻が向かう。
そして、1隻だけが単艦でさらに速度を上げてこちらに向かってきていた。
「空中戦艦は、海抜高度を300m以上に上げる事が、何故か技術的に難しいようです。
加えて時速200kmと快速ですが、艦体が重いため、転回や加速が非常に遅いという弱点があります。
グラ・バルカス帝国の15隻は散開して空中戦艦に向かっている。
戦艦の主砲クラスであれば落ちると前回の戦いで判明したため、おいそれと射程距離に近づかない。
結果、敵の旗艦と思われるグレード・アトラスターのみがナハナートへ向かう。
敵空中戦艦は前回中心のグレードアトラスターを狙って撃沈されたため、他の自分を撃沈しうる艦の上空を易々と通過はしないでしょう
このままではあと一時間弱で砲撃戦に突入します!!」
「大和型に類似する艦と戦わなければならないのかっ!!!私が艦隊司令の時にっ!!なんという偶然か」
海上自衛隊第4護衛隊群
第8護衛隊 きりさめ すずつき しまかぜ ちょうかい
第4護衛隊 いなづま さみだれ さざなみ かが
は、ナハナート王国の邦人を守るため、戦闘海域に向かって突き進む。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国 超戦艦グレード・アトラスター
「カイザル将軍、空中戦艦は第八八艦隊と戦闘中、押さえてくれています。さすがです」
第八八艦隊は練度が極めて高い艦隊、前回の戦闘から空中戦艦対策を徹底的に練っていた故の善戦だった。
「前方に艦隊を確認!!数8、距離50、日本国艦隊です!!」
この惑星は、地球に比べて水平線が遙か先にある。
「ついに……来たかぁ!!!」
艦長ラクスタルの目が光る。
カイザルは、ラクスタルに話しかける。
「何故誘導弾を使わない?」
「さあて、我が砲がまだまだ届かぬと舐めているのか、はたまた一定の距離以下は使えないのか、もしくは本当の弾切れか……解りません。
解りませぬが……敵は間もなく我が刃が届く距離まで来たと言うことは確かです」
艦長ラクスタルは、大声で命令を下した。
「砲撃戦用意!!!目標!前方の日本艦隊!!
全力で叩き潰せぇ!!!」
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
敵を捕らえることすら出来ずに一方的に攻撃を受けてきた。
刃が全く届かぬ位置から一方的に壊滅的被害を与えられてきた。
多くの味方がその血を吐くほどの訓練の成果を全く出すことが出来ずに死んだ。
常勝無敗を誇るグラ・バルカス帝国艦隊にあってはならない事だった。
誰しもが、悔しさに涙を我慢した。
誰しもが、一矢報いたいと感じていた。
今、敵が目の前にいる。
しかも、上空にも敵はおらず、完全なる艦隊決戦。
艦隊決戦のために生まれし艦が、主砲が1塔使えないとはいえ、性能を発揮して戦う。
喜ばずにはいられなかった。
下部弾薬庫から、主砲塔に巨弾、46cm砲が運ばれ、装填される。
歴史に残る艦隊決戦が、今始まろうとしていた。
漫画は4巻が発売されています。
よろしくお願いします。
また、ブログ更新はもうしばらくお待ちください。
ちょっと忙しすぎてすいません(この状態は必ず解消されます。忙しさが解消されたら、どんどん進めたいと思います)




