接触
日本国召喚は、書籍化、漫画化しています。
書籍は大幅に加筆して文章訂正が行われています。
漫画、書籍とぜひよろしくお願いします。
三大文明圏から遠くはずれた大東洋と呼ばれるこの海域には、一つの大陸があった。オーストラリアの半分ほどの大きさで、大陸と呼ぶには小さく、島と呼ぶには大きすぎる。
ロデニウスと呼ばれるこの大陸には、3つの国家が存在する。
・ 肥沃な土地を有し、広大な穀倉地帯を持つ農業立国、クワ・トイネ公国
・砂漠地帯が広がり、作物の育たない貧しい国、クイラ王国
・人間のみの国にあって、エフル、ドワーフ、獣人などを迫害し続け、ロデニウス統一をもくろむ 国、ロウリア王国
クイラ王国とクワ・トイネ公国は、互いに助け合い、補い合い、そしてロウリア王国に対抗してきた。
両国友に、住民の3分の1はエルフ、ドワーフ、獣人などの亜人がしめており、亜人の殲滅を唄うロウリアとは、政策的にどうやっても友好を保てなかった。
―――――――――――――――――――――
1 接触
中央暦1639年1月24日午前8時――――
クワ・トイネ公国軍第六飛龍隊
その日は快晴な空が広がっていた。ワイバーンと呼ばれる飛龍を操り、竜騎士であるマールパティマは、公国北東方向の警戒任務についていた。
公国北東方向には、国は何もない。東に行っても、海が広がるばかりであり、幾多の冒険者が東方向へ新天地を求めて進行していったが、今まで帰ってきた者はいない。
哨戒勤務の必要性、それは最近ロウリア王国と緊張状態が続いているため、軍船による迂回、奇襲が行われた場合に早期に探知、対策をとるため、彼は相棒を公国北東の空へ飛ばしていた。
「―――――――!?」
彼は何かを見つけた。
「なんだ!あれは」
自分以外にいるはずの無い空に、何かが見える。通常は、味方のワイバーン以外に考えられない。ロウリアからここまで、ワイバーンでは航続距離が絶対的に不足している。
三大文明圏には、竜母と呼ばれる飛龍母艦があるらしいが、この文明圏から外れた地にあるはずがない。
粒のように見えた飛行物体は、どんどんこちらに進んで来た。
それが近づくにつれ、味方のワイバーンでは無いことを確信する。
「羽ばたいていない」
彼は、すぐに通信用魔法具を用いて司令部に報告する。
「我、未確認騎を確認、これより要撃し、確認を行う。現在地・・・・」
高度差はほとんど無い。彼は一度すれ違ってから、距離を詰めるつもりだった。
未確認騎とすれ違う。
その物体は、彼の認識によれば、とてつもなく大きかった。羽ばたいておらず、翼に付いた何がが4つぐるぐる回っていた。
胴体と翼の先端がピカピカ点滅し、光り輝いている。
機体は白色、胴体と翼に赤い丸が描かれていた。
彼は、反転して、愛騎を羽ばたかせる。風圧が重くのしかかり、飛ばされそうになる。一気に距離を詰める・・・つもりだったが、全く追いつけない。ワイバーンの最高速度時速235km。生物の中では、ほぼ最強の速度を誇り、馬より速く、機動性に富んだ空の覇者(三大文明圏にはさらに品種改良を加えた上位種が存在するらしいが)
が全く追いつけない。
相手は、生物なのか何なのかも全く解らない。
「くっっっ!!なんなんだ、あいつは!!」
驚愕
「司令部!!司令部!!!!我、飛行騎を確認しようとするも、速度が違いすぎる。追いつけない。飛行騎は本土マイハーク方向へ進行、繰り返す。マイハーク方向へ進行した」
報告を受けた司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
ワイバーンでも追いつけない未確認騎がよりによって、クワトイネ公国の経済の中枢都市マイハークに向かって飛んで来ると言う。
攻撃を受けたら、軍の威信に関わる。
機は速度からしておそらくすでに本土領空へ進入しているはず。
通信魔法で、指令が流れる。
「第六飛龍隊は全騎発進セヨ、未確認騎がマイハークへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜セヨ、繰り返す発見次第撃墜セヨ」
滑走路から、どんどんワイバーンが発進する。その数12騎、全力出撃である。
かれらは透き通るような青い空に向かい、舞い上がっていった。
第六飛龍隊は、運良く未確認騎の正面に正対した。報告に寄れば、相手は超高速飛行が可能な者のようだ。
相手が速すぎる場合、チャンスはすれ違う一瞬のみ。
飛龍隊12騎が横一線に並び、口を開ける。
火炎弾の一斉射撃。これが当たれば、落ちない飛龍はいない。
口の中に徐々に火球が形成されていく。その時、未確認騎が上昇を始めた。すでにワイバーンの最大高度4000mを飛んでいた彼らにとって、それは想定外の事態であった。
すさまじい上昇能力でぐんぐん高度が上がっていく。
第六飛龍隊は、未確認騎をその射程にとらえる事無く、引き離された。
「我、未確認騎を発見、攻撃態勢に入るも、未確認騎は上昇し、超高々度でマイハーク方向へ進行した。繰り返すーーーーーーーーー」
マイハーク防衛騎士団、団長イーネは、第六飛龍隊からの報告を受け、上空を見上げた。
一般的に、飛龍から地上への攻撃方法は、口から吐く火炎弾である。矢をばらまいたり、岩を落とす方法も過去には検討されたが、空を飛ぶ生き物は重たい物を運ぶ事が出来ない。
単騎で来るなら、攻撃されても大した被害は出ない。おそらく敵の目的は偵察と思慮
される。
しかし、いったいなんなのだろうか?
飛龍でも追いつけない正体不明の物。飛龍の上昇限度を超えて飛行していく恐るべき物、それがまもなく経済都市マイハーク上空に現れる。
団長イーネは、空を睨んでいた。
遠くの方から音が聞こえ始めた。ブーンといった聞き慣れない音、しばらくして、それはマイハーク上空に現れた。
物体は高度を落とし、上空を旋回した。
奇妙異な物体、大きくて白い機体、羽ばたかない翼、怪奇な音、翼と胴体に赤い丸が描かれている。
明らかな領空侵犯、しかし、飛龍は遙か遠くからこちらへ向かっている最中、攻撃手段は、あることにはあるが、今回は接近が速すぎて、何も準備が出来ていない。
事実上現時点では無い。
物体は、マイハーク上空を何度も旋回し、北東方向へ飛び去った。
クワトイネ公国 政治部会
国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日の事、クワトイネ公国の防衛、軍務を司る軍務郷から、正体不明の物体が、マイハークに空から進入し、町上空を旋回して去っていったとの報告が上がる。
空の飛龍が全く追いつけないほどの高速、高空を侵攻してきたという。
国籍は全く不明、機体に赤い丸が書いてあったとの事であったが、赤い丸だけの国旗を持つ国など、この世界には存在しない。
カナタは発言する。
「皆のもの、この報告について、どう思う、どう解釈する」
情報分析部が手を挙げ、発言する
「情報分析部によれば、同物体は、三大文明圏の一つ、西方第2文明圏の大国、ムーが開発している飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速350kmとの事、今回の飛行物体は、明らかに600kmを超えています。ただ・・・。」
「ただ、なんだ?」
「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに新興国家が出現し、付近の国家を配下に置き、暴れ回っているとの報告があります。かれらは、自らを第八帝国と名乗り、第2文明圏の大陸国家群連合に対して、宣戦を布告したと、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」
会場にわずかな笑いが巻き起こる。文明圏から外れた新興国家が、3大文明圏5列強国のうち2列強国が存在する第2文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したという事実。
無謀にも程がある。
「しかし、第八帝国は、ムーから遙か西にあるとの事、ムーまでの距離でさえ、我が国から2万km以上離れています。今回の物体が、それであることは考えにくいのです」
会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。
ただでさえ、ロウリア王国との緊張状態が続き、準有事体制のこの状態で、頭の痛いこの情報は、首脳部を悩ませた。
味方なら、接触してくれば良いだけの話、わざわざ領空侵犯といった敵対行為を行うという事自体敵である可能性が高い
その時、政治部会に、外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。
通常は考えられない。明らかに緊急時であった。
「何事か!!!」
外務郷が声を張り上げる。
「報告します!!」
若手幹部が報告を始める。要約すると、下記の内容になる。
本日朝、クワトイネ公国の北側海上に、長さ230mクラスの超巨大船が現れた。
海軍により、臨検を行ったところ、日本という国の特使がおり、敵対の意思は無い旨伝えてきた。
捜査を行ったところ、下記の事項が判明した。なお、発言は本人の申し立てである。
○ 日本という国は、突如としてこの世界に転移してきた。
○ 元の世界との全てが断絶されたため、哨戒機により、付近の哨戒を行っていた。その際、陸地があることを発見した。
哨戒活動の一環として、貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについては、深く謝罪する。
○ クワトイネ公国と会談を行いたい。
突拍子もない話、政治部会の誰もが、信じられない思いでいた。
しかし、昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実であり、230Mという考えられないほどの大きさの船も、報告に上がってきている。
国ごと転移などは、神話には登場することはあるが、現実にはありえないと思っている。
しかし、その日本という国の力は本物なので、まずは特使と会うこととした。