三時間目延長 異世界流のお礼の仕方
おうちに帰って夕食の支度をしていると、
料理に使う野菜が少し足りないことが判明しました。
「菜園にあるやつですよね。
今からとってきます。」
「この時間まだ魔獣達は動き出していないだろうけど、
気を付けなよ。」
おばあちゃんの忠告を胸に家を出て、
すぐ近くの森にある菜園に出かけます。
外は少しずつ薄暗くなってきていますが、
二つのお月様、ヌーム様のおかげか、
そこまでの暗さは感じません。
先ほどの市場でも何種類か野菜等を買ったりしましたが、
基本はこの菜園で自家栽培しての自給自足です。
日頃から料理を手伝っていることで、
大分この世界の食材にも慣れて来ました。
地球にはあんまりない野菜も多くて楽しいです。
今から取るツナルプも見た目はナスに近いんですが、
食感はどこか肉っぽいという面白い野菜で、
炒め物にするとおいしいんですよね。
「これくらいで十分かな。
お腹減ったし、早く戻って調理しましょう。」
十分大きくなったのを4つほどもぎ取って
バスケットに入れ、
私は菜園を後にしました。
この場所は野菜が襲われない様に
魔物除けの魔法がかけられているらしいのですが、
道中はそうではありません。
『リンク』があるおかげで、
本当に魔物に襲われたりしたらすぐに
おばあちゃんが助けに来てくれるのでしょうが、
そうならないに越したことはありません。
私は森の中を足早に進みました。
しばらくして森の出口が見えて来た時にはホッとしていたのですが、
どうやらその先の開けた部分に誰かいるみたいです。
あの先の坂を昇るとすぐおばあちゃん家ですから、
お客さんでしょうか?
「どなたでしょうか?」
「へっへっへ。嬢ちゃん、どこに行くんだい?」
月明かりの下にいた5、6人の集団に話しかけると
そのリーダーらしき人が返答してくれました。
あんまりかみあってないようですが、
私のノイターン語間違っていたでしょうか?
「えっと、伝わっていないんですかね。
ラソーサおばあちゃんの家に戻るんですが、
お客さんでしょうか?」
「やっぱあのババアの関係者か!
でかしたぞ、おい。」
「へい、お頭。」
あれ、どうやら伝わってはいるようなのですが、
どことなくマズい雰囲気な気がします。
近づいたことで大分相手の人相が分かって来またしたが、
あんまりいい人そうじゃない気がします。
おばあちゃんのことをババアなんて言ってますし、
お頭って•••
「と、盗賊さんか何かですか?」
「ふん、魔人連中の集落から食料をいただいたからって
何の罪になるっていうんだ!
それなのにあのクソババア、俺のイケテル顔に
炎魔法を思いっきりぶっぱなしやがって。
元『宮廷魔導士長』だかなんだかしらねえが、
絶対にほえ面かかせてやらあ!!
•••とはいえ単に突っ込んで行っても、
またあの魔法で返り討ちだからな。
こちらにそんな真似ができないよう、
『人質』が必要って訳さ。」
「「「「へへへ。」」」」
これはヤバいと思って、振り返ると
すでに周りを囲まれていました。
うわー、分かりやすいピンチです。
多分おばあちゃん、『リンク』で
気づいてすぐに駆けつけてくれる
と思いますが、
何とか時間を稼がなくては。
「ま、魔人さんの集落からモノを盗んでも
つ、罪にならないって本当ですか?」
「はあ?
まあ、一応余計な争いを生まないために
そういうことはするななんてお触れがでているらしいが、
魔人達がこっちの『代官』に訴え出ようとしたって途中で追い返される
に決まってる。
だから実際には何の罪にも問われやしないんだよ。
それなのにあのババア、魔人共に手を貸したりしやがって。」
なるほど。
おばあちゃんとエファリさんのやり取りを見て、
人間と魔人は上手く共存できているのかと思いましたが、
もしかしたらそれは特殊な事例なのかもしれませんね。
『代官』とか言ってましたし、ある程度地方統治の仕組みは
整備されているのでしょうか?
夕食後に貸してもらう本の種類が増えた気がします。
「あ、あとラソーサおばあちゃんって
宮廷魔導士長さんだったんですか?」
「テメエ、ババアの孫なら知ってるんじゃねえのか?
俺だって首都のことなんて大して知りやしないが、
あのババア10年程前はどえれえ偉い魔導士様だったらしいぜ。
それが今世間を騒がせている魔王との関係が疑われて、
首都を追われたって話だ。
全く大人しく隠居してればいいものを
この辺りで大きな顔しやがるせいで、
商売上がったりなんだよ!!」
ま、魔王さんもいるんですね、この世界。
おばあちゃんはそこまで話をしてくれていませんでしたが、
魔人さん達の王様が魔王さんなんでしょうか?
今日魔人さんを紹介してくれたことですし、
これも聞いてみましょうか。
「な、なるほど。
とても勉強になりました。
物知りなんですね。」
「ふ、ふん。
大したことじゃねえよ。」
「「「「さすが、お頭。」」」」
「よせやい。」
「そ、それでは次の質問を。」
「•••ちょっと待て。
お嬢ちゃん、あんた、
時間稼ぎをしようとしてないかい?」
「え、そ、そんなことは•••」
やばい、バレてしまいました。
やっぱり小さな盗賊団とはいえ、
お頭さんはそれなりに頭がいいみたいです。
どうしましょう、怒って暴力振るわれたり
するんでしょうか!?
「ふーん。若いがいい身体しているし、
頭も悪くない。
ババアの人質に使うのもいいが、
こっちの方が俺たちが『楽しめる』上に、
ババアにショックを与えられそうだな•••
おい野郎共、
この嬢ちゃん、
賢い子どもを産んでくれそうだと
思いやしねえか?」
「「「「???」」」」
「あー、もう、このバカどもめ!
こんな美人で賢い娘は、
俺たちの嫁さんにして可愛がっちまった方が
いいとは思わねえかって話だよ!!」
「「「「お頭、天才!!」」」」
「ははは、よせよ、よせよ。
じゃあ、お嬢ちゃん、
やっぱり俺たちの愛の巣に
向かうとしようか。
何、抵抗したり逃げ出したりしなけりゃ、
ちゃんと飯も食わせてやるし、
それに、ぐへへ、
気持ち良くしてやるからな。」
「そ、そんな!
私、け、経験ないですし、
え、遠慮します!!」
「ほおー、その歳で生娘とは珍しい!
こりゃ、さらに楽しめそうだ!!
なーに、俺たちは百戦錬磨だ。
ちゃんと痛くない様にしてやるからなー。」
キャー、時間稼ぎをしてたら、
思わぬ方向に飛び火してしまいました!
いきなり貞操の危機です!!
というかその歳でって、
みんなこんな若く経験してるんですか、
この世界!!!
そりゃ地球でも先進国以外の初婚年齢は
かなりまだ低いんでしょうか•••
は!そんな分析している場合じゃない!!
とにかく逃げないと!!!
「お、ようやく本気で焦り出したか。
まあ、でも痛い思いをするだけだから、
やめときな。
俺たちは無理矢理も嫌いではないが、
どうせだったらお互いの同意があった方が
いいとはおもっているんだぜ。」
「ひーーー!!」
お頭さんを始めとして
盗賊さん達が絶対に逃がさないと
いう風ににじり寄って来ます。
おばあちゃん、大分時間は稼いだと
思うんですが、まだですかーーー!!
誰か、助けてーーー!!!
そんな風に強く願った瞬間でした。
急に身体が軽くなったかと思うと、
私の身体は宙に浮いていました。
おばあちゃんが魔法で助けてくれたのかと
始めは思いましたが、
どうやら誰かに抱えられているようです。
この感じはおばあちゃんではないというか、
ほどほどがっしりしていることから、
男性でしょうか?
え、私、男の人に抱きかかえられてるの!!
「きゃあ!」
「ああ、もう、助けてやったんだから、
もぞもぞ動くな!
全くバアさんも絶対見てるんだろうから
さっさと助けりゃいいものを。」
そのどこか懐かしい、
自分の教え子達ぐらいの声を聞いて、
目を開けると、
そこには白髪の男の子の顔が
ありました。
なかなか男前さんで、
クラスではリーダーを張れるようなタイプだと
思うんですが•••
「あ、あの、顔が近いんですが。」
「はん?
こんくらいで何を大げさな。
その歳でえらく初心な反応だな。
そんなんだから盗賊の興味を引いちまうんだよ。」
「ううー、す、すいません。」
すたっと地上に私を抱えたまま降り立った彼に、
いきなり説教をされてしまいました。
あー、何か生徒に怒られているみたいで複雑です。
「この野郎、俺たちの嫁っこに何しやがるんだ!」
「何が『俺たちの嫁』だ!
バアさんに復讐を考えてたんじゃねえのか、
このボケ盗賊!!
人質連れ去ったりしたら、
バアさんにアジトまで付けられておしまいだと
何で気づかないんだよ、このバカ共は。
ああ、あんまりアホすぎるから、
俺が相手をしろってことなのか、バアさん。
わざわざ呼び出しに応じて来てみれば、
全くとんだ災難だよ。」
向こうで抗議の声を挙げる盗賊さん達に対して
助けてくれた少年は私を地面に降ろしながら、
中々辛辣に言い返していました。
結構気の強いタイプのようです。
「言わせておけば•••
俺たちの邪魔をしようとはいい度胸だ!
野郎共!!
やっちまうぞ!!!」
「「「「へい!!!」」」」
少年の言葉に激怒した盗賊さんたちは
腰に差していた剣を一斉に抜き放ちました。
や、やばいです。
これは貞操の危機所か、
命の危機っぽいです。
「ああ、すごく怒ってます。
早くおばあちゃんを呼びに行きましょう!」
「何言ってるんだよ。
あんな間抜け共俺一人で十分さ。」
「で、でも盗賊さん達、剣持ってますよ!」
それに引き換え少年は腰に短剣らしきものを
差しているだけ。
そもそも1対5ではそれこそ魔法でも
使わない限りどうにもならない気がするんですが。
あ、そうか!
「あなたも魔法が使えるんですか!」
「一応使えるけど、俺の得意なのは
『補助魔法』であって、『攻撃魔法』ではないからな。
バアさんがやるみたいに一度に多数を殲滅する攻撃魔法を
放ったりは出来ないさ。」
「じゃあ、ダメじゃないですか!!」
「だからそんなもん使わなくてもあんな相手には
楽勝なんだよ。
まあ、そこまで言うなら念のために
『加速』くらいはかけておくか。」
「ごちゃごちゃ言ってるんじゃねえぞ!
野郎共かかれ!!」
「「「「ヤーーー!!!」」」」
「わ、一気に向かって来ましたよ!!
に、逃げましょうよ!!!」
「いいからそこに座って大人しく見ていな。
すぐに終わるから。」
ハアア!!
彼が一呼吸すると彼の身体が少し輝いた気がしました。
何かの魔法を使ったのでしょうか?
そしてそのまま駆け出したかと思うと。
パンン!!!
「「「「「ぐえ!!」」」」」
な、なんということでしょう。
一瞬のうちに彼が盗賊さん達が最初にいた位置まで
ワープ?してしまったかとおもうと、
その途中に盗賊さん達が倒れていました。
姿が見えないどころか、
音も重なってしまっていて
どんな攻撃をしたのかすら定かではありませんが、
倒れている盗賊さん達の顔はどれもボロボロに
なっており、
何発も打撃を受けたかのようになっていました。
圧倒的とはこのことです。
「テ、テメエ、『闘士』か。
なんで、こんな辺鄙な所にお前みたいなのが•••」
「へえ、結構本気で殴ったのにまだ意識が
あるなんて、一応リーダーってことか。
俺は正式に『認定』されたわけじゃないが、
トフギンのおっさん仕込みの『体術』と
バアさん直伝の補助魔法は伊達じゃないぜ。」
「トフギン?
•••まさか、現兵団長の!!
クソ、こんな用心棒まで用意しているなんて、
俺もヤキがまわったか•••」
「へえ、おっさん、いつの間にかそんなに
偉くなってたんだ。
つうか、お前そんだけ中央の情報に通じているんだったら、
真面目に商売でもやるべきだったな。
こんなバカなことをしなきゃ、
『死ななくて』すんだのに。」
「えっ、『死ななくって』って、どういう。」
私が彼の台詞の違和感に気づいた瞬間、
彼はすでに腰の短剣を抜き放ち、
お頭さんの頭上に振り上げていました。
すでにお頭さんは観念したかのように
目をつぶっています。
このままではきっと•••
「それじゃあな。
『あの世』でヌーム様にお詫びして、
今度は真人間に転生出来る様に願うんだな。」
「さっさとやれ。」
「ダメーーーーーー!!!」
ドーン!!!
「なっ!!」
その時は深く何かを考えていたという訳ではないんです。
というかよく考えたらもう少しで集団で乱暴•監禁されるところ
を助けてもらっておいて、
その犯人を助けようとするとか、
恐らく警察や裁判制度が不十分であろう世界では
きっと通用しない正義感だったとは思うんです。
でもそれでも。
私は誰かが殺されるのを、
そして誰かが殺人を犯そうとするのを、
それが特に自分の教え子の年齢のような少年がやろうとしていたと
するならば、
私に考える余地なんてなかったんです。
それが異世界に行こうと変わらない、
私の『教師』としての本能でした。
「ぎゃう!!
い、痛い•••」
「短剣持っている相手に身一つで突撃していく
奴がいるか、このアホ娘!!
ああ、もう、その手貸してみろ。」
どうやら突撃した時に、
彼の持っていた短剣で切ってしまったのでしょう。
血が出ていた私の手を彼は引っ張り上げると
そのまま何かブツブツと唱え始めました。
すると私の手がキラキラと光り出し、
少しずつではありましたが痛みが
引いて行きました。
こ、これが世に言う『回復魔法』なんでしょうか?
「す、すごいです!」
「はあ?こんくらいの『回復魔法』使えなきゃ、
おちおち訓練もできやしねえよ。
でも俺は『治癒術士』じゃねえから、
指を切断しちまったり、内蔵が破裂したりしたら
どうしようもないんだぞ。
全くバアさんも、『家族』なら
それくらいの『教育』はしておけよ。」
「う、うう、すいません。」
ああ、教え子のような年齢の少年に
教育不足であると断言されてしまいました。
文化の違いからしょうがないとはいえ、
教師としてとても情けないです•••
うー、早くこの世界について
もっと色々学ばないと。
「うう。」
「で、どうやらお前さんは
俺がこいつらを殺すのが
嫌みたいだな。
でもどうするんだ?
こいつら目が覚めたらすぐに襲ってくるぞ。」
「『警察』•••、悪い人を捕まえてくれる
所とかってないんですかね?」
「まあ、そりゃ、この辺りの『代官』の
所に連れて行けばいいだろうけど。
でも娘の誘拐は『死刑』って決まっているから、
結局同じだぞ。」
「そ、そんな、ど、どうにかならないんですか?」
「お前、もう少しでマワされかけたっていうのに、
良くそんな暢気なことを言ってられるな。」
「で、でも•••」
「•••はあ。なら、野菜泥棒ってことにするか。
そうすりゃ、強制労働とかで済むだろうし。
でもまた襲われちゃあかなわねえから、
バアさんにこの辺りに近づけなくする
『刻印魔法』でも施してもらうとするか。
だいたい、こいつら全員を運ぶのは俺の
力だけでは難しいし、
明日の朝まで逃げられない様に魔法で
拘束してもらう必要もあるしな。
•••それでいいか?」
「あ、ありがとうございます!」
「な、コラ、抱きつくな!!」
私の必死の懇願に対して、
根負けした彼は渋々代替案を
示してくれました。
そのことが本当に嬉しくて
思わず彼に抱きついてしまいました。
もちろん誰も死なずにすんだのが嬉しいのですが、
それ以上にこの世界に来てようやく少しではありますが、
『教師』としての責務を果たせた気がして、
答えを示してくれた『生徒』を褒めてあげたかったのです。
この『抱きつき』は元の世界でもやっていたのですが、
みんな恥ずかしがりながらも結構喜んでくれましたし、
彼の反応を見る限りそれほど嫌ということはなさそうです。
よし、この世界の文化でも通じそうなコミュニケーションスキルが
ひとつ理解出来た気がします。
「•••こんだけ頑張ったんだし、
ちょっとくらいの役得があっていいよな。
まあ、この胸の柔らかさだけでも十分
美味しくいただけるんだが。」
「はい?どうしました?」
私の腕の中でブツブツと呟く少年。
そういえばまだ自己紹介もしていませんでした。
やはり助けていただいたわけですし、
ちゃんと名乗ってお礼を言うべきでしょう。
「あの先ほどは助けていただきありがとうございました。
私、イーコと言って、
その、1週間ほど前からラソーサおばあちゃんの
所でお世話になっています。」
「確かにひと月前に来た時にはいなかったしな。
バアさんの親戚か何かか?」
「えっと、まあ、•••そんな所です。」
はう、先ほどは先生面しておいて
いきなり嘘をついてしまいました•••
でも異世界から来たなんて普通の人に
言っていいのか分からなくて•••
ごめんなさい、いつかちゃんと説明しますので。
「•••なるほどね。
俺はロイ。
バアさんとは•••まあ、俺も、
親戚みたいなもんだ。
お前さんにも事情があるみたいだが、
俺にも色々あってな。
バアさんの指示で色んな所に行商に行ったりしながら、
情報を集めたりしている。
腕っ節はさっきの通りだから、
少しは頼りにしてくれていいぜ。」
そういうと右腕を曲げて
見事な力こぶを作ってくれました。
若いのに中々鍛えているようです。
というかこの動作、
異世界でも同じなんですね。
これも勉強になります。
なんかスパイさんみたいですね。
おばあちゃんとそれなりに深い
関係みたいですから、
今度ロイ君についても聞いてみましょう。
以前にも軽く話題に上がっていた気がしますし。
「それでイーコ、で良かったよな。」
「はい、ロイ君。」
「助けたお礼と言っちゃなんなんだが•••」
「はい。できることなら何でもしますよ。」
「そうか。それなら大丈夫だな。
お前さん、まだ『未経験』なんだってな。」
「はい!?」
自己紹介もしてさあ、仲良くおしゃべりを
と思っていたら、
いきなりのセクハラ発言に
私は仰天してしまいました。
も、もしかして、あのやらしい物言いは
盗賊さん達がそうだってだけではなく、
この世界の男性ってこんななのでは•••
「あんな毛むくじゃらのおっさんが
相手じゃ、そりゃ嫌だろうが、
今晩にでも俺が相手ならどうだ?
自分で言うのもなんだが、
初めてでも『満足』させてやる自信はあるぜ。」
「はわわわわわ。」
やっぱり、そんな感じですーーー!!
自分の教え子くらいの男の子に本気で
迫られるなんて、
しかも超直接的に。
一体この国の性教育はどうなっているんでしょうか!?
勘弁してくださーい!!
どう考えても『たらし』っぽい笑顔と
台詞で迫って来るロイ君に対して、
私は反射的に否定の言葉を紡いでしまいました。
「そ、それはちょっと流石に•••
まだ会ったばかりですし。」
「何言ってるんだよ。
男と女が出会ったら『そういうもの』だろ。
それともやっぱり」
俺のような白髪の『半魔』が相手では嫌か?
ぐいぐい迫って来るロイ君が
急に怖い顔をして言いよどんだ瞬間、
私の頭にダイレクトにそんな言葉が
突き刺さって来ました。
これは『リンク』の感覚?
でも今はそんな場合ではありません。
こんな『哀しい』疑問、
すぐに打ち消してあげないと。
「そんなことはありません!
ロイ君の髪すごくきれいですもん!!
というか『半魔』ってなんですか?」
「ふえ、な、何でそのことを。
俺、まだ言ってないのに•••」
「あ、え、えっと何かそんなことを
言いたそうだなーって気がして。」
うわー、失敗した!
絶対変な奴だって思われたよ。
折角新しい『友達』が出来たと思ったのに、
嫌われたらどうしよう!!
そんな風に彼の動揺する様子を見て
こちらもドギマギしてしまっていたのですが、
彼は少しずつ紅潮した顔を整えると、
今度はすごく嬉しそうな笑顔を浮かべていました。
それはさきほどのどこかすましたような笑顔とは違う、
心からのようなものである気がしました。
一体、何が起こったのでしょうか?
「なあ、イーコ、さっきのは取り消すよ。」
「わ、分かってくれましたか。
ありがとうございます。」
「イーコ、俺と『結婚』してくれ。」
「はい、それなら•••
って、えーーーーーーーーー!!
何でそうなるんですか!!!」
一夜のお誘いを何とか断ったと
思ったら、
いきなり愛の告白をされてしまいました。
異世界に来て急にモテ期が訪れてしまったのでしょうか?
さっぱり意味が分かりません。
「俺は真剣だ。
同い年の若造じゃ、
色々心配かもしれないけど、
イーコのために精一杯頑張るから。
この腕と魔法があれば
十分稼げるから安心してくれ。」
「いや、だからそういう問題じゃなくて。
そういうのは本人達の『気持ち』が大事で•••」
「いや、さっきのイーコの言葉からは、
他の女達から感じない『愛』を感じたんだ!!
あの言葉は嘘じゃないんだろ、イーコ!!!」
「いや、もちろん嘘ではありませんが、
それは『愛』は『愛』でも男女の『愛』じゃなくて、
『教師』の『愛』でして。」
「『教師』?なんだ、それは?」
「ああ、もう、こんな時は文化の壁が憎いです!
誰ですか、『愛に国境は無い』なんて言った人は!!」
「イーコ•••」
「お願いですから、
そんなに迫ってこないでください!!!」
実は盗賊に迫られているときよりもよっぽど
危機感を感じたアプローチに大混乱に陥っている私を
助けたのは•••
ゴン!!
「ぐえ!!」
ロイ君の頭の上に落ちてきた、
こぶし大の岩でした。
ロイ君はそのままノビて後ろに
倒れ込んでしまいました。
「全く盗賊からちゃんとイーコを助けられた
ところまでは褒めてやろうと思ったが、
そのまま自分の方が狼に変貌しよってからに。」
「う、うー、おばあちゃん、
怖かったよー。」
「おーよしよし。
盗賊から助かったと思ったら、
その相手がまた迫ってくるんじゃものな。
そう言えばセイヤーズもこの世界の人間族男性は
積極的すぎると言っておったな。
もう少しそこら辺も含めてこの子に教えて
あげないといけないの!
コラ、ロイ!
さっきのくらい避けるなり、防御するなり
できんでどうする!!
全く分かりやすく発情しおってからに!!!
すこしそこで頭を冷やしておれ!!!!」
「バアさん•••ひどい•••」
どうやらおばあちゃんが魔法で
助けてくれたようです。
私はあまりに色々なことがあったせいで
おばあちゃんに泣きながら縋り付いて
しまいました。
こうして大変な目にあった私ですが、
同年代の白髪の男の子、
ロイ君と知り合うことが出来ました。
彼の抱えている物とは一体なんなのか、
それが明らかにされるとき、
私の新たな道筋が示されるのですが、
それはもう少し先のお話です。
今はただ
「この世界の男は危険だ。」
ということを心に刻んでおこうと思います。
アリアンローズ新人賞応募作品です。
ようやく主要キャラの一人である、
ロイを出すことが出来ました。
ほぼ初めての戦闘パートが含まれており、
色々用語も登場させましたが、
それは徐々に解説していければと思います。
では今度はまた魔王サイドに移って行きたいと
思います。
そろそろイーコと魔王、
二人出会うフラグを作っていかないと。