二時間目延長 おばあちゃんの異世界講義
少し冷静になって洗顔と着替えを終えた後、
私が始めにいた(落っこちてきた?)
部屋に移動して、
この世界、
今の私の状態、
そしてかつてこの世界にやってきたという
同郷人のことについておばあちゃんからお話を
聞きました。
あ、おばあちゃんの名前はラソーサって
言うらしいですよ。
でもラソーサさんと呼ぶより
おばあちゃんと呼んだ方が
何故か喜んでくれるみたいなので、
これからもおばあちゃんと呼ぶことにします。
それで私がやって来てしまったこの世界は
前にも聞いた気がしますが
「トリップス」と呼ばれていて、
別名「魂の集まる世界」と言うそうです。
その名の由来は様々な世界、
異次元なのか別の時代なのか、
はたまた他の星からなのかは不明らしいですが、
異世界から多くの人が「転生」してくることから
その名が付いたそうです。
でも「転生」といっても別に私みたいに
記憶を持った状態でやってくるという訳ではなく、
基本的には普通にお母さんのお腹の中から生まれて
くるらしいです。
この世界では両親とは別の種族の子どもが
生まれてくることがそれなりにあるらしくて、
その場合は「どこかからの生まれ変わりであろう」、
ということで「転生」と呼んでいるそうです。
(ちなみに出産の仕方は基本こちらの人も胎生らしいです。
ただ人間ではないヒトもたくさんいるみたいなので
その場合は色々らしいですが。)
そういった転生者は、
残念ながら差別や迫害の対象となるということも
少なくないらしいのですが、
同時にその種族にはない特長を持っていたり、
非常に有益な発明やアイデアを生み出すことが多いため、
「天の恵み」として重宝される場合も多いとのことです。
その「転生」がどういう原理なのかというと、
おばあちゃんの考えでは
私達の世界で信じられている「魂」のようなものが
この世界にやって来てお母さんのお腹にいる赤ちゃんに
影響を与えるからではないかとのことでしたが、
詳しくはまだまだ謎が多いようです。
今回のように記憶を持ち成長した状態でやって来る
ことは滅多にないものの、
現在おばあちゃんが住んでいるこの岩場のように
十数年に1回のペースですが継続的に確認されている
場所もあるそうです。
そのためこの岩場、
というか何らかの原理で転生者が
「発生」する部屋にある泉は、
「命の泉」なんて呼ばれているそうです。
おばあちゃんはそういった「転生」の原理、
しかも特殊な転生者について研究している人らしく、
それで10年前にこの世界に来た転生者のお世話もしていたとの
ことです。
その後いろいろあってこの命の泉の管理をしながら
研究を続けていたところ私が「転生」してきたというわけです。
おばあちゃんの研究の成果は、
おばあちゃんが私の食事の好みや考え方を
ある程度分かってくれてることにも
反映されていますが、
何といってもすごいのは、
私がおばあちゃんと「普通に」話せる理由にもなっている、
『リンク』という魔法です。
正直細かい原理はおばあちゃんの説明を聞いても
良くわからなかったのですが、
(理系は苦手です・・・)
簡単に言うと宝石に込められた魔法の力で、
私の頭の中とおばあちゃんの頭の中を
繋げているみたいなのです!!
そのおかげでこの世界の言葉が分からない私も
おばあちゃんの言葉を理解できますし、
おばあちゃんも、
そこまで詳しくはない私の日本語を
理解できているのだそうです。
とは言えその変換はまたややこしい手順を
踏んでいるらしく、
そのせいで昨日は頭痛が出てしまったり
したようです。
しかもこの『リンク』、
何とすごいことに少し訓練すれば
繋がっている相手の知識を活用できるらしいんです!
具体的に言うとこの世界の文字を読んだり、
この世界の人とお話をすることが、
おばあちゃんの知識を使わせて貰えることで
できるそうなんです!!
こ、これはすごいですよ!
正直何年もかかってこの世界の言葉を習得しなくては
ならないのかと思っていましたので、
本当に助かります。
おばあちゃんに話を聞くのに加えて、
おうちにある本を読んだり、
ほかの人達と話をしたり出来れば、
この世界のことを早く分かるようになるはずです。
そうすれば帰る方法についてだって・・・
ちなみに私がまだ帰る希望を失っていないことに対して、
おばあちゃんがどんな反応をするのか心配でしたが、
おばあちゃんはできる限り協力すると言ってくれました。
それだけでなく、
実際に帰る手段になるかもしれない
当てもあるにはあるらしいのです!!!
・・・とはいえ、
「本当に使えるのかどうかは分からないし、
その手段を使うためにはこの世界に十分溶け込む
必要があるから、
焦らずやらなきゃいけないよ。」
とも言われてしまいましたが。
うー、やっぱりそんなに何でも都合良くは
いかないようです。
でもこの『リンク』があるおかげで
その手段を使える可能性も格段に高まるだろう
ということで、
勇気が湧いてきたのは確かでした。
それからこの『リンク』を語る上でも欠かせないのが、
この前の話にも出てきた私と同じ「地球」、
どころか「日本」からやってきた先輩転生者さん話です。
黒い髪や黄色がかった肌の色、
話していた言葉などを聞くと、
どう考えても日本人のはずなのに、
「セイヤーズ」さんと名乗っていたと
いうのはイマイチ理解できませんが、
10年ほど前にやって来た彼が、
『リンク』の魔法をはじめとした
地球からの特殊転生者が来た場合への準備を
手伝ってくれたのだということです。
未知の異世界にいると、
同郷者というだけでも、
親しみを感じてしまいますが、
この『リンク』やおばあちゃんに伝えてくれたお料理の
おかげで自分がどれだけ楽になったのか考えると、
会ったこともないのに、
大恩人のように感じてしまいます。
本当なら直接会ってお礼を言いたいのですが、
おばあちゃんによると色々トラブルがあって、
今は連絡の取れないところにいるらしく、
ちょっと残念でした。
とはいえちゃんとご存命とのことなので、
どこかで是非ご挨拶に行きたいと思います。
その方は、男性らしいのですが、
今の私の姿と同じくらい、
本人によると15歳でこの世界にやって来た
らしいのですが、
私が今受けているようなサポートも何も
ない状態で一からこの国の言語、文化、
そして「魔法」を学び、
この世界でも有数の魔法使いになったらしいのです!
本当にすごいです、セイヤーズさん!!
あ、それでそもそもの前提として分かっていなければ
いけなかった部分なんですが、
この世界には私の世界では空想の産物として
多くの人に捉えられてきた「魔法」が技術の
一つとしてしっかりと存在しているようなんです。
本当ならもう少し驚くべきなんでしょうが、
異世界に来たというだけで十分常識を打ち壊されたので、
魔法が使えるということくらいは、
意外と冷静に受け止められました。
一口に魔法といっても色々あるみたいなんですが、
詳しくは今度わかりやすく書いてある
子供向けの本をおばあちゃんが貸してくれるとのことです。
セイヤーズさんも使ったものらしいので、
それを読んでしっかり勉強したいと思います。
基本的には特定の血筋しか使えないものではなく、
誰でもある程度は使える技術らしいです。
・・・実は子供の頃、
ちょっとだけ魔法少女とかに憧れた身としては、
少しでも使えたらなんて淡い希望を抱いたりしているのですが、
どうなることでしょうか?
そんな話を途中でお昼ご飯を
挟みながら聞いていたら、
いつの間にか日が暮れてしまっていました。
長いお話で固まった体を伸ばしながら、
改めて異世界の夜空を見上げてみると、
確かに月が二つあって、
地球で見ていた星や星座が見えないことに
不安はあるのですが、
殆ど明かりがない状態で見る満天の星空は、
その不安も吹き飛ばしてしまうほど
綺麗なものでした。
おばあちゃんからはしばらくはこの家にいて、
まずはこの世界の生活に慣れながら、
『リンク』の能力を鍛えて
本を読んだり、人と話せるように
練習すればいいとのことでした。
そうやってこの国の文化を理解して、
ある程度人々の中に入っていけるようになったら、
元いた世界に帰る「当て」について詳しく
教えてくれるとのことです。
私は改めてお世話になることについて
頭を下げてお願いしました。
不安がないわけではありません。
でも大分先が見えてきた気がします。
まずは一歩一歩着実に進んでいきましょう!
エイエイオー!!!
見知らぬ星空の下、
空元気で拳を突き上げたその瞬間、
私の異世界生活は
本当の意味で始まりを迎えた気がしました。
アリアンローズ新人賞応募作品です。
新キャラ登場まで行かず申し訳ありません。
ほかの作品とは違いある程度プロットを
書いているのですが、
これが何とも・・・
とはいえ簡単にではありますが、
舞台となる世界のことや
二人が会話できている仕組みなどなど
説明話をしながら、
主人公が少しずつ異世界を受け入れていく様を
感じていただけたら幸いです。
それでは新キャラ登場はもう少しお待ちいただいて、
次は魔王サイド第2回と行きたいと思います。
魔王様の悩みを皆様にもご理解いただけたら嬉しいです。




