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そこの魔王!廊下に立ってなさい!!  作者: YL
第一回公開授業 テーマ「異世界転生したら・・・だった場合の計画策定について」
4/10

休み時間その1 俺はロリコンじゃねえ!

イーコが落ち込んでいるちょうど同じ頃。

ここは人里離れた場所に隠れて存在する魔王城の

謁見の間。



今日も今日とて

怒り狂った魔王によって、

魔王軍兵団長にして

悲劇の八つ当たり係、

牛魔人オーギップが

ズタボロにされていた。





「おきに召していただけませんでしたか、陛下。」

「当たり前じゃ、この白髪牛野郎!」





バッカーン!!





「グハ!」





魔王の放った強大な爆発魔法によって

さらにぶっ飛ばされるオーギップ。









類いまれなる魔法の才能と

数で上回る人間軍を手玉にとる知略によって、

初の人間族の魔王でありながら、

魔人たちの信頼は絶大な現魔王。



最大の問題とも言える、

人間族と魔人族の文化摩擦も、

キレる魔王の暴虐を勇将オーギップが

全て受け止め宥めることで

何とかしてきたのであるが、

今日は流石に色々やばそうであった。







すでに謁見の間はボロボロであり、

周りに控える魔人達も、

魔術士団長たる山羊魔人クイガームを除いて

全員床にうずくまっていた。

何とか立っているクイガームも、

もう一発でも魔王が魔法を放ったら

天井が崩落しかねないことに

背筋を寒くしていたのだった。



部下の堕天使に呼びにいかせた

「切り札」が到着するまで、

何とか時間を稼ぎたいクイガームであったが、

その願いは実直すぎる同僚の

直言によって儚くも散ってしまった。





「わ、私は、ただ早くお世継ぎを作っていただきたい一心で。」

「•••そうか、オーギップ、貴様もか!

貴様も俺をロリコンの変態だと思っていやがったのか!!

こんなふざけた春画を俺の居室に、

しかもエリーが見てもおかしくない場所に置きやがって!!!

絶対に許さん!!!!」





部下の真意を曲解し、

魔王は怒りに任せてその頭上に巨大な光球を作り上げた。

恐らくその光球が放たれれば、

直撃を食らうオーギップだけでなく、

謁見の間にいる全員が無事では済まないだろう。

それどころか衝撃に耐えきれなくなった魔王城が

崩壊する危険すらある。



普段は魔王に反対することをしないクイガームであったが、

このままでは魔王軍全体が

壊滅的な被害を受けかねないことから、

魔王に対して意を決して口を開いた。





「陛下、お止めください!

オーギップも悪意があってやった訳ではないのです!」

「黙れ、クイガーム!

お前に可愛い妹から

『兄様はこういうのが好きなのですか?』と

頬を染めて聞かれた時の絶望的な恥ずかしさが分かってたまるか!!

どいつもこいつも、俺が人間だからって超弩級のスケベだと

勘違いしやがって!!!

全部ぶっ壊してやる!!!!」



完全に頭に血が上った魔王は

クイガームの言葉に耳を貸さず、

頭上の光球に更なる魔力を注入した。









謁見の間の天井に届く程の巨大なあの魔弾が炸裂すれば、

恐らくこの魔王城自体が消滅してしまうであろう。



あまりに強力な魔力に当てられて、

逃げ出すこともできず絶望しかけていた魔人達の前に、

ギリギリのタイミングで救世主が登場した。




「やめて、お兄様!!!」



謁見の間の扉を

一気に押し開け入って来た

一人の美少女。



光り輝く金髪に

透き通るような白い肌。

その頭上と肘に赤い角を持つことで

魔人の一種である拳鬼族であることは分かるものの、

現代世界においてファッション誌に載っていても

おかしくないその美少女こそ、

前魔王であった拳鬼王ナタスの一人娘にして

現魔王が溺愛する可憐なる魔界の姫君、

エニオーレその人であった。





「もう十分オーグ達も反省したはずよ!

いつもの優しいお兄様に戻って!!」

「•••エリー。」



その目に涙を溜めながら自分を説得する

最愛の妹を見て、

頭上の光球に集めた魔力を四散させる魔王。





その様子を見て何とか意識を保っていた

オーギップや周囲の魔人達は

安心のあまり完全に気を失い、

唯一立っていたクイガームも

緊張の糸が切れたのかへたり込んでしまった。





「お兄様は働き過ぎですわ。

お疲れだからそんなにカリカリしてしまわれるのです。

さっき、レグと一緒にパイを焼きましたの。

一緒に食べましょう。」

「そうだな。

俺は少し疲れているのかもしれない。

いただくとしようか。」



部下達の死屍累々ぶりには目もくれず、

二人だけの空間を展開して謁見の間を立ち去る、

魔王とエニオーレ。







そんな二人を何とも微妙な面持ちで

見送ったクイガームの元に、

恐る恐る謁見の間に入って来た

部下の堕天使が近づいていった。



「ク、クイガーム様!

だ、大丈夫でしょうか!!」

「ああ、レグナか、

おかげで助かったよ。

ただもう少し早く姫様を

呼んで来てくれたら、

ここまで被害が大きくならずに済んだんだが。」

「す、すいません!

姫様、パイをお焼きになっていたので、

手伝わないわけにはいかなかったんです!!」

「•••パイよりも魔王城の命運の方が

数万倍重要だと思うんだが•••、

お前に適切な判断を期待しても無駄だったな。」

「う、うう、

バカでごめんなさい。」

「まあいい。

おかげで助かったことは事実だ。」





いつも通りどこか抜けているダメ堕天使の

行動原理にガクッときたものの、

お手柄であったことも事実であるから、

クイガームは強く叱ることはしなかった。









一息ついた後、

レグナが何かを胸に抱えていることに

気づいたクイガームはそれが何か問いただした。



「こ、これは•••」

と言ったきり真っ赤になってしまったレグナの

手から半ば強引にそれを奪い取ると、

それは恐らく今回魔王が激怒した原因である春画集、

現代で言う『エロ本』であった。



恐らくエニオーレ姫のお世話係でもあるレグナが

こっそり回収したのであろうその本を開いてみると、

まあ、なんということだろうか。

そこに描かれているのは10代前半から中盤の

非常に若い、そして凹凸の少ない少女達の裸の絵ばかりであった。



現代であれば絶対に発行禁止になるであろうそのヤバい本に対して、

それに対するクイガームの反応は実に複雑であった。





「こんなものを読んで楽しむ人間達は、

変態としか言い様がないが、

陛下にエニオーレ様と早く『子作り』をしていただくために、

これをお見せしてその気になっていただこうと

オーギップが考えたのも無理はないか。

あれから10年経ってエニオーレ様も十分成長された

というのに、

陛下は何がお不満なのであろうか?」



非常に仲睦まじい様子でありながら、

魔王が一向にエニオーレに手を出す気配がないことに、

同僚と同じく頭を痛めるクイガーム。





彼らには「ロリコン」という言葉に込められた、

魔王の葛藤がサッパリ分かっていなかった。

彼にしてみれば10歳も年下の、

まだまだ体つきも幼い可憐な妹分に

手を出すことなど決して•••

考えられないわけではないのが

狂おしいほど悩ましいのだ。



人間と魔人、

いや現代世界とトリップスの文化の壁が

色々と深刻であることを、

まだ彼らは十分気づいていなかったのである。


アリアンローズ新人賞応募作品です。


休み時間は魔王サイドのアホ要素満載の

内容となっておりますので、

より気楽にお楽しみいただければ幸いです。


いきなりキワすぎる所から入りましたが、

「違い」がこの作品のテーマですので、

散りばめられたその要素を味わっていただけたら

幸いです。


次はイーコサイドに戻りますが、

前回よりも大分明るく、

そしてふざけた展開に

なって行く予定です。

また名前だけ出ていたメインキャラの一人も

カッコ良く?登場させようと思いますので、

どうぞお楽しみに。

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