表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そこの魔王!廊下に立ってなさい!!  作者: YL
第一回公開授業 テーマ「異世界転生したら・・・だった場合の計画策定について」
1/10

始業前 落下時における走馬灯の実情

ああ、短い教師生活だった。



空中に投げ出されて一番始めに頭に浮かんだのは、

人生全体に対する嘆きというより、

始めたばかりの仕事を十分

やり遂げられなかったことに対する後悔の念でした。





私、岡本唯々子(おかもといいこ)は今年25歳になる新人教師です。

どうして25歳で新人なのかというと、

まあ、大学で浪人したり、

教員採用試験に受からなかったから大学院に行ったりと、

人間生きていると色々と事情があるものなので

スルーしていただけると助かります。



とにかく何とかかんとか憧れの先生になって

今年の春から山間部にあるのどかな中学校で、

社会科の先生として

半年ほど頑張ってきたんですよ、はい。





きょうび新人は辺鄙な場所の学校に行かされることが

多いと聞いていたので、

インターネットもまだ光では繋がらない、

雑誌は三日遅れで届く、

デジタルディバイド甚だしい場所が

初任先だったっていうのは別にいいんです。



確かに新人研修のために市街地に行くのに

バスで2時間近くかかるというのは大変なんですが、

その分いい所も多いんですよ。



下宿を世話してくれているおばちゃんが

畑で取れた野菜や果物を毎日のように差し入れてくれますし、

先生同士は小所帯ならではの仲の良さを

発揮しており、

生徒たちも実にのんびりしていて

ギスギスした所がほとんどありません。

生まれて初めての田舎暮らし・初仕事は

ストレスとはほとんど無縁な、

実に良好な環境でした。





市街地の学校に行けたと喜んでいた同期は、

暫くして生徒の非行対応に疲れて果てて

辞めたいと泣いていたました。

一方ここでは村一番のやんちゃさんが

「イーコせんせ。

お兄ちゃんの毛染め使って、

髪うまく染まんなかったんだけど、

どうしたらいい?」

と私に半べそで相談してくるというレベルです。



私はその子の髪をこれ以上痛めてはいけないと思って、

彼女と二人自転車に乗って、

三時間かけて麓の街にある床屋さんに行きました。

自腹を切って彼女の髪を染め直してもらったのですが、

後で生徒指導の先生に知られてしまったみたいで、

彼女と一緒にこっぴどく怒られました。

ちゃんと相談せずに勝手にやってしまったのは

反省しないといけませんが、

それ以来彼女がよく話しかけてくれるように

なったので嬉しかったです。

しかも彼女の親御さんからどう考えても

毛染め代を超える金額のお米とかお肉とかが

送られてきました。



「あたしがもっと怒られちゃうから、

もらっておいて、イーコせんせ。」

とその子に言われたら断ることも出来ないので、

一部は他の先生にもおすそ分けしながら、

少しずついただいています。

すごく美味しいです。






ああ、話がずれちゃいましたね。






正直何かトラブルっぽいエピソードは

今日までこれくらいしかなかったんですが、

実は真の問題児さんは

不良っぽい子ではなく、

学年で成績1番の男の子だったんです。



今思うと予兆は色々あった気がします。

成績はもうダントツというか、

出すテストはどれも満点、

みんな「イーコせんせ」って呼んでくるのに、

(それはそれで親しみがあっていいんですが)

彼、鈴木太郎(すずきたろう)君だけは

「おはようございます、岡本先生。」

と挨拶をしてくれたりと、

基本的には礼儀正しい子なんですよ。





でもたまに他の生徒を見る目が、

こう言ったら言いすぎな気もするんですが、

どこか蔑んでいるような目線だった気がするんです。



もちろん私の気のせいの気がするんですが、

昔私が名前通りの「イイ子」を演じていた時の、

あの時の目線に近い、

そんな気配を感じて

気にかけるようにはしていたんです。



そう言えばたまに一人でぼそっと

「このぐみんどもが」とか

「おれのひだりてのもんしょうがうずく」とか

言っていたのを聞いたこともありました。

あれは一体どういう意味だったのでしょうか?





勉強がすごく出来て足も遅くはなかったのに、

中学からこの村に来てみんなの輪に入れなかったのか、

友達もほとんどいないみたいでした。

そう言えば野球やバスケットボールの時は

いつも見学しているのもずっと不思議でした。



その分都会から来たということや

大学院を出ているっていうことで、

私には興味をもってくれたみたいでした。

私のお粗末な授業が何とか成り立ったのも、

授業中彼が熱心に手を挙げてくれたのが

あったと思います。

あの時他のみんなと打ち解ける時間とかを

もっと作ってあげられなかったのか、

というのが本当に心残りです。



放課後も良くテストに出すよりも遥かに

難しい内容を質問に来てくれていました。

何とか頑張って答えていたのに対し、

彼も熱心に聞いていてくれたので、

少しは信頼してもらえてると思っていたんですが・・・















今朝私がクラスの女の子達とたわいない話をしていた時に、

彼が愕然とした表情で教室の入口に立っていたのに

気づきました。



「先生だけは信じていたのに。」



泣きそうな顔でそう言って

教室を飛び出していった彼に驚き、

急いで追いかけていったのですが、

私が何とか彼が走っていった屋上に辿りついた時、

すでに彼は今にも飛び降りそうな状態でした。

何故防護フェンスの設置を管理職に進言しておかなかったのか、

今でも悔やまれます。










その後のことは私もあまり覚えてはいません。

気づいたらこのザマでした。



はい、私、今、太郎君を胸に抱きながら、

空中に放り出されております。



落ちた高さから考えると、

落ちる角度さえ間違えなければ

怪我で済むと思うのですが、

胸の中の彼は完全にパニック状態になっています。

このまま彼を離したら

彼は受身も取れずに地面に激突することになるでしょう。



もちろんこのまま彼を抱いていたら、

私も同じことです。

身の安全を考えるなら

今すぐ彼を放り出すべきなのでしょう。

所謂走馬灯という奴なのか、

変に思考時間が延長されておりますが、

本来であれば1秒の余裕もないはずなんです。







でも離しません。


私はここで生徒を放り出すような教師には

絶対なりたくありません。

私はそんな人間にならないために、

いや、人間そんな人ばかりではないと

気づかせてくれたあの先生のようになりたくて、

必死に頑張ったんですから。

たかが教師歴半年のペーペーですが、

そこだけは譲りたくはないんです。





私はほんの瞬きのような猶予の時間を

彼をより強く抱きしめるために使いました。

仮に自分がどんな目に合うとしても

彼だけは無事であるために。










「せんせー。」



地面に激突する直前、

自分の腕の中で

そんな声が

聞こえた気がしました。



私の思い過ごしかもしれませんが、

もし本当にそう言ってくれたのだとしたら

教師冥利に尽きるというものです。

私が最後の最後まで彼の先生でいられたの

だとしたら。










直後に訪れた人生最大の衝撃により

私の意識は刈り取られました。


ただ願うのは太郎君が無事でいてくれることだけ。

私の願いはただそれだけでした。



アリアンローズ新人賞応募作品です。


ついに書いてしまいました。

半年ほど前まで自分が書くとは全く思っていなかった

異世界転生ファンタジー、しかも女性主人公でのお話です。


とはいえ舞台を移しても書きたいテーマはそれほど変わりません。

世界が変わったからこそ気づける何か、

それを伝えられるように頑張ります。


スタートが少し重くなっておりますが、

次から基本すでに書いた2作品と同じようなノリになっていくと

思いますので、

気軽に読みすすめていただけたら嬉しいです。


いよいよ次話異世界に行っちゃいます。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ