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魔王と人の子

作者: 八雲紅葉

黒煙があちこちで立ち上る荒地を見渡す

 鎧を砕かれ肉を裂かれた人の命

 目立った傷は無いが、息を引き取ったモノ

 人外と刺し違えて命を散らした人

 オレはその光景をこの二つの瞳で見ていた

 もちろん、オレ自身も生きていくために襲い掛かってくる人を殺し、今も生き延びている

 双方の勢力の兵士がたった半日で半数以上が消え果てる

 オレ達は人間からの不当な宣告を受け、剣を取り振り回す

 それが、オレ達にとって利益が無い戦いだとしても

 もちろん、人間達にも利益などほとんど無いに等しいと思うが

 人間達が要求したオレ達の土地を奪えなかったのだから、この争いはただの痛みわけとなったわけだ

 何もかもが失われたこの大地で、消えかけている命の灯火がオレを呼ぶ

 空耳だったと思うが、生存者が居ることを信じその声が聞こえた方へ歩みを進めるが、進む先にはいくつもの死体の山しかない。やはりさっきの声は空耳だったようだ

 が、また声が聞こえる。今度は空耳ではない。はっきりと聞こえる、女の子の声。それも人間の

 この戦場は水も無く、草木も生えない人間達が生きていくには到底無理な土地で、なぜ居るのかと疑問に思うが今はそれどころではない。生存者が居るのだから

 死体の山の中からたった一人を見つけ出すのは簡単なことではないが、その子が大きな声を出して泣き続けているおかげで見つけ出すことが出来た

 声も幼いが、身体も幼くただ泣きじゃくっている子を片手で拾い上げる。しっかりと掴んでいないと落ちそうなほど軽い

 彼女は自分の足が地に着いていない不思議な感覚に陥ったからだろうか一旦泣き止んだが、俺の顔を見るなりまた泣き始めた。さっきよりも大きな声で

 直感で食べられると思ったのだろうか?それともオレの顔が怖いのか?どちらにしろショックを受けた

 このまま泣き続ける子を抱えていても埒が明かないので、側近に城まで運ばせるよう命じた。俺より幾分か優しそうな顔をした側近に




 彼女はその後、魔界ですくすくと成長していく

 力や頭脳といった能力はオレに匹敵するほどにまで育ち、魔界に住むモノ達の間では次期魔王と称されるほどにまでなる

 しかし、このまま魔界で生きていくことも可能だったが、彼女は人間でここは魔界。いつかはここを去らせ、その時までは一緒に生を共にした

 そして季節はめまぐるしく回り、彼女が魔界を去って最初の人間界からの討伐隊がやってきたのは彼女が魔界を去ってから4年後のことだった



 黒煙があちこちで立ち上る荒地を見渡す

 鎧を砕かれ肉を裂かれた人外の命

 目立った傷は無いが、息を引き取ったモノ

 人と刺し違えようとするが一人で命を散らした人外

 オレはその光景を二つの瞳で見ていた

 もちろん、オレ自身も生きていくために襲い掛かってくる人を殺そうとする

 しかし、その行為も目の前にいる人の所為で失敗に終わり、反撃を喰らうほどの大きな隙を与えてしまう

 剣を手にした腕が大きく振りかぶられ、そして重力と腕力が合わさった力で剣が振り下ろされる

 綺麗な太刀筋を見ながらオレは言葉を聞いた

 「ごめんなさい」と

 人の声は震え、顔は涙と鼻水で人には見せれないほど醜くなっている

 魔界を去ってから成長した彼女の声と顔を鼓膜と網膜に焼き付けて、オレの意識は途切れた

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