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2話 最強の身体で、最初に負けた

「ちょっとーレイジ! いつまで寝てるの!?」


 ベッドで天井を見ていると、部屋のドアが勢いよく蹴飛ばされた。

 反射的に身構えるより早く、栗色の髪を揺らした少女が踏み込んでくる。


「……起きてるじゃない。ほら、行くわよ。今日は大事な用事がある日なんだから」


 こちらの反応など待たず、腕を掴まれて引きずられる。


「お、おい! 待てって。大事な話がある」

「なによ。こっちは急いでるの」


 足を止めた彼女は振り返り、頬を膨らませた。


「実は俺はレイジじゃない」

「……は?」


 一瞬の沈黙。


「レイジの部屋で、レイジの身体してる人が、レイジじゃない? 冗談は時間があるときに言ってよね」


「身体はレイジのものだ。でも中身は違う。俺は――憑依してきた別人だ」


 彼女の表情が、怒りから戸惑いに変わる。


「朝起きたらここで目が覚めて、この身体だった」

「……うそ」


 両手を俺の肩に置き、顔を覗き込んでくる。


「本当だ。こいつのこと、気になってたなら……悪かった」

「うるさい、ばか……あ、ごめんなさい」


 一瞬だけ涙目になり、すぐ距離を取った。


 この子が日記に書かれていた幼馴染――リン。


「いい。とりあえず、その大事な用事ってのを教えてくれ」


 リンは一度息を吸い、真面目な顔になる。


「この国でトップ、いえ……この世界でも指折りの剣豪様と、今日試合なの」

「……はあああ!? 起きたばかりで身体の使い方も分からないんだぞ!?」


「……よね。事情を話して、中止してもらうしかないわ」


 視線を落とすリンの横顔は、心底残念そうだった。


「とりあえず学園に行きましょ。ここで話すことじゃない」


 周囲を見回すと、いつの間にか野次馬が集まっていた。


「朝から仲いいねー」

「いちゃつくなよー」

「結婚はまだかー?」


「あなたたちね!」


 声を張り上げたリンの耳が、少し赤い。


「……まったく、急ぐわよ」


 そう言って、俺の手を引いた。


 学園は想像以上に広く、騒がしかった。

 視線が集まるのは、どうやらこの“レイジ”が有名人らしい。


「おいレイジ! 今日こそ日頃の恨み晴らさせてもらうぞ!」


 道を塞ぐように、三人組の男が立ちはだかった。

 明らかにチンピラだ。


「決闘だ。ここで白黒つけようぜ」

「いや、今日は――」


 リンが止めようとするより早く、身体が一歩前に出ていた。

 反射だ。レイジの身体の癖。


「……分かった」


 剣を握る。

 重い。構えが分からない。


 こんな感じか。

 アニメで見た構えを取る。


 両手で柄を持ち、前方に傾ける。

 身体が前に持っていかれる。

 合っているのかよく分からない。


「ぷっ!なんだよその構え」


 どうやらハズレのようだ。

 やつらは全員が片手で振り上げているだけだった。


「はああああ」


 中央の一人に切りかかるも、剣先は彼に届かなかった。


「どこ狙ってんだよ!」

 

 ドンッ!


 俺はただの蹴りで数メートル吹き飛ばされた。

 

「え?あのレイジが……」

 

 俺はここでようやく周囲から観られていることに気付いた。


 逃げ道がない。

 剣も当たらない。

 視線だけが、刺さる。


 だったら――。


 ここで何か、起きろ。


 理屈も方法も分からない。

 でも、この身体の奥に、まだ使っていない何かがある気がした。

 

 再び剣を構え、集中する。

 力が湧いてくるイメージを、敵をなぎ倒すイメージを強くする。

 

 剣を握る手に、熱が集まる。


 心臓の鼓動と一緒に、体の奥から何かがせり上がってくる。


「――ッ!」


 叫びとも息ともつかない声と同時に、剣を振り抜いた。


 刀身が、淡く光った。


 次の瞬間、斬撃の軌道に沿って、空気が裂けるような音が走る。

 

 衝撃波が地面を叩き、二人の足がわずかに浮いた。


「――っ!?」


 体勢が崩れ、後ろによろける。


 周囲が、一瞬だけ静まり返った。


 ……いける。


 そう、思った。


 次の瞬間、視界が揺れた。


「――ぐっ」


 もう一人に剣ごと、地面に叩き伏せられる。

 

「拍子抜けだな」

 

 上から、侮辱とも哀れとも同情とも感じられる声が落ちてきた。


「レイジ様が負けた?」

「あんなのに負けるなんて」

「だっさ」

「いや今日は調子が悪い日なんだよ」

「わざとにしては演技が下手すぎない?」

「こんなんじゃ今日の試合が思いやられるな!」


「そこまでだ」


 低く、よく通る声。


 いつの間にか、間に一人の男が立っていた。

 年齢は分からない。

 ただ、立っているだけで“格”が違う。


「……け、剣豪様」


 リンが息を呑む。

 その瞳は今まで見たことのないほど潤っていた。


「まだやるなら俺が相手してやるぞ」


「あ、兄貴この人は世界屈指の剣豪、 ガルド・レーヴェンですぜ」

「きょ、今日は見逃してやる!覚えてろよ!」

 

 チンピラたちは青ざめて逃げていった。


「周囲は騙せても俺の目は騙せないぞ」


 男は俺を見る。


「名は?」

「……レイジ、です」


 一瞬だけ視線が鋭くなった。


「違うな。今のお前は、レイジではない」


 胸が、わずかに跳ねる。


「事情は聞こう。だが覚えておけ」


 彼は背を向けて言った。


「勝てない理由を、言い訳にするな。 負けた事実だけを、まず受け取れ」


 残された三人で、しばらく沈黙。


「……すみません」

「謝るな」


 続けて淡々と言う。


「今日の試合は中止だ。代わりに話をしよう。剣を持つ前に、な」


 リンが、ほっと息をつく。


 俺は震える手を必死に動かし、地面から立ち上がった。


 ――ここでは、俺は何者でもなかった。

 彼女ならここで何を想うだろうか。

 こんな醜態浴びたことないんだろうな。

 

 人前で叩き伏せられて、笑われて、逃げたいと呟いている姿を。


 ――たぶん、何も言わない。

 いつも通り、優しく笑ってくれる。


 それが、たまらなく怖かった。


 ここで逃げたら、帰れたとしても、もうあの声は真っ直ぐ聞けない。


「……帰りたい」


 誰にも聞かれないような小さな声で思いがこぼれる。

 

「……レイジ」

 彼女の視線も俺を刺してくる。

作者のまぐちろです。

この作品は私の溢れる思いを、昔構想した設定にぶつけてみたお話です。


更新頻度は気分で不定期となります。

もしも続きが気になる声が多ければ執筆時間を増やそうと思います。

感想、ブックマークしていただければ助かります。




また、ハッピーエンドというのは想定していません。


なぜなら私自身が体験していないからありきたりなものしか描けないからです。

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