中部太平洋 戦場を支配するは好運であり、英知にあらざるなり。
人生を支配するは好運であり、英知にあらざるなり。byキケロ
偉い人の言葉ですからそのままに取らないで、切り株でウサギを待つようにならないようにしなければ。
「シコルスキーらしき機体は確認されていません」
「そうだな。強風より高速の機体は無かったと報告がある」
「確認された新型は新型戦闘機と艦攻ですが、どちらもグラマンらしいと」
「脅威足りうるのか」
「どちらも頑丈だそうです。戦闘機は運動性能が良いと報告が」
「対抗可能なのか」
「速度は強風が上回っておりますが大差ないということです。格闘戦は良い勝負らしいです」
「若干有利程度か。零戦ではどうなのだ」
「後ろに着かれると厳しいと」
「厄介だな。数は全機なのか」
「いえ、40機程度だったと報告があります。残りはF4Fだそうです。当たるのはシコルスキーだと思っていましたが、2本立てで計画出来るとは羨ましい限りです」
「シコルスキーはなにか問題があるのだろう」
「それ以外には考えられませんが、今は」
「そうだな。艦攻の方はどうなのだ」
「頑丈ですが機動力は無いに等しいとのことです」
「戦闘機に較べればどんな艦攻でもそうだろう」
「もっともですな」
「しかし、損害が大きい」
「陸奥が沈みました」
「そうだな。それは一艦隊の問題だ」
「一機艦と二機艦で出撃機数312機。4機が発動機不調で途中帰投しております。308機ですが、損害は大きく未帰還106機です。帰還した機体の内損傷機が44機。その内修理不能が22機となっております。修理内容によっては更に修理不能機体が増える可能性があります」
「128機が失われ、更に増えると」
「そうですが、それは機体です。搭乗員32名が負傷で再出撃不可と軍医から報告があります」
「そうか。搭乗割が間に合えばいいが。戦闘機は三機艦から呼び寄せたな」
「呼び寄せましたが三機艦は甲板係止までして搭載してきましたが補用機を入れても3隻で109機です」
「そうか。無い物は仕方が無い。だが全空母補用機も組み立てれば定数には届くか」
「届きそうではあります」
一艦隊が襲撃を受けている頃サイパンに飛来した236機だが内訳は
強風二二型 32機
零戦四三型 132機
天雷二二型 36機
銀河一一型 21機
連山二二型 15機
という内容だった。サイパン島基地は大わらわだった。特に最新鋭機である天雷と銀河はほとんど整備経験無く連山に便乗してきた整備要員と整備機材が無ければ整備に時間が掛かっただろう。
翌日、整備を済ませた機体が慌ただしく各空母とトラックに向かった。
強風全機と零戦114機が空母に向かう。三機艦に零戦69機。一機艦と二機艦に強風全機と零戦45機。格納庫に入らない機体は甲板係止にしてまで機数を増やす。トラック行きは受け入れ態勢もあり零戦18機に天雷20機と銀河15機に誉を積んだ天雷の整備員と整備機材を載せた連山10機が向かう。全機そのままトラック基地所属機となる。
「甲板係止は強風4機と零戦12機か」
「補用機も組み立てましたし修理完了機体もありましたが、思ったよりも少ないです。修理可能でも重症な機体は部品取り用にバラしたせいかもしれません」
「まあ、酷い機体で空戦させるわけにもいかん。甲板に出ているのは、赤城と加賀に翔鶴と瑞鶴か。強風は格納出来たのではないか」
「飛龍と蒼龍は飛行甲板の長さもありますし、避けました。強風は緊急発艦用に敢えて出してあるそうです」
「そういえば、強風並みの新型が敵にはあると言ったな。それよりも、あいつ怒っていないか」
「苦情は来ました」
「苦情だけか」
「まあ、苦情です」
「ならいいが」
翌日の早朝。
日米の空母は夜明け前からお互いに索敵機を出し敵発見に掛けていたが、最初に発見したのは前夜から飛んでいたサイパンの二式大艇だった。見つかったのは3個の任務部隊の内、一番北側の部隊だった。
「見つかったか」
『電文を打っています。確実に見つかっています」
「電波管制解除。レーダー使用だ」
艦橋からはキャットに撃墜される機体が見えた。
一方、愛宕では
「サイパンより入電。敵空母発見、位置****、****」
「航海」
「少しお待ちを・・・・・当艦隊より東南東250海里です。なんでこんなところに」
「一艦隊の推定位置は」
「敵より300海里前後です」
「参謀長、航空参謀。ここは一気呵成に行くべきか。それとも基地航空隊と合わせるべきか」
「基地航空隊と合同すると時間が掛かります。ここは一気呵成に行くべきかと」
「本職も航空参謀と同じですな」
「一機艦が攻撃中に基地航空隊が参入するのが理想だな」
「電波管制していて連絡が取れません。仮に連絡が付いても都合良く行くとも思えません」
「二航戦飛龍よりオルジス『発艦はまだや』」
「気が早いな。信号手返信『直ちに準備せよ』空母全艦宛『対艦攻撃装備』」
「はっ、飛龍宛て『直ちに準備せよ』空母全艦宛『対艦攻撃装備』送ります」
1時間後、リレー式で送っていた信号に二機艦からの返信があった。
『我準備中なり』
「なんでそんなところに」
一艦隊でも同様だった。一艦隊から南東80海里である。一機艦が推測した位置は全くの的外れだった。
「参謀長。艦隊針路、敵艦隊。第三戦速」
「司令長官」
「俺のカンが「今行けば勝てる」と告げておる。行くぞ」
「しかし、第三戦速では長門の機関と駆逐艦の油が」
「今が最後の機会だと前に言っただろう。それが今だ。奴ら先にトラックをやる気かもしれん。長門には頑張ってもらう。駆逐艦はトラックに入れる」
「はっ、航海参謀。艦隊針路。敵艦隊。艦隊速力第三戦速」
幸い、敵に見つかっていない。
黄金仮面は手帳に何か書き付けている。
トラック島基地では稼働全機出撃と決まった。距離は400海里。こちらに近いということはこちらを攻撃しに来るかもしれない。なら先制攻撃だと。しかし、戦力的には心許ない。敵は戦闘機300機前後を運用出来るらしい。一機艦と二機艦が動いてくれることを祈るのみだ。既に一機艦宛には出撃時間を告げている。返信は期待出来ないが合わせてくれることを願う。
出撃機数は
零戦四三型 76機
銀河一一型 24機 雷装10機 降爆14機
連山二二型 36機 全機雷装
天雷二二型 20機 雷装10機 降爆10機
攻撃隊はトラックから発進した。
「長官。敵戦艦発見しました」
「どこだ」
「35.3任務部隊北東40マイルです」
「至近距離ではないか。索敵は何やってた」
「索敵線の1番薄い方向ですし、運良く索敵線からはずれたとしか」
「クソ。戦闘機が上がっていない艦はどいつだ」
「全艦上がっています」
「そうだった。本艦とサラとレディ・レックスは戦闘機発艦。後対艦攻撃準備」
「長官風向きが悪く敵に近寄ります」
「発艦終了後直ちに変針だ。こちらの方が遠い。35.3任務部隊と35.2任務部隊は戦艦を振り切れと言っとけ。戦艦にナガトがいるだろう。インディペンデンスでもあいつよりは速い。とにかく間に合わせる」
「了解」
「見つかったか」
「電信中とのことです」
「電波管制解除」
「はっ、全艦電探作動。本艦の位置を打電します」
「うむ」
「通信室からです。前方に電波源。おおよそ30海里」
「司令長官。電探が前方に編隊を確認。至近です30海里」
「突然だな」
「空母上空で編隊でも組んでいるのでしょうか」
「それなら行くか。進路このまま。速力を1ノット上げる。長門はまだいけるだろう。状況は逐一打電しているな」
「もちろんです」
「電波源速力上げた模様。離れます」
「仕方がないか。こちらへ来る機体は」
「有りません」
「何故だ。航空」
「おそらく上空直援機かと」
「おとといのアレでか」
「その可能性は高いと考えます」
「攻撃隊は来ると思うか」
「早ければ30分後には。ただし、先ほど電波源が近かったのは風向きでしょう。発艦させるにはこちらに近づかなければいけません」
「ほう。なら目はあるかな」
「おそらく」
20分ほど追撃をしているがはやり離される。が、
「電探に反応。前方機影多し。増加中」
「電波源接近中」
「参謀長」
「一機艦かトラックからでしょう」
「都合が良いな。さすがに俺の勝負勘がさえている」
(こんな時ばかり)
「なにか言ったか」
「いえ、なにも」
「前方に煙」
「「「なに?」」」
全員が手持ちの双眼鏡で前を見た。うっすらと見えるような気がする。手持ちのではな。まだ遠いか。
「一機艦攻撃隊から、『トツレ』」
「む。トラックよりも先か」
「迎撃に向かうようですな」
「それでは嫌でもこちらに近づくか」
「電探室より、敵影」
「なに?」
全員が手持ちの双眼鏡で前を見た。手持ちのではな。まだ遠いか。
「前方に艦影」
見張り員からだ。
今度こそと、全員が手持ちの双眼鏡で前を見た。見えない。やはり倍率と練度が違いすぎる。
「脅してやろう。艦長。本艦主砲打ち方始め。最大距離で2門だけ撃て」
「はっ、砲術長、主砲打ち方始め。一番砲塔と二番砲塔の二番砲を使用。司令長官、照準はどうされますか」
「無しで良い。狙えるのか」
「砲術、見えているか」
『艦長、それらしいのとしか。はっきりとは見えません』
「司令長官」
「それで良い。ここにいるぞとわからせてやる」
3分後、大和は初めて敵に向かって撃った。
見つからなければどうということはない。運こそ全て。
次回更新 書き溜めが尽きたので8月16日です。05:00で。
10話予定というのは無効で。何話か伸びそうです。
電波源というのはレーダー波ではなく、通信電波のことです。