中部太平洋 本日天気晴朗なれども浪高し
トラックを出た連合艦隊は決戦を優位にするため位置取りをしている。
「敵はシコルスキーが出てくるんだろうか」
「あれから3年だから主力になっていても不思議はない」
「我が方も強風二二型が配備され零戦は四三型になったが厳しいぞ」
「だから戦闘機の配分を多めにしてきたし、沖鷹・大鷹・雲鷹まで持ち出して零戦だけを積んできた」
「強風の発着艦が出来ないからな」
零戦四三型
金星五二型1350馬力
速度315ノット
航続距離900海里+400海里
九九式二号四型 2丁 装弾数125発
三式13ミリ機銃 2丁 装弾数200発
三二型と外観はあまり変わらない。操縦席後方のレイアウトを見直し、無線機やバッテリー、酸素瓶などの位置を変更。金星搭載によって無くなった胴体内燃料タンクが容量を増加させて操縦席後方に設置。勿論防弾タンクである。これにより航続距離が伸びた。機体も更に強化され急降下制限速度が400ノットになった。
全備重量で400kg近く重くなった機体を250馬力アップした金星五十系統と新採用の推力式単排気管で飛ばし315ノット(公試)を得ている。
武装は翼内機銃が7.7ミリ機銃から三式13ミリ機銃に変更された他、20ミリもベルト給弾になり弾数が25発増加している。
重くなりますます水平旋回能力が低下しているが馬力向上で他の機動性能は上がっている。もはや1000馬力級軽戦闘機ではない、という声も一部からある。
「機長。ミルズ大尉。右2時、航跡多数」
「どこだ?」
「2時です」
「わかっている。だが・・・見えた」
「通信士、至急電。「敵艦隊発見」位置だ」
「第一報打ちます」
「次。「敵艦、戦艦2巡洋艦2駆逐艦10隻以上」」
「第二報打ちます」
「速りょ「機長、敵機。退避します」わかった」
「通信士「速力14ノットで東進中」」
「第三報打ちます」
「スミス中尉。敵機は」
「左上方来ます。降下して逃げます」
「任せた」
ミルズ大尉機は逃げ切ることが出来た。日本機がしつこく追ってこなかったせいもある。殊勲電を打ったミルズ大尉のTBFは無事母艦に帰投した。
ミルズ大尉機が発見したのは第一艦隊だった。被発見を機に電波管制を止めている。
「見つかったか」
「まあ仕方が無いでしょう」
「電探で後は追えたな」
「確認します」
「後は追えたそうです。ただ欺瞞進路の可能性もあります」
「まあ、そう大きく角度を変えまい」
「敵艦隊の位置は進路と速力が最後の発見と変わらなければ、後250海里です」
「艦隊進路速力ともこのまま。航空参謀、早ければ後どのくらいで攻撃隊が来る」
「2時間後から3時間の間だと考えます。その後は日没ですので無いでしょう」
「複数回あるかな」
「多くて2回かと」
「そうか。腹ごしらえする時間はあるか。主計参謀。戦闘糧食だ。手配するように」
「はっ」
「警戒配置はそのままでいい。敵艦隊をもう少し引き込みたい。航海参謀、艦隊順次16点回頭。速力そのまま」
「逃げると見られますが」
「追ってきて欲しいね」
「いくらなんでもサイパンとトラックの位置は頭に入っているでしょう」
「今時来なくても来年の今頃になればこっちは勝ち目が無い。今来たと言うことは向こうさんにも理由があるんだろう。是非嵌まってほしいものだ」
「第一艦隊が発見されたそうです」
「そうか。では戦闘機だけだな」
「そういう作戦ですが、素直に戦艦部隊を狙ってくるでしょうか」
「こちらはまだ見つかっていない。不審電波の傍受も無い。計画通りだ。空振りでもかまわんよ」
「はっ」
「戦艦だと?」
「戦艦2巡洋艦2駆逐艦10隻以上、14ノットで東進中と入電しました」
「続報は」
「敵機に追撃を受けているようなので」
「無しか」
「はい。どうしますか。他の機体を向かわせますか」
「いや、電波発信は行わない。こちらは3時間前に見つかっているがその後進路を変えた。そのままだと思ってほしいものだ」
「出撃はどうするかと問い合わせあります」
「出撃させる。空母が見つからない。艦名不明だが戦艦をやる。大統領は戦艦撃沈のお土産が欲しいとさ」
「今からですと1回ですがいいのですか」
「かまわん」
「出撃させます」
「発艦終了後、進路を西へ。暗くなる、出来るだけ明るいうちに着艦させたい」
「発艦終了後、艦隊進路西へ。了解」
1時間半後、エセックス、レキシントン、サラトガ、エンタープライズ、ヨークタウン、ホーネット、ワスプ、インディペンデンス、プリンストン、ベロー・ウッド、カウペンスの11隻から463機の攻撃隊が戦艦を撃沈するべく西へと向かう。
463機が第一艦隊目指す頃、大小12隻の空母から強風と零戦の308機編隊が第一艦隊防空に向かっていた。
そして第一艦隊は電探情報をしきりに発信していた。
第一機動艦隊旗艦愛宕にも入電している。
『第一艦隊より入電。敵機大編隊距離80海里接近中』
『追信。敵機200隻前後の梯団2個』
ざわつく艦橋。400機もの編隊は予想外だった。250機からせいぜい300機と見積もっていたのだ。後100機はどこから湧いた?
「慌てるな。今更やり直しは出来ん。第一艦隊と戦闘機隊の踏ん張りに期待するしかない」
『前方機影多数』
『戦闘機隊を前に』
『密集隊形を取れ』
『敵機多い』
『一機艦戦闘機隊は敵戦闘機に集中せよ。二機艦戦闘機隊は艦爆艦攻に集中。相互援護を忘れるな。掛かれ』
『クソ、なんだあの数は』
『待ち構えていたんだよ。罠に嵌まったな』
『半分くらいやられたぞ』
『だが突破した。もう見えている』
『『『『『『ファ?』』』』』』
大きかった。うなされるほど勉強せられた識別表で見慣れたナガトクラスと識別表に無い戦艦。デカい。
『アレだ。あのデカい奴』
『モンスターだな。ナガトが小さく見えるぜ』
『なんでもいい。とにかく戦艦をやれというお達しだ。野郎ども行くぞ。Let's go!』
『『『『GO!』』』』
「やられたか」
「戦闘機隊を突破してきた機数はかなり多かったようですし、雷撃機は新型で後方機銃が13ミリ級動力銃塔という報告もあります」
戦闘機隊は役目を果たした。敵戦闘機は120機前後のつもりでいたが戦闘になったときには160機以上が戦闘機だったという報告もある。
第一艦隊の損害は大きかった。ただ、襲来した敵機の機数からいうと軽傷かもしれない。
喪失
陸奥 満潮
中破
武蔵 北上 清波
小破
大和 最上 鈴谷 大井 嵐 長波
何故戦艦ばかりに集中したのだろう。他の艦を狙えばもっと戦果を上げていたはずだ。九戦隊を連れてきたのは間違いだったかもしれない。長官はそう思った。あの雷撃力は魅力なのだが。対空力皆無では狙われたら終わりだろう。北上には不発魚雷が刺さっている。今の状態では敵水上部隊と決戦は無理だな。トラックに帰るか?どうする?北上は15ノット出るのだったな。北上は魚雷を投棄させた。考えれば恐ろしい船だ。よく乗り組んでいる。
長官室であのポーズを取りながらひとりため息を吐いた。これは口元を隠せていいな、とか考えて。
黄金仮面は参謀達と被害集計の他、敵戦力の集計もしていた。
長官は長官室に引きこもったか。まあいい。この陸奥喪失は大きい。開戦後3隻の戦艦が沈んだ。
手元の用紙を見ると一機艦と二機艦からの報告が有った。
敵推定戦力
戦闘機 180機
雷撃機 160機
急降下爆撃機 160機
撃墜破
戦闘機 128機
雷撃機 129機
急降下爆撃機 132機
注*戦果は重複、誤認もあり半分程度と思われる。
まあそうだろうな。バタビア沖でも誤認は多かった。戦闘艦橋から見ていても投弾後におそらく無傷で飛び去っていく機体も多かった。
一機艦と二機艦は戦闘機の消耗多く明日の出撃は難しい、か。三機艦からの補充で間に合うということだが。三機艦はもうお役目終了か。四水戦を引き抜けんかな。無理か。護衛が無くなってしまう。2個駆逐隊なら良さそうに思うが。長官と相談するか。
「帰ってこんのか」
「長官。もうガスがありません」
「なんてこった」
「何だ、この未帰還数は!」
「そう言われましても」
「463機出して帰還したのが245機だと!」
「その内36機が再出撃不能となっています」
「それで沈めたのがムツだけか」
「駆逐艦も1隻沈めています」
「そんなものおまけだ。敵は戦闘機が300機近かったと言ったな」
「はい」
「嵌められたのか」
「そう考えることも出来ます」
「帰ってこない者の冥福を祈る」
「はい」
「よし。後方の護送空母から機体を呼び寄せろ」
「全部で180機です。今から指令を出せば明日午前中に到着します」
「うむ。300機も出してくるということは奴らも全力出撃だろう。トラック島ともどもノックアウトしてやる」
「司令長官入ります」
「うん。やはり初志貫徹だ。反転して東へ向かう。北上と清波は嵐を着けてトラックに後退させる。武蔵は上構部の損傷は有るが砲戦は可能なので連れて行く」
「危険ではありませんか」
「確かに危険だが、今しか機会は無いだろう。戦闘機隊には明日も頑張ってもらう。それと金剛と榛名を呼び寄せたいが」
(やはり言い出したよ)
「距離的に合流は不可能です」
「ダメか」
翌日はお互いに索敵機を繰り出すも発見に至らず戦闘は発生しなかった。
その1日は日本海軍にとって貴重だった。前日、小笠原経由でサイパンに各種合計236機届いたのだ。
その日、強風と零戦は必要数がサイパンから各空母に向かった。各空母は定数を満たし三機艦は復活した。連山と天雷の1部はトラックに向かった。
戦艦2巡洋艦2は長門が巡洋艦に見えた、という話から。ヨタかどうかは知りません。
レンジャーは大西洋で活動中。
後100機。インディペンデンス級空母4隻と甲板係止で頑張って積んできました。当時日本はインディペンデンス級空母の存在をつかんでいなかったようです。